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商会立ち上げ編
第11話 ロッコはサミエラの野望を知る
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武器弾薬庫を出て次に隣の砲手長と甲板長の部屋に入る。この部屋は外の光を入れるための小窓があるので行動に不自由しない程度には明るい。
部屋の主がいないので生活感は無いが、備え付けの2段ベッドと壁に折り畳んで収納している机が2つと私物を入れるロッカーがあり、隣の弾薬庫内を照らすランプが弾薬庫との仕切り壁のガラス窓の前に設置されている。
「このランプで弾薬庫の中も照らすのね」
「そういうこった。廊下を挟んだ向かいの部屋も同じ構造だな」
「ならそちらは見なくていいわね」
部屋を出て、最後に廊下の突き当たりにある船長室に入る。
船の船尾に面しているその部屋は、廊下よりも一段高くなっており、船尾側はガラス窓が嵌め込まれている。ガラスの透明度が低いのであくまで採光窓でしかないが他の部屋に比べれば段違いに明るい。
執務用の机や鍵のかかる戸棚が据え付けられており、箱形のベッドを天井からロープで吊るした吊り寝台が船の小さな揺れに合わせてゆらゆらと揺れている。
「航海に出る時はここが嬢ちゃんの部屋だな。俺は弾薬庫の隣の部屋を使わせてもらうぜ」
「おじ様に全体を取りまとめてもらうのにアタシが船長室でいいの?」
「確かに最初は俺が全体を仕切るけどよ、それでも俺はあくまで番頭だ。嬢ちゃんは雇い主で船主なんだから船長室を使うのは当然だ。確かに最初はお飾りの船長になるだろうがよ、いずれは名実ともにこの船を、そして商会を実力で引っ張っていってもらわにゃいかんからな」
「ご期待に沿えるように頑張るわ」
「その意気だ。船の中で見るべき所はこれぐらいだろう。ここより下は船のバランスを取るための重しが詰まってるだけだからよ」
「そうなのね。でも見に来てよかったわ。船の状態と特性が分かったし、商会としての方向性と課題も見えてきたわ」
「そうか。とりあえずどうするつもりだ?」
「そうね。まずは船をドック入りさせて上横帆と船首三角帆を追加してもらうわ。それと船首像の取り付けと、喫水下の船体のカキやフジツボや海藻を取ってもらうのと、船体の防水加工の上塗りね。この辺りの手配はおじ様にお任せしていい?」
「おう。いいぜ」
「新しい商船旗の手配もしなきゃいけないわね。それはアタシがバール副所長と相談して進めるわ。船の改装と商船旗の手配にはどれぐらいの日数を見込んだらいいかしら?」
「そうだな、ドックの混み具合にもよるが1週間から2週間ってとこか」
「それなら、その期間は市場の需要の情報収集をしつつ、目ぼしい人材を見つけたらスカウトするということでどう?」
「おう。それでいいと思うぜ。水夫は船の改装が終わってから募集すりゃいいが、特別な技能を持つ奴がいたら早めに声をかけとくのは有りだ。そうさな……船大工、船医、コックあたりは絶対必要ってわけじゃねぇがいてくれると助かるのは間違いねぇな」
「そうね。いい人材がいたら航海ごとの契約じゃなくて固定で雇い入れておくのもいいわね。雇える資金はあるんだし。ただ、賃金の出所を隠蔽するための偽装は必要ね。表向きはおじ様の農園で雇うということにしていいかしら? 航海がない時は農園の仕事を手伝ってもらってもいいし、賃金はアタシが全部出すから」
「いいぜ。そもそもそいつぁ俺にとっちゃ得しかねぇな。航海の合間に限るとはいえ、俺から日当を出さずに農園の仕事を手伝ってもらえるならありがてぇ話だ」
「じゃあまずはそんな感じで進めていきましょ。忙しくなるわね」
「ああ。……まさかまた海に出れるとは思っていなかったぜ」
「巻き込んじゃってごめんね」
「いや、ここに来て俺は戻ってこれたと感じてるぜ。確かに堅実に農園を経営してりゃあ生活は安定してるし危険もねぇ。だが俺は物足りなさも感じてたんだ。それが、今は年甲斐もなくワクワクしてるんだ。だから嬢ちゃんも俺に対して巻き込んで申し訳ねぇなんて負い目を感じなくていいんだぜ。俺は望んでここに戻ってきたんだからよ」
