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涙の別れの桜雨(3)
しおりを挟むしっかりしなきゃ、しっかりしなきゃと言い聞かせながら千寿は自分の部屋に戻った。
ふすまをしめて一人になると、膝からへなへなと崩れ落ちた。手足が小刻みにふるえている。
(だめ、しっかりしなきゃ)
必死に自分を奮い立たせているところに、ゆきが入ってきた。
「千寿姉さま!」
「あ・・・ゆき。どうしたの・・・?」
必死で平静を装って尋ねる。
「これ、お手紙・・・文使いから預かりました」
「・・・かして」
千寿はゆきから手紙を受け取った。おさえようとしたが、手が震えてしまう。
「姉さま、大丈夫・・・?」
「うん、これを読ませてもらうから・・・ちょっと一人にしてもらえる?」
「・・・はい」
ゆきはとても心配そうに下がっていった。それを見届け、千寿は手紙を広げた。
「千寿、ごめんね。しばらく行けそうにない。でも絶対にまた会いに行くからね。
それまで預かっていてね。大好きだよ」
中には夕那が大事にしていた根付が入っていた。少女をかたどったもので、撫子に似ていたから買ったと言っていたのを千寿は悲しく思い出した。彫りは細かく繊細で、決して安価なものではないはずだ。
(ダメ、返さなきゃ)
彼はもう、ここに来てはいけない。千寿は最後の手紙を書こうとした。だが。
(何て・・・・・書こう・・・・。)
伝えたいことはたくさんある。だがどれも辛い言葉になってしまう。それならいっそ何も書かないほうが良い。
根付を元どおり紙につつみなおすと、千寿は気力をふりしぼって通りへ出た。
「お、千寿太夫。ご入用ですか」
すぐに千寿を見つけた文使いの男にそれを託した。
「家の人に見つからないよう、本人にこっそり渡してね。・・・難しいだろうけど、これが最後だから」
「旦那のほうからまた文があったら、どうしやすか?」
「・・・受け取らないで。あ、代金もね。私のほうで出すから」
「へえ・・・。その・・・」
こんな使いはなれっこのはずの文使いの男が、めずらしもごもごと歯切れがわるい。
「どうしたの?これじゃ足りない?」
「いや・・・その。千寿さん、あんたえらいやせたよ。大丈夫かい?」
そんなにまでやつれているんだろうか。千寿はぼんやりと頬に手をやった。
「俺が届けた文のせいであんたがそうなったんじゃ、寝覚めが悪いや」
文使いは頭をかきながらそう言った。
「そう・・・大丈夫よ・・・。それ、よろしくね」
目がかすむ。たっているのもギリギリだ。文使いが心配するのも無理はない。千寿の足取りはふらふらとたよりない。
「千寿、常連の旦那様がお見えです」
ほうほうの体で見世までもどった千寿に、そう声がかかった。
「はい・・・・」
千寿は精一杯平気なふりをした。
客に抱かれている間も、必死でいつもどおり痴態を演じた。
「ここか?ここが良いのか?」
客はこれでもかと指に力を入れて千寿の中を力任せにかきまわす。入り口がひりひりし、中も無理やり押し入られズキズキする。
(痛い・・・やめて・・・・)
「おおそうか、気持ちいいか。コレがほしいか?」
男のものが千寿の中に押し込められる。先ほど痛くされた場所に、容赦なくつきささる。中から血がにじむのを感じた。男が腰を振るたびに痛みは強まって、まるで拷問だ。
ここまでされると、数日間は痛むだろう。だがそそれでも客をとらなければならない。
(痛い・・・くそっ・・・もう嫌・・・・嫌・・・・!)
いつもだったらもっとうまくかわせる。この痛みも、屈辱も。
(夕那・・・・夕那・・・助けて・・・)
本当に助けてくれなくてもいい、ただ会いたい。それだけで生きようと思えた。だが彼を失った今は。
(私、なんのために生きてるの?・・・・何でこんなこと、してるの・・・?)
遊女を続けたくない。そうなったら選択肢は一つしかない。死だ。
(もう良い・・それで良い・・・・失うものなんてないもの。ここから、逃げたい)
千寿の頬に涙がつたった。それを見て、客は喜色満面で言った。
「おお千寿、泣くほどわしのが良かったか。いやらしい女だな・・・!」
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