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ミツバ博士が、にっこりと微笑まれました。今日は朝一番最初から、魔法の授業です。
「もちろん、読んできましたよね?」
はい、以外は認めねーぞコラ、というオーラを出しまくっておられます。ミツバ博士は大変優秀な方なのですが、ちょっと怖いです。
「……え、ええと」
「あ、もしかして何のことかおわかりになられていないとか。先日俺が渡した課題について、です」
ぱしん、ぱしんと手を杖で叩きながら、あははは、と口から洩らされる声がとても怖いです。
「……読んできました」
「じゃあ、なぜそのようなことになっておられるのですか?」
「う、それは……」
目の前にあるのは、炭とかしたステーキになる予定だったはずのものです。
「ちょっと火加減が……」
「ちょっと?」
「いえ、かなり」
ステーキと言っても、お料理ではなく魔法の練習なので、魔法を使って焼いたのですが、食べられそうにないほど黒くなっています。
「俺が今までに教えた魔法は一切忘れてください。あれは、魔法ではなくただの子供騙しですから。……いいですか、よく見ておいてください」
ミツバ博士が溜息をついて、杖を振ると隣にあった、もう一つの肉の塊がおいしそうな色に焼けていきます。
「お渡しした課題にも書いてあった通り、俺たちが魔法を使えるのは妖精たちのおかげです」
そう言って、焼けたステーキに噛みつかれました。
「むがっ、ふほぃやから……ゴクン。だから俺たちは常に下手に出て、お願いをする。少しでも、聞き入れて頂けるように」
渡された本に書かれていたのは、この世界の歴史でした。今まで習っていたものよりもずっと詳しく、そして妖精のことが書かれていました。私たちが魔法を使えるのは、私たちの中にある魔力、という力と、妖精が力を貸してくださっているかららしいです。
「今まで俺が貴方に教えてきた魔法には、呪文を使ったでしょう。でも、俺は呪文を使わずに肉を焼くことが出来た。なぜかわかりますか?」
「それは、呪文を使う必要がなかったから、でしょうか?」
呪文を使わずに魔法を発動させようとするのは、難しく、呪文を使うと魔法を発動させやすくなります。ミツバ博士ほどの方なら、簡単にできてしまいそうです。
「半分正解です。俺は呪文を使わずとも簡単にできますが、それは俺がどう、というわけでなく、妖精が助けてくれるからです。例えば、今、俺の隣に妖精がいるのですが、貴方に見えますか?」
じっと集中して、見るとぼんやりと何かが見えるような気がします。
「……はっきりとは見えませんが、何かがいます」
「へぇ。なかなかいい目をしていらっしゃいますね。何も見えない者の方が圧倒的に多いのですが」
視力はいい方です。前世でも眼鏡を使ったことがありません。
「視力には自信があります」
「いえ、視力の話ではなく。貴方は姿を見ることが出来る力をお持ちのようだ」
……どういうことでしょうか?意味が分からず、考え込むとミツバ博士は苦笑されました。
「一つ魔法を使いましょうか」
博士が軽く手を振ると、急に世界がクリアになり、ぼんやりとしか見えなかったものがはっきりと見えるようになりました。
博士の隣にいらっしゃるのは、ビスクドールのように美しい姿をした手のひらぐらいのサイズの女の子が見えます。
「……これが、妖精ですか?」
「ええ、そうです。ここにいる妖精のほかにもたくさんの妖精が世界には溢れています」
妖精は、私の方へ飛ばれるとくるり、と一回転してお辞儀をされました。そのままふよふよと私の周りを飛んでいらっしゃいます。なんてお可愛らしい。
「呪文を使えば、比較的簡単に魔法が発動するのは、呪文は妖精たちに聞き入れられやすい言葉を選んで作られているからです。そういうのとは関係なしに己の魔力のみで発動させるものもありますが、それは本当の魔法ではありません。魔法は流れに逆らうのではなく、流れに少し手を加えて自分たちの生活を豊かにするためのものです」
「では、なぜ今まで教えて頂いた歴史には、妖精のことが一切出てこなかったのですか?」
私は一昨日の課題に出された本で初めて、妖精の存在を知りました。今まで博士はわざと教えてこなかったというよりは、妖精の存在は無いものとして扱われることの方が多いのではないのでしょうか。
「お察しの通り、妖精の存在は魔法の研究に携わっている者や王族の方以外は知りません。先ほども言ったように、妖精の姿は見えない者の方が圧倒的に多い。自分の見えないものが存在する、というのは非常に恐ろしいことです。ならば、いっそその存在自体を知らない方がいい。そう考えるのも、当然のことでしょう。俺には、愚かだとしか思えませんが。日常で使う魔法なら、呪文を覚えればことたりますし」
