11 / 12
11
しおりを挟む
―さて、どうしましょうか。現在の私に残された選択肢は三つ。
一 白を切りとおし、逃げる
二 逃げる
三 大人しく白状し、逃げる
……よし、この中で一番無難なものは――
「……誰のことにございましょう?私は、エミリーですわ。では、失礼いたします」
これで万事解決ですね。ここで重要なのはあくまでも自分は別人だとはっきりさせること。間違っても声を震わせてはなりません。涼やかな顔で、セシル様に習った角度で一礼。
では行きましょうか、レイシー様。
……あっれー。
何故でしょうか。私の腕は未だに掴まれたままなのですか。
「君はもう少し聡い子だと思っていたが」
聡い子じゃなくて結構です。結構ですから離して下さい。私は、可愛いレイシー様とデート中なのです。
「うふふ、何のことにございましょう?」
「私にこのまま引っぱり回されるのと、私のエスコートで祭りを回る。さあ、どちらがいい?」
選択肢に殿下と回らないものが見当たりません。あれ、私聞き逃しましたか?
……はぁ。もう腹をくくりましょう。人生諦めが肝心といいますしね。
「……殿下にエスコートをして頂くなんて、身に余る光栄ですわ」
レイシー様とのデートが。折角のデートがぁ。
「賢い選択だな。で、どうして君がこんな場所にいるのかな?」
――理由ぐらい聞かせて貰えないだろうか。にっこり、と効果音が付きそうな顔で微笑まれました。
「視察も兼ねて、楽しもうかと」
言いながら、カツラ……ウィッグを取り外します。私は面白みのないストレートな髪なので、憧れのゆるふわカールがかかっているものを選びました。でも、バレてしまったら必要ないですし。ウィッグを外しても、他の方は私だと気付かれないでしょう。あの距離から、私のことが見えただけでなく、私だと気付く殿下の目が異常なのです。
「侯爵家の娘が護衛の一つもつけずに?」
「殿下の護衛の方はどこにいらっしゃられるのですか?」
私のことを非難する前に、ご自身のことを振り返ってくださいませ。
「……いないな」
ほら、やっぱり。ちなみに、私は一人ではありません。レイシー様が一緒です。
「……そんなに怪訝そうな顔をしなくとも、今日分の執務は終えてきている」
「その点は全く心配しておりません」
殿下は、放浪癖がありますが、その分仕事はきっちりされている方です。その点は非常に尊敬しています。……ただ、毎回毎回誰にも告げずに、城を出られるのはいかがなものでしょうか。殿下の側近のエドさんの気持ちはお察しします。今度、胃薬をお送りしましょう。
殿下が急にくつくつと笑い出されました。
「どうされたのですか?」
「……いや、初めて君と出会ったのもこの祭りの日だったと思って。まさか、空から可愛らしい女の子が降ってくるとは夢にも思わなかった」
――まだそれを引きずりますか。殿下もしつこいですね。
「あの日の君は非常にかっこよかったな。私では到底及ばない」
にやにやにやにや。殿下でなかったら、今頃私の渾身の右ストレートを披露していたでしょう。
しかし悲しいかな。この方は我が国の第二王子であらせられます。間違ってもそんな真似はできません。
あの日のことは私にとって忘れたい過去なのです。記憶の隅に追いやっていたのに前の夜会といい、今日といい、嫌がらせですか!
「……そんな昔のこと、もう忘れてしまいましたわ。殿下もどうか忘れてくださいませ」
そして、もうこのことには触れないで下さい。
「いくらリリー嬢の頼みでも、それは無理な相談だな」
なぜ、こんな方と友人などというものになってしまったのでしょうか。
昔の自分を殴り飛ばしたい。
――話は数年前にさかのぼります。
一 白を切りとおし、逃げる
二 逃げる
三 大人しく白状し、逃げる
……よし、この中で一番無難なものは――
「……誰のことにございましょう?私は、エミリーですわ。では、失礼いたします」
これで万事解決ですね。ここで重要なのはあくまでも自分は別人だとはっきりさせること。間違っても声を震わせてはなりません。涼やかな顔で、セシル様に習った角度で一礼。
では行きましょうか、レイシー様。
……あっれー。
何故でしょうか。私の腕は未だに掴まれたままなのですか。
「君はもう少し聡い子だと思っていたが」
聡い子じゃなくて結構です。結構ですから離して下さい。私は、可愛いレイシー様とデート中なのです。
「うふふ、何のことにございましょう?」
「私にこのまま引っぱり回されるのと、私のエスコートで祭りを回る。さあ、どちらがいい?」
選択肢に殿下と回らないものが見当たりません。あれ、私聞き逃しましたか?
