ひどい目

小達出みかん

文字の大きさ
27 / 54

年末は楽し年末(2)

しおりを挟む
郭町の外れの市までは、けっこう時間がかかった。遊郭街の中とはいえ、年の瀬であの店この店、こぞって押しかけ賑やかだ。


「おっ、いろんな店があるねー」


 梓は嬉しそうに市に足を踏み入れた。人混みの中、千寿は見失わないのが精一杯だ。


「待ってください、梓さん」


「千寿遅い!置いてくぞっ」


 千寿が走ってくるころには、もう注文してあった皿を抱えていて、千寿はその手際のよさに舌を巻いた。


「うーわ、重っ。千寿持って」


 そりゃあ、重いだろう。十一枚もあるのだから。千寿は手を差し出した。


「持ちますよ。仰せのとおりに」


「いや冗談なんだけど…」


「いえ、皿については私の責任なんで」


「そうだな、割れた皿でゆきと遊んでたしな」


「…!」


 なぜ、それを…?千寿は言葉につまった。


「いちまーい、にまーい…って、千寿なかなか迫力あったぞ」


 そう、あんまりにもゆきが割るので、怪談で脅してやろうと思ったのに、ゆきは面白がって、最後は二

人で皿屋敷ごっこになったのだった。


「二人して子供だなー」


「……………………そうですね」


 ぐうの音も出ない千寿を尻目に、梓は笑いながら次の店に向かった。


「ああ重い。帰りましょう梓さん」


 買い物も終わり、両手いっぱいに物を抱えて千寿は言った。が、ふと振り返ると梓がいない。


「あっ、あんなところに」


 《薬し》と、看板を出している店先で、いかにも怪しげな親父となにやら話している。


「梓さん、もう帰りますよ」


「ねー千寿、ちょっとコレ見てみてよ」


「何ですか?」


 梓の掌の上に、懐紙に載せた丸薬が乗っている。


「ちょっとくってみなよ」


「嫌ですよ、何ですかその怪しげな薬」


「この店主が言うには、たけり丸だってさ。イモリの黒焼きもあるって」


 どちらも動物由来の媚薬として有名なものだ。千寿は顔をしかめた。


「そんなのニセモノにきまってるじゃないですか。本物だとしてもオットセイやイモリなんて…嫌!ぞっとします。早く戻りましょう」


「…説教くさいな。千寿は」


 そして、丸薬をぽいっと口の中にほうりこんだ。


「あっ!」


「うーーまっず…」


「なんてことを…出すんです、出してください梓さんっ!」


「こんなところでそんな卑猥なこと言うなよ」


「ちがいますっ何バカなこと言ってんですか、早く吐いてください」


「何ムキになってんの」


 梓は平気な顔でごっくんとそれをのみこんだ。原材料を想像した千寿は再び顔をしかめた。


「…オットセイのあそこ…うええ…」


「そう思うとオツな味だな」


「はぁ…もういいですから、帰りましょう」


 梓は顔をしかめた。


「うーん、まずかったわりに効かねぇなー」


「ほら、やっぱりニセモノだったんですよ」


 千寿はここぞとばかりに言った。


「そうかなー。千寿もちょっと試してみてよ」


 ぎゅっと抵抗する間もまく鼻をつままれた。


「は!?嫌で…ぐふっ…」


しまった!口を空けてしまった瞬間に、無常にも喉の奥に丸薬が放りこまれた。


「おえーっっげほっ…苦っ…」


「だろー?」


「だろーじゃないですよ!何するんですか!」


 げほげほと咳き込みながら千寿は梓を睨んだ。


「とにかく帰りますっ。これ、もってくださいねっ」


 千寿は憤慨し、重い荷物を全て梓に押し付けた。


(まったく、梓ときたら…!)


 一人で歩き出すと、後ろから梓が能天気な声で言った。


「どう、効いてきたー?」


「どこが!」


 と言った瞬間、千寿は青ざめた。何か、下半身が痺れている。


「えっ…なにこれ…?」


「ん?どうしたんだよ舞姫様?」


 梓がからかう。しかしそれどころではない。


「か、感覚が、ない…」


 足踏みしても、ぎゅっとつまんでも、何も感じない。


「うそ、どうしよう…」


 冗談じゃない、梓のせいで。千寿が動揺していたら、追いついた梓が顔を覗きこんできた。


「え?なに?利かないの?」


「そうじゃなくて、なんか、感覚がないんです!下半身に!」


「ありゃー…千寿には合わなかったのかな。俺は結構ギンギンだけど」


「まずいわりに効かないってさっき言ってたじゃないですかっ!」


 そういう梓の股間は…いや、見ないでおこう。


「大丈夫大丈夫、俺もそうなったことあるけど、ちゃんと直るから」


 梓が千寿の手をぐいとひっぱって歩き出した。


「ちょっとどこ行くんですかっ、そっちは見世じゃないですよっ」


 千寿の叫びを無視して、梓は見知らぬ建物へ千寿をひっぱっていった。


「なんです、ここ…?」


 千寿はこわごわと周りを見渡した。場違いに手入れの行き届いた玄関だ。


「ん?知らねえの?まあついてこいよ」


 すたすたと梓は奥の部屋に入っていった。こんな得体の知れないところに一人にされちゃたまらない。荷物を持ち上げ仕方なしに千寿はついていった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

女の子がほとんど産まれない国に転生しました。

さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。 100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳 そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。 当面は2日に1話更新予定!

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

処理中です...