【なろう490万pv!】船が沈没して大海原に取り残されたオッサンと女子高生の漂流サバイバル&スローライフ

海凪ととかる

文字の大きさ
62 / 244
箱庭スローライフ編

第62話 7日目③おっさんは塩作りを始める

しおりを挟む

 芽が出始めている緑豆の仕分けや、アイスプラントやひよこ豆の地植えなど、植物の世話のために拠点に残った美岬と別行動で、俺は落ち葉を集めて運ぶために空のリュックとスポーツバッグを持って林に入った。

 地面に積もった落ち葉を両手で掬ってリュックとスポーツバッグに詰めていく。
 そうして気づくのは、落ち葉の隙間にけっこうドングリが挟まっているということだ。今年のドングリにはまだ早いから、去年や一昨年に落果したもののうち発芽条件が整わず、芽吹けずに残ったものだろう。

 この島に上陸してからまったく姿を見ていないので、たぶんそうだろうとは思っていたが、これだけの落果したドングリが手付かずで残っているということは、ネズミやリスといったドングリを好んで食べる齧歯類げっしるいはどうやらいないようだ。少なくともこの箱庭には。

 まあそれはともかく、スダジイのドングリは日本に多く自生しているドングリの中で最もえぐみ成分が少ないので、アク抜きせずにそのまま食べることができて栄養価も高い優れたナッツの一つだ。
 秋になって今年のドングリが収穫できるようになれば、米や芋や豆が収穫できるようになる冬までの間、ジュズダマや葛豆と並ぶ炭水化物の供給源になるだろうと期待していたのだが、秋まで待たずとも落ち葉の隙間に残っている状態のいいドングリなら食用にできそうで、これは嬉しい誤算だ。
 そんなわけで、俺は落ち葉を集めつつ、状態の良さげなドングリを見つけたら取り分けてポケットに詰めこんでいった。

 建材や薪に使えそうな枯れ枝はあとでまとめて運ぶためにある程度固めておき、リュックとスポーツバッグが枯れ葉と小枝でいっぱいになったら、林の外の畑の予定地に運んで行って中身をぶちまけ、再び林の中に戻って落ち葉を集めるのを繰り返す。
 箱庭を囲む崖の上に太陽が昇って谷底まで陽が差し始める8時頃には、焼き畑予定地にはかなりの量の落ち葉と小枝が積み上がっていた。
 植物の世話と予定していた植え付けを終わらせた美岬も合流し、今は畑の周囲を囲う溝を掘ってくれている。溝といってもあくまで火がそれ以上燃え広がらないための防火帯としてのものだから、生えている雑草を掘り返して土を剥き出しにする程度のごくごく浅いものだ。

「燃やすのはこれぐらいあればいいと思うがどうだ?」

「十分っ、だとっ、思うっすっ」

「溝を掘るの交代しようか」

「やっ、大丈夫っす! 掘りながらっ、畑のレイアウトとかっ、考えてるっすから、あたしがやった方がっ、いいと思うっす! ……ふぅ」

 畑の周りの溝を一生懸命に掘っていた美岬が手を休めて額に浮かんだ汗を拭う。そう言われてしまうと引き下がるしかない。

「分かった。じゃあ俺は塩作りを進めとくな。こまめに水分補給しながら無理せずやってくれよ?」

「あいあい。お任せられー」

 再びスコップで溝掘りを再開する美岬にこの場は任せ、俺は懸案事項の一つである製塩をするために拠点に戻る。
 拠点の中から断熱シートを持ち出して日当たりのいい砂浜に広げ、四隅を石で押さえて飛んでいかないようにする。

 それから空のコッヘルを持って波打ち際に行き、コッヘルでその辺りの砂を海水ごと掬う。
 砂に混じった泥によって濁ったそれを手でかき混ぜて濁った水を捨て、綺麗な海水を新たに掬っては砂を洗って濁り水を捨て、というのを繰り返し、水が濁らなくなるまで何度かそれをする。米を研ぐのと同じ感覚だ。
 最終的に砂が綺麗になったら海水を捨て、濡れた砂を断熱シートの上に薄く広げて天日干しにする。

 このサイクルを何度か繰り返し、海水で濡れた砂を断熱シートいっぱいに薄く広げる。

 やがて、太陽の熱により濡れた砂から蒸気が立ち昇り始め、濡れた灰色の砂が次第に乾いて白っぽくなっていく。そこに、コッヘルに掬った海水を手でパチャパチャと跳ね掛けるようにして撒いていく。
 熱くなった砂と照りつける太陽光によって撒かれた海水の水分がどんどん蒸発していき、砂に残される塩分濃度を上げていく。
 日本でも古代から行われている揚浜式あげはましき製塩の第一段階である砂を利用した塩の濃縮だ。ちなみに現代でも三重県の伊勢市では神宮に奉納するための塩がこのやり方で作られている。

 海水の塩分濃度は3.5%といわれているが、伏流水が流れ込んでいるこの内湾はもう少し塩分濃度は低いように感じる。
 仮に3%だったとして、100ccの海水を煮詰めて得られる塩がたったの3gしかないということだ。多くの燃料を消費してたったそれだけというのはあまりにも効率が悪い。
 それで昔の人が考えたのが、海水の水分を太陽熱で自然蒸発させて、残った高濃度の塩水を煮詰めることで燃料を節約しつつ多くの塩を得るという方法だ。
 
