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負け犬令嬢の新たな縁談
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「ほら、みて。……負け犬令嬢よ」
王立学園の廊下を歩いていると、ちらちらと私を見ながら、囁く声が聞こえる。
――負け犬。
わたくしこと、リアナ・ホーキンス伯爵令嬢は、負け犬令嬢と影で……いえ、わりと堂々と噂されていた。
理由は単純明白で、わたくしの婚約者たる第三王子を平民のアイという女に取られたからだ。
貴族でありながら、そして長年婚約者として過ごしておきながら、第三王子の心を留められなかった上に、すごすごと引き下がったわたくしは、今や貴族界のみならず、この国中の笑いものだった。
「何もしらないくせに……」
第三王子である、マルク殿下があんな風に幸せそうに笑うのは、アイの前だけだ。
悔しいけれど、悲しいけれど、わたくしでは与えられなかった幸せを、安らぎを。マルク殿下が感じられるのなら、それに越したことはないもの。
幸いにして、平民ながらアイには聖なる力があり――そのおかげで学園にも入学できた――貴重な力の使い手である彼女ならば、第三王子妃になることも可能なのだ。
……でも。
「わたくしだって、本当は……」
――マルク殿下に、選ばれたかった。
……婚約者として、積み重ねた七年間は何だったのか。
幼い頃から二人で、様々な話をした。
この国をもっと豊かにするためになすべきこと、お互い以外誰にも話していない小さな秘密。そして将来、生まれる子供につける名前。
そこに、燃え上がるような熱はなくとも、穏やかな何かが――親愛と呼べるものが確かに、あった。
でも――わたくしはマルク殿下に選ばれなかった。
過程に意味はなく、誰が見てもわかる結果だけが重要なのだ。
学園の校舎の窓に目をやると、二人が楽しそうに中庭のベンチで笑いあっている。
その眩さから目を背けるように、足早に廊下を通り抜け、伯爵家の馬車に乗り込んだ。
◇◇◇
「まーっていたよ、私の娘」
伯爵邸に戻ると、お父様が上機嫌そうな顔で腕を広げている。
新しい婚約者でも決まったのかしら。……なんて、浮かんだ考えに自嘲する。
こんな負け犬令嬢のわたくしを欲しがる貴族なんて、この国にはいるはずないわ。
「な、な、なんと……」
「どうしたんですか、お父様」
お父様は一度大きく咳ばらいをすると、とびきりの笑顔で、わたくしを見つめた。
「お前の嫁ぎ先が決まったんだ!」
「……え?」
嫁ぎ先、ってことは、わたくしを貰いたがる奇特な貴族がこの国にいたってこと……?
わたくしに流れる貴族の血だけが目的の商家とか?
いえ、商家こそ評判を気にするはず。
「お相手は、なんと隣国のこ……」
「こ?」
「いや、この先はまだ秘密だ。でも、とにかく隣国にお前は嫁ぐことになった!!」
……なるほど。
隣国なら確かに、この国よりは笑いものにはならないだろうし、縁談が来たのも頷ける。
「縁談を見つけてくださって、ありがとうございます、お父様」
お父様にはわたくしが負けたせいで、たくさんの苦労を掛けてしまったもの。
「いや、まぁ、見つけたというか……」
ごにょごにょと歯切れが悪いお父様に首をかしげる。
「お父様?」
「とにかく、お前は、今度こそ幸せになれるんだ! 隣国への出立は、明日だ! 今日は、ゆっくり休みなさい」
「……えぇ!?」
あ、明日!?
王立学園の廊下を歩いていると、ちらちらと私を見ながら、囁く声が聞こえる。
――負け犬。
わたくしこと、リアナ・ホーキンス伯爵令嬢は、負け犬令嬢と影で……いえ、わりと堂々と噂されていた。
理由は単純明白で、わたくしの婚約者たる第三王子を平民のアイという女に取られたからだ。
貴族でありながら、そして長年婚約者として過ごしておきながら、第三王子の心を留められなかった上に、すごすごと引き下がったわたくしは、今や貴族界のみならず、この国中の笑いものだった。
「何もしらないくせに……」
第三王子である、マルク殿下があんな風に幸せそうに笑うのは、アイの前だけだ。
悔しいけれど、悲しいけれど、わたくしでは与えられなかった幸せを、安らぎを。マルク殿下が感じられるのなら、それに越したことはないもの。
幸いにして、平民ながらアイには聖なる力があり――そのおかげで学園にも入学できた――貴重な力の使い手である彼女ならば、第三王子妃になることも可能なのだ。
……でも。
「わたくしだって、本当は……」
――マルク殿下に、選ばれたかった。
……婚約者として、積み重ねた七年間は何だったのか。
幼い頃から二人で、様々な話をした。
この国をもっと豊かにするためになすべきこと、お互い以外誰にも話していない小さな秘密。そして将来、生まれる子供につける名前。
そこに、燃え上がるような熱はなくとも、穏やかな何かが――親愛と呼べるものが確かに、あった。
でも――わたくしはマルク殿下に選ばれなかった。
過程に意味はなく、誰が見てもわかる結果だけが重要なのだ。
学園の校舎の窓に目をやると、二人が楽しそうに中庭のベンチで笑いあっている。
その眩さから目を背けるように、足早に廊下を通り抜け、伯爵家の馬車に乗り込んだ。
◇◇◇
「まーっていたよ、私の娘」
伯爵邸に戻ると、お父様が上機嫌そうな顔で腕を広げている。
新しい婚約者でも決まったのかしら。……なんて、浮かんだ考えに自嘲する。
こんな負け犬令嬢のわたくしを欲しがる貴族なんて、この国にはいるはずないわ。
「な、な、なんと……」
「どうしたんですか、お父様」
お父様は一度大きく咳ばらいをすると、とびきりの笑顔で、わたくしを見つめた。
「お前の嫁ぎ先が決まったんだ!」
「……え?」
嫁ぎ先、ってことは、わたくしを貰いたがる奇特な貴族がこの国にいたってこと……?
わたくしに流れる貴族の血だけが目的の商家とか?
いえ、商家こそ評判を気にするはず。
「お相手は、なんと隣国のこ……」
「こ?」
「いや、この先はまだ秘密だ。でも、とにかく隣国にお前は嫁ぐことになった!!」
……なるほど。
隣国なら確かに、この国よりは笑いものにはならないだろうし、縁談が来たのも頷ける。
「縁談を見つけてくださって、ありがとうございます、お父様」
お父様にはわたくしが負けたせいで、たくさんの苦労を掛けてしまったもの。
「いや、まぁ、見つけたというか……」
ごにょごにょと歯切れが悪いお父様に首をかしげる。
「お父様?」
「とにかく、お前は、今度こそ幸せになれるんだ! 隣国への出立は、明日だ! 今日は、ゆっくり休みなさい」
「……えぇ!?」
あ、明日!?
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リアナさん突然の事で驚いてますね。けれど、パパさんはホクホクと此度の縁談に大喜び❣️彼なら、きっと娘を大事にしてくれると確信してうっきうき︎💕︎( *^艸^))