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魔力の気配

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「わ、忘れてください!」
 はやく、はやく脱出しないと。
 でも、力が強くて逃げられない。

「ごめんね、それは無理だ」

 その声は、全く悪いと思っていない声だった。
「ねぇ、ソフィア嬢」
「……はい。あの、私、用事を思い出したので、かえっーー」

 ようやく少し力が緩んだ隙を狙って、腕の中から脱出を図るも、失敗した。

「まさか授業にでるなんて、今更真面目なこと言わないよね?」

 いやいやいや、学生の本分は勉強だし、そうでーす! とは、言えない雰囲気だった。

「ええと、その……」
「授業より、大切な話があるんだ。僕は君が好きで、君も僕が好き。……つまり、僕たちは両思いってわけだ」

 そういうことになる……のかな。

 でも、私はたとえ今のリッカルド様が私を好きだろうと、そうではなかろうと、魔獣の心臓集めをやめるつもりはない。

 私は、悪魔と契約した。
 その事実は、変わらない。

 だから、契約通り、悪魔を神にする。

 私が犯した罪は、そうしても消えないけれど。それでも、私がリッカルド様と幸せになって良い理由にはならないから。

「ソフィア嬢」
「……はい」

「僕と今度こそ正式に、婚約して欲しいんだ」
「っ、それは……」

 無理だ。一時的な婚約者だとしても、リッカルド様の本当の婚約者になれるのは、もちろん嬉しい。

 でも、婚約するということは、婚約の期間中、リッカルド様の時間を奪ってしまうことになる。

 私は悪魔の贄になるのだから結婚できないのに、婚約なんてできるはずもない。

「……ソフィア嬢。以前も、結婚できないと言っていたね。もしかして、君が躊躇うのはいつもこの森にいるのと関係がある?」
「!」

 ど、どどどどどどうしよう。
 その通りだ。その通りすぎる。なんて答えよう。

 ぐるぐると頭の中で考えを巡らせていると、リッカルド様はため息をついた。
「ごめん、……また先走りすぎた。君に好きだって言われたのが嬉しすぎて」

 そういって、ずっと抱きしめられていた腕は解かれ、リッカルド様は私を見つめた。

「ねぇ、ソフィア嬢。今は婚約の件は、諦めるから。一つ聞いても良いかな?」
「……はい。答えられることなら」
「君は、僕と幼い頃……出会ったことがあったりする?」

 ……リッカルド様の幼い頃?
 そんなの、答えは決まっている。
「いいえ」
 私が首を振ると、リッカルド様は、そっか、と言って微笑んだ。

「なら、いいんだ。またね、ソフィア嬢」
「……はい」

◇◇◇

「おかしいな、だったらどういうことなんだ……?」

 学園に戻っていくソフィア嬢を見送った後、僕は首を傾げた。


 はじめにソフィア嬢に興味を持ったきっかけは、彼女から僕の魔力の気配がしたからだ。

 てっきり、幼い頃に出会っていて、すぐに気づけるように僕が証でもつけといたのかと思ったけれど。

 ……まさか、僕が二人いる?

「……なーんて、そんなわけないか」

 僕と似た魔力を持つ他人だろう。
 それが誰であろうと関係ない。

 僕はもう、彼女を手放すつもりはないのだから。
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