ひどい目

小達出みかん

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年末は楽し年末(2)

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郭町の外れの市までは、けっこう時間がかかった。遊郭街の中とはいえ、年の瀬であの店この店、こぞって押しかけ賑やかだ。


「おっ、いろんな店があるねー」


 梓は嬉しそうに市に足を踏み入れた。人混みの中、千寿は見失わないのが精一杯だ。


「待ってください、梓さん」


「千寿遅い!置いてくぞっ」


 千寿が走ってくるころには、もう注文してあった皿を抱えていて、千寿はその手際のよさに舌を巻いた。


「うーわ、重っ。千寿持って」


 そりゃあ、重いだろう。十一枚もあるのだから。千寿は手を差し出した。


「持ちますよ。仰せのとおりに」


「いや冗談なんだけど…」


「いえ、皿については私の責任なんで」


「そうだな、割れた皿でゆきと遊んでたしな」


「…!」


 なぜ、それを…?千寿は言葉につまった。


「いちまーい、にまーい…って、千寿なかなか迫力あったぞ」


 そう、あんまりにもゆきが割るので、怪談で脅してやろうと思ったのに、ゆきは面白がって、最後は二

人で皿屋敷ごっこになったのだった。


「二人して子供だなー」


「……………………そうですね」


 ぐうの音も出ない千寿を尻目に、梓は笑いながら次の店に向かった。


「ああ重い。帰りましょう梓さん」


 買い物も終わり、両手いっぱいに物を抱えて千寿は言った。が、ふと振り返ると梓がいない。


「あっ、あんなところに」


 《薬し》と、看板を出している店先で、いかにも怪しげな親父となにやら話している。


「梓さん、もう帰りますよ」


「ねー千寿、ちょっとコレ見てみてよ」


「何ですか?」


 梓の掌の上に、懐紙に載せた丸薬が乗っている。


「ちょっとくってみなよ」


「嫌ですよ、何ですかその怪しげな薬」


「この店主が言うには、たけり丸だってさ。イモリの黒焼きもあるって」


 どちらも動物由来の媚薬として有名なものだ。千寿は顔をしかめた。


「そんなのニセモノにきまってるじゃないですか。本物だとしてもオットセイやイモリなんて…嫌!ぞっとします。早く戻りましょう」


「…説教くさいな。千寿は」


 そして、丸薬をぽいっと口の中にほうりこんだ。


「あっ!」


「うーーまっず…」


「なんてことを…出すんです、出してください梓さんっ!」


「こんなところでそんな卑猥なこと言うなよ」


「ちがいますっ何バカなこと言ってんですか、早く吐いてください」


「何ムキになってんの」


 梓は平気な顔でごっくんとそれをのみこんだ。原材料を想像した千寿は再び顔をしかめた。


「…オットセイのあそこ…うええ…」


「そう思うとオツな味だな」


「はぁ…もういいですから、帰りましょう」


 梓は顔をしかめた。


「うーん、まずかったわりに効かねぇなー」


「ほら、やっぱりニセモノだったんですよ」


 千寿はここぞとばかりに言った。


「そうかなー。千寿もちょっと試してみてよ」


 ぎゅっと抵抗する間もまく鼻をつままれた。


「は!?嫌で…ぐふっ…」


しまった!口を空けてしまった瞬間に、無常にも喉の奥に丸薬が放りこまれた。


「おえーっっげほっ…苦っ…」


「だろー?」


「だろーじゃないですよ!何するんですか!」


 げほげほと咳き込みながら千寿は梓を睨んだ。


「とにかく帰りますっ。これ、もってくださいねっ」


 千寿は憤慨し、重い荷物を全て梓に押し付けた。


(まったく、梓ときたら…!)


 一人で歩き出すと、後ろから梓が能天気な声で言った。


「どう、効いてきたー?」


「どこが!」


 と言った瞬間、千寿は青ざめた。何か、下半身が痺れている。


「えっ…なにこれ…?」


「ん?どうしたんだよ舞姫様?」


 梓がからかう。しかしそれどころではない。


「か、感覚が、ない…」


 足踏みしても、ぎゅっとつまんでも、何も感じない。


「うそ、どうしよう…」


 冗談じゃない、梓のせいで。千寿が動揺していたら、追いついた梓が顔を覗きこんできた。


「え?なに?利かないの?」


「そうじゃなくて、なんか、感覚がないんです!下半身に!」


「ありゃー…千寿には合わなかったのかな。俺は結構ギンギンだけど」


「まずいわりに効かないってさっき言ってたじゃないですかっ!」


 そういう梓の股間は…いや、見ないでおこう。


「大丈夫大丈夫、俺もそうなったことあるけど、ちゃんと直るから」


 梓が千寿の手をぐいとひっぱって歩き出した。


「ちょっとどこ行くんですかっ、そっちは見世じゃないですよっ」


 千寿の叫びを無視して、梓は見知らぬ建物へ千寿をひっぱっていった。


「なんです、ここ…?」


 千寿はこわごわと周りを見渡した。場違いに手入れの行き届いた玄関だ。


「ん?知らねえの?まあついてこいよ」


 すたすたと梓は奥の部屋に入っていった。こんな得体の知れないところに一人にされちゃたまらない。荷物を持ち上げ仕方なしに千寿はついていった。
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