ひどい目

小達出みかん

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大空を求めて(7)

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お茶が出て、4人は膝を付き合わせた。


「多分、金は5、60両かかると思う。そこでー」


 言いかけた梓を、千寿がさえぎった。


「私、かきあつめたら10両は用意できました。ここに持っています。その他は・・・貸してください」


 そういって財布を差し出し、頭を下げた。


「俺もできる限りだす。で、結局間に合いそうなのか?」


 菊染は梓に聞いた。


「安心しな。俺もあてができたし余裕でまかなえっから」


「本当かよ?」


 疑わしげな視線を菊染は向けた。


「なんなら俺だけでもなんとかなるぜ。」


 梓はどこからか風呂敷包みを取り出した。


「そ、それは、まさか・・・」


「そのまさか」


 梓は風呂敷を解いて、中身の箱を開けた。


「せ、千両箱だ・・・・!初めて見た」


 びっくりする千寿を尻目に、梓は説明した。


「50両ほどある。ここれにちょっと色をつければ多分イケるだろ」


「そ、それはさすがに悪いです。それに、いずれはお返しします」


「というかそんな大金、どこで手に入れたんだよ。」


「んーまあ、いろいろあって。悪銭じゃねえからそこは安心してくれ」


 ああでもない、こうでもないと話しあい、結局全員それぞれ出せる銭を出すというところへ落ちついた。


「ふう、でもまあ、なんとかなってよかった」


 しみじみと菊染が言った。


「皆・・・ありがとうございます、ちゃんとお返しします」


「あのなあ、いいって言ってるんだからありがたく受け取れよ」


「そういうとこだぞ」


「でも・・・」


 食い下がる千寿に、筝琴が言った。


「口をはさむようでナンですが。千寿、私の分は返す必要はないですよ。親同然なのですから。ただお二方には借用書をお渡ししなさい。あなたがいずれ返すつもりならば」


「はい、そうしたいです」


 千寿はその場でさらさらと書面を書き上げ、二人に渡した。


「はい、これをもってて下さい。2人とも、なくしちゃダメですよ」


 そしてにっこり笑った。


「これで、外へ出た後も2人に縁ができました」


 その無邪気な笑みに、2人とも受け取るほかなかった。


「そして、私は今日、これらを持って千寿を請け出す相談を見世にもちこめばよいのですね」


 筝琴が金の詰まった袋を手に言った。


「ああ。その時、俺や菊染が手をかしたとバレるとまずいから、2人ともはじめて再開したフリをして欲しい」


「心得ました。私は舞姫の噂を聞いて立ち寄ったことにしましょう」


「頼みます」


 梓と千寿は頭を下げた。


「で、俺たち2人は?」


 菊染が話を次へ進めた。


「灯紫と師匠の間で、請け出しの日取りが決まるだろうから俺たちも一緒に行く。以上」


「大丈夫かよ?怪しまれるぜ」


「菊染、お前は今やいつでも出て行ける身だろう。俺もそうだ。なら千寿と同じ日だって誰も文句は言わない」


「でも・・・その、お前のほうは決着ついたのかよ」


 菊染は言葉を濁してたずねた。


「ああ、灯紫にも話しは通した。いつ出て行ってもいいってさ。ただ松風にみつかると面倒だからこっそり行けって、条件つけられたけど」


「梓は・・・彼に借金でもあるのですか?」


 千寿がおずおずと口を挟んだ。


「いや、俺の借金はもう全部返した。事実上だけど。でも返したは返したんだからアイツには文句言わせねえよ」


「それで納得するのかよ、あいつ」


「ああ、させてやる。やっと金を返し終えたんだから。堂々と出ていったっていいくらいだぜ」


 梓はそう言い切った。


「あ、あの・・・こんなこと聞いていいのかわからないんだけど、その・・・」


 千寿が言いにくそうに切りだした。


「なんだよ?」


「松風と梓の関係って・・・お金、だけなの?」


「あ?どういう事だよ」


「昔、恋人だったとか、そういう・・・・?」


「ぶっッ・・・・・ゲホッゲホッ」


 菊染が茶にむせた。


「大丈夫ですか、菊染さん」


 筝琴がその背中をさすった。


「ほら、千寿が変な事言うから菊染がおかしくなっちまったじゃねーか」


「いや・・・げほっ・・・・梓・・・・」


 菊染が息を整えながら言葉をしぼりだした。


「正直・・・俺も気になってた。あいつがあんたに執着するのは、本当に金だけなのか?この際聞くけど、あんたら二人の間に、惚れた腫れたは無いんだよな?」


「そうですよ梓、恋愛がからむと、いくら借金を清算したといってもあっちは納得しない可能性が・・・」


「おいおい・・・おめーらなあ・・・」


 呆れる梓を前に、千寿は続けた。


「その・・・そういうことは、2人のあいだにあったのですか?肉体関係は・・・」


「ねーよッ。気色悪いことを言うなッ。アイツと抱き合ったことなんて一度も・・・・・アレ?」


(アレ・・・・・・・!?)


