聖植物園日誌

小達出みかん

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身売りで大金ゲット!?

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名刺を差し出した後、堂々とした足取りで酒流は部屋を出て言った。それを確認して医師が言った。
「…中村さん、相手はGNG社だ。何をされるかわかったものではない。やめたほうがいい」
「そんなに、やばい契約ですかね…?」
「彼らは君だけでなく、家族のカルテもすべて要求したよ。本来なら市民の個人情報を企業に横流しするなど言語道断だが…権力に物を言わせて強引に引き抜いたんだ」
「えっ、兄さんと、両親も?」
「ああ。だが数値は君だけがけがずば抜けていた…」
「あの…なんで私だけ、体が丈夫なんでしょうか…?」
 医師は少し考えて言った。
「おそらくメラニンに関しては、先天的、後天的両方の原因があるだろう。もともと肌が強かった上、頻繁に外に出ていたせいでさらに鍛えられたのではないかな。免疫については、自然妊娠で生まれている事も関係あるのかもしれないが…原因はわからない」
「そうですか…」
 確かに家族全員とも体は強いほうだ。その中でも芹花は父に似て色黒な上、よく日に焼かれていた。だがまったく風邪をひかないのは何故だろう…よく落としたものを拾って食べているからだろうか。
(まあ医者もわからないことが、私にわかるわけないか…)
「とにかく、GNG社のことは即答してはいけないよ。私から君の両親にも伝えておくから」
 
家に帰るなり、純子が待ち構えていた。
「メディカルセンターから電話があったけど…芹花、どういうことなの?」
「えっと…」
 芹花は立ちすくんだ。
「とりあえず、その契約書とやらを見せてちょうだい」
 有無を言わさぬその言葉に、芹花は一も二もなく封筒を手渡した。純子はダイニングのイスに腰掛けてそれを読み始めた。父も大樹も、純子の横から書面を覗き込んだ。
「これは一体…?」
「難しいことがずらずら書いてあるなぁ…GNGからスカウトなんて、嘘じゃないのかぁ?」
 父は半信半疑のようだった。
「うーん、でもセンターを通して来たみたいだし…詐欺とかではないと思うんだけど」
 芹花はふと思い出して、もらった名刺を差し出した。
「これ、そのGNGの人の名刺」
 父が受け取る前に、母がそれをひったくって目を通した。
「専務補佐…酒流譲二?今すぐ電話して断るわ。こんな馬鹿げた話」
 母が携帯を取り出したので、芹花は慌てて止めた。
「待ってよ母さん。私やってみたいな、お金だってもらえるし…ダメかな?」
 母の眉がみるみるうちに釣りあがり、芹花は縮こまった。
「あんた、これちゃんと読んだの?終身雇用って契約よ、しかもこちらからは破棄できないって書いてあるわ!死ぬまでその島とやらから出れないかもしれないのよ!こんなの人身売買と同じゃないの!」
「う…そ、それはそうだけど」
「もう二度と会えなくなっていいの?あんたの将来はどうなるのよ、結婚や子どもは…!」
そんな事まで考えていなかった芹花ははっとして黙り込んでしまった。書類に目を通した大樹が噛み砕いて父と芹花に説明した。
「いったん契約してしまったらこちらの都合でやめることは出来なさそうだね。仕事自体は普通そうだけど…。そのGNGの所有する島を勝手に出たり、情報を漏らしてしまったら契約違反で多額の違約金を払わなきゃいけなくなる。そういう契約書だ」
「まるで囚人じゃない!冗談じゃないわ」
 母が吐き捨てるように言った。さすがの芹花もそれ以上自分の希望をいう事はできなかった。母が自分の事を心配しているのが、痛いほどわかったからだ。
「うん……ちょっと、考える」
 芹花は部屋のベッドに寝転んで書類をじっくり眺めた。その隣にモフチーがもそもそと心配そうにやってきて、座った。
(すごい給料だ…本当なら俺に稼げるような額じゃない。でも一生、その島かあ…仕事はしんどいのかな)
 書類には、社の指示通りに野菜を育て実験すること、もう一人の研究員と共に島を管理すること、とある。
(島って、どんなところにあるんだろう)
 島の所在ははっきりとは書いてないが、地域名は記されている。芹花は携帯でその地域の情報を調べてみた。
(わっ、すごいな…)
 写真表示を見て、芹花は驚いた。どこまでも広がる青い空に、目の覚めるようなエメラルドグリーンの海、白い砂浜の写真が端末いっぱいに表示された。
(こんな場所にあるんだ…)
 行ってみたいな、というわくわくした気持ちが芹花の中で沸き起こった。きっとこのチャンスを逃せば一生南の海など見ることはできないだろう。が、家族や友達の顔が頭に浮かぶ。
(父さん、母さんに、兄ちゃん…もう一緒には暮らせないんだ。茉里や友達にも会えない…)
 そう思うと、胃のそこがずーんと重くなるような暗い気持ちになった。
が、芹花はふと気が付いた。
(でも…みんな、いつかは自立するんだよね。ずっと一緒ってわけにはいかない)
 自分も大ちゃんも茉里も、もうすぐ大人だ。学校を卒業して働くなら、家を出る可能性もあるし。新しい家族だってできるかもしれない。
(現にだいちゃんは、大学に通うため引っ越すつもりだったんだし…)
 それに言っていたではないか。縛られることはない、夢に向かっていけと。広い世界を見るのが、自分の夢といえば夢だ。
(…じゃあ、それが早くなるだけか)
 そう思ったとき、芹花は決心がついた。
「でも、モフチーは一緒にきてくれるよね?」
 モフチーはひとしきり芹花の顔を眺めた後、「アオ」と一言返事した。

 酒流はドーム東京にある本社の一室に出向いていた。やたら照明の暗い豪奢なその部屋には、大きな椅子が横にずらりと並んでいる。
 墓標のようだと、密かに酒流は思った。
「酒流、サンクチュアリの後任探しはどうなった?」
「本日正式に決定しました。なんの不足もありませんよ」
 墓に座る死人のような役員達に対し、酒流はにこやかに答えた。
「しかし、今回の君の計画は少々遠まわりではないかね?」
「私もいろいろ考えましたが、これが一番確実な方法かと。生ぬるいですが、その分安全です」
役員たちは老獪な表情で目配せしあって、酒流に告げた。
「では、今後も任せたぞ」
「ありがとうございます。ご期待下さい」
頭を下げながら、酒流はまったく逆の事を考えていた。
――欲得に膨れ上がった老人どもめ。だが、私はお前たちを利用して、目的を果たさせてもらう、絶対に…。
 体は部屋にいながら、酒流の心は早、サンクチュアリへと向かっていた。その名の通り、彼にとってあの島はまさに「聖域」だった。
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