大海賊時代より……美少女船長の生・配・信! ─West India Company─

海凪ととかる

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商会立ち上げ編

第25話 番外編②月下の海戦(1)

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 彰吾しょうごは、警鐘に気づいた船内の者たちが次々に甲板に上がってくるのを確認し、見張り台の中にいる権之助ごんのすけさざなみに向き直る。

「ゴン、ナミ、お主らは先に戦装束に着替えてきてくれ。俺はお主らが戻るまで見張りを続けるから」

 全員一応武器は持っているとはいえ、それはあくまでも不意の遭遇戦に備えてのもので、今回のように早くに敵に気づけて迎撃準備の時間があるのなら、普段の当直では着けていない防具類も装着して備えることができる。

「おう。船長にも説明しておくからの」「わかったー。すぐ戻るでな」

 見張り台に残った彰吾は敵船のさらなる情報を求めて目を凝らす。岬の陰から密かに忍び寄ってきていた船だったが、こちらの船が慌ただしくなったことで気付かれたと悟ったのだろう。縮帆していた帆を次々に展帆して舳先で白波を蹴立てながらまっすぐにこちらに向かってきた。

「敵船、船足を上げた! まっすぐ来る! 海賊だ!」

 岬の陰から月明かりの下に出たことで敵の全貌が明らかになる。

「敵、ブリッグ1隻! 大砲12! 甲板に約30人!」

 次々に明らかになる情報をその都度甲板に向かって叫ぶ。

「総員、戦闘配置に就け! 敵はまだ遠いから焦らずに防具を着けろ! 錨を巻き上げろ! 準備のできたマスト員はマストに上がって帆を張れ! 甲板員はマスケット銃と大砲の準備だ!」

 アボット船長の号令に従って総勢20人の乗組員たちが迎撃の準備を始める。

「ほい、待たせたの! ここはわしに任せてショーゴも準備に行くんじゃ!」

「おう。頼む」

 雑賀の八咫鴉やたがらす紋の陣笠と胴丸を身に纏い、弾薬を収めた胴乱ポーチを右脇腹に取り付けた権之助が見張り台に登ってきたので入れ替わりで彰吾も甲板に降りる。その彰吾にアボット船長が声をかける。

「ショーゴ、よく見つけたな! 発見が早かったからこっちも余裕を持って備えられる。お前も準備ができたら甲板に上がって私のところに来い」

「分かった!」

 短く応じて船内に入った彰吾が自分の私物入れから出した籠手やすね当てを着けているところに、船尾の船室から出てきたアネッタとさざなみが近づいて来る。彰吾が当直に出る前まで一緒に夕食を摂っていたアネッタはその時は動きやすい普段着だったのに、今は白を基調とした上等の絹のドレスに着替えており、漣もメイド用の給仕服に着替えて、2人ともうっすらと化粧までしていた。

「あ、ショーゴごめんな。すぐ戻る言うたのに準備に手間取ってもうてな」

「お父様に一番いいドレスに着替えてくるよう言われてナミに手伝ってもらっていたのよ」

「……船長は策士だな。アニーとナミを弾避けの御守りにするつもりか」

 アボット船長の意図を正確に察した彰吾に漣とアネッタがそろってニンマリと人の悪い笑みを浮かべる。

「いひひ♪ うちとアニーみたいな年頃の可愛い女をうっかり撃ち殺してしもたら奴らにとっちゃ大損やからね。うちらがおめかしして甲板にいるだけで撃ってこなくなるならやらん手はないやね」 

「女に飢えた海賊たちのギラギラした目は嫌なんだけどね。でもそれで仲間たちを助けられるならやぶさかじゃないわ。……ねぇショーゴ、どうかしら?」

「ああ。よく似合っている。海賊共もさぞかしやる気になるだろうな」

「海賊への撒き餌を演じるのは正直怖いわ。でもショーゴたちが守ってくれるって分かってるから、せいぜい美味しそうな餌を演じてみせるわね。……餌だけ取られないようにくれぐれもお願いよ?」

