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良いこと
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「──というわけで、誰かわからないけどお兄ちゃんには、好きな人が、いる、みたい」
生徒会の仕事が終わったあと、愛梨ちゃんと喫茶店に入り、報告する。
「そっか、先輩好きな人がいるのかぁ」
愛梨ちゃんは、全く驚くことなく、むしろ、当然といった様子だった。
「でも、彼女はいないんだよね?」
彩月ちゃんも冴木先輩も、お兄ちゃんに好きな人じゃなくて、彼女がいるなら、そう言うだろうし。
「うん、まぁ、それは……」
「だったら、まだ諦められないよ!」
愛梨ちゃんは、よりいっそうお兄ちゃんへの思いを強くしたように見えた。だから、協力するのは難しいかもしれない、と言うつもりだった私は戸惑う。でも、ヒロインにはそのくらいのガッツが必要なのかもしれない。
「そっか」
「うん! だから、これからもよろしくね!」
愛梨ちゃんは相変わらず、弾けるような顔で微笑んだ。
「ただいまー」
家に帰ると先に帰っていたお兄ちゃんが、玄関で出迎えてくれた。
「おかえり、朱里」
「たっ、ただいま、お兄ちゃん!」
直前にお兄ちゃんの話をしていたので、ちょっと気まずい。それに、今日学校で恥ずかしいことも言っちゃったし。生徒会の仕事をしているときは、集中していて気にならなかったけど、改めて思い返すと会いたかったから、なんて、恥ずかしい理由だ。
「朱里?」
思い返して、真っ赤になっている私をお兄ちゃんが心配そうに覗き込んだ。
「な、なんでもないよ! なんでもない」
慌てて首をぶんぶん振りながら、リビングに入ると、おいしい料理の香りがした。
「ハンバーグの香りだ!」
ハンバーグは私の好物だ。歓声をあげると、お義母さんは微笑んだ。
「お帰りなさい、朱里ちゃん。今日のハンバーグは、優が作ったのよ」
「お兄ちゃんが!?」
どうしたんだろう、お兄ちゃんが料理をするなんて珍しい。お兄ちゃんは、もちろん、料理も上手なんだけど、滅多にしないんだよね。それこそ、相当機嫌がいいときとか。
「お兄ちゃん、何か良いことあったの?」
私が尋ねると、お兄ちゃんは照れたように顔を背けた。
「たまたま気分が乗っただけだよ」
……絶対うそだ。でも、お兄ちゃんがそう言うときは、絶対理由を教えてくれない。なので、追求するのは諦め、ご飯をよそって、席に座る。
「いただきます。……うーん、おいしい!」
ハンバーグは、口にいれた瞬間肉汁が溢れた。めちゃくちゃおいしい。
「すごく美味しいよ、お兄ちゃん!!」
この感動をなんとかお兄ちゃんに伝えたいのに、美味しい以外言葉にならない。
「そう? それなら良かった」
結局その後も、私はただ美味しいとひたすらいいながら、食べ進めるのだった。
夜。いつものように、明日の日課を準備していると、メールが来た。亮くんからだ。
『今日の放課後、皆で週末に遊園地にいかないか、っていう話になったんだけど、小鳥遊さんもこない?』
活発で優しい亮くんは、この一ヶ月の間にクラスの中心人物になっていた。こういった、クラスで何かしようって時に、取りまとめてくれるんだよね。私は、生徒会にすぐいくから、そういう催しの時に、話を聞きそびれることも多いけど、こうやって、メールをくれる。
『行きたいです! 教えてくれてありがとう』
と、亮くんに返信して、ベッドに潜り込む。
今日は、ハンバーグも食べれたし、遊園地にいく予定もできたし、いい日だったよね。
でも、お兄ちゃんの好きな人も、良いこともわからずじまいだった。
「まぁ、いっか」
