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幸せな記憶
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座学が連続であった数日後。遂に、また魔力を魔法へと変換する実践型授業がやって来た。
「普通の魔法は精神のコントロールが不可欠です。特に、怒り、悲しみは要りません。──黒魔法は別ですが、あなた方には、関係ない話でしょう。一番、幸せだと感じた記憶を忠実に思い出して」
私が一番幸せだと感じた記憶。それは、何だろう。
以前は、ルーカス殿下の澄んだ青の瞳に映ったときだと思っていた。けれど、魔法は形にならなかった。
じゃあ、ルーカス殿下に名前を呼ばれたとき?
頭の中で、イメージしようとするけれど、ルーカス殿下のことを考えてるとどうしても、最後に会った瞬間のことが思い出される。
あのときの私の感情は、悲しみ、だ。
案の定、魔法はうまくいかなかった。
──では、ルーカス殿下以外は?
お母様とお父様に抱き締められたとき。
──だめだ、吐き気がする。
じゃあ、ユストは?
ユストが生まれた日。あれは、私の中でも幸福な日だった。私に守るべきものができた日でもあるから。
けれど、私は死んでしまった。
ユストを守ることなく。
だめだ。邪念が入って、忠実にイメージできない。
そもそも、私が忠実にイメージできる、記憶は何だろう。
一番強い、記憶。それは。
処刑人が私の罪状を高らかに読み上げる。
「王太子ルーカス殿下を害そうと否、殺そうとしたことの罪は重く、情状酌量の余地はない」
観衆から、殺せ!と声がした。その声と同時に石も投げつけられる。
一人が声をあげたのを皮切りに、殺せ!殺せ!とコールが続く。
「──よって、死罪とする」
途端に観衆がわっと、沸いた。中には口笛を吹く者もいる。
「最後になにか言い残すことは、あるか」
処刑人が私に尋ねる。けれど、喉を焼かれた私に、言えることはない。くびをよこにふると、そうか、ならばよし。とギロチンの刃が落とされる。
これだけなら、悲しみ、だ。
けれど、その一番最後。今ならはっきりわかる。
「──アリサ、」
誰かが泣きそうな声で私を呼んだのだ。
誰かはわからない。けれど、国中から恨みの感情を向けられるなかで、最後に私に向けられた感情は、私を惜しむ感情だった。
その瞬間。誰か、誰か私を想ってくれるひとが一人はいたのだと、死の間際でありながら、私は確かに満たされていた。
「記憶を思い出したら、何か身体に異変を感じませんか?」
感じた。身体にピリッとした感覚が生じる。まるで、痺れたみたいだ。
「その感覚を手に集めて」
痺れが、手に集中するイメージをする。
──すると、
バチバチバチッ
「アリサさん、上手くいったようですね」
先生に肩を叩かれ、目を開けると、私の右手から、雷のような妙な光線らしきものが発せられていた。
「一度、魔法を使ってしまえば、記憶はスイッチに過ぎません。すぐに、自由自在に操れるようになりますよ」
「そう、何ですか?」
戸惑いつつも、その光線に、消えろ、と念じて右手を握ると、消すことができた。
「ええ。──今日はここまで。今日までに、魔法を習得できたのは、殿下とアリサさんだけのようですね。今後とも、二人を見習って──」
先生が、何か続けていたが、私の耳には入らなかった。
これで、魔獣と戦う第一歩が踏み出せた。
──私を満たしてくれたあの声の主は、誰、だったんだろう。
「普通の魔法は精神のコントロールが不可欠です。特に、怒り、悲しみは要りません。──黒魔法は別ですが、あなた方には、関係ない話でしょう。一番、幸せだと感じた記憶を忠実に思い出して」
私が一番幸せだと感じた記憶。それは、何だろう。
以前は、ルーカス殿下の澄んだ青の瞳に映ったときだと思っていた。けれど、魔法は形にならなかった。
じゃあ、ルーカス殿下に名前を呼ばれたとき?
頭の中で、イメージしようとするけれど、ルーカス殿下のことを考えてるとどうしても、最後に会った瞬間のことが思い出される。
あのときの私の感情は、悲しみ、だ。
案の定、魔法はうまくいかなかった。
──では、ルーカス殿下以外は?
お母様とお父様に抱き締められたとき。
──だめだ、吐き気がする。
じゃあ、ユストは?
ユストが生まれた日。あれは、私の中でも幸福な日だった。私に守るべきものができた日でもあるから。
けれど、私は死んでしまった。
ユストを守ることなく。
だめだ。邪念が入って、忠実にイメージできない。
そもそも、私が忠実にイメージできる、記憶は何だろう。
一番強い、記憶。それは。
処刑人が私の罪状を高らかに読み上げる。
「王太子ルーカス殿下を害そうと否、殺そうとしたことの罪は重く、情状酌量の余地はない」
観衆から、殺せ!と声がした。その声と同時に石も投げつけられる。
一人が声をあげたのを皮切りに、殺せ!殺せ!とコールが続く。
「──よって、死罪とする」
途端に観衆がわっと、沸いた。中には口笛を吹く者もいる。
「最後になにか言い残すことは、あるか」
処刑人が私に尋ねる。けれど、喉を焼かれた私に、言えることはない。くびをよこにふると、そうか、ならばよし。とギロチンの刃が落とされる。
これだけなら、悲しみ、だ。
けれど、その一番最後。今ならはっきりわかる。
「──アリサ、」
誰かが泣きそうな声で私を呼んだのだ。
誰かはわからない。けれど、国中から恨みの感情を向けられるなかで、最後に私に向けられた感情は、私を惜しむ感情だった。
その瞬間。誰か、誰か私を想ってくれるひとが一人はいたのだと、死の間際でありながら、私は確かに満たされていた。
「記憶を思い出したら、何か身体に異変を感じませんか?」
感じた。身体にピリッとした感覚が生じる。まるで、痺れたみたいだ。
「その感覚を手に集めて」
痺れが、手に集中するイメージをする。
──すると、
バチバチバチッ
「アリサさん、上手くいったようですね」
先生に肩を叩かれ、目を開けると、私の右手から、雷のような妙な光線らしきものが発せられていた。
「一度、魔法を使ってしまえば、記憶はスイッチに過ぎません。すぐに、自由自在に操れるようになりますよ」
「そう、何ですか?」
戸惑いつつも、その光線に、消えろ、と念じて右手を握ると、消すことができた。
「ええ。──今日はここまで。今日までに、魔法を習得できたのは、殿下とアリサさんだけのようですね。今後とも、二人を見習って──」
先生が、何か続けていたが、私の耳には入らなかった。
これで、魔獣と戦う第一歩が踏み出せた。
──私を満たしてくれたあの声の主は、誰、だったんだろう。
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