鬼様に生贄として捧げられたはずが、なぜか溺愛花嫁生活を送っています!?

小達出みかん

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恋情(百夜視点)

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 朝な夕な、百夜はずっと澪子を眺めて過ごすようになった。前のように隠れて観察するのではなく、堂々と彼女のそばに腰かけ、ただ眺める。
 
「百夜様…何をして、らっしゃるんですか?」

「澪を見ています。いけませんか?」

 そういうと、澪はまた頬を少し赤くして、仕事へ戻る。

「い、いけなくはないですけど…」

 このやりとりが日課になりつつあった。
 くるくると働く澪子を見ていると飽きなかった。いくらでも見ていられた。

(澪、可愛い…好きです…)

 うつむいて野菜を刻む彼女の頬が、ほんのり紅く染まっている。たくさん食べるように命じているおかげか、だんだんと頬や手足が丸くなってきたようだ。着物を脱がせて、その中身を確かめ、体の線をたどり、もう一度抱きしめたい―…
 という衝動がいつも百夜の中にあったが、百夜はそれをぐっとこらえていた。

(また無理やり抱いたら…もう、私に向かって笑ってくれなくなるかもしれない…)

 それは、自分との闘いだった。彼女への恋心を認めたはいいが、それは新たな苦しみの始まりでもあった。
 …また嫌われるのが怖い、という不安だ。
 それくらいなら、抱くのを我慢する方がましだった。だが、澪子の体の熱や、細い裸体、そして頭が真っ白になるほど気持ちよかった最初のまぐわいを思い出すたびに、我慢できないほどに自分の身体が熱くなるのだった。百夜は澪子から顔を反らしてぐっと唇を噛んだ。

(ダメだ…せっかく、こんなに笑ってくれるようになったのだから…)

 けれど、今となりにいる澪子を抱きしめる事ができればどんなにいいだろう。もし、彼女が自分を受け入れてくれれば…。
 しかし、手を伸ばす勇気はやはりなかった。なぜなら。

(私は鬼で、彼女は人間だ…彼女は好きでここに居るわけではない。冷酷な親族に命じられたから仕方なく来ているに過ぎない…)

 百夜は澪子を欲しているが、澪子はそうではない。その事実を思い出すと、百夜の心のうちは冷静さが戻ってくるのだった。

(私では…彼女を幸せにすることなど、できない…)

 百夜はじっと自分の手のひらを見つめた。人間からすれば、自分は悪い鬼だ。数々の悪行を重ねてきた。澪子もこんな自分を、男として受け入れてくれるはずがない。
 百夜は滾る気持ちを、無理やり抑え込んで納得しようとした。

(今…こうして、ここに居てくれるだけでいいではないか。)

 ふとその時、澪子がうつむく百夜の顔を覗き込んだ。

「百夜様?どうか、されましたか?」

 突然距離を詰められて、百夜はぎょっと身を引いた。

「頭が痛いのですか?眉間にしわが寄っています…」

「ち、ちがいます。なんでもありませんよ」

 澪子はもう一歩百夜に近寄り、心配そうに言った。

「でも…なんだか辛そうです。少しお休みになったほうが」

 辛い―…そうだ。たしかに辛い。それは目の前の澪子を抱き寄せるのを、ずっと我慢しているから。触れたい。今すぐ澪子に…。
百夜はその思いに抗いがたくなった。が、なんとか澪子に背を向けた。

「そうします…では」

 

 百夜は足早に自室へもどった。なんとか彼女の前では取り繕えたが、もう体は爆発寸前だった。
 自分でこの熱を慰めれば、一時的に熱は収まる。そうすれば彼女の前に出ても我慢できる。だから朝一度したのに、もうこんな状態になるとは。百夜は熱を逃すように息をついてから、己のものを握った。

「くっ…は、」

 最初に彼女を抱いた時の記憶が、脳裏に鮮やかによみがえる。薬によって熱くなった細い体。それとは裏腹に羞恥に歪んだ顔。そしてこの指も自分をも熱く締め付けた、膣内(なか)の潤んだ感触。

(澪…ああ、また…またあなたとしたいです)

 また許されるのならば、もう絶対乱暴な事はしない。ゆっくりやさしく着物を脱がせ、澪子の羞恥ごと甘く受け止めたい。前よりも肉づきが良くなった乳や腹に思うさまこの指を埋めて味わって、最後は濡れたその中に―…

「み…澪…っ澪っ…!あ、あ、くっ――!」

 自分の手の中に零れた白い腎水を見て、百夜はぱたりと目を閉じた。

(ああ…何をしてるんだろう、私は…)

 熱を放って冷静になると、ヒリヒリと火傷したかのような痛みが、胸に広がった。
 一番そばにいて、すぐに手の届く場所にあるのに、けっして手を触れることができない。
 目の前にあるのに、食べる事がゆるされない果実。涎を垂らしながらそれを我慢し続ける事が、こんなに辛い事だとは。

(でも…しょうがない事だ。できるだけ長く、彼女にここに居てほしいのだから…こんなことは、自分で処理するに限る)

 百夜はそう自分に言い聞かせて納得しようとした。だがもう一つの冷たい声が、百夜の中で問うた。

(私はそれで幸せかもしれないが…ずっとこの山に閉じ込められる澪は、どうなんだ?)

