ザ・マジック・クラ―ウィス~魔法の鍵で異世界へ~ アルファポリス版

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一章 少年は英雄の夢を見る

少年は鍛錬する

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「ふぅ……とりあえず勢いで王都を出ちゃったけど、僕は何をすればいいの?」
「そうだな……。ジン、ステータスを確認してみろ」
「うん」

 ステータス
 LV18 職業:戦士 種族:人族ヒューマン 性別:男
 生命:E+ 持久:E 敏捷:E 魔力:E 頑強:E+ 筋力:D- 技量:D+ 魅力:F 運:D
 スキル
 “一般級ノーマル
【鑑定】【魔力感知】【魔力操作】【体術】【剣術】【気配探知】【見切り】【軽業】
 “特別級エクストラ
【多言語理解】【瞬歩】【長剣術】
 “固有”
英雄伝説ヒーロークロニクル
 魔法
 “火属性”
 下級魔法
【ファイアーボール】
【ファイアーアロー】
【エンバース】
 “水属性”
 下級魔法
【ヒール】
【キュア】
 “風属性”
 下級魔法
【ウインドブースト】
 “土属性”
 下級魔法
【ロックシールド】
 “空間属性”
 下級魔法
【アイテムポーチ】
 上級魔法
【アイテムボックス】

 やはり以前見た時よりもステータスは全体的に伸びているし、新しいスキルも幾つか手に入れてる。でも、この程度じゃまだ守護者ガーディアンには届かないんだ。もっと強くならなくちゃいけない。

「筋力はD-か……。まずは魔物を狩れ、筋力がCまで上がったら次の段階に入るとしよう」
「分かったよ」

 僕は【アイテムボックス】からマギア・インディクムを取り出すと、右手に握り森の中を進んでいく。【気配探知】を常に発動させていると、反応が複数見つかる。
 反応があった方へ走っていくと二匹の犬の魔物の姿が木々の隙間から窺える。あれは以前戦ったことがある森犬フォレストドッグだ。

 僕は一気に駆け寄ると森犬フォレストドッグが反応するよりも素早く森犬フォレストドッグの首を切り落とした。残る一匹の森犬フォレストドッグが尻尾を巻いて逃げ出そうとするのを【ファイアーアロー】を脚目掛けて放ち、足止めする。

「KYAUN!?」
「ごめんね」

 刃は森犬フォレストドッグの横腹を大きく裂き、絶命へと至らせた。僕は刀身にこびりついた血を振り払うと森犬フォレストドッグの死体を【アイテムボックス】の中に放り込み再び駆けだした。
【気配探知】を発動させると大量の反応がある。数の多さからそれが群れであることを察した。

「群れか……。でも、今の僕にとってはありがたいな」

 大量の反応があった場所へと駆けだす。そこは森の中にぽっかりと空いた洞穴だった。

「【エンバース】」

 明かりを確保すると僕は躊躇なく暗闇が広がる洞窟の中へと足を踏み入れた。中はとても静かで、天井から滴る水滴の音のみが洞穴の中に広がる。
【気配探知】に反応があったのはこの奥、ざっと十匹はくだらないだろう。でもそれだけ多くの経験値が得られるということだ。
 マギア・インディクムを構えると、僕は敵の巣窟へと駆けだした。

 ♢♢♢

 洞穴の中に溢れていたのはこの森でよく見かけた森犬フォレストドッグだった。中にはボスらしき他とは一線を画す大きさの森犬フォレストドッグもいたが、構わずそれら全てを片付けた。
 その後は【気配探知】に反応があるたびに反応した魔物を狩った。魔物を狩って、狩って、狩って……。気が付けば辺りの森犬フォレストドッグを全て狩り尽くし、僕はさらに森の奥へと踏み込んでいた。

「っく……」
「ZOOOOOOOOOッ!」

 目の前には三匹の巨大な木の魔物が僕に向けて枝を振り下ろしている。触手のようにしなる枝を避けながら枝を切り落とす。だが、枝は瞬く間に回復してしまい、ダメージを負っている様子が無い。
 魔物の名は“リトルトレント”LVは17と先日戦った酸蟻アキドゥスアントをも上回っている。

