【世にも奇妙なログイン:葬と千怨の除霊記】

異灯(IT-o)

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霊体03:『推しという名のバックドア』

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 古民家の土間に、場違いな香水の匂いが漂う。

 今回の客は、地下アイドルに月収のほとんどを注ぎ込む優奈(24歳)。だが、彼女が「推して」いるのはアイドルだけではなかった。


「……ねえ、千怨。昨日のライブ配信、私のコメントだけ飛ばしたでしょ? なんで? 私、あんなに投げ銭したのに……っ!」


 優奈の瞳は血走り、その背後には、彼女が通いつめたライブハウスの「湿った残留思念」が、巨大な粘着質の影となって張り付いている。彼女の執着は、ついに窓口である千怨本人にまで牙を剥き始めていた。


「やだぁ、怖い顔しないで。僕、みんなの愛を平等に受け止めなきゃいけないんだもの」


 千怨は、いつものように艶然と微笑み、しなやかな指先で彼女の髪をなでる。だが、その直後。千怨の瞳から色が消え、低く、鋭い声が室内の温度を数度下げた。


「――でも、僕の規約(プロトコル)を無視するユーザーは、大嫌いなんだよね」


 一瞬にして「男」の顔を見せた千怨に、優奈が息を呑んで硬直する。


「葬、やって。この子、僕の個人アカウントに『裏口(バックドア)』を作って侵入しようとしてる。幽霊を引き連れてね」


 実兼 葬(じつかね そう)は、モニターから目を離さずに吐き捨てた。


「……。推し活という名の、一方的な『権限奪取(ジャック)』か。お前がアイドルや千怨に送っているのは愛じゃない。自分の空っぽな輪郭を埋めるための、どす黒い『データパケット』だ」


 葬が立ち上がると、優奈の背後の影が、無数の「死んだファンの手」となって千怨に掴みかかろうとする。ライブハウスに溜まった、孤独死したオタクたちの未練が、優奈の執着と共鳴していた。



「他人の人生にログインして、自分の欠損を埋めるのはもう終わりだ」



 葬が十円玉を空中に放り投げる。


 落下する硬貨が優奈の影を貫いた瞬間、葬の背後のスピーカーから、耳を裂くようなデジタルノイズが鳴り響いた。


「未完了の依存を強制切断(ディスコネクト)。――お前の居場所は、ここにはない」


 十円玉が影の中央で静止し、激しい火花を散らす。優奈の背後に渦巻いていた「死んだ手の群れ」は、葬の放った論理の炎に焼かれ、一瞬でデリートされた。


 へたり込む優奈。


千怨は再び、いつもの柔らかい笑みを浮かべて彼女を見下ろす。


「次は、自分自身を推してあげなさいな。……じゃないと、次こそ本当に『消去』されちゃうわよ?」


 千怨の言葉は甘いが、その瞳の奥には先ほどの「男」の冷酷さが残っていた。


「……。千怨、次はフィルタリングを強化しろ。俺の作業部屋を、お前のストーカーのゴミ捨て場にするな」


 葬は吐き捨て、次の未解決ログへと意識を戻した。

【霊体03 completed】
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