10 / 15
妖の花嫁
9
しおりを挟む
「糧としての人が必要ない……」
「はい」
玲凛は頷くと続けた。
「妖の中には、人を喰らうというものもいるそうですがーー主はこれまでの妖の王の中でも最も力が強いお方です」
「そう……なのね」
じゃあ、でも……本当に?
本当に、あの言葉に嘘がないというのなら。
「では、玲凛は、『運命の花嫁』という存在を知っている?」
「……? いえ」
藍色の瞳は本当に知らないと語っていた。
「……そうなのね」
もし、本当に旦那様が私を愛する理由があるとすれば、それは、私が……特別な存在だからなのではないかと思った。私が生まれるずっと前から嫁ぐことが決まっていた花嫁。だからこそ、旦那様にとって特別なのではないかと。
……なんて、思い上がりがすぎたみたいだ。
たまたま箏蔵に産まれて、この黒い糸が絡まったさきが私だった。
それだけ、のことだろう。
何となくがっかりするようなほっとするような相反する気持ちでないまぜになる。
……私は、何をしたいのかしら。
食べられなくてほっとする、ならわかる。
これは自然な感情だわ。
死ぬかもしれないと思って嫁いだら、実は死ぬ必要が元よりなくて、安心するのは普通だもの。
でも、愛される理由がわからなくて、不安だなんて。
そんな理由を、玲凛に求めても仕方ない。
気になるなら旦那様に聞くしかないのだ。
「ところで花嫁様」
玲凛に呼ばれてはっとする。
「どうしたの?」
「こちらをお持ちください」
玲凛は、私の手の中に藍色の鈴を落とした。
「こちらを鳴らせばいつでも花嫁様の元へ駆けつけます」
「ありがとう、玲凛」
鈴を無くさないように、そっと、胸元にしまう。
「いえ。……本日はお疲れでしょうし、一度私は退室いたします。何かご用命がありましたら、鈴を」
ぺこりと礼をして、玲凛は去っていった。
「……」
玲凛も、旦那様も、この部屋からいなくなってしまった。
開け放たれた窓からは、相変わらず月明かりが差し込んでいる。
窓枠に手を置いて、月を眺める。
煌々と輝く月は、今まで見てきたものとそう変わりはないように見える。
でも、その月の周りの紫の雲が、体にまとわりつくような空気が、この世界が元の世界とは違うのだと示していた。
「お母様、お父様……春美お姉様」
私はどうやらまだ生きていて。
これからも、食べられる予定は今のところはないようです。だから、安心してくださいね。
家族には聞こえない言葉を、そっと呟く。
そのときだった。
月明かりの中、はらりと部屋の中に何か舞い落ちてきた。
「はい」
玲凛は頷くと続けた。
「妖の中には、人を喰らうというものもいるそうですがーー主はこれまでの妖の王の中でも最も力が強いお方です」
「そう……なのね」
じゃあ、でも……本当に?
本当に、あの言葉に嘘がないというのなら。
「では、玲凛は、『運命の花嫁』という存在を知っている?」
「……? いえ」
藍色の瞳は本当に知らないと語っていた。
「……そうなのね」
もし、本当に旦那様が私を愛する理由があるとすれば、それは、私が……特別な存在だからなのではないかと思った。私が生まれるずっと前から嫁ぐことが決まっていた花嫁。だからこそ、旦那様にとって特別なのではないかと。
……なんて、思い上がりがすぎたみたいだ。
たまたま箏蔵に産まれて、この黒い糸が絡まったさきが私だった。
それだけ、のことだろう。
何となくがっかりするようなほっとするような相反する気持ちでないまぜになる。
……私は、何をしたいのかしら。
食べられなくてほっとする、ならわかる。
これは自然な感情だわ。
死ぬかもしれないと思って嫁いだら、実は死ぬ必要が元よりなくて、安心するのは普通だもの。
でも、愛される理由がわからなくて、不安だなんて。
そんな理由を、玲凛に求めても仕方ない。
気になるなら旦那様に聞くしかないのだ。
「ところで花嫁様」
玲凛に呼ばれてはっとする。
「どうしたの?」
「こちらをお持ちください」
玲凛は、私の手の中に藍色の鈴を落とした。
「こちらを鳴らせばいつでも花嫁様の元へ駆けつけます」
「ありがとう、玲凛」
鈴を無くさないように、そっと、胸元にしまう。
「いえ。……本日はお疲れでしょうし、一度私は退室いたします。何かご用命がありましたら、鈴を」
ぺこりと礼をして、玲凛は去っていった。
「……」
玲凛も、旦那様も、この部屋からいなくなってしまった。
開け放たれた窓からは、相変わらず月明かりが差し込んでいる。
窓枠に手を置いて、月を眺める。
煌々と輝く月は、今まで見てきたものとそう変わりはないように見える。
でも、その月の周りの紫の雲が、体にまとわりつくような空気が、この世界が元の世界とは違うのだと示していた。
「お母様、お父様……春美お姉様」
私はどうやらまだ生きていて。
これからも、食べられる予定は今のところはないようです。だから、安心してくださいね。
家族には聞こえない言葉を、そっと呟く。
そのときだった。
月明かりの中、はらりと部屋の中に何か舞い落ちてきた。
31
あなたにおすすめの小説
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
転生したら4人のヤンデレ彼氏に溺愛される日々が待っていた。
aika
恋愛
主人公まゆは冴えないOL。
ある日ちょっとした事故で命を落とし転生したら・・・
4人のイケメン俳優たちと同棲するという神展開が待っていた。
それぞれタイプの違うイケメンたちに囲まれながら、
生活することになったまゆだが、彼らはまゆを溺愛するあまり
どんどんヤンデレ男になっていき・・・・
ヤンデレ、溺愛、執着、取り合い・・・♡
何でもありのドタバタ恋愛逆ハーレムコメディです。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
幼馴染の勇者に「魔王を倒して帰ってきたら何でもしてあげる」と言った結果
景華
恋愛
平和な村で毎日を過ごす村娘ステラ。
ある日ステラの長年の想い人である幼馴染であるリードが勇者として選ばれ、聖女、女剣士、女魔術師と共に魔王討伐に向かうことになる。
「俺……ステラと離れたくない」
そんなリードに、ステラは思わずこう告げる。
「そうだ‼ リードが帰ってきたら、私がリードのお願い、一つだけなんでも叶えてあげる‼」
そんなとっさにステラから飛び出た約束を胸に、リードは村を旅立つ。
それから半年、毎日リードの無事を祈り続けるステラのもとに、リードの史上最速での魔王城攻略の知らせが届く。
勇者一行はこれからたくさんの祝勝パーティに参加した後、故郷に凱旋するというが、それと同時に、パーティメンバーである聖女と女剣士、そして女魔術師の話も耳にすることになる。
戦いの昂りを鎮める役割も担うという三人は、戦いの後全員が重婚の認められた勇者の嫁になるということを知ったステラは思いを諦めようとするが、突然現れたリードは彼女に『ステラの身体《約束のお願い》』を迫って来て──?
誰がどう見ても両片思いな二人がお願いをきっかけに結ばれるまで──。
ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~
cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。
同棲はかれこれもう7年目。
お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。
合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。
焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。
何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。
美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。
私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな?
そしてわたしの30歳の誕生日。
「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」
「なに言ってるの?」
優しかったはずの隼人が豹変。
「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」
彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。
「絶対に逃がさないよ?」
女の子がほとんど産まれない国に転生しました。
さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。
100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳
そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。
当面は2日に1話更新予定!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる