間違えられた番様は、消えました。

夕立悠理

文字の大きさ
54 / 86
三・五章 私の知らないこと

ノクト 1話

しおりを挟む
 ーー今もずっと、夢に見る。

「ノクト殿!」
 眩しすぎる笑みが、自分に向けられた。
 強い意志で煌めく紫水晶の瞳は、ただ僕だけを見つめていた。

「推薦状をいただきましたね!」

 喜びで震える手に握られていたのは、魔術師団の頂。
 団長、副団長への推薦状だった。

 彼女がーーロイゼがずっとずっと願っていたこと。
 そして、それは僕自身の願いでもあった。

 高みへ上り続けるロイゼの隣に振り落とされず、並べますように。

 その願いが、ようやく叶いそうだった。

 ロイゼは気が付いていないが、彼女の隣を願っているのは僕だけでなかった。

 魔術師団は、ほぼ貴族で構成される。
 それは、入団するには、魔術学校を卒業しなければならず、平民には学校の卒業は困難だからだ。

 そんな中、首席で学校を卒業し、あっという間に幹部にまで上り詰めたロイゼは、注目の的だった。

 実力主義の風土とはいえ、平民出身のロイゼには風当たりが強い時期もあった。
 それでも、決して挫けずに、強い意志で進み続けるロイゼに魅せられたのが、僕だけじゃないのは当然で。

 現団長・副団長の引退が決まったとき、団長に収まるのは間違いなくロイゼだろうと言われいた。しかし、副団長の座は、僕の他にも何人か有力候補がいた。

 そんな彼、彼女を押し退けて、副団長になる。
 努力をしている自負はあった。
 それに、副団長は団長との相性も見られる。
 ずっとそばで見ていた彼女に、僕以上に合わせられる人がいるはずもないとの自信も。

 それでも、実際、彼女の隣に並び立つ資格を得るとーー。



「……よかった」

 
 嬉しい。
 これ以上ないほど。

 一番近くで眩しさを見つめ続ける資格の証を、抱きしめる。

「……ノクト殿」

 ロイゼは、そんな僕を見つめると、微笑んだ。

「あなたがいたから、今の私がある。ーー魔法を教えてくれて、私の果てない夢を笑わないでくれてありがとうございます」
「ううんーー君の力だ」

 ずっと見ていた。
 誰よりも何よりも努力をする君をずっと見ていたから。

「それにそれを言うなら、君という弟子で友でライバルがいたからこその今の僕だ。だから……ありがとう」

「よかった。お互い助けられていたんですね。これからも頼りにしています、ノクト殿」
「もちろん」

 ーーこのとき、僕は自分に誓った。
 君が頼れる僕でいようと。

 ーーでも。
 僕は、決定的に間違えて、君を追い詰めてしまった。


 あの日、ロイゼが消えた日を忘れることは生涯ない。

 あの瞬間のロイゼの絶望の表情を。
 縋り付いた椅子の冷たさを。

 僕はずっと忘れない。

 僕がロイゼの背中を押した。
 どれだけ悔いても足りない。


 君の本意ではなかったとしても、それでも君が生きていてくれて、嬉しかった。

 そして、記憶を失くした君が、僕を頼ってくれたことも。

「魚、ちゃんと食べられたかな」

 手の中の金のバッジを転がしながら、窓の外を見つめる。

 窓から見えるはずもないのに、君の姿を探した。

 一度、寮の鍵を無くしたロイゼが半泣きで、僕の部屋の窓に魔法でサインを出してことがあったな、なんて懐かしく思いながら。


 ーーそのときだった。

 卓上の灯りがチカリと瞬く。
 

 苦手な香りが、薫る。


「ーー」

 バッジをポケットにしまい、いつでも戦えるように意識を切り替える。

「……そんなに警戒しないで」

 鈴を転がすような声。
 人によっては愛らしく聞こえるのだろうその声も、僕には耳障りなだけだ。

 それでもなるべく時間稼ぎをするために、努めて優しく微笑む。

「僕に何用かな、エルマ嬢」

 彼女は、僕の笑みに気を良くしたように、頷くと、桃色の瞳で僕を見つめた。

「私の王子様ーーあなたを迎えにきたの」
 
しおりを挟む
感想 478

あなたにおすすめの小説

揺れぬ王と、その隣で均衡を保つ妃

ふわふわ
恋愛
婚約破棄の断罪の場で、すべては始まった。 王太子は感情に流され、公爵令嬢との婚約を解消する。 だが、その決断は王家と貴族社会の均衡を揺るがし、国そのものを危うくする一手だった。 ――それでも彼女は、声を荒らげない。 問いただすのはただ一つ。 「そのご婚約は、国家にとって正当なものですか?」 制度、資格、責任。 恋ではなく“国家の構造”を示した瞬間、王太子は初めて己の立場を知る。 やがて選ばれるのは、感情ではなく均衡。 衝動の王子は、嵐を起こさぬ王へと変わっていく。 そして彼の隣には、常に彼女が立つ。 派手な革命も、劇的な勝利もない。 あるのは、小さな揺れを整え続ける日々。 遠雷を読み、火種を消し、疑念に居場所を与え、 声なき拍手を聞き取る。 これは―― 嵐を起こさなかった王と、 その隣で国家の均衡を保ち続けた妃の物語。

運命の番?棄てたのは貴方です

ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。 番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。 ※自己設定満載ですので気を付けてください。 ※性描写はないですが、一線を越える個所もあります ※多少の残酷表現あります。 以上2点からセルフレイティング

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

夫が運命の番と出会いました

重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。 だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。 しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?

白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

『婚約破棄されたので王太子女となります。殿下より上位です』

鷹 綾
恋愛
「君は王太子妃に相応しくない」 その一言で、私は婚約を破棄されました。 理由は“真実の愛”。選ばれたのは、可憐な令嬢。 ……ええ、どうぞご自由に。 私は泣きません。縋りません。 なぜなら——王家は、私を手放せないから。 婚約は解消。 けれど家格、支持、実務能力、そして民の信頼。 失ったのは殿下の隣の席だけ。 代わりに私は、王太子女として王政補佐の任を命じられます。 最初は誰もが疑いました。 若い、女だ、感情的だ、と。 ならば証明しましょう。 怒らず、怯えず、排除せず。 反対も忠誠も受け止めながら、国を揺らさずに保つことを。 派手な革命は起こしません。 大逆転も叫びません。 ただ、静かに積み上げます。 そして気づけば—— “殿下の元婚約者”ではなく、 “揺れない王”と呼ばれるようになるのです。 これは、婚約破棄から始まる静かな逆転譚。 王冠の重みを受け入れた一人の女性が、 国を、そして自分の立場を塗り替えていく物語です。

婚約者に突き飛ばされて前世を思い出しました

天宮有
恋愛
伯爵令嬢のミレナは、双子の妹キサラより劣っていると思われていた。 婚約者のルドノスも同じ考えのようで、ミレナよりキサラと婚約したくなったらしい。 排除しようとルドノスが突き飛ばした時に、ミレナは前世の記憶を思い出し危機を回避した。 今までミレナが支えていたから、妹の方が優秀と思われている。 前世の記憶を思い出したミレナは、キサラのために何かすることはなかった。

処理中です...