鬼様に生贄として捧げられたはずが、なぜか溺愛花嫁生活を送っています!?

小達出みかん

文字の大きさ
3 / 29

鬼の住処

しおりを挟む
白狐の案内でようやっと「鬼の住処」へ澪子はたどり着いた。霧で視界が悪い上、かなりきついみちゆきだったので、澪子はまず膝に手をついてぜいぜいと呼吸を整えた。

「行クゾ」

 狐がそっけなく言ったので、澪子は顔を上げて、藪の中に忽然と現れた門をくぐった。

「わ…」

 中の景色を見て、澪子は思わず驚きの声を漏らした。ようやっと霧が晴れ、目の前に現れたのは池のある花咲く庭だった。その向こうには、たくさんの屋根と透廊を持つ、大きな御殿がたっていた。

「こ、ここ本当におに…じゃなくて、あなたのご主人様のお家なの?」

 名前といいこの屋敷構えといい、鬼の住処とは思えない。もしかして間違って案内されたのだろうか。

「ソウダ」

 狐は萩や竜胆の咲く庭をずかずかと横切り、屋敷へと上がった。そしてやや広い床敷きの部屋へ、狐は澪子を案内した。

「ココデ待テ」
 
ぶっきらぼうにそう言い捨てて、狐はしゅっと姿を消した。澪子はにわかに、手に汗がにじむのを感じた。懐に差し入れた書状をぎゅっと握り目を閉じると、いやでもこの後起こる事が想像される。

(私は…食われるんだ)

 痛いだろうか。けど、もう逃れようもない事だ。泰信さんのため、神社のため、せめて役に立たなければ。必死に自分にそう言い聞かせた時、誰かが吐息交じりに笑う声がした。澪子はぎょっとして目を開けた。
戸を開ける音も、誰かが入ってくる気配もなかったのに、露草色の単衣を着流した男が目の前に座っていた。澪子は思わずあとずさった。

「…あ…っ」

驚きで、澪子の声がひきつった。この男が、鬼なのだろうか?端正な顔立ちに、白い肌。あまりに鬼らしからぬ外見だ。だが、流れるような白銀の髪の間から、2本の角がのぞいている。薄紫のその目は、静かな笑みをたたえてじっと澪子を見ていた。

「やっと来ましたね。待っていたんですよ」
 
なめらかな低い声で鬼は言った。
澪子は震える手で書状を彼に差し出した。待っていた?それは、腹が減っているという事だろうか。

「どうぞこれを…私は、ふもとの青井神社の使いのものです」

 彼はそれを受け取り、はらりと開いてさっと目を通した。

「…この庭の水源を明け渡す見返りとして、あなたを…」

 静かにそう言った彼の前に、澪子はそろそろと両手をついて頭を下げた。

「は、はい…」

 畳についた澪子の手のひらに、じわりと汗がにじむ。しかし、鬼は静かに言った。

「顔を上げて下さい」

 命じられるままに、澪子は体を起こした。彼は書状に目を落としたまま言った。

「まず結論を言いますと…水源を明け渡す事はできません。この山の上の領域は封印されていて、私の自由にはできないのです。ですが…一つだけ、水源をあなたがたに開放する方法があります」

 澪子は震える声で聞き返した。

「そ、それは…?」

 彼は書状から目を上げて、じっと澪子を見た。それはまるで、ずっと会えなかった親しい人にやっと会えたような、熱のこもったまなざしだった。けれど身に覚えのない澪子は、ただただ体を小さくして答えを待っていた。

「私が死ねば、おそらく水源の封印は解けるでしょう」

 鬼は澪子の前に、短い刀を置いた。

「なので、私を殺してかまいませんよ」

 想像もしなかった展開に、澪子は息のんだ。自分がこの鬼を、殺す…?
 言う通りにすれば、水が青井神社のものになるのだろうか?澪子はそっと短刀を手に取って彼を見た。

「さぁ、どうぞ」

 鬼は単衣の襟を広げて、引き締まった胸板を晒した。自分などよりもよほど白くすべらかな肌だ。そこに刃を突き立てる事を想像すると、澪子の手は凍り付いた。

「で…でき、できないです」

 短刀を畳の上に戻した澪子を見て、鬼は澪子の方へといざりよった。

「なぜですか?私は鬼なのですよ」

「で、でも…でも無理です」

 鬼はさらに距離を詰めた。澪子は思わず後さずった。

「遠慮することなどないのですよ。私の命はあなたに差し上げますから」

 なぜこの鬼は、こんな事を言うのだろう。迫られるままにずるずると後ろへ下がった澪子の背が、壁に当たった。もう下がれなかった。

「いきなり人を刺せと言われても…で、できません」

「悪い鬼でも?」

 彼は至近距離で澪子の顔を覗き込んで言った。澪子は必死でうなずいた。そんな澪子の耳元に、彼は唇を寄せた。

「…ああ、あなたはやっぱり優しい」

 彼の腕が、そのままぎゅっと澪子の身体を抱きしめた。その力の強さに、澪子は身を固くした。

(…食べられ…る…!)

