大海賊時代より……美少女船長の生・配・信! ─West India Company─

海凪ととかる

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商会立ち上げ編

第10話 サミエラは【バンシー】船内を視察する

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 甲板には砲撃で大砲が後座した際の車輪による傷がしっかり残っている。この迎撃砲がただのお飾りではなく、これまでに幾度となく船を敵から守るために火を噴いてきたことは明らかだ。

「頼もしいわね。この船は昔からこれ以外の大砲は積んでないの?」

「いや、こいつは元々は護衛船として運用してたからよ、その頃は5ポンドセーカー砲を14門積んでたぜ。だが新しくブリッグを護衛船にしてからは重い大砲を下ろして足の速さを活かした高速輸送専用に使ってたんだ。それからはずっとこのスタイルだな」

「これ以外にも大砲は積んだ方がいいかしら?」

「いや、こいつをあくまで交易船として運用するなら必要ねぇな。大砲は重いし1門あたり最低2人、できれば3人は人手がいる。大砲をたくさん積むと交易品を積む余裕は無くなるし船足も遅くなる。かといって中途半端な数の大砲はあっても重武装の敵船相手じゃ不利だ。そもそもこいつは足も速いし風上への切り上がり能力も高いから大抵の敵船からは余裕で逃げられる」

「あ、そうなのね。じゃあしばらくはこのままでいく方が良さそうね。何か他に改良できるところはあるかしら?」

「そうさな。まずトップマストを継ぎ足して上横帆トップセイルの追加と、船首円材バウスプリットを増設して、トップマストとバウスプリットの間に支索を張ってそこに船首三角帆ジブセイルを追加すればさらに軽快に走れるようになるな」

「なるほど。あくまでも速さにこだわるのね」

「ああ。今の状態なら乗組員は俺たち含めて8人必要だが、上横帆トップセイル船首三角帆ジブセイルを追加してもあと水夫が2人もいれば問題なく運用できる。だがそれだけでだいたい3ノットは船足が上がるはずだ。ただでさえ足の速いこいつに3ノットの上積みはでけぇぞ。そしてなによりもこの改装では積み荷の積載量はほとんど変わらねぇ。
 ただでさえ積載量の少ねぇ小型船に重たい大砲を積んでさらに積載量が減らすのはそれだけ儲けの機会を減らすってことだ。だからこの場合は積載量はそのままにとことんまで足を速くして、海賊が出たら逃げの一手に徹するのが正解だ」

「三十六計逃げるに如かずね。あは。もうこの時点でおじ様を番頭として雇った甲斐があったわ。アタシではここまで大胆な武装放棄はできなかったと思うから」

「そうかい。まあ、将来的に船が増えて船団を構成できるようになったら重武装の護衛船も必要になるだろうが、今は少ない人数で運用出来て積み荷を目一杯運べる逃げ足特化が一番だろうよ」

「そうね。アタシもそう思うわ。じゃあ次は船内も見ようかしら」

「船内への出入り口は船首側と船尾側に一つずつあるぜ。明かり取り兼転落防止のために木の格子戸が填められているが、今は雨や波で中が濡れないように防水布をかけてあるんだ」

 ロッコがそう言いながら船尾側の出入り口の上に被せてあった防水布を剥がせば、甲板の水が流れ込まないように周囲より30㌢ほど高くなっている1㍍四方のますに似た出入り口が露になる。
 格子状の採光窓を持ち上げれば下に降りる階段が見える。

「嬢ちゃんはここから中に入んな。中がくれぇから俺は船首側の入り口も開けてそっちから入るからよ」

 そう言い残してロッコが船首側に歩いて行ったのでサミエラは言われた通りに階段を降りて船内に入った。
 船内に入ってすぐの場所は小型の炉と調理器具があり、調理場になっている。出入り口に近い方が換気の都合が良いからだろう。
 そこから船尾側は壁で区切られた高級船員用の個室になっているが、ドアが閉められているので中は分からない。
 調理場よりも船首側は仕切りも無く広々としているようだが、暗くてよく分からない。……と、その時、船首側の採光窓の覆いが外されて外の光が差し込み、薄暗くはあるが全体の様子が分かるようになった。
 まず目に入るのは天井から床下まで貫いているマストの柱だ。
 調理場から船首側の採光窓の下にある階段までは、舷側の壁際に備え付けのロッカーのような棚があり、天井からはハンモックを吊るための金具なんかも下がっているが、それ以外は中心に立つマストの柱以外は何もないがらんどうの空間になっている。
 船首側の階段から降りてきたロッコが空きスペースを歩いてきてサミエラに合流する。

