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さて、お父様のおかげで攻略可能キャラクター様と婚約するというフラグを回避することができました!
昨日から、私の世界は一変しました。何だか、世界がずっと輝いて見えますね。空はこんなに青かったのかとか、小鳥の囀りの美しさよ、とかポエミーなことを考えてしまう程度には浮かれてしまいます。
……お父様が何か重要なことをおっしゃっていたような気がしますが、 気のせいですね。
にやけそうな顔を手で抑えながら、屋敷の廊下を走ります。
――こんな姿をセシル様に見られたら、注意され……
「……はっ!」
いけないいけない。私としたことがつい浮かれてしまって、チャンスを逃すところでした。だって、せっかく攻略可能キャラクターの方々と婚約することを避けることが出来たのですから、何もしないのは勿体ないです。
平凡な方と平凡な恋をして平凡に結婚する……、という前世で果たせなかった夢を叶えようじゃありませんか。それに、念には念を入れて、攻略可能キャラクター様以外と婚約してしまえば、絶対にヒロインを庇って死ぬ……なんてフラグは立ちませんし。
私はこれでも貴族の娘なので、お家の役に立ちたい気持ちはあります。平凡……な方は仕方ないので諦めるとして、お役に立てるような方と平凡に恋をして、平凡に結婚する。
よし、これを目指しましょう。
そうと決まれば、そういう方に少しでも振り向いて頂けるように己を磨かなければなりませんね。
セシル様に今まで以上に、礼儀作法とマナーとお裁縫などを教えて頂いて、それから……もちろん教養だって必要です。そちらは、ミツバ博士に教えて頂きましょう。
「……何だか燃えてきました」
私、目標が出来ると俄然やる気が出るタイプです。今までだって手を抜いた覚えはありませんが、ここまでやる気に満ち溢れていたかというと、そうではありません。
確か今日は、お裁縫だったはず。完璧にこなして見せましょう。
■ □ ■
「ここは力みすぎずに。……ああ、そうです。お上手ですわ」
ぐぬぬ、と唸りながら針を通します。
すっかり忘れていたのですが、私前世で一度も家庭科で五をとったことがありませんでした。いつもぎりぎりの三です。その中でも、特にお裁縫は苦手で……。完璧のかの字にすら届いていません。
それなのに、
「今日からもっと厳しくお願いします」
とセシル様に言ってしまったせいで、渡されたのは私の実力では到底出来なさそうな模様でした。
「ええと、あの……」
「あら、これから厳しく、でしょう?」
「……はい」
よいお返事ですわ、とセシル様は微笑まれました。現在はこのお屋敷で働いていらっしゃいますが、本当はどこかの国の貴族の方だと、侍女たちが噂しているのを聞きました。ロッド家の家訓であるお母様もセシル様はやりにくい相手のようです。
「そんなに見つめられたら、穴があいてしまいますわ」
「え、あっ。申し訳ありません」
謝ると、くすくすと微笑まれました。
「私の顔になにかついてますか?」
お歳はお母様よりもずっと上のはずなのに、何か仕草をする度に大人の女性の色気が漂います。
「いいえ!……そうではなくて、どうしたらセシル様のような魅力的な女性になれるのでしょうか」
私もセシル様に仕草や何かも教えて頂いているはずなのに、こうも違うものとは思いませんでした。
「あらあら。貴方は、十分魅力的ですわ。……ああ、でも、私があなたに教えることが無くならないように、もう少しそのままでいてくださいな」
微笑まれる姿はとてもお美しくて、私がセシル様から学ばさて頂くことが無くなる日は遠そうです。
ですが、私の夢の為にはこのまま、引き下がるわけにはいきません。
「魅力的になるにはどうすればよいのでしょうか?」
「そうですわね。まずは、その刺繍を終わらせましょうか」
「……ハイ」
■ □ ■
お裁縫は上手くできませんでした。苦手をすぐに克服するのは、難しいですが、こちらは長期戦で臨みましょう。
それよりも、今は目の前の難題に挑まなければ。
「お願いします。私に魔法を教えて下さい!」
「日常生活に困らない程度の魔法は教えています。……はい、じゃあ、数学をしましょうか」
