【なろう490万pv!】船が沈没して大海原に取り残されたオッサンと女子高生の漂流サバイバル&スローライフ

海凪ととかる

文字の大きさ
227 / 244
ノアズアーク編

第227話 52日目⑪シエスタ

しおりを挟む
 ぶっつけ本番ではあったが、ハトムギ粉をベースに色々試してみて、結果的には満足のいく形で天ぷらを作ることができてよかった。美岬も喜んでくれたから万々歳だ。また、試行錯誤によってハトムギという穀物についての理解が深まったのも収穫だった。

 野生種のジュズダマに比べ、栽培種のハトムギが野生化したものは収穫量が多く、粒が大きくて殻も薄いので相対的には使いやすいとはいえ、それでも今の時期、地面を埋め尽くすような勢いで大量に落実するスダジイのドングリには遠く及ばない。
 収穫量と収穫のしやすさ、粒の大きさ、殻の剥きやすさの全てでスダジイに軍配が上がるので、スダジイを使った縄文クッキーが俺たちの主食になるのは当然で、これまでハトムギは、殻ごと炒ってから煮出してハトムギ茶にして、その後、殻を割って中身をそのまま食べたり、塩水とこうじで発酵させて調味料の塩麹にするぐらいしか利用してこなかった。

 そんなわけで石臼で挽いたハトムギの粉もこれまで使ったことはなかったが、使ってみた結果、思っていた以上にハトムギは麦ではなく米に近い穀物だということが判明した。
 それもどうやら、うるち米ではなく餅米に近い性質であるようだ。ということは、ハトムギを使えばかなり本格的な餅が作れる可能性が高い。これについてはこれから要検証だが、餅は非常に優れたエネルギー源になるし、料理や菓子にも幅広く使えるから、ちょうど今がハトムギの収穫期でもあるし、この機会に積極的に活用法を模索していきたいと思う。

 まあそんな感じでハトムギの新たな可能性への気づきが得られた有意義な昼食を終えて、食事の片付けをしているところで美岬がうつらうつらとずいぶんと眠そうにしていることに気づく。

「眠そうだな」

「……んー。うん。お腹いっぱいになって……うん、腹の皮が張ると目の皮がたるむってやつだねぇ。……めっちゃ眠い。ふわぁ……」

 そういえば今朝、俺は8時頃までガッツリ寝てしまったが、美岬はかなり早起きして朝食を作ってくれていたもんな。その後もずっと動きづめだったし、満腹になるまで食事をして一息ついたらそりゃあ眠くもなるだろう。

「昼寝してくるか? ここは俺が片付けとくから」

 そう聞くと少し考えてから首を横に振る。

「んー……ガクちゃんも一緒がいい。添い寝を所望するぅ」

「…………おっけ。じゃあさっさと片付けて一緒に昼寝しようか」

「あいあいー」

 というわけで、美岬と一緒に昼寝をするためにこの後の予定を少し調整する。

 元々この片付けが終わったら、小川の流水に晒しているカレイの身を使って練り物作りにいそしむつもりだったから、美岬が眠いなら彼女が昼寝をしている間に俺だけで作業を進めればいいかなと考えたのだが、それは彼女的にはダメらしい。まあ実際、練り物作りは二人で休憩した後でやっても全然問題ない作業ではある。

 練り物に混ぜ込む具材の乾物だけ今のうちに水に浸けこんで戻しておけば、昼寝から起きてすぐに作業は始められるし。

 一応、他にもやりたいこと、やるべきことは色々あるが、それでも美岬とまったり過ごす時間を削らなければならないほど切羽詰まってはいない。
 ……ついつい効率を優先して、隙間時間にもついでの用事を詰め込んでマルチタスク化させてしまうのは俺の長所であると同時に欠点でもあることは重々承知している。それは仕事をする上では大事なスキルだが、私生活プライベートにまでそれを組み込んでしまうのはよろしくないし、それに美岬を巻き込んで無理をさせてしまっては元も子もない。

 俺は元々一人で活動する個人事業主として、仕事とプライベートの境界が曖昧な生活をずっとしてきたから、誰かと一緒に仕事をするのはあまり慣れていないし、自分の体力や能力を基準に考えてしまうからついつい美岬に無理をさせてしまうこともある。

 だから最近の俺は、自分が過度に忙しくし過ぎていないかの目安として美岬に合わせることを心がけている。
 俺一人ならいくらでも無理できるが美岬はそうじゃない。俺の普通が美岬にとってはオーバーワークな場合もある。そういう時、美岬は健気に俺に着いてこようと頑張ってくれるが、そうではなく俺が美岬の足並みに合わせるべきだ。
 美岬の体力や気力の限界に気を配ってそれに自分を合わせ、美岬がリクエストを口に出してくれた時は可能な限りそれを優先する。それを意識するようになって、以前よりは上手くバランス調整できているように感じている。