 揚浜式の場合、砂を敷き詰めた塩田に海水を撒き、水分が蒸発して塩が付着した砂を集めてもう一度海水と混ぜ、砂をろ過して濃い塩水を取り出し、それを煮詰めて塩を作る。
 海水から塩を作る方法は揚浜式以外にも、入浜式や流下式などの方法などがあるが、どれも原理としては自然蒸発で海水を濃縮させてから煮詰めて塩を結晶化させる点は同じだ。
 揚浜式の場合、簡単な反面、大量生産には向かないので現代では儀式用途以外では廃れているが、俺と美岬が使う分だけならこのやり方で十分だ。
 
 そんなわけで、断熱シートの上に広げた砂を乾かしているところに美岬が呼びに来る。

「ガクさーん、溝掘り終わったっすよー」

「おー、お疲れ。じゃあさっそく燃やすか」

 時間は朝9時。もし捜索隊がこの島の近くを探してくれるなら狼煙を上げるタイミングとしては悪くないと思う。
 美岬が掘った溝は水を入れるとかそういうわけではなく、あくまで焼き畑の火がそれ以上燃え広がらないようにするための防火帯でしかないので地面を浅く掘り返している程度だ。この時期は雑草も青々としているので飛び火程度ではそうそう燃え広がることもないだろう。

 掘り返されて土が剥き出しになった浅い溝に囲まれた畑の予定地に戻り、中央に積み上げてあったさっき拾い集めてきた落ち葉と小枝を全体に広げていく。さらに最初に火を着ける場所には着火材として松ぼっくりを積み上げる。
 かまどにまだ種火が残っていたのでそれを起こしてファットウッドに火を着け、そこから松ぼっくりに火を移せば、メラメラと燃え上がった炎がどんどん周囲の落ち葉と小枝に燃え広がっていく。

「んんー? こんなにたくさん燃やしてるのに、案外煙って出ないんすねぇ」

 と、美岬が空を見上げながら納得がいかないように首をひねる。燃え上がる炎から出る煙は透明がかった白であまり目立たない。

「炎が立って完全燃焼してるとあまり煙は出ないんだよ。不完全燃焼状態だと煙もよく出るけどな。だから狼煙にするなら燃えにくい生木を燃やしたり、わざと炎を消して煙が出るようにするんだ」

 俺が2㍍ぐらいの棒で、燃え上がっている炎の一部を叩いて消すと、そこから大量の白い煙がモクモクと立ち上るが、再び炎が立ち始めると煙の色は薄くなる。

「むぅ……。不完全燃焼だと焼き畑の意味が薄れちゃうっすから、煙を出すためだけに不完全燃焼にするのは本末転倒っすよねぇ。しっかりと地面の雑草を根ごと焼いて生えにくくするのと、草木灰のカリウムなんかを土に補充するのが目的っすから」

「そうだな。火を管理する側としてもしっかり炎が燃え上がって完全燃焼してる方が安定してるから楽なんだよな。常に不安定な不完全燃焼状態を維持し続けないといけないから狼煙っていうのは案外難しいんだよ」

「確かにメリットがデメリットと釣り合わないっすね。狼煙としての効果は期待しないで燃やすことに専念するっす」

 美岬が納得したように何度かうなずく。

「さて、じゃあここはもうどっちかが見てれば大丈夫だろうから、美岬に任せていいか?」

「お任せられ。ガクさんは何するっすか?」

「とりあえず葛の蔓を採ってきて処理をするのと、塩作りの続きをしていこうかと思ってる。昼にはまたかまどを使うからそれまでに出来るだけ進めておきたいからな」

「了解っす。じゃああたしは火の番をしつつ、ハマエンドウの実も集めておくっすね」
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ガチャで領地改革! 没落辺境を職人召喚で立て直す若き領主』

雪奈 水無月
ファンタジー
魔物大侵攻《モンスター・テンペスト》で父を失い、十五歳で領主となったロイド。 荒れ果てた辺境領を支えたのは、幼馴染のメイド・リーナと執事セバス、そして領民たちだった。 十八歳になったある日、女神アウレリアから“祝福”が降り、 ロイドの中で《スキル職人ガチャ》が覚醒する。 ガチャから現れるのは、防衛・経済・流通・娯楽など、 領地再建に不可欠な各分野のエキスパートたち。 魔物被害、経済不安、流通の断絶── 没落寸前の領地に、ようやく希望の光が差し込む。 新たな仲間と共に、若き領主ロイドの“辺境再生”が始まる。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

転移特典としてゲットしたチートな箱庭で現代技術アリのスローライフをしていたら訳アリの女性たちが迷い込んできました。

山椒
ファンタジー
そのコンビニにいた人たち全員が異世界転移された。 異世界転移する前に神に世界を救うために呼んだと言われ特典のようなものを決めるように言われた。 その中の一人であるフリーターの優斗は異世界に行くのは納得しても世界を救う気などなくまったりと過ごすつもりだった。 攻撃、防御、速度、魔法、特殊の五項目に割り振るためのポイントは一億ポイントあったが、特殊に八割割り振り、魔法に二割割り振ったことでチートな箱庭をゲットする。 そのチートな箱庭は優斗が思った通りにできるチートな箱庭だった。 前の世界でやっている番組が見れるテレビが出せたり、両親に電話できるスマホを出せたりなど異世界にいることを嘲笑っているようであった。 そんなチートな箱庭でまったりと過ごしていれば迷い込んでくる女性たちがいた。 偽物の聖女が現れたせいで追放された本物の聖女やら国を乗っ取られて追放されたサキュバスの王女など。 チートな箱庭で作った現代技術たちを前に、女性たちは現代技術にどっぷりとはまっていく。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

処理中です...