お兄ちゃんの好きな人はいずれ、愛梨ちゃんになるんだろうし。わからなくても、問題ないよね。私はとにかく、二人の邪魔にならないようにしよう。そう決めて、目をつむった。
生徒会の仕事が終わったあと、愛梨ちゃんと喫茶店に入り、報告する。
「そっか、先輩好きな人がいるのかぁ」
愛梨ちゃんは、全く驚くことなく、むしろ、当然といった様子だった。
「でも、彼女はいないんだよね?」
彩月ちゃんも冴木先輩も、お兄ちゃんに好きな人じゃなくて、彼女がいるなら、そう言うだろうし。
「うん、まぁ、それは……」
「だったら、まだ諦められないよ!」
愛梨ちゃんは、よりいっそうお兄ちゃんへの思いを強くしたように見えた。だから、協力するのは難しいかもしれない、と言うつもりだった私は戸惑う。でも、ヒロインにはそのくらいのガッツが必要なのかもしれない。
「そっか」
「うん! だから、これからもよろしくね!」
愛梨ちゃんは相変わらず、弾けるような顔で微笑んだ。
「ただいまー」
家に帰ると先に帰っていたお兄ちゃんが、玄関で出迎えてくれた。
「おかえり、朱里」
「たっ、ただいま、お兄ちゃん!」
直前にお兄ちゃんの話をしていたので、ちょっと気まずい。それに、今日学校で恥ずかしいことも言っちゃったし。生徒会の仕事をしているときは、集中していて気にならなかったけど、改めて思い返すと会いたかったから、なんて、恥ずかしい理由だ。
「朱里?」
思い返して、真っ赤になっている私をお兄ちゃんが心配そうに覗き込んだ。
「な、なんでもないよ! なんでもない」
慌てて首をぶんぶん振りながら、リビングに入ると、おいしい料理の香りがした。
「ハンバーグの香りだ!」
ハンバーグは私の好物だ。歓声をあげると、お義母さんは微笑んだ。
「お帰りなさい、朱里ちゃん。今日のハンバーグは、優が作ったのよ」
「お兄ちゃんが!?」
どうしたんだろう、お兄ちゃんが料理をするなんて珍しい。お兄ちゃんは、もちろん、料理も上手なんだけど、滅多にしないんだよね。それこそ、相当機嫌がいいときとか。
「お兄ちゃん、何か良いことあったの?」
私が尋ねると、お兄ちゃんは照れたように顔を背けた。
「たまたま気分が乗っただけだよ」
……絶対うそだ。でも、お兄ちゃんがそう言うときは、絶対理由を教えてくれない。なので、追求するのは諦め、ご飯をよそって、席に座る。
「いただきます。……うーん、おいしい!」
ハンバーグは、口にいれた瞬間肉汁が溢れた。めちゃくちゃおいしい。
「すごく美味しいよ、お兄ちゃん!!」
この感動をなんとかお兄ちゃんに伝えたいのに、美味しい以外言葉にならない。
「そう? それなら良かった」
結局その後も、私はただ美味しいとひたすらいいながら、食べ進めるのだった。
夜。いつものように、明日の日課を準備していると、メールが来た。亮くんからだ。
『今日の放課後、皆で週末に遊園地にいかないか、っていう話になったんだけど、小鳥遊さんもこない?』
活発で優しい亮くんは、この一ヶ月の間にクラスの中心人物になっていた。こういった、クラスで何かしようって時に、取りまとめてくれるんだよね。私は、生徒会にすぐいくから、そういう催しの時に、話を聞きそびれることも多いけど、こうやって、メールをくれる。
『行きたいです! 教えてくれてありがとう』
と、亮くんに返信して、ベッドに潜り込む。
今日は、ハンバーグも食べれたし、遊園地にいく予定もできたし、いい日だったよね。
でも、お兄ちゃんの好きな人も、良いこともわからずじまいだった。
「まぁ、いっか」
お兄ちゃんの好きな人はいずれ、愛梨ちゃんになるんだろうし。わからなくても、問題ないよね。私はとにかく、二人の邪魔にならないようにしよう。そう決めて、目をつむった。
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