……はぁ。もう腹をくくりましょう。人生諦めが肝心といいますしね。
「……殿下にエスコートをして頂くなんて、身に余る光栄ですわ」
レイシー様とのデートが。折角のデートがぁ。
「賢い選択だな。で、どうして君がこんな場所にいるのかな?」
――理由ぐらい聞かせて貰えないだろうか。にっこり、と効果音が付きそうな顔で微笑まれました。
「視察も兼ねて、楽しもうかと」
言いながら、カツラ……ウィッグを取り外します。私は面白みのないストレートな髪なので、憧れのゆるふわカールがかかっているものを選びました。でも、バレてしまったら必要ないですし。ウィッグを外しても、他の方は私だと気付かれないでしょう。あの距離から、私のことが見えただけでなく、私だと気付く殿下の目が異常なのです。
「侯爵家の娘が護衛の一つもつけずに?」
「殿下の護衛の方はどこにいらっしゃられるのですか?」
私のことを非難する前に、ご自身のことを振り返ってくださいませ。
「……いないな」
ほら、やっぱり。ちなみに、私は一人ではありません。レイシー様が一緒です。
「……そんなに怪訝そうな顔をしなくとも、今日分の執務は終えてきている」
「その点は全く心配しておりません」
殿下は、放浪癖がありますが、その分仕事はきっちりされている方です。その点は非常に尊敬しています。……ただ、毎回毎回誰にも告げずに、城を出られるのはいかがなものでしょうか。殿下の側近のエドさんの気持ちはお察しします。今度、胃薬をお送りしましょう。
殿下が急にくつくつと笑い出されました。
「どうされたのですか?」
「……いや、初めて君と出会ったのもこの祭りの日だったと思って。まさか、空から可愛らしい女の子が降ってくるとは夢にも思わなかった」
――まだそれを引きずりますか。殿下もしつこいですね。
「あの日の君は非常にかっこよかったな。私では到底及ばない」
にやにやにやにや。殿下でなかったら、今頃私の渾身の右ストレートを披露していたでしょう。
しかし悲しいかな。この方は我が国の第二王子であらせられます。間違ってもそんな真似はできません。
あの日のことは私にとって忘れたい過去なのです。記憶の隅に追いやっていたのに前の夜会といい、今日といい、嫌がらせですか!
「……そんな昔のこと、もう忘れてしまいましたわ。殿下もどうか忘れてくださいませ」
そして、もうこのことには触れないで下さい。
「いくらリリー嬢の頼みでも、それは無理な相談だな」
なぜ、こんな方と友人などというものになってしまったのでしょうか。
昔の自分を殴り飛ばしたい。
――話は数年前にさかのぼります。
30
あなたにおすすめの小説
社畜の私は異世界でも社畜精神が残ったままだった
木嶋うめ香
恋愛
貴族学園の小さな部屋で、私は一人書類仕事に追われていた。
今日も寮には帰れそうにない、机の上には大量の未処理の書類。
せめて空腹を紛らわそうと、ビスケットを鞄から取り出し水を汲んでこようとして立ち上がった途端、視界が暗くなり倒れた。
床に倒れた反動で、頭を床にぶつける。
その衝撃で思い出した、私は前世ブラック企業に勤めていた社畜で、二十三連勤サービス残業付きの末、体調を崩し亡くなったアラサー営業職だった。
他サイトでもアップしています。
私、お母様の言うとおりにお見合いをしただけですわ。
いさき遊雨
恋愛
お母様にお見合いの定石?を教わり、初めてのお見合いに臨んだ私にその方は言いました。
「僕には想い合う相手いる!」
初めてのお見合いのお相手には、真実に愛する人がいるそうです。
小説家になろうさまにも登録しています。
悪役令息の婚約者になりまして
どくりんご
恋愛
婚約者に出逢って一秒。
前世の記憶を思い出した。それと同時にこの世界が小説の中だということに気づいた。
その中で、目の前のこの人は悪役、つまり悪役令息だということも同時にわかった。
彼がヒロインに恋をしてしまうことを知っていても思いは止められない。
この思い、どうすれば良いの?
【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた
22時完結
恋愛
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。
結婚式をボイコットした王女
椿森
恋愛
請われて隣国の王太子の元に嫁ぐこととなった、王女のナルシア。
しかし、婚姻の儀の直前に王太子が不貞とも言える行動をしたためにボイコットすることにした。もちろん、婚約は解消させていただきます。
※初投稿のため生暖か目で見てくださると幸いです※
1/9:一応、本編完結です。今後、このお話に至るまでを書いていこうと思います。
1/17:王太子の名前を修正しました!申し訳ございませんでした···( ´ཫ`)
記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?
ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」
バシッ!!
わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。
目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの?
最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故?
ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない……
前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた……
前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。
転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?
【完結】断罪された悪役令嬢は、全てを捨てる事にした
miniko
恋愛
悪役令嬢に生まれ変わったのだと気付いた時、私は既に王太子の婚約者になった後だった。
婚約回避は手遅れだったが、思いの外、彼と円満な関係を築く。
(ゲーム通りになるとは限らないのかも)
・・・とか思ってたら、学園入学後に状況は激変。
周囲に疎まれる様になり、まんまと卒業パーティーで断罪&婚約破棄のテンプレ展開。
馬鹿馬鹿しい。こんな国、こっちから捨ててやろう。
冤罪を晴らして、意気揚々と単身で出国しようとするのだが、ある人物に捕まって・・・。
強制力と言う名の運命に翻弄される私は、幸せになれるのか!?
※感想欄はネタバレあり/なし の振り分けをしていません。本編より先にお読みになる場合はご注意ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる