今度こそあなたの幸せを願える私になりたい(リメイク)

夕立悠理

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エルターンとキンダー

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ベッドに押し倒されたのだと気づくのに数秒かかった。
「なん、で……」
そもそも何故、私の部屋にいるのか。それに何故押し倒されたのか。腕を片手で拘束されているため、抵抗もできない。
 少年はこんなに力が強いのか。

 少年の大きな手がゆっくりと私の頬を撫でた。

 「悪いことは言わない。今すぐ、転科しろ」
髪と同じ銀色の瞳が強い意志をもって、私を見る。

 そして、私の耳元に顔を寄せた。低い声で囁く。

 「俺が入ってこられるくらい、この寮の警備はザルだ。対して植物科や救護科の寮は、警備も万全だし、こんなにぼろくないし、寮母が猫だとかおかしなことはない。人間だ。それに、魔獣に傷つけられる心配もない」

 この人の目的は、私を転科させることのようだった。

 「できません」
その場しのぎで、転科すると言えばいい。でも、私は決めたのだ。魔獣科で、血よりも濃い絆を手にいれると。

 「理由は?」
「欲しいものがあるから。何をしてでも手にいれたいものが」
思った以上にはっきりとした声が出た。でも、これが真実だ。

 じっと銀の瞳とみつめあう。時間にして、何秒か何分か。

 すると、少年は、ふ、と端正な顔で薄く微笑んだ。腕の拘束が解かれる。

 「言うことを聞かなければ、俺に乱暴されると思わなかったのか?」
「それは、思いませんでした」
「考えもつかないか。さすがは貴族。箱入りだな」

 違う。この人のまとう空気が、不思議と私を害するものではなかったからだ。だから、驚きはしたものの、恐怖はなかった。どちらかというと、私を案じてくれている空気すらあった。

 素直にそういうと、少年は笑いだした。
「なるほど。俺もまだまだ修行が足りない」

 そういって、身体を起こし、完全に私の上からのいてくれた。

 「怖がらせて悪かった。俺はグレイ。お前の〈エルターン〉だ」
〈エルターン〉。それは、魔獣を実際に狩るときにペアになったり、学生生活の面倒を見てくれる上級生を指す言葉だった。

 確か、明日顔合わせがあるはずだったけれど……。

 「俺の〈キンダー〉は聞けば、女子生徒と言うじゃないか。軽い気持ちなら、転科を勧めた方が身のためだと思って、脅してみたんだ。悪かったな」

 〈キンダー〉は反対に上級生に世話をされる下級生を指す。

 「いいえ、これからよろしくお願いします。グレイさん。私の名前は──」

 「アリサ、だろ。それもルーカス殿下の婚約者候補の」
ごくりと、息を飲む。やはり、世間では私の認識はそうなのか。
「いや、マリウス殿下だったか……?」

 普通殿下の婚約者候補だと思っていたら、もっと穏便に魔獣科は、危険だから女性には向いていないとか、そんな言葉で説得することは考えなかったんだろうか。考えなかったんだろうな。なんだか、そんな顔をしている。

 「まぁ、いいか。お前の決意はよくわかった。また、明日な、俺の〈キンダー〉」
そういって、私の頭をぐしゃりと撫でると、窓枠に足をかける。

 「え、ここ、三階──」
私が止めるまもなく、グレイさんは窓から飛び降りた。

 慌てて、下を見ると、無事に着地したグレイさんがひらひらと手を振っている。

 それに、答えるように手を振り返しながら、もしかして、私は色々と早まったのかもしれない、と思った。
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