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サチの帰還
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来訪者を告げるブザーが、研究所の1階からけたたましく鳴り響いた。
「やばいっ、もう来た!?」
3階にいた芹花はあわてて部屋から飛びだした。再会するのは2年ぶりだ。あんなに待っていたはずなのに、背中に汗をかくほど緊張していた。
(もういいやっ、行こう…!)
ロビーに人影が見えたので、芹花はドキリとして思わず階段で足を止めた。あちこち跳ねる髪をなでつけたが、ムダな努力だった。
「芹花?…そこですか?」
「わっ、サチ!」
二人は踊り場で向かい合った。2年という歳月がたったが、サチの微笑みもたたずまいも昔と変わらない。だが前より少し顔色がよく、健康に見えた。一方芹花は少し痩せて、背も髪も伸びて様子が変わっていた。
「芹花、今、帰りました。心配をかけましたね。一人で大丈夫…わっ」
彼を目の前にすると、気おくれも恥じらいもすべて吹き飛んで――芹花はこらえきれずサチにかじりついた。
「よかった!サチが戻ってきて…それに前より、元気そう!」
サチは笑って芹花をぎゅっと抱きしめ返した。
「あなたとモフチーのおかげですよ」
「私と…モフチーも?なんで?」
「手術中、モフチーが助けてくれたんです」
芹花はわけがわからず首をかしげた。その時、酒流が飄々とした顔で階段を登ってきた。2人はあわてて体を離した。
「サチは面白い仮説を立てたんだよ、な」
「どういう?」
「芹花君、君の免疫力がずばぬけて高いのは、モフチーくんのせいではないかってね」
自分の話をしているとわかったのか、モフチーも踊り場までやってきて一同を見上げた。
「ワオウ」
「モフチー、ただいま」
サチはかがんでモフチーを抱き上げた。
「芹花は野生動物だったモフチーとの接触を、小さいころから日常的にしていたでしょう。その結果、少しづつ免疫が鍛えられて今のように強くなったのではないでしょうか」
「ええ、そうかなぁ…?」
芹花はあっけにとられた。
「ありえないことではないと教授も言っていました。人は本来、さまざまな異物を取り込み、それに抵抗して勝っていくことにより免疫を強めていくものだと。モフチーと長年接触することにより、芹花もそうなったのではないかと私は推測したんです」
確かに、出会って以来毎日2人は一緒に寝ているし、起きるときはよく顔をなめられている。芹花はしみじみとモフチーをなでた。
「じゃあ、サチが治ったもの元をたどればモフチーのおかげかもしれないんだね…ありがとう」
「それより芹花、なんだかやつれていませんか。一人きりで、辛くはなかったですか」
サチは心配して言ったが、そこへ酒流が口をはさんだ。
「いやいやサチ、観察眼が足りないね。芹花君はやつれたんじゃなくて、2年たって成長したのさ。2年たって女性らしく成長したのさ。髪も伸びたし、ね?」
自分でうなずきながら、酒流は聞いた。
「芹花君は今年いくつだっけか?」
「20になります」
「じゃ、もう成人か。酒も飲めるし、結婚だってできるじゃないか」
何気なく放たれたその言葉に、芹花は一瞬かたまった。
「な、なにを言うんですか、酒流さん!いきなり…」
「事実を述べたまでさ。さて、邪魔者は帰るとするかな」
芹花の見送りも断り、酒流は帰っていった。
「はぁ…酒流さん、わざわざ何しに来たんの…。代表取締役って、暇なの?」
2人と1匹は何とはなしにソファに座った。
「いえ…一応、私達のことを心配してくれている……んじゃないでしょうか」
「そうなの……?」
送り迎えのセキュリティのためではなかろうか。芹花はそう思ったが、黙っておいた。
しばしの沈黙のあと、サチは口をひらいた。
「ところで芹花」
「ん?」
「20才だから結婚できる…んですか?」