「任せておけ。絶対にアニーは守り抜く」「アニーもショーゴのそばを離れんようにね」

 そして、籠手とすね当てに加えて胴丸を身に付け、鉢金はちがねを額に巻き、背負っていた小太刀を左の腰に吊りなおし、十手を腰帯に差して戦闘準備を終えた彰吾はアネッタと漣と連れ立って甲板に上がり、自ら舵輪を握っているアボット船長の元に駆け寄った。

 すでに先に配置についた者たちによって帆は開かれ、錨は巻き上げられているので船は動き始めているが、ずんぐりとした船体の鈍重な旧式のキャラックと海軍の補助艦艇としても使われる快速のブリッグでは船足が違いすぎる。このままではいずれ追い付かれるのは確実だ。

「おう、3人とも来たな。いいか、敵は有利な風上で人数は30人以上、船の性能、大砲の数でも向こうが上だ。だから、敵の戦闘継続能力を奪い、追撃を断念させた上で引き離すことを第一目標にする。ショーゴ、お前ならどうする?」

「敵を減らす。敵は、こっちに女いる。撃てない。こっち、狙撃、散弾の砲撃で戦える敵を減らす」

 アボット船長の問いに答える彰吾。
 ちなみに彰吾たち3人とアネッタを加えた4人は仲間内では普段は日ノ本の言葉で話しているが、船長を含めた他の船員たちとはオランダ語で話している。彰吾たち3人はオランダ語の聞き取りはほぼ完璧だが、話す方はまだ得意ではないのでどうしてもぎこちなくなる。

「それでいい。ショーゴ、お前はこのまま甲板の指揮を執れ。アニーはショーゴのそばにいて補佐につけ。ナミはこのまま私のそばにいて、敵船がもう少し近づいたら海賊を怖がる振りをしながらマストに上がってそのままマスト員を指揮しろ。ついでにゴンに狙撃のタイミングは任せると伝えろ」

「「「了解ヤー!」」」

 彰吾がアネッタと共に大砲の準備をしている乗組員のところを回り、すべての大砲に有効射程距離は短いが殺傷力の高い対人用散弾であるブドウ弾を装填させ、さらに殺傷力を上げるために割れた瓶のガラス片も詰め込ませる。
 前装砲は1発撃ったらすぐには次を撃てないので、いっそのこと1発撃ったらそれでおしまいと割り切り、砲手たちがすぐに持ち換えれるように、装填済みのマスケット銃を敵からの死角にこっそりと数丁ずつ置いていく。

 そうこうしているうちに敵船が追いついてくる。すでに距離は100ヤード(約91㍍)を切っており、海賊船の甲板でそれぞれに武器を持った汚ならしい男たちの表情や会話の内容さえも聞こえてくる。

「おい見ろや! 女が2人も乗ってるぜ!」「ひゃはは! 味比べだな!」「てめぇら下手くそな銃や大砲を撃つんじゃねぇぞ! こっちが数が多いんだ。斬り込みで制圧しろ!」「女は生け捕りだ!」

 そして、派手な服を着た船長と思われる男がメガホンで甲板の海賊たちに発破をかける。

「野郎共! 敵の大砲を恐れるんじゃねぇぞ! あんなもんは1発撃ったら終いのこけおどしだ! 素人の大砲が当たらねぇことなんざてめぇらが一番知ってんだろぉ!」

「「「うおぉぉぉう!」」」

「降参する奴は生かしておけ! だが、抵抗する奴には容赦するな! ぶち殺して鮫の餌にしろぉ!」

「「「うおぉぉぉう!」」」

 船長の煽動に海賊たちが握りしめたカトラスを突き上げ、ドンドンと足を踏み鳴らして呼応する。わざわざこちらの船に聞こえるようにメガホンを使っているあたり、こちらの抵抗の意気を挫く目的もあるのだろう。

