私は、木になりたい。

夕立悠理

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祭りは結構な大賑わいでした。そのことにほっと息をつきます。
 その年の祭りの規模や、領民の様子で大体のことがわかります。この様子だと、心配せずとも大丈夫そうですね。
 ……一応、それを探るのが目的です。決して、自分が楽しみたいだけでは……それがないとはいいきれませんが。

 せっかく祭りに来たのですし、目一杯楽しみましょう。普段はお話したい方ともたくさん話してみたいです。やっぱり月に一度はそういう機会を積極的につくらないとだめですね。民あっての、侯爵家ですし。

 「……レイシー様?」
ふと、レイシー様を見るとレイシー様は露店に気を取られているようです。
「……それ、が欲しいのですか?」
さすがに祭りの時まで、文字が書かれた板を持ち運ぶわけにはいかないので、コミュニケーションはどこまでレイシー様の感情を私が読み取れるかにかかっています。……やっぱりこういう時、私が妖精様の声をお聞きでたら、と思いますがなかなかうまくいきません。
 頷かれたレイシー様の先を見ると、いろいろな形の飴を売っていました。
 その中でも一番小さいものを選び、飴をさしていた棒を細く短いものに変えてもらいました。お店の主人には、「お嬢ちゃん、それ持てるのかい?」と言われましたが、心配には及びません。
 だって、食べるのは私ではないですし。
 頷いて、代金を払うと不思議そうな顔をしながらも、飴をくれました。

 「……どうぞ」
私が飴を渡すと、レイシー様は顔を輝かせました。
 そういえば、レイシー様……というか、妖精のことが見えていらっしゃらない方にはどう映るのでしょうか。飴が宙に浮いているとかそういう風に見えるのかしら。
 少し不安になりましたが、皆様ご自身が楽しむことに夢中で全くこちらを見ません。とりあえず、どう見えるのかはまた後日検証するとして、今日は気にせずともよさそうですね。

 「おいしいですか?」
妖精様方が人間の食べ物――その中でもとりわけお菓子が好きなことは調査済みです。最近は、お菓子を作って、少しでも妖精方と近づけるように作戦を立ててます。
 明日辺りにでも挑戦しましょう。

 レイシー様は何度も大きく頷かれ、私に飴を差し出されました。
「ええと、私も食べろ……ということでしょうか?」
 ずいずい、と飴を差し出されます。
 ええとですね、正直言うと、飴の大きさ的に私の一口で、全てが無くなってしまいます。
 ああ、でも。

 「……ありがとうございます」
おいしいと思った物をくださるということは、その気持ちを共有したいと思って下さったということです。私は、それがとても嬉しかった。

 結局飴を舌の先で舐めるだけに留めて、レイシー様にお返しします。
「とても美味しかったです。ありがとうございます」
笑っていうと、レイシー様も笑顔を返して下さいました。思わず抱きしめそうになったことをぎりぎりの理性で押し止めた私を誉めたいくらいです。

 まだ、声をお聞きすることは叶いませんが、私とレイシー様の距離は少しずつ、縮まってきたのではないでしょうか。

 そんな幸せな気持ちになったのもつかの間、私は有り得ないものを見ました。正確には、有り得ない人ですが。
 とにかく、関わるつもりは毛頭ありません。私は今日レイシー様と祭りを楽しみたいだけなのですから。
「?」
急に方向を変えた私にレイシー様が不思議そうな顔をされました。
「ああ、申し訳ありません。少し、他の場所に行きたいかなーなんて」
あはははは。乾いた笑いを浮かべた私に突っ込まない優しいレイシー様は頷いて私について来て下さいました。

 まだ相手には気づかれてないでしょうし。私が先に気づいたのは不幸中の幸いですね。
 最も、この格好では気づかれないかもしれませんが。
 ここまで来たら大丈夫でしょう。とりあえず回避出来て良かったです。

「すまない、そこのお嬢さん」
後ろから聞こえた声は幻聴ですね。もしくは、私に向けられたものではありません。

 「……話しかけているのに、止まってもくれないとはつれないな」
お嬢さんはとっとと返事をして差し上げて下さい。この声は心臓に悪いです。
 そんなことを考えながら、足を進めます。

 ……と、そんな私を嘲笑うかのようにポンと肩をたたかれました。
「私は先ほどから君に話し掛けているのだが、振り向いてもくれないのか」

 んっんー。可笑しいな耳がよく聞こえないのですが。第一後ろの方がもし、私が思っていた通りの方なら、こんな場所にいらっしゃるはずがないですよね。

 ああ、でも。これ以上振り返らないのは不敬罪にあたるでしょうか。

 大丈夫、こっちがボロをださなければ絶対に変装はバレない。頭の中でそう言い聞かせて、後ろを振り返ります。
 後ろには思った通りの方がいらっしゃいました。一瞬動揺しそうになりましたが、辛うじて堪えます。今の私はどこから見ても、町娘です。
 「何でございましょうか?」
声もなるべく変えて答えます。出来るだけ、出来るだけ無難にやり過ごさなければ。

 「変装をして領土に一人で繰り出すのは流行りなのかな?」
私にだけ聞こえるように、耳元でそう囁かれました。

 「……なんのことでございましょう。私はしがない町娘ですわ。人違いなさっているのではないでしょうか?」
まだ、私のことがバレたという証拠はありませんし。ただ貴族だと言うことがバレた程度なら何とかやり過ごすことが出来ればこっちの勝ちです。ここで動揺してしまったら、それこそ元も子もないですし。

 「……本気でまだ気づいていないと思っているのか。ああ、それとも、君だと見抜いてほしいと思っているのか」
だめです。ここは受け流さなければ。

「何のことか分かりかねますわ」
うふふ、と笑ってその場を立ち去ろうとすると、がしりと腕を掴まれました。

「……随分と冷たい物言いだな。マリー嬢?」


 ああああ。バレた。完璧にバレちゃいました。
 その方は……アレックス殿下は焦る私の姿を楽しむようににこり、と微笑まれました。
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