 このままでは埒が明かない。相手は木の魔物だ、明らかに火に弱いと踏んだ僕は先程LVが上がり、覚えたばかりの魔法を唱える。

属性付与エンチャント【フレイム】」

 マギア・インディクムを炎が包み、燃え上がる剣がごう、と揺れる。木魔リトルトレントはそれを見て、明らかに後退している。どうやら予感は的中していたようだ。

「いくぞっ!」

 迫りくる触手の如き枝を切り落とす。すると、切り口が燃やされ、先程のように枝が再生することはなかった。攻撃の手が緩まる。その隙を見逃さずに僕は一気に加速した。

「ふんっ!」
「ZOOOOOOOOOOッ!?」

 木魔リトルトレントの身体を斜めに切り裂くと身体は裂け、斜めに両断される。立て直した残る二匹の木魔リトルトレントが短くなった枝で攻撃しようとするが軽く身を屈めてそれを避ける。勢いを殺さず、そのまま突き進むと木魔リトルトレント二匹を纏めて一薙ぎする。

「「ZOOOOOOOOOOOO……ッ」」

 炎に包まれた木魔リトルトレント達はその場で動かなくなった。森の奥ということもあり、火が木々に燃え移りでもしたら大変なので魔法を使って消化する。

「【ウォーターショット】」

 燃え盛る木魔リトルトレントの死骸に向けて水の弾丸を撃ち込むとあっという間に炎は鎮火された。ステータスを確認するとLVが上がっていた。やはり、自分とLVが変わらない魔物と戦った方がLVが上がりやすいようだ。森犬フォレストドッグを狩っていた時よりも明らかに成長する速度が早い。

「あっ……」

 気が付けば辺りは暗く、陽はとうに沈んでいた。戦いに集中するあまり気が付いていなかったらしい。木魔リトルトレントの骸を【アイテムボックス】に収納する。
 僕が【エンバース】を唱え、【気配探知】を使用したところでアレクに声を掛けられた。

「止めておけ、逸る気持ちは分かるが夜は魔物も活気づく。それに睡眠や食事も強くなるうえでは欠かせないことだ。今は休み、明日に備えるべきだ」
「……。分かったよ、アレク。でも、街まで戻っているのは時間が勿体ない。今日はここで野宿する」
「仕方ない……夜の間は我が見張りをしているから安心して眠れ。ガハハッ! まあ、我には睡眠など必要ないからなッ!」
「うん……。ありが……と……」

 そう豪快に笑うアレクの顔を見ていると張り詰めていた緊張が解けてきた。森に入ってから発動し続けていた【気配探知】を止めると疲労がどっと身体に圧し掛かる。
 頭を鈍器で殴られたように意識が朦朧として僕はその場に倒れ、そのまま意識を失った。

 ♢♢♢

「んっ……」

 眩い光が僅かに開いた瞳に入ってくる。僕は身体を起こすと大きく腕を上げて身体を伸ばした。時間は分からないけど陽が昇り始めていることから、今が早朝であることが察せられる。
 昨日はあれだけ五月蠅うるさかった魔物達の鳴き声も無く、森の中は静寂に包まれている。隣の大岩に視線を向けると頂上で胡坐をかいて座っているアレクの姿が目に映る。

「む……起きたか、ジン」
「おはよう、アレク。こういう朝に魔物を狩るのってどうなの?」
「最も効率が良いと考えてもいい。この時間帯はまだ魔物が活発的に活動していないからな、ねぐらに忍び込めば一方的に倒せる」
「それは良い事を聞いちゃったな……。早速狩りに――」

 僕が木々の方へ向かって歩き出そうとしたら、盛大にお腹が鳴った。そういえば僕は昨日の朝から何も口にしていないんだった。道理でお腹が空くわけだ。

「腹が減っては戦は出来ぬ、ジンの世界の言葉だが中々確信を突いていると我は思うぞ」
「あはは……そうだね、何か食べてからにしようかな」

【アイテムボックス】の中に何か食料を入れていなかったかと探してみると、いつぞやの美味しい串焼きが何十本と収納されていた。
 いつこんなに買い込んだのかと逡巡して思い出した。前にアレクとこの串焼きを食べた時に大量に買わされたんだった。まさかこんな所で役に立つことになるとは思っていなかったけど。
 豪快に串焼き肉を頬張り、口の中に詰め込むと早々にその場を発った。

「【気配探知】」

【気配探知】の有効範囲は自身を中心として半径五百メートルの円状に広がる。範囲内に魔物の反応は無い、どうやら近くに魔物はいないみたいだ。
 少し歩いていると、僕の背後を歩いていたアレクに声を掛けられる。

