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「アノ……。シアノ」
「はっ!!!!!!」

 憂いを帯びてなお、びゅーてぃふぉーな推しの声にはっと、目を覚まします。

 ここは、どこかしら。

 飛び起きて、辺りを見回すと、王城の一室でした。

「……シアノ、倒れたって聞いたけど、大丈夫?」

 心配そうに、イグニス殿下が、わたくしの顔を覗き込みます。
「だ、だだだだ、だいじょうぶ……デス」
「嘘だね。シアノは嘘をつく時、一瞬、右手が震えるから」

 えっ!!!!!
 それは知りませんでしたわ!

 思わず、自分の右手を凝視していると、イグニス殿下が、わたくしの手を握……って、イグニス殿下!?!?!?

「イグニス殿下!?!?」
「ねぇ、シアノ。そんなにショックだったの。ノントに幼馴染の彼女ができたことが」
「そ、れは」
 ええそれはもう。
 だって、くっついたカップルを引き離すのはさすがに、良心がとがめますし。

 でも、イグニス殿下の幸せのためなら……。

「……そう。じゃあ、シアノ。今も僕の幸せを願うことが、得意?」
「得意ですが……」
 得意でしたが、邪な気持ちをいだくようになったわたくしが、かつてほど得意かというと……。

「……そう。ねぇ、シアノ。僕じゃ、どうしてダメなの?」

「ダメなんてそんなはずありません! アリス嬢は、イグニス殿下の良さにまだ目覚めてないだけです!! まだまだここからーー」

「え?」

「へ?」

 どうして、イグニス殿下ったら、そんなに奇妙なものをみる顔をしてるんですの。
 もちろん、その顔も素敵ですが。

「今、なんて?」
「まだまだこここらです!! わたくしがーー」
「ごめん。そこじゃなくて……」
「イグニス殿下の良さにーー」
「そこより前」

「アリス嬢は、イグニス殿下」
「……アリス?」

 はっ!!!
 イグニス殿下は、アリスの名前も知らなかったんでしたっけ。

「ノント様の幼馴染の……」
「それは知ってる。そうじゃなくて、なんでアリス嬢?」
「だって、アリス嬢は、イグニス殿下の、運命の相手で……」

 途中声が小さくなってしまったのは、イグニス殿下の信じられないものをみる瞳に気づいたからです。

「あんなに言ったのに、まだ気づいてないの?」
「……へ?」
「僕は、君が好きだよ」
「わたくしも、イグニス殿下が大好きです」

 推しからファンサを貰えるのは、何にも変え難い喜びですわね!
「……はぁ、そっか。なるほど。今まで浮かれてたの、バカだったな」

「え? イグニス殿下?」

「いい、シアノ……、僕は、君が好きだよ。君を愛してる」
「わたくしも……」
「ちょっとまって。ちゃんと僕の目をみて、聞いて」

 で、でも。いくらファンサとはいえ、目を見てそんなことを言われたら。勘違いしてしまいます!!!!

「!? イグニス殿下」

 目を逸らしたわたくしの顔を両手で包んで、イグニス殿下はわたくしをまっすぐ見つめました。

「シアノ、君を愛してる」
「!!!!」

 息が苦しい。胸を抑えられてるわけじゃないのに。

 青い瞳にわたくしだけが映っていて。
 その瞳が、熱を帯びているように感じられて。

「……でも、でもでも」

 ここで、勘違いをしてはだめですわよ!
 ガチ恋しても……イグニス殿下は幸せにはなれませんもの。

「でも、なに?」
「わたくしは、絶対に、イグニス殿下を勝たせたくて……」
「その勝ちってなに?」

 わたくしは、簡単に恋愛の勝ち負けについて説明いたしました。
 
「ねぇ、シアノ。だったら、君が僕を勝たせてよ」
「で、でも……」

 悪役令嬢のわたくしは、そんなことができる資格がーー、

「言ったよね。僕の幸せを願うのが得意だって。僕を、幸せにできるのは、シアノ、君だけなんだよ」
「イグニス殿下……」

 でも、本当に?
 本当に、イグニス殿下は、わたくしに、その恋していて。

 わたくしが、イグニス殿下を幸せにできるの?

「わたくしも、イグニス殿下を、愛しています」

 ぽろり、と口からこぼれ落ちてしまいました。
 もう、これ以上自分の気持ちに嘘がつけませんでしたの。

「……うん。やっと、聞けた」
「イグニス、でん」

 ふわり、と柔らかいものが唇に触れました。
「!?、!? ここ、ここここんぜんにこのようなことは、この、ようなことは……」

 言いかけた言葉を飲み込みます。
 イグニス殿下は、それはもう嬉しそうで、わたくしも、嬉しくなってしまったから。

 なので、代わりに、もう一度、伝えることにしました。

「あなたを愛しています。心から」

 ーーその後、イグニス殿下の大きすぎる愛に包まれたり、続編のヒロインが現れたり、とかなんとかあったりしますけれど……確かなことは、イグニス殿下は、わたくしにとって最高のヒーローだということですわ!
 
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