ミツバ博士は、元々王宮で魔法の研究をされていたのですか、王宮での地位争いに飽き飽きしていたところをお父様に雇われた方です。研究費用はロッド家が負担する代わりに、こうして私に勉強を教えて頂いています。
魔法の勉強にこだわるのは、何も夢の為だけではなく、保険の為です。確か学園のクラスは、身分ではなく熟練度別になっています。その中で特に重要視されるのが魔法の能力です。
ミツバ博士は、その若さでかなりの研究成果を残していらっしゃいます。ミツバ博士に魔法を学べば、一番高い熟練度のクラスに入れるはず。さすがの殿下や他の攻略可能性キャラクターの方々もいきなりそこに入るのは難しいのではないでしょうか。
「お願いします!先生!!」
ミツバ博士の耳が動きました。
「わかっていてそう呼んでいらっしゃるのですか」
「二冊……」
ピクピクピクッ。ミツバ博士の耳が動きました。あともう一押しですね。
「ムール=レイモンの新作二冊でどうでしょうか。もちろん、私もまだ読んでいません」
ミツバ博士と私は本の好みが似ています。なので、よく本の貸し借りをしているのですが、ムール=レイモンはその中でもミツバ博士のお気に入りの作家です。私も今夜の楽しみにとっておいたのですが、仕方ありませんね。
「……わかりました。それで手を打ちましょう」
やりました。これで、魔法を教えて頂けます。
「ありがとうございま……」
言いかけた言葉が途中で止まりました。読書が趣味の私でも遠慮したいような分厚い本が、ミツバ博士から渡されました。
「今日の授業はこれでお終いです。……さすがに貴方でもこれを読み終わるには、時間がかるでしょうから。これは、明日までの課題です。しっかりと読んできて下さい」
「明日まで……ですか?」
ひきつりそうになる顔を必死に抑えて言うと、にっこりと微笑まれました。
「はい、そうです。俺から魔法を学ぶ気が本当にあるのなら、それぐらいやって頂かねば。……ああ、別に嫌なら構いませんよ」
「いいえ!やらせて頂きます」
「それは楽しみですね。あ、あとムール=レイモンの本、忘れないで下さいね。では、失礼いたします」
ひらひらと手を振りながら、ミツバ博士は研究に戻られました。
「……重ッ」
私の夢への道は遠そうです。
昨日から、私の世界は一変しました。何だか、世界がずっと輝いて見えますね。空はこんなに青かったのかとか、小鳥の囀りの美しさよ、とかポエミーなことを考えてしまう程度には浮かれてしまいます。
……お父様が何か重要なことをおっしゃっていたような気がしますが、 気のせいですね。
にやけそうな顔を手で抑えながら、屋敷の廊下を走ります。
――こんな姿をセシル様に見られたら、注意され……
「……はっ!」
いけないいけない。私としたことがつい浮かれてしまって、チャンスを逃すところでした。だって、せっかく攻略可能キャラクターの方々と婚約することを避けることが出来たのですから、何もしないのは勿体ないです。
平凡な方と平凡な恋をして平凡に結婚する……、という前世で果たせなかった夢を叶えようじゃありませんか。それに、念には念を入れて、攻略可能キャラクター様以外と婚約してしまえば、絶対にヒロインを庇って死ぬ……なんてフラグは立ちませんし。
私はこれでも貴族の娘なので、お家の役に立ちたい気持ちはあります。平凡……な方は仕方ないので諦めるとして、お役に立てるような方と平凡に恋をして、平凡に結婚する。
よし、これを目指しましょう。
そうと決まれば、そういう方に少しでも振り向いて頂けるように己を磨かなければなりませんね。
セシル様に今まで以上に、礼儀作法とマナーとお裁縫などを教えて頂いて、それから……もちろん教養だって必要です。そちらは、ミツバ博士に教えて頂きましょう。
「……何だか燃えてきました」
私、目標が出来ると俄然やる気が出るタイプです。今までだって手を抜いた覚えはありませんが、ここまでやる気に満ち溢れていたかというと、そうではありません。
確か今日は、お裁縫だったはず。完璧にこなして見せましょう。
■ □ ■
「ここは力みすぎずに。……ああ、そうです。お上手ですわ」
ぐぬぬ、と唸りながら針を通します。
すっかり忘れていたのですが、私前世で一度も家庭科で五をとったことがありませんでした。いつもぎりぎりの三です。その中でも、特にお裁縫は苦手で……。完璧のかの字にすら届いていません。
それなのに、
「今日からもっと厳しくお願いします」
とセシル様に言ってしまったせいで、渡されたのは私の実力では到底出来なさそうな模様でした。
「ええと、あの……」
「あら、これから厳しく、でしょう?」
「……はい」
よいお返事ですわ、とセシル様は微笑まれました。現在はこのお屋敷で働いていらっしゃいますが、本当はどこかの国の貴族の方だと、侍女たちが噂しているのを聞きました。ロッド家の家訓であるお母様もセシル様はやりにくい相手のようです。
「そんなに見つめられたら、穴があいてしまいますわ」
「え、あっ。申し訳ありません」
謝ると、くすくすと微笑まれました。
「私の顔になにかついてますか?」
お歳はお母様よりもずっと上のはずなのに、何か仕草をする度に大人の女性の色気が漂います。
「いいえ!……そうではなくて、どうしたらセシル様のような魅力的な女性になれるのでしょうか」
私もセシル様に仕草や何かも教えて頂いているはずなのに、こうも違うものとは思いませんでした。
「あらあら。貴方は、十分魅力的ですわ。……ああ、でも、私があなたに教えることが無くならないように、もう少しそのままでいてくださいな」
微笑まれる姿はとてもお美しくて、私がセシル様から学ばさて頂くことが無くなる日は遠そうです。
ですが、私の夢の為にはこのまま、引き下がるわけにはいきません。
「魅力的になるにはどうすればよいのでしょうか?」
「そうですわね。まずは、その刺繍を終わらせましょうか」
「……ハイ」
■ □ ■
お裁縫は上手くできませんでした。苦手をすぐに克服するのは、難しいですが、こちらは長期戦で臨みましょう。
それよりも、今は目の前の難題に挑まなければ。
「お願いします。私に魔法を教えて下さい!」
「日常生活に困らない程度の魔法は教えています。……はい、じゃあ、数学をしましょうか」
ミツバ博士は、元々王宮で魔法の研究をされていたのですか、王宮での地位争いに飽き飽きしていたところをお父様に雇われた方です。研究費用はロッド家が負担する代わりに、こうして私に勉強を教えて頂いています。
魔法の勉強にこだわるのは、何も夢の為だけではなく、保険の為です。確か学園のクラスは、身分ではなく熟練度別になっています。その中で特に重要視されるのが魔法の能力です。
ミツバ博士は、その若さでかなりの研究成果を残していらっしゃいます。ミツバ博士に魔法を学べば、一番高い熟練度のクラスに入れるはず。さすがの殿下や他の攻略可能性キャラクターの方々もいきなりそこに入るのは難しいのではないでしょうか。
「お願いします!先生!!」
ミツバ博士の耳が動きました。
「わかっていてそう呼んでいらっしゃるのですか」
「二冊……」
ピクピクピクッ。ミツバ博士の耳が動きました。あともう一押しですね。
「ムール=レイモンの新作二冊でどうでしょうか。もちろん、私もまだ読んでいません」
ミツバ博士と私は本の好みが似ています。なので、よく本の貸し借りをしているのですが、ムール=レイモンはその中でもミツバ博士のお気に入りの作家です。私も今夜の楽しみにとっておいたのですが、仕方ありませんね。
「……わかりました。それで手を打ちましょう」
やりました。これで、魔法を教えて頂けます。
「ありがとうございま……」
言いかけた言葉が途中で止まりました。読書が趣味の私でも遠慮したいような分厚い本が、ミツバ博士から渡されました。
「今日の授業はこれでお終いです。……さすがに貴方でもこれを読み終わるには、時間がかるでしょうから。これは、明日までの課題です。しっかりと読んできて下さい」
「明日まで……ですか?」
ひきつりそうになる顔を必死に抑えて言うと、にっこりと微笑まれました。
「はい、そうです。俺から魔法を学ぶ気が本当にあるのなら、それぐらいやって頂かねば。……ああ、別に嫌なら構いませんよ」
「いいえ!やらせて頂きます」
「それは楽しみですね。あ、あとムール=レイモンの本、忘れないで下さいね。では、失礼いたします」
ひらひらと手を振りながら、ミツバ博士は研究に戻られました。
「……重ッ」
私の夢への道は遠そうです。
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