そう思った澪子は、思わずぎゅっと目を閉じた。

(お父さん、お母さん……!)

 が、痛みはいつまでたってもやってこない。澪子は恐る恐る目を開けた。

「あ、あの…食べない…んですか?」

 鬼は、ふっとため息と共に笑んだ。

「せっかくあなたを貰ったのですから…もちろんありがたく頂きますよ」

 彼は腕を緩めて、澪子の目をじっと見た。その目は笑いながらも、真剣だった。

「少し味見をしても?」

 そういうと、彼はいきなり澪子の唇に唇をつけた。

(―そこからっ!?)

 が、彼は牙を突き立てるのではなく、澪子の唇をその舌でなぞり、囁いた。

「口を…開けてください」

 そんな所から食べるのか。澪子は震えながらも唇をあけた。すると、彼の舌が澪子の口の中にそっと挿入(はい)ってきた。がぶりと噛みつかれ、肉を裂かれるのかと思いきや、その舌は遠慮がちに澪子の舌に触れた。

「っ…は、澪、…っ」

 苦し気な吐息と共に、自分の名前が彼の口から漏れた。導かれるように彼の舌と澪子の舌が絡む。澪子が抵抗しないでいると、彼の舌の動きは遠慮がなくなり、深く深く熱を移すかのように澪子の口内を貪る。

(ちょっと、まって…こ、これって…く、口づけ…?)

 食われるのではなく、口づけされている。遅ればせながらそれに気が付いた澪子は、全身がカッと熱くなった。こんな事を男の人とするのは、初めてだった。

「ひゃ…め…っ!」

 澪子は思わず両手で相手の胸板を押した。すると、彼はびくっと震えて唇から唇を放した。

「っ…」

 鬼ははっと驚いた顔をして澪子を見ていた。その唇が、唾液で濡れている。しばしの沈黙のあと、彼はぽつりと言った。

「すみません…嫌、でしたよね」

「え、いや、あの」

 澪子はわけがわからないのと、恥ずかしいので頭が白黒した。が、鬼は目を細め、乞うように澪子を見つめて言った。

「ごめんなさい、つい…。許していただけますか」

 あまり必死なその様子に、澪子は思わずうなずいていた。

「だ、大丈夫です、少し…驚いただけ、です」

 澪子がそういうと、鬼はほっとしたように肩を下げた。その様子を見て、澪子の頭の中に疑問が広がった。

(どうも、おかしい…。この鬼の人は、私の事を知っているような感じだし…そうだ、)

澪子は、頭の中にぱっと浮かんだ疑問を口にした。

「あの、何で私の名を…?」

 彼の涼し気な目が、一瞬伏せられた。なぜか悲しんでいるような気配を感じたが、鬼は気を取り直したように微笑んで、澪子に言った。

「書状に書いてありました。」

「そうですか…」

 鬼はじっと上目づかいで澪子を見た。

「澪、と呼んでもいいですか」

「あ、はい、どうぞ…」

「私は百夜(びゃくや)といいます。どうぞ好きなように呼んでください」

名乗ったあとも、彼は依然として澪子を見つめていた。その優しいような、妖しいような視線を浴びていると、なんだか身の置き所がないような心地がして、澪子は下を向いた。艶々と黒光りする床板だ…。

「澪」

「は、はいっ…」

 びくっと答えた私を見て、鬼は立ち上がった。

「ここまで登ってきて疲れたことでしょう。湯を浴びて、休まれるとよい。」

「えっ…?あの、」

 澪子がまごついている間に、彼はすっと障子を開けて出て行ってしまった。
 自分は食われるために来たはずじゃなかったのか?澪子はわけがわからなかった。 


(湯を浴びる?休むといい?ど、どういう事なの…?)
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中

桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。 やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。 「助けなんていらないわよ?」 は? しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。 「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。 彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

処理中です...