「えっ?結婚?そうだね…うん、一応、もう大人だし…」
なぜかしどろもどろの芹花だった。
「結婚とは、具体的にどういう状況をさすのですか?」
「…愛し合う2人が、一緒に暮らしていくこと…かな?」
「それだけですか?」
「それだけじゃなくて…うちの両親みたいに、家族を作ったりもできるし…とにかく一生一緒にいるって約束するのが、結婚かな?」
一生一緒にいて、家族を作る。いい考えだなとサチは思った。
「私達はもう一緒に暮らしているわけですし、あとはどうすれば結婚している事になるのでしょう?」
「それは…って、え?!?!」
芹花の表情が、百面相のようにぐるんと変わった。
「いやですか?」
「い、いやいや、いやとかじゃなくて…結婚は、それだけじゃなくて、他にもいろいろすることがあって…!」
「たとえば?」
「えっ!?何だろう、あっ、指輪買ったり、結婚式とか、その前に両親に挨拶も…いや待って、サチは私のこと、どう思ってるのかな!?」
テンパって聞く芹花に、サチはきょとんとした。
「どう、って…?」
「だ、だって…。お互い愛しあってなきゃ、結婚はしちゃいけないって母さんが…!」
そんなもの、とサチは笑った。
「もちろん、愛しているからに決まってるじゃないですか」
「エッ………」
芹花は放心した。面白い表情になってしまった彼女に、サチは追い討ちをかけた。
「ひどいな。知らなかったんですか…?で、芹花は?」
固まった芹花は、ヤケクソで言った。
「そりゃ…大好き…ですけど…!!!」
「そうですか、よかった」
微笑むサチの顔は以前よりも柔和さを備えていて優しくてで、芹花は一瞬恥ずかしさを忘れてみとれた。
その隙を見逃さず、サチは芹花の唇を奪った。
「……!」
ガチガチに体が固まってしまった芹花だったが、前回とちがって長々としていたので諦めて力を抜いた。そして気が付いた。恋人の腕の中で力を抜くのは、えもいわれず甘美な行為であるという事に。
サチは熱く囁いた。
「芹花、私の本当の家族になってくれますか?」
離れなくなってしまった2人を見上げて、モフチーは大あくびをしたのちソファーを去った。
った。
「やばいっ、もう来た!?」
3階にいた芹花はあわてて部屋から飛びだした。再会するのは2年ぶりだ。あんなに待っていたはずなのに、背中に汗をかくほど緊張していた。
(もういいやっ、行こう…!)
ロビーに人影が見えたので、芹花はドキリとして思わず階段で足を止めた。あちこち跳ねる髪をなでつけたが、ムダな努力だった。
「芹花?…そこですか?」
「わっ、サチ!」
二人は踊り場で向かい合った。2年という歳月がたったが、サチの微笑みもたたずまいも昔と変わらない。だが前より少し顔色がよく、健康に見えた。一方芹花は少し痩せて、背も髪も伸びて様子が変わっていた。
「芹花、今、帰りました。心配をかけましたね。一人で大丈夫…わっ」
彼を目の前にすると、気おくれも恥じらいもすべて吹き飛んで――芹花はこらえきれずサチにかじりついた。
「よかった!サチが戻ってきて…それに前より、元気そう!」
サチは笑って芹花をぎゅっと抱きしめ返した。
「あなたとモフチーのおかげですよ」
「私と…モフチーも?なんで?」
「手術中、モフチーが助けてくれたんです」
芹花はわけがわからず首をかしげた。その時、酒流が飄々とした顔で階段を登ってきた。2人はあわてて体を離した。
「サチは面白い仮説を立てたんだよ、な」
「どういう?」
「芹花君、君の免疫力がずばぬけて高いのは、モフチーくんのせいではないかってね」
自分の話をしているとわかったのか、モフチーも踊り場までやってきて一同を見上げた。
「ワオウ」
「モフチー、ただいま」
サチはかがんでモフチーを抱き上げた。
「芹花は野生動物だったモフチーとの接触を、小さいころから日常的にしていたでしょう。その結果、少しづつ免疫が鍛えられて今のように強くなったのではないでしょうか」
