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二章
せいぜい
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あの後……リッカルド様とうっかり両思いになってしまった後、自室に帰り、息を吐く。
やって、しまった。
リッカルド様と同じ気持ちだなんて! と、喜ぶ自分が全くいないわけではなかった。
でも。
今の私がいるのは、そして、リッカルド様が生きているのは、全て、悪魔が時間を戻してくれたおかげだった。
だから、私はその契約に従い、悪魔を神にして、私は悪魔の贄になる。
それは確定事項なのだ。
……なのに。
リッカルド様に想いを伝えてしまった。
そして、リッカルド様の口からも両思いだと聞いた。
前では決して成し得なかったことだ。
快挙と言ってもいいのかもしれない。
……でも。
「……悪魔」
その名を呼ぶと、悪魔はゆっくりと姿を現した。
『……どうした?』
悪魔を見つめる。
瞳は相変わらず、真紅で、彼が悪魔である証明だった。
「どうして、邪魔、しなかったの?」
『邪魔?』
ぱちぱちと瞳を瞬かせる悪魔に続ける。
「私ーーリッカルド様に想いを伝えてしまったのよ?」
まぁ、悪魔が実際に出てくれば事態は大きくなることは確実だけれど。姿を見せずとも、例えばいいタイミングで、雷を降らせて、私の話を遮るとかなんとかいくらでもやりようはあったはずだ。
『……それが?』
悪魔は感情の読めない瞳で私を見つめ返した。
「ねぇ、悪魔。……あなた、本当に『悪魔』なの?」
悪魔にしては、私が、魔獣のせいで怪我をすると心配そうだ。それに、魔獣の心臓だって、自分から持ちかけた契約のくせに、私が、集められると信じてなかった。
『……言っただろう。我はかつて神だったもの。そして、今は悪魔と呼ばれている。……それ以上でも以下でもない』
「……じゃあ、神だった頃のあなたは、どんなことをしてたの?」
『この国の痩せた大地を……豊かにした』
「悪魔の加護で?」
『やけに詳しく聞きたがるな』
悪魔は、はっ、と鼻で笑った。
でも、それぐらいで怯んだりしない。
「当然よ。女神の加護がなくなったら、あなたの力が必要だもの」
『……なるほどな。しかし、その心配ももうなくなったんじゃないか?』
「どういうこと?」
『お前たちが、女神の使いになれば、全てが解決するだろう』
【女神の使い】。
この国で、誰よりも恋し合うそう呼ばれる二人がいるからこそ、恋の女神は我が国に加護を与えてくれる。
だから、リッカルド様は、メリア様じゃなくて、私と結婚せざるを得なかった。
「そしたら、あなたは? 神にはならないの?」
『元よりお前に手を貸したのは気まぐれだ。適当に……そうだな、我の国にでも帰るさ』
「神様になりたかったんでしょ。そんな簡単に諦め……!」
諦めるなんて、そう言いたかった。口に出したかった言葉は、声にならなかった。
悪魔は、とても——美しい笑みをしていた。
「……悪魔?」
『言っただろう。全ては気まぐれだ。……我は、誰かの手に落ちた贄はいらない。せいぜい、幸せになることだな』
やって、しまった。
リッカルド様と同じ気持ちだなんて! と、喜ぶ自分が全くいないわけではなかった。
でも。
今の私がいるのは、そして、リッカルド様が生きているのは、全て、悪魔が時間を戻してくれたおかげだった。
だから、私はその契約に従い、悪魔を神にして、私は悪魔の贄になる。
それは確定事項なのだ。
……なのに。
リッカルド様に想いを伝えてしまった。
そして、リッカルド様の口からも両思いだと聞いた。
前では決して成し得なかったことだ。
快挙と言ってもいいのかもしれない。
……でも。
「……悪魔」
その名を呼ぶと、悪魔はゆっくりと姿を現した。
『……どうした?』
悪魔を見つめる。
瞳は相変わらず、真紅で、彼が悪魔である証明だった。
「どうして、邪魔、しなかったの?」
『邪魔?』
ぱちぱちと瞳を瞬かせる悪魔に続ける。
「私ーーリッカルド様に想いを伝えてしまったのよ?」
まぁ、悪魔が実際に出てくれば事態は大きくなることは確実だけれど。姿を見せずとも、例えばいいタイミングで、雷を降らせて、私の話を遮るとかなんとかいくらでもやりようはあったはずだ。
『……それが?』
悪魔は感情の読めない瞳で私を見つめ返した。
「ねぇ、悪魔。……あなた、本当に『悪魔』なの?」
悪魔にしては、私が、魔獣のせいで怪我をすると心配そうだ。それに、魔獣の心臓だって、自分から持ちかけた契約のくせに、私が、集められると信じてなかった。
『……言っただろう。我はかつて神だったもの。そして、今は悪魔と呼ばれている。……それ以上でも以下でもない』
「……じゃあ、神だった頃のあなたは、どんなことをしてたの?」
『この国の痩せた大地を……豊かにした』
「悪魔の加護で?」
『やけに詳しく聞きたがるな』
悪魔は、はっ、と鼻で笑った。
でも、それぐらいで怯んだりしない。
「当然よ。女神の加護がなくなったら、あなたの力が必要だもの」
『……なるほどな。しかし、その心配ももうなくなったんじゃないか?』
「どういうこと?」
『お前たちが、女神の使いになれば、全てが解決するだろう』
【女神の使い】。
この国で、誰よりも恋し合うそう呼ばれる二人がいるからこそ、恋の女神は我が国に加護を与えてくれる。
だから、リッカルド様は、メリア様じゃなくて、私と結婚せざるを得なかった。
「そしたら、あなたは? 神にはならないの?」
『元よりお前に手を貸したのは気まぐれだ。適当に……そうだな、我の国にでも帰るさ』
「神様になりたかったんでしょ。そんな簡単に諦め……!」
諦めるなんて、そう言いたかった。口に出したかった言葉は、声にならなかった。
悪魔は、とても——美しい笑みをしていた。
「……悪魔?」
『言っただろう。全ては気まぐれだ。……我は、誰かの手に落ちた贄はいらない。せいぜい、幸せになることだな』
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