私は、木になりたい。

夕立悠理

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―さて、どうしましょうか。現在の私に残された選択肢は三つ。
一 白を切りとおし、逃げる
二 逃げる
三 大人しく白状し、逃げる

 ……よし、この中で一番無難なものは―― 
「……誰のことにございましょう?私は、エミリーですわ。では、失礼いたします」
これで万事解決ですね。ここで重要なのはあくまでも自分は別人だとはっきりさせること。間違っても声を震わせてはなりません。涼やかな顔で、セシル様に習った角度で一礼。

 では行きましょうか、レイシー様。

 ……あっれー。

 何故でしょうか。私の腕は未だに掴まれたままなのですか。
「君はもう少し聡い子だと思っていたが」
聡い子じゃなくて結構です。結構ですから離して下さい。私は、可愛いレイシー様とデート中なのです。
「うふふ、何のことにございましょう?」
「私にこのまま引っぱり回されるのと、私のエスコートで祭りを回る。さあ、どちらがいい?」
選択肢に殿下と回らないものが見当たりません。あれ、私聞き逃しましたか?
 ……はぁ。もう腹をくくりましょう。人生諦めが肝心といいますしね。
「……殿下にエスコートをして頂くなんて、身に余る光栄ですわ」
レイシー様とのデートが。折角のデートがぁ。
 「賢い選択だな。で、どうして君がこんな場所にいるのかな?」
――理由ぐらい聞かせて貰えないだろうか。にっこり、と効果音が付きそうな顔で微笑まれました。

「視察も兼ねて、楽しもうかと」
言いながら、カツラ……ウィッグを取り外します。私は面白みのないストレートな髪なので、憧れのゆるふわカールがかかっているものを選びました。でも、バレてしまったら必要ないですし。ウィッグを外しても、他の方は私だと気付かれないでしょう。あの距離から、私のことが見えただけでなく、私だと気付く殿下の目が異常なのです。

「侯爵家の娘が護衛の一つもつけずに?」
「殿下の護衛の方はどこにいらっしゃられるのですか?」
私のことを非難する前に、ご自身のことを振り返ってくださいませ。
「……いないな」
ほら、やっぱり。ちなみに、私は一人ではありません。レイシー様が一緒です。
 「……そんなに怪訝そうな顔をしなくとも、今日分の執務は終えてきている」
「その点は全く心配しておりません」
殿下は、放浪癖がありますが、その分仕事はきっちりされている方です。その点は非常に尊敬しています。……ただ、毎回毎回誰にも告げずに、城を出られるのはいかがなものでしょうか。殿下の側近のエドさんの気持ちはお察しします。今度、胃薬をお送りしましょう。

 殿下が急にくつくつと笑い出されました。
「どうされたのですか?」
「……いや、初めて君と出会ったのもこの祭りの日だったと思って。まさか、空から可愛らしい女の子が降ってくるとは夢にも思わなかった」
 ――まだそれを引きずりますか。殿下もしつこいですね。
「あの日の君は非常にかっこよかったな。私では到底及ばない」
にやにやにやにや。殿下でなかったら、今頃私の渾身の右ストレートを披露していたでしょう。
 しかし悲しいかな。この方は我が国の第二王子であらせられます。間違ってもそんな真似はできません。
 あの日のことは私にとって忘れたい過去なのです。記憶の隅に追いやっていたのに前の夜会といい、今日といい、嫌がらせですか!
「……そんな昔のこと、もう忘れてしまいましたわ。殿下もどうか忘れてくださいませ」
そして、もうこのことには触れないで下さい。
「いくらリリー嬢の頼みでも、それは無理な相談だな」

 なぜ、こんな方と友人などというものになってしまったのでしょうか。
 昔の自分を殴り飛ばしたい。

 ――話は数年前にさかのぼります。
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