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21-2.雨のホームルーム(佑樹)
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僕が席につくと、前の席の乃木がニヤニヤしながらいつも通りの癖の強い名古屋弁で、こそこそっと訊いてきた。
「よぉよぉ、今日はどにゃあしたんね? 大倉ちゃんと喧嘩でもしたんきゃ? えりゃあ男前になりゃあしてよぉ」
「男前?」
「その頬。ビンタくらった痕やね?」
「……」
僕の沈黙を肯定と受け取った乃木が調子付く。
「あれやね? こうムラムラッときて大倉ちゃんを押し倒そうとして張っ倒されやぁしたんやろ?」
「お前っちゃうんやでそんなことせんわ」
「うん~? その割にゃあ、えりゃあ露骨にハブられとぉやんか」
気のせいかと思ったけど、乃木にまで気付かれているってことはやっぱり避けられたのか。でも、香奈を怒らせるようなことをした覚えがないんだよな。
「さあ? なんでやろな」
僕は乃木にはあいまいに笑って肩を竦めてみせた。
リュックから取り出したタオルで濡れた髪を拭きながらそっと香奈の様子を窺えば、彼女は机に突っ伏している。僕の視線を追った乃木がおかしそうにくっくっと笑いながら言う。
「えらい分かりやすく凹んでんなぁもー。どうするんね、彼氏ィ?」
「彼氏やと!?」
聞き捨てならない単語に反応して瞬時に乃木に向き直る。
「照れんでええがや。そんなことよか、あの激ツンの一匹狼、大倉ちゃんをデレさせるなんてどにゃあしたんね? いきなり一緒に弁当食べる仲になったと思やぁ、今やいつでも一緒。ったく羨めやましい! ……なんか腹立ってきたがや。勝手に喧嘩でもなんでもしとれやっ、この裏切りもん!」
勝手に勘違いして盛り上がって、挙句の果てには怒り出してフンッと前を向いてしまった。
あーでも、僕と香奈の関係って傍から見れば付き合ってるように見えるんか。あ、もしかして、そのことで誰かから冷やかされたりして、彼女は嫌な思いでもしたんかな? それやったら、さっきの態度にも納得がいく。
僕と彼女はあくまで友だちで、付き合っているわけっちゃうんやからそんな風に勘違いされたら彼女も迷惑やろ。
そう自分に心の中で言い聞かせた瞬間、なんか、胸がこう、締め付けられるような感じがした。……迷惑やったんかなぁ。
「…………」
一瞬感じた違和感を誤魔化すようにやや乱暴に髪を拭いていく。
バイク小屋で合羽を脱いで制服姿になり、道を渡って校舎の玄関に向かって走っている途中で響子さんが転んで水溜まりにダイブ。……あの人マジで今日は踏んだり蹴ったりやな。そんな響子さんに本降りの雨の中で肩を貸して玄関まで歩けば僕も全身びしょ濡れだ。
ズボンまで濡れてしまったからポケットのスマホが心配になって取り出してみると、いつの間にか着信があったようで着信を示すLEDが点滅していた。
バイクを運転中に電話がかかってくると、バイクの振動とエンジン音のせいでポケットの中だとまず気づかない。しかも今日は雨だ。ただでさえ視覚的に制限のかかる雨の日に聴覚まで制限してしまうのは危険なので今日はさすがにBluetoothイヤホンも着けていなかった。
「……」
机の下で開いて確認してみれば香奈からだった。
留守電メッセージも残してくれているようなので、Bluetoothイヤホンをつないでメッセージを再生してみる。
『……ゆ、佑樹君。あたし、香奈やけど。……その、なかなか来おへんから心配なんやけど、事故……とかっちゃうよね? 1限目までに来んかったら沙羅さんに連絡するでな?』
あ、そっか。心配してくれとったんやな。だからちょっと気恥ずかしかったんか。そりゃそうやんな。別に彼女を怒らせる心当たりなんかないし。まったく、乃木のアホが変なこと言うから焦ったわ。
なんだかすごくほっとして、そのままRineを送る。
──メッセージ、今聞いた。心配させてごめんな。それと心配してくれてサンキュ!!