「ええ、そうかなぁ…?」
芹花はあっけにとられた。
「ありえないことではないと教授も言っていました。人は本来、さまざまな異物を取り込み、それに抵抗して勝っていくことにより免疫を強めていくものだと。モフチーと長年接触することにより、芹花もそうなったのではないかと私は推測したんです」
確かに、出会って以来毎日2人は一緒に寝ているし、起きるときはよく顔をなめられている。芹花はしみじみとモフチーをなでた。
「じゃあ、サチが治ったもの元をたどればモフチーのおかげかもしれないんだね…ありがとう」
「それより芹花、なんだかやつれていませんか。一人きりで、辛くはなかったですか」
サチは心配して言ったが、そこへ酒流が口をはさんだ。
「いやいやサチ、観察眼が足りないね。芹花君はやつれたんじゃなくて、2年たって成長したのさ。2年たって女性らしく成長したのさ。髪も伸びたし、ね?」
自分でうなずきながら、酒流は聞いた。
「芹花君は今年いくつだっけか?」
「20になります」
「じゃ、もう成人か。酒も飲めるし、結婚だってできるじゃないか」
何気なく放たれたその言葉に、芹花は一瞬かたまった。
「な、なにを言うんですか、酒流さん!いきなり…」
「事実を述べたまでさ。さて、邪魔者は帰るとするかな」
芹花の見送りも断り、酒流は帰っていった。
「はぁ…酒流さん、わざわざ何しに来たんの…。代表取締役って、暇なの?」
2人と1匹は何とはなしにソファに座った。
「いえ…一応、私達のことを心配してくれている……んじゃないでしょうか」
「そうなの……?」
送り迎えのセキュリティのためではなかろうか。芹花はそう思ったが、黙っておいた。
しばしの沈黙のあと、サチは口をひらいた。
「ところで芹花」
「ん?」
「20才だから結婚できる…んですか?」
「えっ?結婚?そうだね…うん、一応、もう大人だし…」
なぜかしどろもどろの芹花だった。
「結婚とは、具体的にどういう状況をさすのですか?」
「…愛し合う2人が、一緒に暮らしていくこと…かな?」
「それだけですか?」
「それだけじゃなくて…うちの両親みたいに、家族を作ったりもできるし…とにかく一生一緒にいるって約束するのが、結婚かな?」
一生一緒にいて、家族を作る。いい考えだなとサチは思った。
「私達はもう一緒に暮らしているわけですし、あとはどうすれば結婚している事になるのでしょう?」
「それは…って、え?!?!」
芹花の表情が、百面相のようにぐるんと変わった。
「いやですか?」
「い、いやいや、いやとかじゃなくて…結婚は、それだけじゃなくて、他にもいろいろすることがあって…!」
「たとえば?」
「えっ!?何だろう、あっ、指輪買ったり、結婚式とか、その前に両親に挨拶も…いや待って、サチは私のこと、どう思ってるのかな!?」
テンパって聞く芹花に、サチはきょとんとした。
「どう、って…?」
「だ、だって…。お互い愛しあってなきゃ、結婚はしちゃいけないって母さんが…!」
そんなもの、とサチは笑った。
「もちろん、愛しているからに決まってるじゃないですか」
「エッ………」
芹花は放心した。面白い表情になってしまった彼女に、サチは追い討ちをかけた。
「ひどいな。知らなかったんですか…?で、芹花は?」
固まった芹花は、ヤケクソで言った。
「そりゃ…大好き…ですけど…!!!」
「そうですか、よかった」
微笑むサチの顔は以前よりも柔和さを備えていて優しくてで、芹花は一瞬恥ずかしさを忘れてみとれた。
その隙を見逃さず、サチは芹花の唇を奪った。
「……!」
ガチガチに体が固まってしまった芹花だったが、前回とちがって長々としていたので諦めて力を抜いた。そして気が付いた。恋人の腕の中で力を抜くのは、えもいわれず甘美な行為であるという事に。
サチは熱く囁いた。
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