間違えられた番様は、消えました。

夕立悠理

文字の大きさ
53 / 82
三・五章 私の知らないこと

ハロルド 2話

しおりを挟む
「エルマ・アンバーが、姿を消した……? 脱獄されたということか」
「ーー恐れながら」

 頷いた男は、話を続ける。

「しかし、エルマ・アンバー自身が魔法を使った形跡はありません」

 エルマ・アンバーには魔法封じの手錠をつけていた。
「……他の手引きがあったと?」

「はい。忽然と消えたので、何かしらの力で外部からの干渉があったものと思われます」

「アンバー侯爵家はどうなっている?」

 アンバー侯爵家の方へ意識を向ける。
 ーーリィン。
 また鈴の音が鳴った。

『陛下!』
 音声魔法で、頭の中に浮かぶ声に耳を傾ける。
「なにかあったんだな?」
『アンバー侯爵家の人間が姿を消しました。残っているのは、使用人のみです』

 複数の魔法転移となれば、その予兆くらいはあるはず。それに精鋭部隊さえ予兆に気づかないことはありえない。

 ーーよほどの手練れか、はたまた外の国か。

「侯爵邸を直ちに封鎖せよ。使用人は全員の聴取が終わるまで邸からだすな」
『はっ!』

 精鋭部隊や見張りの中に裏切り者がいたーーという可能性は極めて低い。
 彼らとは契約を結んでいる。
 契約を違えれば、もうこの世に命はないだろう。

 消えた侯爵一家。
 そして、その一員であるエルマ・アンバーは私の番を騙った。

 ーーとなると。

「ーーロイゼ!!」

 窓枠に足をかけて、外へ飛び立つ。
 ノクト・ディバリー副団長の家は、強い魔法防壁がある。
 だが、何かあってからでは遅いのだ。

 ーーロイゼ。

 魔術師学校の頃から、成績の伸び率と魔法に対する執念は目を見張るものがある少女がいると報告を受けていた。

 だが、その平民出身の彼女を魔術師団長に推薦するーーそう前団長より報告を受けた際には、思わずペンを取り落とした。

 魔術師団は、実力主義だ。
 だが、そのほとんどが貴族の集まりであり、高みへ至るまでの道のりは決して平坦ではない。

 だから、まさかと思ったのだ。

 それと同時に、なぜそうまでするのかとも思っていた。

 魔術師団の幹部になった時点で、否、魔術師団に入団した時点で将来は約束される。

 それなのに、なぜそこまで高みを目指したのかと。
 高みへ行けるところまで行きたい。
 それは誰しも一度は思うことではあるが、ずっとその想いを挫けずに持ち続けるのは、不可能ではないのかと。


 ーーだから。

 そんな彼女に面談で想いを告げられた時、エルマが番だと思っていながらーー。

 揺らいだのだ。

 真摯に私を見つめるその瞳の眩しさに、思わず息を呑んだ。

 だが、私はそれに固く蓋をして自分を守ることにした。

 ミルフィアと、約束したから。

 彼女だけを愛し続けると。


 だから、ロイゼが私の番を騙ったとエルマに言われたときに、愚かにもより攻撃的になった。
 ロイゼを排除することで、ミルフィアとの約束を守る自分になれると思った。

「ーーロイゼ」

 ロイゼが目を覚ましたとき、これ以上ないほど嬉しかった。
 彼女が私をもうあの熱のこもった瞳で見ることはないとしても。
 生きてくれて嬉しかった。


 
 それでも貪欲なもので、彼女が生きているとわかれば、今度は自分をあの瞳で映して欲しいと思うようになってしまった。

 ーーでも。

 もう、そんなことは望まない。


 だから、どうかーー。


しおりを挟む
感想 476

あなたにおすすめの小説

夫が運命の番と出会いました

重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。 だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。 しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?

竜王の花嫁は番じゃない。

豆狸
恋愛
「……だから申し上げましたのに。私は貴方の番(つがい)などではないと。私はなんの衝動も感じていないと。私には……愛する婚約者がいるのだと……」 シンシアの瞳に涙はない。もう涸れ果ててしまっているのだ。 ──番じゃないと叫んでも聞いてもらえなかった花嫁の話です。

運命の番?棄てたのは貴方です

ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。 番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。 ※自己設定満載ですので気を付けてください。 ※性描写はないですが、一線を越える個所もあります ※多少の残酷表現あります。 以上2点からセルフレイティング

【完結】愛していないと王子が言った

miniko
恋愛
王子の婚約者であるリリアナは、大好きな彼が「リリアナの事など愛していない」と言っているのを、偶然立ち聞きしてしまう。 「こんな気持ちになるならば、恋など知りたくはなかったのに・・・」 ショックを受けたリリアナは、王子と距離を置こうとするのだが、なかなか上手くいかず・・・。 ※合わない場合はそっ閉じお願いします。 ※感想欄、ネタバレ有りの振り分けをしていないので、本編未読の方は自己責任で閲覧お願いします。

【完結】留学先から戻って来た婚約者に存在を忘れられていました

山葵
恋愛
国王陛下の命により帝国に留学していた王太子に付いて行っていた婚約者のレイモンド様が帰国された。 王家主催で王太子達の帰国パーティーが執り行われる事が決まる。 レイモンド様の婚約者の私も勿論、従兄にエスコートされ出席させて頂きますわ。 3年ぶりに見るレイモンド様は、幼さもすっかり消え、美丈夫になっておりました。 将来の宰相の座も約束されており、婚約者の私も鼻高々ですわ! 「レイモンド様、お帰りなさいませ。留学中は、1度もお戻りにならず、便りも来ずで心配しておりましたのよ。元気そうで何よりで御座います」 ん?誰だっけ?みたいな顔をレイモンド様がされている? 婚約し顔を合わせでしか会っていませんけれど、まさか私を忘れているとかでは無いですよね!?

白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』

鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」 華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。 王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。 そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。 レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。 「お願いだ……戻ってきてくれ……」 王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。 「もう遅いわ」 愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。 裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。 これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。

たとえ番でないとしても

豆狸
恋愛
「ディアナ王女、私が君を愛することはない。私の番は彼女、サギニなのだから」 「違います!」 私は叫ばずにはいられませんでした。 「その方ではありません! 竜王ニコラオス陛下の番は私です!」 ──番だと叫ぶ言葉を聞いてもらえなかった花嫁の話です。 ※1/4、短編→長編に変更しました。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

処理中です...