「ひぃぃ! もうやだぁあああ!」

 舵輪を握るアボット船長のそばに控えていた漣が金切り声を上げて駆け出し、メインマストの縄梯子シュラウドを泣きわめきながら登って行く。何度も無様に足を踏み外して落ちそうになり、その度に情けなく悲鳴を上げ、風に煽られたスカートが捲れ上がって下着ドロワーズが露わになってまた悲鳴を上げる。
 その様子に海賊たちがますます興奮して囃し立てる。

「うひゃひゃひゃ! たまんねえな!」「おれぁまずはあのメイドちゃんにするぜ」「お嬢ちゃんはマストの上で待ってなぁ! 下を片付けたら迎えに行ってやるからよぉ!」「あーもう待ちきれねぇよぉ!」

 ようやく見張り台にたどり着いて中に転がり込んだ漣は海賊たちからの死角に入った瞬間、今までの泣き顔を一転させてにんまりと笑う。

「にひ♪ どやった?」

「いやぁ、さすがじゃのう。演技と分かっておっても騙されそうじゃったぞ。風に煽られたと見せかけて下着を見せつけたのもわざとじゃろう?」

 くっくっくっと笑いを噛み殺す権之助。

「ひひっ♪ 女の武器を使った情報操作はくノ一の十八番オハコやからね。これでアニーへの圧も少しは下がるやろ。……それにしても」

 漣がぺろんとスカートの裾を捲り上げ、膝下まである下着ドロワーズをしげしげ眺める。

「腰巻きやったら下から中身が丸見えになるで興奮するんも分かるんやけど、こんなダボダボのズボンみたいな下着ドロワーズが見えただけであんなに興奮するとか阿呆っちゃうか。ゴン、あんたコレに興奮する?」

「いやー、それを見て興奮はせんのぅ。じゃが奴らとて、あくまでそれを脱がした後のことを想像して興奮しとるんじゃないかのぅ」

「いひっ♪ コレを脱いでも奴らが期待するもんちゃうけどね」

 そう言いながら漣がドロワーズをずり下げれば、露わになるのは漣の素足ではなく忍装束の股引ももひきと忍刀。そのままメイドの給仕服を脱ぎ捨て、その下に着込んでいた忍装束姿になった漣は隠してあった籠手と脚絆きゃはんを手早く装着しながら権之助に言う。

「そうだゴン、船長が今回は敵の戦闘継続能力を奪ってさっさと逃げるってさ。狙撃のタイミングは任せるって伝言やで。甲板の方はショーゴが指揮を任されとるでな」

「ほうか。ショーゴが大砲にブドウ弾を装填しとるのはそういうことじゃな。わしの初手にショーゴが合わせてくれるんじゃったらやり易いのぅ。ほんなら一つ雑賀の鉄砲撃ちの怖さっちゅうもんを海賊共に教えてやろうかのぅ」

 権之助は不敵に笑うと、すでに装填済みの愛銃の火縄に、咥えたパイプから火を移して立ち上がった。
 敵船との距離はすでに50ヤード(約45㍍)を切り、こちらの船に追い付いて左舷側から乗り込もうと、海賊たちが敵船の右舷船首側に集結している。
 こちらの甲板では左舷側の5門のセーカー砲それぞれに砲手が取り付き、彰吾からの号令を待っている。

 月下のヴェルデ岬沖で、ついに戦いの火蓋が切られようとしていた。




 
 
【作者コメント】
2話でまとめるつもりが……テヘペロ☆ もうちょっとだけ続くんぢゃな。

さて、すでにお気付きとは思いますが、この作中ではヤード・ポンド法での距離の表記をちょいちょい出します。我々にお馴染みのメートル法が生まれたのは18世紀末のフランス革命後なので18世紀初頭をモデルにしているこの時代にはまだ使われていないからです。

長さの単位はこんな感じです。

1インチ=25.4㎜
1フィート=12インチ=304.8㎜
1ヤード=3フィート=36インチ=914.4㎜

マイルは陸マイル(約1.6㎞)と海マイル(約1.85㎞)の2種類がありますがややこしいので、この作中では海マイルで統一します。

……こうして見るとメートル法の便利さがよく分かりますね。
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