そこまで聞いて、ふと課題として渡された本を見ます。そういう経緯があるのなら、妖精のことも含まれた歴史が書かれている本、というのはかなり珍しいのではないでしょうか。
「ああ、その本読まれたのならもう必要ないので返して頂けますか。城を出るときに拝借してきたものなので、外部に漏れるとまずいですから」
「拝借って……」
この他にも博士の部屋でこの本と同じ赤色の背表紙を持つ本をたくさん見た気がするのですが、まさか、それ全部……。
「誰も気づいていないでしょうし、別に怒らないと思いますよ。俺が残した成果は本の価値に十分匹敵します。むしろ、足りないぐらいだ」
したり顔で話されていますが、返すあてもないのに借りるのは泥……ゲフンゲフン。これ以上考えるのは精神的によろしくなさそうなのでやめましょう。
再び、博士が手を軽く振ると、妖精様の姿は見えなくなりました。
「そうがっかりした顔をなさらないで下さい。次の課題は、肉を上手に焼けるようになることです。そのためにまずは、妖精の姿を見ることと、話せるようになってください。妖精は結構あなたの周りをまわりながらいろいろと話していたのですが、声は聞こえましたか?」
「いいえ」
言われてみれば、口を動かしていらっしゃったような気がしますが、全く聞き取ることはできませんでした。
「声を聞き取ることは、見ることよりもずっと難しいので時間がかかります。ですが、諦めずに根気よく挑戦してください。見ようとしなければ何も見えず、聞こうとしなければ何も聞こえない」
「はい」
これまで私が妖精のことを見ることができなかったのは、見ようとしなかったから、なのでしょう。
「肉をうまく焼けるようになったら大抵の魔法は使えるようになります。大型の魔法よりもずっと、コントロールを必要としますから。課題が終わるまでは俺は一切魔法を教えないので、そのつもりでいてください。魔法以外にも貴方が学ぶべきことはたくさんあります」
「……わかりました」
私が頷くと、博士は満足そうに頷いて、私の頭に手を置きました。
「はりきるのは結構なことですが、度は超さないように注意してください。貴方は熱中すると周りが見えなくなる癖がある」
「はい、気を付けます」
「今おっしゃった言葉、忘れないで下さいね。では、これで失礼します」
博士はそう言って、研究室の方へ戻られました。……博士には頷きましたが、今でも集中していないと妖精様の姿が全く見えなくなってしまいます。集中していなくとも、自然に見ることが出来るようになるまでにはまだ、少し時間がかかりそうです。
「もちろん、読んできましたよね?」
はい、以外は認めねーぞコラ、というオーラを出しまくっておられます。ミツバ博士は大変優秀な方なのですが、ちょっと怖いです。
「……え、ええと」
「あ、もしかして何のことかおわかりになられていないとか。先日俺が渡した課題について、です」
ぱしん、ぱしんと手を杖で叩きながら、あははは、と口から洩らされる声がとても怖いです。
「……読んできました」
「じゃあ、なぜそのようなことになっておられるのですか?」
「う、それは……」
目の前にあるのは、炭とかしたステーキになる予定だったはずのものです。
「ちょっと火加減が……」
「ちょっと?」
「いえ、かなり」
ステーキと言っても、お料理ではなく魔法の練習なので、魔法を使って焼いたのですが、食べられそうにないほど黒くなっています。
「俺が今までに教えた魔法は一切忘れてください。あれは、魔法ではなくただの子供騙しですから。……いいですか、よく見ておいてください」
ミツバ博士が溜息をついて、杖を振ると隣にあった、もう一つの肉の塊がおいしそうな色に焼けていきます。
「お渡しした課題にも書いてあった通り、俺たちが魔法を使えるのは妖精たちのおかげです」
そう言って、焼けたステーキに噛みつかれました。
「むがっ、ふほぃやから……ゴクン。だから俺たちは常に下手に出て、お願いをする。少しでも、聞き入れて頂けるように」
渡された本に書かれていたのは、この世界の歴史でした。今まで習っていたものよりもずっと詳しく、そして妖精のことが書かれていました。私たちが魔法を使えるのは、私たちの中にある魔力、という力と、妖精が力を貸してくださっているかららしいです。
「今まで俺が貴方に教えてきた魔法には、呪文を使ったでしょう。でも、俺は呪文を使わずに肉を焼くことが出来た。なぜかわかりますか?」
「それは、呪文を使う必要がなかったから、でしょうか?」
呪文を使わずに魔法を発動させようとするのは、難しく、呪文を使うと魔法を発動させやすくなります。ミツバ博士ほどの方なら、簡単にできてしまいそうです。
「半分正解です。俺は呪文を使わずとも簡単にできますが、それは俺がどう、というわけでなく、妖精が助けてくれるからです。例えば、今、俺の隣に妖精がいるのですが、貴方に見えますか?」
じっと集中して、見るとぼんやりと何かが見えるような気がします。
