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魔女の家

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 流石にこれほど熱が下がらないのは、ただの風邪ではおかしい。

 そう判断され、国中から医師が集められた。
 けれど、その誰一人として原因究明も、治療もできずに、時が流れた。

 このままでは、ロレンツ殿下の体力が尽きてしまう。私の大好きで大切なロレンツ殿下が、いなくなってしまうなんて、耐えられない。

 ……だから、私は、嫌われ者の魔女を訪ねた。


 魔女。
 この国では、古くから薬学の知識に秀でている女性で、時に神秘にも等しい薬を作れる人のことをそう、呼んだ。

 この国では、もうたった一人になってしまった魔女の彼女。
 彼女が嫌われている理由は簡単で、彼女の作る薬には、代償が伴うからだ。

 薬は欲しいが、代償を払いたくない人が多く、いつのまにか彼女の悪い噂ばかりがずっと流れていた。

 それでも、彼女が処刑などの目に合わなかったのは、単純に腕がいいから。
 彼女の薬は、それほどまでに効果抜群なのだ。ただ、その薬の効果と釣り合うほどの代償が必要なだけで。

「……」

 魔女の家の扉の前に立つ。
 途中まで着いてきてくれていた侍女や護衛も、自分の身が可愛いようで、家から少し離れた場所で待っていた。

 でも、別に魔女は、無関係な人を取って食うわけじゃないのに。

 なんとなく、魔女を恐れる周囲に嫌な気持ちを感じながらも、扉を叩いた。

「……開いてるよ」

 しわがれているだろうと想像していたものとは違って、とても美しい声だった。

「失礼致します」


 私は、ゆっくりと扉を開いた。
 扉の中には、さまざまな薬草が吊るされ、私では読解できない言葉や記号が綴られている石板や、何やら怪しげな音を立てている鍋など、様々なものが所狭しと並んでいた。

 一瞬気後れしそうになったものの、すぐに気持ちを切り替える。

 私がここにきた、目的を思い出せ。

 私が、今ここにいるのは、大好きなロレンツ殿下を救うため。ただ、それだけだ。

「……誰かくるだろうと思っていたが、まさか、こんなに年端もいかぬ子供とはね」

 黒髪が美しい、とても顔の整った魔女は、私を一瞥した後、ふん、と不機嫌そうに鼻を鳴らした。

「用件は言わなくていいよ。どうせ、王子を助けたいんだろう?」
「……はい」

 助けたい。助けられるなら、なんだってできる。少ないかもしれないけれど、貯めていた私のお金や宝石も持ってきた。

 だから、どうか……。

「私は無駄話は、あまり好きじゃない」

 魔女はそういうと、私を指さした。

「あんたは、王子のために死ぬ覚悟があるかい?」
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みんなの感想(2件)

辰砂
2024.01.19 辰砂

再開お待ちしてます。

解除
び~ちゃん
2023.11.03 び~ちゃん

続きが読みたいです。

解除
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