「ジン、忘れていたがお前の今の筋力値を確認してみろ」
「え? うん」

 ステータス
 LV25 職業:戦士 種族:人族ヒューマン 性別:男
 生命:D+ 持久:D+ 敏捷:D- 魔力:E+ 頑強:D 筋力:C- 技量:C- 魅力:E- 運:C
 スキル
 “一般級ノーマル
【鑑定】【魔力感知】【魔力操作】【体術】【剣術】【気配探知】【見切り】【軽業】
 “特別級エクストラ
【多言語理解】【瞬歩】【長剣術】【同時思考】
 “固有”
英雄伝説ヒーロークロニクル
 魔法
 “火属性”
 下級魔法
【ファイアーボール】
【ファイアーアロー】
【エンバース】
 “水属性”
 下級魔法
【ヒール】
【キュア】
 “風属性”
 下級魔法
【ウインドブースト】
 “土属性”
 下級魔法
【ロックシールド】
 “空間属性”
 下級魔法
【アイテムポーチ】
 上級魔法
【アイテムボックス】

 かなりLVが上がっている、確か魔物を狩る前に昨日確認したときはLV18だったはずだから昨日だけでLVが七つも上昇したということだ。それに新しく特別級エクストラスキルの【同時思考】というスキルを獲得している。

【同時思考】は字のまま、同時に二つのことを考えられるというものだ。これも昨日の戦闘がきっかけだろう。昨日は剣で魔物を攻撃しながら周りに気を配って、別の魔物が襲い掛かってきたら魔法で潰していた。このスキルがあればもっと楽に魔法と剣を同時に扱えるようになるはずだ。

 それで、アレクに聞かれていた問題の筋力値だけど……。

「筋力値C-になったよ」
「む……。やはり成長速度が早いな……」
「え?」

 僕の筋力値を聞いた途端にブツブツと独り言を言い始めてしまったアレクに視線を向けると、すぐにいつものアレクに戻ってしまった。

「ならばアレを教えても良いだろう」
「アレ……?」
「ついてこい」

 アレクに言われるがままついていくと木々が開けた場所についた。アレクはそこに着くと僕にガレスさんから貰った黒い大剣を渡すように言った。

「見ていろ」

 アレクはそう言うと大剣を構えた。

「え……?」

 大剣というのは読んで字の如く大きいものだ。勿論その分重量もある。勿論片手で構えることくらいであれば出来るだろうけど、とてもではないが片手で易々と振れる代物ではない。
 僕がそう考えているとアレクは一瞬身体を沈めたかと思うと次の瞬間には数メートル先の大木の側に立っていた。
 僕が目を見張るよりも先に、大剣が振り払われる。だが、あまりの速度にその刀身を視認することは出来ず、僕が気付いた時にはアレクは大剣を地面に着き刺し腕を組んでいた。

「なに……いまの……」
「ガハ八ッ! これがジンに習得してもらいたい技だッ! おい、そこ危ないぞ」
「え?」

 僕がアレクの元に近づいていくと、アレクが僕の頭上を指差した。上を仰ぎ見ると視界一杯に緑色の木葉が倒れ掛かってきていた。
 咄嗟に後ろに下がると僕が寸前まで立っていた位置に大木が倒れ伏した。鈍い音と土煙を巻き上げながら倒れてきたそれに目を見張る。元の大木が聳えていた位置を見れば綺麗に切断され、大木の上がそっくりそのまま消えていた。

「これは我が生前使い続けた剣術よ」
「【剣術】? それなら僕もう持ってるよ」
「違う違う、スキルの【剣術】のことではないわ。最終的にはスキルに成ったが、これは我が編み出した我流剣術だ」

 確かに今アレクが見せてくれたような動きが僕にも出来れば、あの迷宮ダンジョンを攻略することも出来るかもしれない。

「でも……僕に出来るの――」

 僕は口を止めた。僕はまた、弱気になってしまっている。これでは何も変わっていない。これでは守りたい人を守れるだけ強くなるなんて……エミリーを守ることなんて出来っこない。
 思い切り自分の頬を殴った。

「……絶対にものにしてみせるよっ!」
「ガハ八ッ! その意気だぞジンッ!」

 アレクは大地に突き刺さった大剣を抜き、僕に手渡した。

「まずはその大剣を【鑑定】してみろ」

 僕は頷くと【鑑定】を使用する。

 黒輝剣“アーテル・ニテンス”
 等級:幻想級ファンタズム
 系統:武器ウェポン

 技術王ガレス・デトロイトによって打たれた一振り。深い深い幽谷の底、漆黒の闇の中にのみ生成される黒輝石を鍛え上げた。黒より黒く、闇より深い深淵。その鉱石の特徴を引き継ぎ、全ての光を飲み込む。

 効果:光属性物理攻撃無効 光属性魔法攻撃無効 刃こぼれ無効 切れ味低下無効

「“アーテル・ニテンス”……いい名前だね。意味は分からないけど、この大剣にぴったりだ」
「【鑑定】したようだな。ならば剣を構えよッ! 教えてやる、我の剣をなッ!」
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