 この閉じられた世界の中で、ずっと百夜だけを相手にし続けるのは、人間にとっては酷な事にちがいない。
 人間は群れて、家族を増やして、友や仲間と一緒に生きていく生き物なのだから。

(だから…彼女の幸せを考えるなら、早々に開放してやった方がいい。)

 ずっと頭のどこかにはあった事だった。だけど考えたくなかった。百夜は無意識のうちに蔵へ向かっていた。
 どんな不安も一時的に忘れさせてくれる友を口にするために。




「百夜様…百夜様っ!」

 肩をゆすられて、百夜は目を覚ました。頭がぼんやり鈍っている。

「み、みお…?」

「大丈夫ですか?」

 澪が百夜を見下ろしていた。たまらなくなって、百夜は肩にかけられたその手をそっと外した。

「だいじょうぶ、です…」

「いけませんよ…夕餉も召し上がらず、こんな…こんな深酒」

 澪子は控えめにそうたしなめた。その目は心配そうに百夜に注がれていた。

「やめてください…」

 百夜は澪子から目をそらした。

「でも…心配です、どう、されたんですか?」

澪子は少ししゅんとした声で言った。

「何かお悩みなのですか?私などでは、お役に立たないかもしれませんが―…」
 
 その言葉を聞いて百夜は空しくなった。ああ、澪子は何を言ってるんだろう。自分の気持ちに何一つ、彼女は気が付いていないのだ。
 彼女にとって、私は何なのだろう。人間を喰わない鬼?屋敷の主人?それとも―…

「澪…あなたは私を、どう思っているのですか」

「え…どうって…」

 澪子はたじろいだが、百夜の据わった目を見て真剣に考えこんだ。

「最初は怖かったですが…今は良い方だと思っています。感謝、しています」

「では、私を嫌いではない、ということですか…?」

 澪子はうなずいた。

「はい!嫌ってなどいませんよ!」

「最初…無理やりあなたを抱いたのに?」
 
「あ…そ、それは…」

 澪子は言葉に詰まってしまった。どう返せばいいかわからないという顔をしている。百夜は彼女の手をぎゅっとつかんで見上げた。
 
「…私の悩みが、それだと言ったらどうします?」

「は、はい…?」

 澪子は驚いてはいたが、手を振り払うことはせずにされるがままだった。
酒の力を借りて、百夜は本心を吐露した。

「あなたを無理やり抱いた事を、後悔しています。ですがあの時の事が忘れられない…また、またあなたが欲しいのです。どうしようもないくらい」

「っ…」
 
 つかんだ澪子の手が、かすかに震えている。それを感じて、百夜は肩を落として彼女の手を離した。

「…すみません。今言ったことは…忘れてください」

 しかし彼女は、両手で百夜の手をきゅっと握り返した。

「本当に…本当に、その事で、ここの所ずっと塞いでらしたんですか?」

 彼女が痛みを我慢するような顔でそう聞いてきた。

「はい…いつかあなたを解放しなければならないのに、諦められないと…ずっとグズグズと考えていました」

「解放?私をですか」

「だってあなたも…ここから出たいでしょう。人間なのだから」

 澪子はぽかんとした後、首を横に振った。

「いいえ…出たくありません。できれば…ずっとここで百夜様とお屋敷のお仕事をしていたいです。ましろさんと一緒に」

 その言葉がにわかには信じられず、私は聞き返した。

「なぜですか」

「私には帰る場所もありませんし…肝を取るまでは、どうかここに置いてくれませんか」

 その言葉に、百夜は今更ながら最初に自分が言った事を思い出した。肝の事などはすっかり忘れていたのだ。

「澪…もうあなたの肝を取るつもりなどありませんよ」

「え…な、なぜですか?そのために食事を許していただいているのでは…?」

「だって肝を取ったら、あなたは死んでしまうではないですか。私は生きているあなたのほうが欲しいです」

 澪子はびくりと肩を震わせたあと、ふわりと笑った。

「本当、ですか…殺さないで、いてくれるんですか?」

「もう、あなたがいない暮らしなど…考えられません」

 百夜がそういうと、澪子はふっと息をついて頭を下げた。

「ありがとうございます、百夜様…これからもお役に立てるよう、がんばります。私、ここで働けて幸せです」

「幸せ…?私に仕えるのが?」

「はい。百夜様はいいご主人様です。辛く当たらないし、仕事も褒めてくれますし…」

 百夜はその言葉を遮った。

「では澪…私は?主人としてではなく、私自身の事はどう思っていますか」

「えっ…そ、それは」

「教えてください」

 2人は手をつないだまま、見つめあった。澪子がおずおずとその唇を開いた。

「百夜様が辛い思いをされているのは…私も、悲しいです。だから…」

澪子はつかえながらも、言葉を絞り出した。

「わ、私の事でお悩みなら、どうぞ最初の時のように…この体を、使ってください」

 真っ赤に熟れた林檎のような頬。行灯の光に照らされた桃色の唇。その言葉に辛抱がたまらなくなった百夜は、その極上の果実に唇を付けた。

「はぁ…澪…いいの、ですか」

「んっ…は、はい…」

 百夜は小袖の裾をめくって、澪子の足へ手を這わせた。ずっと触れたかった暖かな肌…。期待に、百夜の腰のものが熱くなる。

「ありがとうございます…澪…でも今回は、優しくしますから…」

 頬に笑みがのぼる。澪が自分を受け入れてくれたことが、この上なく嬉しかった。
 
「澪は優しい…そんなあなたが…好きです…」

 熱く耳元でささやくと、彼女はうっすら紅くそまった瞼を閉じた。
 その紅色は恥じらいではなく、肯定の色を含んでいた。
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