こんなとこかな。ピッと送信完了。
数秒後、香奈がのろのろと上体を起こす。スカートのポケットからスマホを取り出して画面を見る。僕からと知ってハッとしたような表情がその横顔に浮かぶ。
そのまま、数秒間画面を注視していた彼女は、僕の方を振り向いて、何故か一瞬泣きそうな顔をして、そのあとばつが悪そうに笑みを浮かべてくれた。
ほっと胸を撫で下ろす。よかった。機嫌を直してくれたようやな。
乃木が「もう和解しやぁしたんかよぉ。ちぇっ、つまらん」などとぶつくさ言っていたが当然無視した。
【作者コメント】
この話は前後編の後半、祐樹視点です。二話に分けるにはそれぞれが短かったので合わせて一話扱いです。祐樹は母、姉、妹の女三人によって特別な訓練を受けているので女子の突然の不機嫌に遭遇してもそういう日もあるわな、とあまり動揺しません。
「よぉよぉ、今日はどにゃあしたんね? 大倉ちゃんと喧嘩でもしたんきゃ? えりゃあ男前になりゃあしてよぉ」
「男前?」
「その頬。ビンタくらった痕やね?」
「……」
僕の沈黙を肯定と受け取った乃木が調子付く。
「あれやね? こうムラムラッときて大倉ちゃんを押し倒そうとして張っ倒されやぁしたんやろ?」
「お前っちゃうんやでそんなことせんわ」
「うん~? その割にゃあ、えりゃあ露骨にハブられとぉやんか」
気のせいかと思ったけど、乃木にまで気付かれているってことはやっぱり避けられたのか。でも、香奈を怒らせるようなことをした覚えがないんだよな。
「さあ? なんでやろな」
僕は乃木にはあいまいに笑って肩を竦めてみせた。
リュックから取り出したタオルで濡れた髪を拭きながらそっと香奈の様子を窺えば、彼女は机に突っ伏している。僕の視線を追った乃木がおかしそうにくっくっと笑いながら言う。
「えらい分かりやすく凹んでんなぁもー。どうするんね、彼氏ィ?」
「彼氏やと!?」
聞き捨てならない単語に反応して瞬時に乃木に向き直る。
「照れんでええがや。そんなことよか、あの激ツンの一匹狼、大倉ちゃんをデレさせるなんてどにゃあしたんね? いきなり一緒に弁当食べる仲になったと思やぁ、今やいつでも一緒。ったく羨めやましい! ……なんか腹立ってきたがや。勝手に喧嘩でもなんでもしとれやっ、この裏切りもん!」
勝手に勘違いして盛り上がって、挙句の果てには怒り出してフンッと前を向いてしまった。
あーでも、僕と香奈の関係って傍から見れば付き合ってるように見えるんか。あ、もしかして、そのことで誰かから冷やかされたりして、彼女は嫌な思いでもしたんかな? それやったら、さっきの態度にも納得がいく。
僕と彼女はあくまで友だちで、付き合っているわけっちゃうんやからそんな風に勘違いされたら彼女も迷惑やろ。
そう自分に心の中で言い聞かせた瞬間、なんか、胸がこう、締め付けられるような感じがした。……迷惑やったんかなぁ。
「…………」
一瞬感じた違和感を誤魔化すようにやや乱暴に髪を拭いていく。
バイク小屋で合羽を脱いで制服姿になり、道を渡って校舎の玄関に向かって走っている途中で響子さんが転んで水溜まりにダイブ。……あの人マジで今日は踏んだり蹴ったりやな。そんな響子さんに本降りの雨の中で肩を貸して玄関まで歩けば僕も全身びしょ濡れだ。
ズボンまで濡れてしまったからポケットのスマホが心配になって取り出してみると、いつの間にか着信があったようで着信を示すLEDが点滅していた。
バイクを運転中に電話がかかってくると、バイクの振動とエンジン音のせいでポケットの中だとまず気づかない。しかも今日は雨だ。ただでさえ視覚的に制限のかかる雨の日に聴覚まで制限してしまうのは危険なので今日はさすがにBluetoothイヤホンも着けていなかった。
「……」
机の下で開いて確認してみれば香奈からだった。
留守電メッセージも残してくれているようなので、Bluetoothイヤホンをつないでメッセージを再生してみる。
『……ゆ、佑樹君。あたし、香奈やけど。……その、なかなか来おへんから心配なんやけど、事故……とかっちゃうよね? 1限目までに来んかったら沙羅さんに連絡するでな?』
あ、そっか。心配してくれとったんやな。だからちょっと気恥ずかしかったんか。そりゃそうやんな。別に彼女を怒らせる心当たりなんかないし。まったく、乃木のアホが変なこと言うから焦ったわ。
なんだかすごくほっとして、そのままRineを送る。
──メッセージ、今聞いた。心配させてごめんな。それと心配してくれてサンキュ!!
こんなとこかな。ピッと送信完了。
数秒後、香奈がのろのろと上体を起こす。スカートのポケットからスマホを取り出して画面を見る。僕からと知ってハッとしたような表情がその横顔に浮かぶ。
そのまま、数秒間画面を注視していた彼女は、僕の方を振り向いて、何故か一瞬泣きそうな顔をして、そのあとばつが悪そうに笑みを浮かべてくれた。
ほっと胸を撫で下ろす。よかった。機嫌を直してくれたようやな。
乃木が「もう和解しやぁしたんかよぉ。ちぇっ、つまらん」などとぶつくさ言っていたが当然無視した。
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