「……はっきりとは見えませんが、何かがいます」
「へぇ。なかなかいい目をしていらっしゃいますね。何も見えない者の方が圧倒的に多いのですが」
視力はいい方です。前世でも眼鏡を使ったことがありません。
「視力には自信があります」
「いえ、視力の話ではなく。貴方は姿を見ることが出来る力をお持ちのようだ」
……どういうことでしょうか?意味が分からず、考え込むとミツバ博士は苦笑されました。
「一つ魔法を使いましょうか」
博士が軽く手を振ると、急に世界がクリアになり、ぼんやりとしか見えなかったものがはっきりと見えるようになりました。
博士の隣にいらっしゃるのは、ビスクドールのように美しい姿をした手のひらぐらいのサイズの女の子が見えます。
「……これが、妖精ですか?」
「ええ、そうです。ここにいる妖精のほかにもたくさんの妖精が世界には溢れています」
妖精は、私の方へ飛ばれるとくるり、と一回転してお辞儀をされました。そのままふよふよと私の周りを飛んでいらっしゃいます。なんてお可愛らしい。
「呪文を使えば、比較的簡単に魔法が発動するのは、呪文は妖精たちに聞き入れられやすい言葉を選んで作られているからです。そういうのとは関係なしに己の魔力のみで発動させるものもありますが、それは本当の魔法ではありません。魔法は流れに逆らうのではなく、流れに少し手を加えて自分たちの生活を豊かにするためのものです」
「では、なぜ今まで教えて頂いた歴史には、妖精のことが一切出てこなかったのですか?」
私は一昨日の課題に出された本で初めて、妖精の存在を知りました。今まで博士はわざと教えてこなかったというよりは、妖精の存在は無いものとして扱われることの方が多いのではないのでしょうか。
「お察しの通り、妖精の存在は魔法の研究に携わっている者や王族の方以外は知りません。先ほども言ったように、妖精の姿は見えない者の方が圧倒的に多い。自分の見えないものが存在する、というのは非常に恐ろしいことです。ならば、いっそその存在自体を知らない方がいい。そう考えるのも、当然のことでしょう。俺には、愚かだとしか思えませんが。日常で使う魔法なら、呪文を覚えればことたりますし」
そこまで聞いて、ふと課題として渡された本を見ます。そういう経緯があるのなら、妖精のことも含まれた歴史が書かれている本、というのはかなり珍しいのではないでしょうか。
「ああ、その本読まれたのならもう必要ないので返して頂けますか。城を出るときに拝借してきたものなので、外部に漏れるとまずいですから」
「拝借って……」
この他にも博士の部屋でこの本と同じ赤色の背表紙を持つ本をたくさん見た気がするのですが、まさか、それ全部……。
「誰も気づいていないでしょうし、別に怒らないと思いますよ。俺が残した成果は本の価値に十分匹敵します。むしろ、足りないぐらいだ」
したり顔で話されていますが、返すあてもないのに借りるのは泥……ゲフンゲフン。これ以上考えるのは精神的によろしくなさそうなのでやめましょう。
再び、博士が手を軽く振ると、妖精様の姿は見えなくなりました。
「そうがっかりした顔をなさらないで下さい。次の課題は、肉を上手に焼けるようになることです。そのためにまずは、妖精の姿を見ることと、話せるようになってください。妖精は結構あなたの周りをまわりながらいろいろと話していたのですが、声は聞こえましたか?」
「いいえ」
言われてみれば、口を動かしていらっしゃったような気がしますが、全く聞き取ることはできませんでした。
「声を聞き取ることは、見ることよりもずっと難しいので時間がかかります。ですが、諦めずに根気よく挑戦してください。見ようとしなければ何も見えず、聞こうとしなければ何も聞こえない」
「はい」
これまで私が妖精のことを見ることができなかったのは、見ようとしなかったから、なのでしょう。
「肉をうまく焼けるようになったら大抵の魔法は使えるようになります。大型の魔法よりもずっと、コントロールを必要としますから。課題が終わるまでは俺は一切魔法を教えないので、そのつもりでいてください。魔法以外にも貴方が学ぶべきことはたくさんあります」
「……わかりました」
私が頷くと、博士は満足そうに頷いて、私の頭に手を置きました。
「はりきるのは結構なことですが、度は超さないように注意してください。貴方は熱中すると周りが見えなくなる癖がある」
「はい、気を付けます」
「今おっしゃった言葉、忘れないで下さいね。では、これで失礼します」
博士はそう言って、研究室の方へ戻られました。……博士には頷きましたが、今でも集中していないと妖精様の姿が全く見えなくなってしまいます。集中していなくとも、自然に見ることが出来るようになるまでにはまだ、少し時間がかかりそうです。
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