 首をかしげた梓に、菊染と千寿は固まった。


「あー・・・・・陰間の手解きを俺にしたのは、あいつだったな。そういえば」


「手解き?!」


「たいした事じゃねえ、あんなの誰がやっても同じなんだからよ」


「と、いうことは・・・・梓の最初の人は・・・・?」


「だーーッ、うるせーっ。だから何だってんだよ、仕事のうちだよ!お互い何の感情もねえよ!」


(という事は・・・私と松風は一応・・・・竿姉妹?!いや、穴兄弟・・・?!いやダメだ、わからない・・・・)


 顔を白黒させながら、ぐるぐる考える千寿。


「おい、千寿お前、今すげえ失礼なこと考えてるだろ」


「いや、そんなっ、何も考えてませんよ!」


「あー、やめやめ!」


 菊染が2人の間に割って入った。


「とにかく!梓と松風の間で、痴情のもつれがおきる可能性はない、ってことでいいのか?」


「ああ、お互いそんな気持ちはこれっぱかしもねえよ」


 梓は言い切ったものの、菊染はちょっと不安だった。


「わかった。でも何かあったら嫌だから・・・当日、お前と俺は朝早く出るぞ。そんで千寿たちが来るのを外で待つ。それでいいな?」


「でもお前、最後のあいさつとかいいの?」


「そういうのは、前日に済ませておくよ」


「悪いな、へへッ」


「よっし、じゃあ話しはきまったな」


 4人はそれぞれ顔を見合わせた。急ごしらえだが、たしかな連帯感が生まれていた。






 帰って千寿は、さりげなく部屋の片付をはじめた。


 もともとそう持ち物は多くないが、中には客からもらった高価なものもある。


(この着物は、りんにゆずってやろう。こっちの手習い道具一式はゆきに、あと・・・)


 普通身請けされる場合は、後輩や見世に盛大に祝儀をふりまかなくてはならない。


 だが親元身請けとなればその必要はない・・・のだが、千寿の胸のうちには後ろめたさがある。


(こんな唐突に2人を置いて出て行ってしまうのは・・・やっぱり申し訳ない・・・)


 だから、できる限りのことをしてやりたい。価値のあるものはすべて2人にのこしていこうと千寿は思った。


 そうして持ち物を分けた結果、千寿が持って出て行くものは驚くほど少なくなった。


(これでよし・・・)


 そこへゆきがあわてて駆け込んできた。

「ね、ねえさま。灯紫様が呼んでいます。なんでも高名な方が千寿ねえさまに会いたいとかで・・・」



 ドキンと心臓が高鳴る。


(来たか)


 計画してくれたのは梓たちだが、無事に出られるかはここにかかっている。灯紫と松風を、納得させなければいけない。


(しっかりしろ、千寿)


 内心で自分をしかりつけ、灯紫たちの待つ部屋へむかった。


「千寿でございます。お呼びでしょうか」


 部屋には灯紫、松風、筝琴がすでに座っていた。千寿は筝琴に目をとめて、心底驚いた表情を作った。


「し、師匠・・・・!」


「撫子・・・・あなたなのですね・・・・?」


 筝琴はゆらりと立ち上がり、千寿をじっくりと見た。


「生きていたとは・・・・・!」


 そして千寿の手を取った。その目には涙が浮かんでいる。

 さすがの演技だった。千寿も負けじと手を握り返した。


「師匠・・・・もう二度と・・・・あえることはないと・・・思っていました・・・」


 ひしと抱き合う2人に、松風が声をかけた。


「あの、おふたかた。そろそろ」


 師匠はやっと千寿をはなした。


「ああ、すみません。つい感極まってしまい・・・」


 懐から手布を取り出して涙を抑えた。芸が細かい。灯紫がそこへ座布団をすすめた。


「さあ、どちらも座って。千寿、たったいまこのお人からお前の身の上話を伺ったんだがね。このお人がお前の親だったのかい。間違いないのかい」


「はい・・・・私の先生で、育ての親です。間違いありません・・・・。」


「本当に、あの事さえなければ・・・。私は今でも川を見るのが辛いのですよ」


 筝琴がクスンと鼻をかんだ。


「まさか遊女になっていたとは。・・・・でも、見つかって本当によかった。ずっと探していたのですよ。彼女こそ、私の技を継承するに足る唯一の弟子なのですから」


「ええ、お話しはよくわかりました」


 松風がにべもなく言う。その表情はいつもどおり冷ややかで、疑っているのか淡々と金勘定をしているのか、その心の内はまったく読み取れない。


「で、千寿。筝琴さんはあんたを買い戻したいと言っている。」


 灯紫は続けた。


「あんたも異存はないかい?」


「も、もちろんです」


 そう答える千寿のほうへ、松風がチラリと視線を向けた。千寿は内心、震え上がった。


「では、金額と日取りは三人で取り決めます。あなたは下がって仕事に戻りなさい」


 だが、松風はいつもどおり冷淡な口調でそう告げただけだった。


「・・・はい、失礼しました」


 ほっとした千寿は言われるがままに部屋を後にした。
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