悪女なのでヒロインのふりをして、夫と不倫します!!

夕立悠理

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10 誤魔化すように

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 ……訳アリ。
 姿を偽っているなんて、ユーリンの言う通り、訳アリ以外の何物でもない。
「……そうね」
 頷くと、ユーリンはだよねぇ、と笑った。

「……僕でよければ、話を聞くけど? なんて、見ず知らずの料理屋に話す話でもないかな」
 ユーリンは、緑の瞳を細めて私を見つめている。

 神様の悪戯で、前世を思い出した。そして、最愛の夫は物語のヒーローで私は悪女。
 このままでは、ヒロインに夫を取られる。
 それが嫌で、ヒロインのフリをして夫と不倫をしようと考えている。

(……こんなこと、誰にも信じてもらえるはずがないわ)

「ーー別人に、なりたかったの」
「へえ」
 ユーリンが片眉を上げる。
 完全なる真実ではない。だけど、嘘でもない。

「私以外の、素敵なひとになりたくて、姿を変えたの」
(……私はヒロインにみたいになりたいの)
 ジークハルト殿下に愛される、天真爛漫で、無垢なエステルのような女性に。

「なるほどねぇ。……変身願望は珍しくないものね。ところで」

 ユーリンは目を細めると、首を傾げた。

「その変身願望と、デートの下見って、関係あったりする?」
「!?」

(……どうして!?)

 思わず、驚いて、フォークを落とした。
 ユーリンはそのフォークを拾うと、驚かせちゃったねと苦笑する。

「いやぁ、あなたみたいに綺麗な人が、一人で食事のお店を探しているなんて、デートかなと。どうやら、当たりだったみたいだね」

(……カマをかけられたのね)

「……鋭いのね」
「ごめん、お客さんの詮索をする趣味はないはずなんだけど。あなたのことが気になって」

 まるで口説き文句のようだけど、色香は全く感じなかった。
 本当に純粋に気になったのだと伝わる。

「それなら、どーう? 僕のお店、デートに使えそうかな?」
「率直に言って、とても素晴らしいお店よ。今食べている魚のソテーも美味しいわ」

 ユーリンには悪いけれど……お客さんが少ないのもいい。
(ゆっくり話せるものね)


「よかった。じゃあ、次はぜひ、その彼を連れてきてよ」

 ユーリンがぱちんと片目を閉じて見せる。

「ええ、そうするわ」

 大きく頷く。
 きっと、ジークバルド殿下も気にいるはずだ。

「!」

 ジークハルト殿下のことを考えて、頬を緩ませていると、ユーリンは瞬きをした。

「どうしたの?」
「……あ、あぁ、いや。なんでもなーい。それより、お姉さん」

 ユーリンは首を傾げて、緑の瞳で私を見つめた。

「お姉さんは、名前、なんて言うの?」
「ア……」

 思わずいつものアイヴィアナ、と名乗ろうとして、止める。
 この姿のときの私の名前はーー。

「エステル、よ」
「うん、わかったよ。エステルちゃん。いつか本名を教えてもらえるように頑張るね」
 ユーリンはそう言いながら、立ち上がった。

(……また、偽名だってバレてる)

「さてと、それじゃあ、僕は明日の仕込みでもしてくるから、ごゆっくりー」

 ひらひらと手を振って、ユーリンが厨房に消えていく。

「……」
 明日のジークハルト殿下とのデートについて、考えながら、料理を口に運ぶ。

(私は明日、ちゃんとエステルになれるかしら)

 決してアイヴィアナの自我をださず、純粋無垢なヒロインのエステルに。

(いいえ、なれるなれないじゃない。……なるのよ)

 なれなければ、ジークハルト殿下は他に行ってしまうだろう。
 本物のエステルかもしれないし、また別の女性かもしれない。
 だって、ジークハルト殿下は、私ーーアイヴィアナのことが嫌いなのだから。

(……胸が、痛い)

 じくり、と痛み出した胸を誤魔化すように、料理を食べる速度を上げた。
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