「ここが積み荷の倉庫、兼水夫たちの居住区だ。今は何もねぇが、積み荷が多けりゃ居住スペースが狭くなるから水夫はあまり乗せられなくなるし、水夫が多けりゃ積み荷はあまり積めなくなる。とりあえず、水夫が10人ぐらいまでなら50バレルは積めるな」

「乗組員の食料や飲み物もここに置くの?」

「ははっ! こんな所に酒樽なんか置いてたらどいつもこいつも酔っぱらって使い物にならなくなっちまうぜ。酒や食料や武器は水夫共が勝手に手を出せねぇ別のところに保管してる。こっちだ」

 ロッコが調理場の後ろの壁で区切られた区画の扉を開ける。そこは船尾の船長室まで続く廊下になっていて、廊下の左右に扉のある小部屋が並んでいる。

「この廊下の右側の一番手前の部屋が乗組員の食料と酒を保管する食料庫で、その隣が主計マネジャー航海士マスターの部屋だ。反対側、廊下の左側の一番手前の部屋が武器弾薬庫で、その隣が砲手長ガナー甲板長ボースンの部屋だ。廊下の突き当たりが船長キャプテンの部屋だな」

「なるほど。つまり船の運用には5人の幹部が必要ってことになるのかしら?」

「いや、そうとも限らねぇ。特に乗組員の数が少なけりゃ兼任が当たり前だからよ。もし水夫を10人ぐらい雇うなら、そのうちの1人を水夫長に任命して甲板長の仕事はさせるが幹部扱いまではしなくていい。せいぜい他の水夫より高い給料を出すだけで十分だな。あとは嬢ちゃんが船長と主計を兼任して、俺が航海士と砲手長を兼任すりゃ問題ねぇさ」

「あ、それはそうよね。たった1門の迎撃砲のために砲手長は要らないわよね」

「そういうこった。幹部への登用は慎重にな。十分な能力と信頼性、そして嬢ちゃんを女だからって嘗めねぇことが絶対条件だ」

「心しておくわ」

 サミエラは廊下に面した扉を順番に開いていった。
 食料庫と武器弾薬庫の構造はまったく同じで、外窓はなく、隣の部屋との境の壁に分厚いガラスが嵌め込まれている。
 空っぽの食料庫に入ったサミエラは隣の主計と航海士の部屋との境の壁に埋め込まれているガラスについてロッコに訊ねる。

「この窓はなんなの?」

「採光窓だ。アルコールのある食料庫と火薬のある武器弾薬庫は引火の可能性が高ぇから火気厳禁だからよ、このガラスの向こう側、隣の部屋でランプを灯して、その明かりで作業をするんだ」

「なるほど。納得だわ」

 食料庫から出たサミエラは次に武器弾薬庫の扉を開く。ここも空だと思っていたら、火薬の小樽が2つと球形砲弾とブドウ弾の入った木箱が1つずつあった。

「あら、火薬と砲弾は積んであるのね」

 木箱からアヒルの卵サイズの小振りな球形砲弾を取り出して片手でもてあそぶサミエラ。

「そいつぁ船尾迎撃砲の2ポンド砲弾と火薬だな。火薬の粒がでけぇからマスケット銃やピストルには使えねぇからよ。銃用の火薬は別に買わにゃいけねぇぜ」

「あ、そうなのね。これだけの火薬でどれぐらい使えるのかしら?」

「樽の蓋を開けてみな。火薬は砲撃1発分ずつ小袋に分けてあるからそれでだいたい分かるだろうよ」

「……ふむ。片方は半分ぐらいね。……だいたい10袋ぐらいかしら。もう1つの方は目一杯入ってるから20袋としてだいたい30発分ぐらいと思っておけば良さそうね」

「まあそんなとこだな。出港時には砲1門につき最低でも火薬樽1つと弾20発はあった方がいい。あとはマスケット銃やピストルや斬り込み刀カトラス歩兵槍パイクなんかの武器もある程度は積んでおいた方がいいぞ」

「大砲と違ってそう重くて嵩張るものでもないから近接戦闘用の武器は十分に揃えておく方がよさそうね」

「ああ。敵が接舷斬り込みボーディングを仕掛けてこようとした時に甲板から歩兵槍がずらっと突き出されていたらそれだけで怯ませられるからな」

「なるほど。そのあたりもちゃんと考えておくわ」





【作者コメント】

1ポンド450gなので、鋳鉄製の2ポンド球形砲弾のサイズは大きめの卵ぐらいです。艦砲としては豆鉄砲ですね。ちなみに1ポンド=1斤なので、2ポンド砲弾の重さは2斤食パンぐらいです。ただし、最近のパン屋は斤が重さの単位だと知らずに1斤型で焼けば1斤だと思ってるところも多いので一概には言えませんが……。

男子砲丸投げのオリンピック規格は7.26kg。すなわち16ポンド砲弾相当です。

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