あなたの運命になりたかった

夕立悠理

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絶対じゃない、幸せ

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朝、目を覚ますと、コーデリアはまだ眠っていた。朝日に照らされて、その左の薬指の指輪は、鈍く光っている。それは、僕たちが運命でないと知りながら、日々を重ねてきた証明だった。

 「……コーデリア」
コーデリア。僕の愛しいひと。名前を呼びながら、頬を撫でると、規則正しい寝息をたてていたコーデリアは、微睡みから目を覚ました。

 「……ん、ジャレッド?」
僕を探して、さ迷わせた手をとり、口付けると、コーデリアはくすくすと笑った。

 「くすぐったいわ」
その笑みに、胸がいっぱいになる。ああ、幸せだ。僕も、笑おうとして、なぜだか頬がひきつった。

 「泣いてるの?」
そんな僕を心配して、コーデリアも体を起こして僕の頬を両手で包む。
「ちが、ないてな、」
君がいてくれて、こんなにも幸せなのに、泣く理由がない。けれど、気づけば、涙は僕の目から零れ落ちていた。慌てて、目元を拭えば、滲む視界にコーデリアが優しく笑っていた。

「……僕は、君から『幸せ』を奪おうとしている」
番と結婚したら、絶対に幸せになれる。そんな、おとぎ話みたいな、本当の話。僕にも、コーデリアにも番がいた。運命に結ばれた、愛すべき相手。

 同僚に言われた言葉がぐるぐると回る。

 ──ジャレッドにとっての『運命』が、彼女ではなかったように、彼女にも『運命』の相手がいる。それなのに、自分の欲望で彼女を縛り付けるつもりか? 本当に、彼女を大切に思うなら、別れた方がいい。

 この暖かくて、優しくて、何よりも愛しい手を離すべきだとわかっている。わかっているのに、僕は。

「ねぇ、ジャレッド。朝目覚めたら、貴方がいて。私、幸せなの」
コーデリアが、微笑む。今度こそ、僕も、笑えた。
「僕も、幸せだ」
 そうだ。絶対の幸せなんて、いらない。幸せなら、もう、ここにあるのだから。

 「──とても、酷いことを言ってもいい?」
「貴方が言うことで、残酷なことなんて今まで、一度もなかったわ」

 コーデリアは、そう言って僕を抱き締めた。その熱を抱き締め返して、僕はとても酷いことをささやく。

 「この街を、出よう」
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