「分かったわ! 言っとくけど、アタシの目標はゴールディ商会を勅許会社にすることよ。そこまでしっかり支えてもらうわよ」
「ぶはっ! そりゃまた大きく出やがったな! 女の身で商人として成功するどころか、カリブの商人の頂点に立とうってか! ははは! すげぇな。嬢ちゃんは間違いなく大物だ。ジョンの奴ですら勅許会社を目指すなんて大それたことは言わなかったぜ」
「目標は高く持たなきゃ。幸い、アタシには父さんのおかげで船も倉庫も資金もあるし、信頼できる番頭もいるわ。あとはアタシの才覚でどこまでのし上がっていけるか、それだけでしょ」
「そうさな。そのとおりだ! いいだろう、このロッコ・アレムケルが嬢ちゃんがどこまでいけるかしっかり見届けてやるぜ」
「頼りにしてるわよ。さあ、今日からここから始めましょう! アタシたちが歴史を動かすわよ!」
サミエラがにっと笑ってつき出した拳にロッコがにやりと笑って自分の大きな拳を打ち合わせる。痛いほどに打ち合わされた拳にロッコからの確かな期待を感じ取ってサミエラはその期待にしっかりと応えてみせる、と決意を新たにしたのだった。
それから、船の視察を終えた二人はマリーナ砦に戻り、管理人と船の改装の打ち合わせをして、ドック入りの手配を進めた。
その後、サミエラの家に寄って身の回りの物だけを纏めて、郊外にあるロッコのサトウキビ農園兼自宅に移動する。元はゴールディ家のメイドでありサミエラにとっては姉のような存在であるロッコの妻のマリーは突然の話に驚いたものの、事情を知ると喜んでサミエラを歓迎し、客室の1つをサミエラが自由に使えるようにしてくれた。
夕食をアレムケル夫妻と共にし、サミエラの扱いについてロッコと打ち合わせた内容をマリーとも共有し、表向きはアレムケル夫妻の養女のような扱いにしてもらうことに落ち着く。
その他にも細々としたことを打ち合わせていくうちに夜も更けてきたので、サミエラは自分の部屋に戻り、ベッドに身体を横たえてログアウトした。
【作者コメント】
とりあえずゲーム内での初日終了ですね。ゲーム内で眠ればログアウトします。次はマサムネによる配信回となります。マサムネの本体は生命維持装置に入った状態でフルダイブしているので、マサムネに睡眠は必要ありません。サミエラとして寝ている間にマサムネとして活動しているという感じです。
気に入っていただけたら応援していただけると嬉しいです。
部屋の主がいないので生活感は無いが、備え付けの2段ベッドと壁に折り畳んで収納している机が2つと私物を入れるロッカーがあり、隣の弾薬庫内を照らすランプが弾薬庫との仕切り壁のガラス窓の前に設置されている。
「このランプで弾薬庫の中も照らすのね」
「そういうこった。廊下を挟んだ向かいの部屋も同じ構造だな」
「ならそちらは見なくていいわね」
部屋を出て、最後に廊下の突き当たりにある船長室に入る。
船の船尾に面しているその部屋は、廊下よりも一段高くなっており、船尾側はガラス窓が嵌め込まれている。ガラスの透明度が低いのであくまで採光窓でしかないが他の部屋に比べれば段違いに明るい。
執務用の机や鍵のかかる戸棚が据え付けられており、箱形のベッドを天井からロープで吊るした吊り寝台が船の小さな揺れに合わせてゆらゆらと揺れている。
「航海に出る時はここが嬢ちゃんの部屋だな。俺は弾薬庫の隣の部屋を使わせてもらうぜ」
「おじ様に全体を取りまとめてもらうのにアタシが船長室でいいの?」
「確かに最初は俺が全体を仕切るけどよ、それでも俺はあくまで番頭だ。嬢ちゃんは雇い主で船主なんだから船長室を使うのは当然だ。確かに最初はお飾りの船長になるだろうがよ、いずれは名実ともにこの船を、そして商会を実力で引っ張っていってもらわにゃいかんからな」
「ご期待に沿えるように頑張るわ」
「その意気だ。船の中で見るべき所はこれぐらいだろう。ここより下は船のバランスを取るための重しが詰まってるだけだからよ」
「そうなのね。でも見に来てよかったわ。船の状態と特性が分かったし、商会としての方向性と課題も見えてきたわ」
「そうか。とりあえずどうするつもりだ?」
「そうね。まずは船をドック入りさせて上横帆と船首三角帆を追加してもらうわ。それと船首像の取り付けと、喫水下の船体のカキやフジツボや海藻を取ってもらうのと、船体の防水加工の上塗りね。この辺りの手配はおじ様にお任せしていい?」
