ひどい目

小達出みかん

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年末は楽し

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「…ゆき」


「…はい」


「今月に入ってきみが割った皿は何枚かな?」


 年の瀬、皆がばたばたと忙しい師走。千寿は割れた陶器の欠片を手にゆきに説教していた。


「じゅ、じゅういちまい…です…」


「ゆきがそんなんだからっ!私はおちおち目も離せないよ!」


「ご、ごめんなさい…」


 しゅんとするゆき。


「じゃあこれ、片して。手を切らないように気をつけるんだよ、ハァ…で、それ終わったら私の部屋においで」


「えっ?あ、ハイッ」


 返事は良い。それに素直だ。だが致命的なこのドジッぷりは、なんなのだろうか…。

 千寿は自分の部屋の掃除をはじめた。禿が来たから、掃除や着物の用意、お湯の準備など自分でやらない上げ膳据え膳生活が享受できるかな、と期待していたが甘かった。むしろゆきの尻拭いという仕事が増えた。


「これじゃあ先が心配…」


 だが、美点もある。夢政の秘蔵ッ子だっただけに、姿かたちはとても美しい。目鼻立ちは愛らしく整っていて、これからどう育っていくのか楽しみに感じられる。そして性格も裏がなく素直で、舞に関しては指導をすぐ吸収し上達も早い。だが。だが。


「何しろドジっ子すぎる…」


 心労に肩をまわしながら、千寿は棚の奥から用意してあった包みを取り出した。するとちょうどそこにゆきが戻ってきた。


「千寿さま、終わりました」


「ハイハイ、じゃあこっち来て」


「はい…」


 不安そうな面持ちでゆきがいざりよってくる。


「これ、ゆきの。開けてごらん」


 千寿は包みをゆきに渡した。ゆきが開くと、中から鮮やかな衣が出てきた。


「千寿様、これは…?」


「ゆきの正月の晴れ着」


 千寿がにっこり笑うと、やっとゆきも笑顔にもどった。


「本当ですか?千寿さま!」


「ちょっと着てごらんよ」


 千寿は浮き浮きと衣装をゆきに着せ掛けた。女はいくつになっても着せ変かえ遊びがすきなものである。


「正月らしいのを作らせたんだ。ほら、よく似合う」


 桜色と朱鷺とき色の花が浮かぶ可憐な振袖は、ゆきの少年とも少女ともつかぬ魅力を見事にひきだしていた。


「正月の初売りはこれを着るんだよ。私はみそかの晩から揚屋だけど、ひとりでできるね?」


 ゆきはコクンと頷いた。


「…正月にゆきを一人にするのは心配なんだけどねえ…」


「だっ大丈夫です!千寿様が安心して仕事できるよう、頑張ります!」


「粗そうのないようにね。それと…」

 不意に階下から華やかな歓声が聞こえてきた。


「なんでしょう?」


 ゆきがたたっと廊下の先を覗く。階段の下で、少女たちが色さまざまな衣装を身に付けてはしゃいでい

るのだった。


「こら!女の子がそんなおおっぴらに着替ちゃだめ!」


 と、そこへ梓が現れて一喝した。少女達はきゃっきゃと嬉しそうに座敷の奥へ引っ込んだ。


「わあ…」


 蝶の群れのような華やかさに、ゆきはため息を漏らした。


「あれだけの禿の衣装を用意するとは、梓さんもふとっぱらだな」


 後ろから千寿もつぶやいた。


「さすがお職ですね…ん?」


 ふと、階下から足音がし、ゆき視線を階段に向けた。先ほどの少女の中からさよが一人、こちらへ上がってきた。


「ん?なあに」


 さよは階段をのぼったからか、衣装のせいか、なかば顔を紅くしていた。紅梅の小袖に金蘭のだらりと

新春の少女にふさわしいめでたいいでたちだ。さよは千寿を認め用を告げた。


「梓ねえさんが呼んでます。下にいらしてくださいますか」


「わかったよ。ゆき、後片付けをお願いね」


 千寿はゆきとさよを残し階段に足を掛けた。なにげなく振り向くと、ゆきは顔を真っ赤にしてさよと言葉を交しているようだった。


 ははーん、あとでからかってやらなきゃな。ちょっと意地悪にそう思ったが、薄桜の少年と紅梅の少女が向き合っているさまはまるで草紙の挿絵のようにかわいらしく、千寿はちょっと眺めてから階下に降りた。


「おう千寿、悪いな」


 階下の座敷には、松風と梓が座していた。


「いえ。何か?」


 千寿も正座した。


「この時期はなにかと物入りです。なので、あなた方にも手伝ってもらいます」


 松風が書きつけを取り出して千寿と梓に渡した。


「はい?」


「それぞれ、書いてあるものを店や針子たちから受け取ってきてください」


「そんなの雑用係にやらせりゃいーのにね」


 梓がぼやく。


「年末で人手が足りなくてですね。いろいろ買い損なったものや受取り忘れたものがあるし…あなたの衣

装や、割れた皿だとかね」


 松風に痛い所を突かれた。


「うっ…そうですか」


「正月の費用が馬鹿にならないね、こりゃ」


 梓は書き付けを千寿の横から覗き込んだ。ずらっとさまざまな品物の名と代金が記してある。端数まで。


「細かいですね…」


「当然です。ああ、鈴鹿にもこれを渡さなくては」


 そしてスパンと襖を閉め出て行った。相変わらず、見事な立ち振る舞いである。


「何?松風に見惚れてんの?」


 すかさず梓が揶揄する。


「いえなんと言うか…この店で一番立ち振る舞いが完璧なのって、松風さんだなあって…」


「…俺たちを差し置いて、図々しい奴だよな」


「そうは思いませんが」


「千寿って、鈴鹿以外誰にも「さん」付けだよな。めんどくない?」


「いえ」


「そうそう二言目には、「いえ」「けっこうです」だよな」


 くっくっと梓が笑う。千寿は無視して外出用の羽織を着込んだ。


「なあ、別々に行くのも面倒だし手分けして2人で済ませちまおうぜ」


 ゆきの一件以来、2人はなんとなく元の仲に戻った。梓も、軽口は叩いてくるが手を出してくることはなくなった



 千寿は少し迷ったが、承知した。
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