 二人で暮らすというのはまだまだ手探りは多いが、せっかくのスローライフ。意識して予定を詰め込み過ぎないように、無理せずほどほどに息抜きをしながら生活を楽しんでいけたらいいと思う。



 食事の片付けを終え、練り物作りの準備だけしてからテントに入り、寝床に二人で向かい合った体勢で寝転がる。

午睡シエスタか。贅沢な時間の使い方だな」

「しえすた?」

「スペイン語で昼食後の昼寝のことだ。スペインみたいなラテン系の国では昔から昼休みを長く設定しててな、昼食後には昼寝をするのが習慣になってたんだ」

「なんてうらやましい……お昼食べたあとの午後って眠いからさー、日本もシエスタは取り入れるべきだよぅ」

「眠気と戦いながら仕事や勉強をしてもパフォーマンス落ちるだけだからな。シエスタはいい習慣だと俺も思うな」

「だよねぇ…………」

 横になったら一気に眠気が押し寄せてきたようで少しの会話を交わしただけで美岬があっさりと寝落ちする。
 すうすうと穏やかな寝息を立てている美岬の寝顔を見ているだけで愛しさがこみあげてきて、美岬の前髪をかき上げて額に軽く口付けた。
 可愛くて健気で勤勉な努力家で、本当に俺には過ぎた最高の嫁だ。俺にとってなによりも大切な宝物のような存在。一生懸けて絶対に幸せにしたいとの思いを日々新たにする。

「愛してるよ」

 秋も深まってきたのでテントの中は少し肌寒い。毛布を肩までそっと引き上げ、美岬の身体を軽く抱きしめ、腕の中に愛しい温もりを感じながら俺も心地よい眠りに落ちていった。








【作者コメント】

 ホントに遅くなって申し訳ないです。前回のあとがきでも書きましたが、年末年始は繁忙期なので休み返上で働いてまして、さらに1月前半はちょうど私のお店が10周年ということでセールをしていたこともあり、執筆活動がほとんどできなかったのです。この後は確定申告も控えてますし、毎年恒例ではありますが2月いっぱいまでは更新頻度は低めになりますのでご了承下さい。
 いつも応援ありがとうございます。誤字報告、感想大変励みになっております。引き続き応援いただけると嬉しいです。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

ガチャで領地改革! 没落辺境を職人召喚で立て直す若き領主』

雪奈 水無月
ファンタジー
魔物大侵攻《モンスター・テンペスト》で父を失い、十五歳で領主となったロイド。 荒れ果てた辺境領を支えたのは、幼馴染のメイド・リーナと執事セバス、そして領民たちだった。 十八歳になったある日、女神アウレリアから“祝福”が降り、 ロイドの中で《スキル職人ガチャ》が覚醒する。 ガチャから現れるのは、防衛・経済・流通・娯楽など、 領地再建に不可欠な各分野のエキスパートたち。 魔物被害、経済不安、流通の断絶── 没落寸前の領地に、ようやく希望の光が差し込む。 新たな仲間と共に、若き領主ロイドの“辺境再生”が始まる。

辺境の魔王アルト~世界で一番小さな国が、世界で一番強かった~

雪野湯
ファンタジー
三百年続いた和平が、三ヶ月で終わる。 辺境の小国ルミナ。国民は五千人、兵士は百人。 相手は三百万の巨大帝国。 魔王アルトは降伏を決意していたのだが……民の瞳に宿っていたのは――帝国を滅ぼさんとする狂気だった。 国民も兵士も、全員が血に飢えたオオカミのように帝国との戦争を望む。 国民の覚悟に押され、アルトは帝国との戦いを決断――砦攻めを敢行する。 だが、そこに待ち受けていたのは――帝国最強の一人・五龍将と千の兵士。 100VS1000――絶望的だと思われた戦いだが、アルトの予想に反して帝国は弱く、逆にルミナは強すぎた。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、 仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。 厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議―― 最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。 だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、 結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。 そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、 次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。 同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。 数々の試練が二人を襲うが―― 蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、 結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。 そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、 秘書と社長の関係を静かに越えていく。 「これからの人生も、そばで支えてほしい。」 それは、彼が初めて見せた弱さであり、 結衣だけに向けた真剣な想いだった。 秘書として。 一人の女性として。 結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。 仕事も恋も全力で駆け抜ける、 “冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。

ダンジョンに行くことができるようになったが、職業が強すぎた

ひまなひと
ファンタジー
主人公がダンジョンに潜り、ステータスを強化し、強くなることを目指す物語である。 今の所、170話近くあります。 (修正していないものは1600です)

処理中です...