「おう。いいぜ」
「新しい商船旗の手配もしなきゃいけないわね。それはアタシがバール副所長と相談して進めるわ。船の改装と商船旗の手配にはどれぐらいの日数を見込んだらいいかしら?」
「そうだな、ドックの混み具合にもよるが1週間から2週間ってとこか」
「それなら、その期間は市場の需要の情報収集をしつつ、目ぼしい人材を見つけたらスカウトするということでどう?」
「おう。それでいいと思うぜ。水夫は船の改装が終わってから募集すりゃいいが、特別な技能を持つ奴がいたら早めに声をかけとくのは有りだ。そうさな……船大工、船医、コックあたりは絶対必要ってわけじゃねぇがいてくれると助かるのは間違いねぇな」
「そうね。いい人材がいたら航海ごとの契約じゃなくて固定で雇い入れておくのもいいわね。雇える資金はあるんだし。ただ、賃金の出所を隠蔽するための偽装は必要ね。表向きはおじ様の農園で雇うということにしていいかしら? 航海がない時は農園の仕事を手伝ってもらってもいいし、賃金はアタシが全部出すから」
「いいぜ。そもそもそいつぁ俺にとっちゃ得しかねぇな。航海の合間に限るとはいえ、俺から日当を出さずに農園の仕事を手伝ってもらえるならありがてぇ話だ」
「じゃあまずはそんな感じで進めていきましょ。忙しくなるわね」
「ああ。……まさかまた海に出れるとは思っていなかったぜ」
「巻き込んじゃってごめんね」
「いや、ここに来て俺は戻ってこれたと感じてるぜ。確かに堅実に農園を経営してりゃあ生活は安定してるし危険もねぇ。だが俺は物足りなさも感じてたんだ。それが、今は年甲斐もなくワクワクしてるんだ。だから嬢ちゃんも俺に対して巻き込んで申し訳ねぇなんて負い目を感じなくていいんだぜ。俺は望んでここに戻ってきたんだからよ」
「分かったわ! 言っとくけど、アタシの目標はゴールディ商会を勅許会社にすることよ。そこまでしっかり支えてもらうわよ」
「ぶはっ! そりゃまた大きく出やがったな! 女の身で商人として成功するどころか、カリブの商人の頂点に立とうってか! ははは! すげぇな。嬢ちゃんは間違いなく大物だ。ジョンの奴ですら勅許会社を目指すなんて大それたことは言わなかったぜ」
「目標は高く持たなきゃ。幸い、アタシには父さんのおかげで船も倉庫も資金もあるし、信頼できる番頭もいるわ。あとはアタシの才覚でどこまでのし上がっていけるか、それだけでしょ」
「そうさな。そのとおりだ! いいだろう、このロッコ・アレムケルが嬢ちゃんがどこまでいけるかしっかり見届けてやるぜ」
「頼りにしてるわよ。さあ、今日からここから始めましょう! アタシたちが歴史を動かすわよ!」
サミエラがにっと笑ってつき出した拳にロッコがにやりと笑って自分の大きな拳を打ち合わせる。痛いほどに打ち合わされた拳にロッコからの確かな期待を感じ取ってサミエラはその期待にしっかりと応えてみせる、と決意を新たにしたのだった。
それから、船の視察を終えた二人はマリーナ砦に戻り、管理人と船の改装の打ち合わせをして、ドック入りの手配を進めた。
その後、サミエラの家に寄って身の回りの物だけを纏めて、郊外にあるロッコのサトウキビ農園兼自宅に移動する。元はゴールディ家のメイドでありサミエラにとっては姉のような存在であるロッコの妻のマリーは突然の話に驚いたものの、事情を知ると喜んでサミエラを歓迎し、客室の1つをサミエラが自由に使えるようにしてくれた。
夕食をアレムケル夫妻と共にし、サミエラの扱いについてロッコと打ち合わせた内容をマリーとも共有し、表向きはアレムケル夫妻の養女のような扱いにしてもらうことに落ち着く。
その他にも細々としたことを打ち合わせていくうちに夜も更けてきたので、サミエラは自分の部屋に戻り、ベッドに身体を横たえてログアウトした。
【作者コメント】
とりあえずゲーム内での初日終了ですね。ゲーム内で眠ればログアウトします。次はマサムネによる配信回となります。マサムネの本体は生命維持装置に入った状態でフルダイブしているので、マサムネに睡眠は必要ありません。サミエラとして寝ている間にマサムネとして活動しているという感じです。
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