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婚約解消
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好きだと思った。
大好きだと。
もっというと、この人となら愛を育んでいけると、信じていた。
──でも、きっと。
そう思っていたのは、私だけだった。
「リリーシャ」
言いにくそうに、彼──婚約者のアベル第二王子が切り出した。その傍らには、可愛らしい少女がいる。老婆のような白い髪色の私とは反対の、艶やかな黒髪をしていた。
確か──異世界からやってきた、〈神の御使い〉の少女だ。
「君との婚約を解消したい」
「……理由を、お伺いしても?」
震える声を隠すように、右手をテーブルの下で握りしめた。
理由なんて、聞くまでもない。
けれど、直接、アベル殿下から聞くまでは信じられない。信じたくない。これが、こんなのが、現実のはずない。
「僕が、彼女──サクラを愛してしまったから。僕は、サクラを愛してる。心の底から」
……あぁ。
体から力が抜けるのを感じる。
あなたの口から、初めて聞く愛の言葉が、他人に向けたものだなんて。
いつも、女性からいうのははしたないとしっていながら、それでも勇気をだして告げた愛の言葉は、僕もだよ、という同意をもって躱された。
たったのその一言が、私にとってどれだけ価値があって、得難いものだったのか。
頬を少し赤らめて、
「もうアベルったら! 人前ではそういうことを言わないでよね!」
そういった彼女には、きっとわからないだろう。人前で、ということは、初めてではない。
私がアベル殿下の婚約者として過ごしてきた十年の歳月をかけても決して得られなかったものを、彼女は。
「……かしこまりました」
泣くのを我慢するのは、得意だ。心の波を無理やり封じ込めてしまえばいい。
私は、薄く微笑むと頷いた。
そんな私に安堵の表情を向け、アベル殿下は続けた。
「ありがとう、リリーシャ。君には、最高の縁談をと思ってる」
それからアベル殿下は、王命状を差し出した。
断りをいれてから、それに目を通す。
そこに記してあったのは、私と隣国の王との婚姻が決まったということだった。
王妃になれるのだ。これ以上ない縁談だろう。──この王が、〈冷酷王〉と呼ばれていることを除けば。
でも地位なんていらなかった。
あなたの、愛が欲しかった。
そう、泣き叫べば、何か変わるだろうか。
いや、変わらない。
だって、あなたは初めて出会った時に言ったから。
泣く女性は、嫌いだと。
「拝命いたしました」
どうせ、私に拒否権などない。
だったら、好きな人に最後に映る表情は笑顔がいい。
私は、自分にできうる限りの最高の笑みを浮かべて、頷いた。
そうして、その数ヵ月後。
私は、隣国へ王妃として、嫁いだ。
大好きだと。
もっというと、この人となら愛を育んでいけると、信じていた。
──でも、きっと。
そう思っていたのは、私だけだった。
「リリーシャ」
言いにくそうに、彼──婚約者のアベル第二王子が切り出した。その傍らには、可愛らしい少女がいる。老婆のような白い髪色の私とは反対の、艶やかな黒髪をしていた。
確か──異世界からやってきた、〈神の御使い〉の少女だ。
「君との婚約を解消したい」
「……理由を、お伺いしても?」
震える声を隠すように、右手をテーブルの下で握りしめた。
理由なんて、聞くまでもない。
けれど、直接、アベル殿下から聞くまでは信じられない。信じたくない。これが、こんなのが、現実のはずない。
「僕が、彼女──サクラを愛してしまったから。僕は、サクラを愛してる。心の底から」
……あぁ。
体から力が抜けるのを感じる。
あなたの口から、初めて聞く愛の言葉が、他人に向けたものだなんて。
いつも、女性からいうのははしたないとしっていながら、それでも勇気をだして告げた愛の言葉は、僕もだよ、という同意をもって躱された。
たったのその一言が、私にとってどれだけ価値があって、得難いものだったのか。
頬を少し赤らめて、
「もうアベルったら! 人前ではそういうことを言わないでよね!」
そういった彼女には、きっとわからないだろう。人前で、ということは、初めてではない。
私がアベル殿下の婚約者として過ごしてきた十年の歳月をかけても決して得られなかったものを、彼女は。
「……かしこまりました」
泣くのを我慢するのは、得意だ。心の波を無理やり封じ込めてしまえばいい。
私は、薄く微笑むと頷いた。
そんな私に安堵の表情を向け、アベル殿下は続けた。
「ありがとう、リリーシャ。君には、最高の縁談をと思ってる」
それからアベル殿下は、王命状を差し出した。
断りをいれてから、それに目を通す。
そこに記してあったのは、私と隣国の王との婚姻が決まったということだった。
王妃になれるのだ。これ以上ない縁談だろう。──この王が、〈冷酷王〉と呼ばれていることを除けば。
でも地位なんていらなかった。
あなたの、愛が欲しかった。
そう、泣き叫べば、何か変わるだろうか。
いや、変わらない。
だって、あなたは初めて出会った時に言ったから。
泣く女性は、嫌いだと。
「拝命いたしました」
どうせ、私に拒否権などない。
だったら、好きな人に最後に映る表情は笑顔がいい。
私は、自分にできうる限りの最高の笑みを浮かべて、頷いた。
そうして、その数ヵ月後。
私は、隣国へ王妃として、嫁いだ。
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