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第八話 異世界にやってきました
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ハイウェルと話をして、異世界に連れて行くと言われた後、光に包まれて、それから真っ白な空間の中でハイウェルと少しだけ話をした。
異世界に行く前に、何かやり忘れたことはないか。そうハイウェルに問われ、一つだけ頼みごとをしたのを覚えている。それからまた光に包まれて、何かふかふかとした感触を感じていた。
ゆっくりと目を開けば、見慣れない天井が視界に入る。元居た世界ではあまり見かけないような装飾が施された天井に、やたらと豪華なシャンデリアが吊り下がっている。
本当に異世界に来たのかと、戸惑うことなくすんなり受け入れることができたのは、ハイウェルとの邂逅が既に現実的ではなかったからだろう。
「おや、目が覚めましたか」
ここはどこなのだろうかと部屋の中を見渡していると、部屋の扉が開いた。
入ってきたのは金色の長い髪を一つに束ね、ハイウェルと同じ紫色の目をした二十代ほどの青年。どこかハイウェルに似た雰囲気を持つその青年は、悠香に一礼してみせた。
「お初にお目にかかります。私はこの屋敷の主であり、貴女をこちらへと呼んだハイウェル様の代理人、ウォーレンと申します。ハイウェル様より、貴女を保護するようにと仰せつかっております。この屋敷はどうぞご自由にお使い下さい」
一気にまくし立てる青年――ウォーレンに呆気にとられながらも、彼が味方であるのだろうということだけは理解できた。
この屋敷に連れてきたのがハイウェルだというのなら、おそらく彼の言葉に嘘はないのだろう。とはいえ、完全に信用していいのかどうかも、悠香には分からなかった。
「代理人、ってどういうこと?」
彼が名乗る中で気になった言葉について聞いてみれば、彼は冷静に答える。
「ハイウェル様が直接この世界に干渉することができない、ということはお聞きになっていますね? 私の役目は、ハイウェル様の声を聴き、直接は干渉することのできないハイウェル様に代わり、その言葉をこの世界の人々に届けること。その役目は代々我が一族が賜っており、この国をはじめとして、他の国の君主もそのことは理解しています」
「じゃあ、アタシのこととか優花のことも知ってるってこと?」
「その通りです。ですから、ハイウェル様に代わり、貴女がたの安全を保証し、貴女がたの力となりましょう」
表情を変えることなく、淡々と話すウォーレンに、悠香は分かった、と頷く。こちらの世界のことを知らない悠香にとって、協力者がいるというのは悪い話ではない。
信用しきっていいものかどうかはさておいて、一先ずこちらの世界で生きていく術を手に入れるためには、彼の世話になるほかないのだろう。
「さて、ではまずは着替えて頂きましょうか。その服では何かと目立ちますから」
言われて、悠香は自分の服を見る。悠香にとっては日常的に着ている特に変わりない普段着ではあるが、目の前にいるウォーレンの服と比べれば、彼の言葉も理解できた。
彼が着ているのは、悠香の元居た世界で言うなら中世の欧州を思わせるもの。そんな衣服を纏う人々の中に悠香が今の服の状態で紛れれば、確かに目立つだろう。浮くというべきかもしれない。
そんなことを考えていると、ウォーレンの背後の扉が再度開く。そこから入ってきたのは、メイド服らしきものを纏った数名の女性。
「頼みましたよ」と言って入れ替わる様に部屋を出ていくウォーレンに、女性たちは畏まるように頭を下げる。そうしてウォーレンが出て行った扉が閉まると、彼女たちはいっせいに悠香の方へと近付いてきた。
「え、ちょ、自分で着替えるから……!」
半ば叫ぶように言う悠香のことなどお構いなしで、女性たちは和気藹々と悠香の着替えを開始した。
「おや、よくお似合いですね」
少しして、どうやらメイドである女性たちによって着替えを終えた悠香は、疲労を露わにした表情をしながら部屋を出て、ウォーレンの待つ応接室を訪れていた。
こちらの世界の服に着替えた悠香を、相変わらず表情を変えずに誉めながら、彼は手にしていた本を閉じた。
「貴女がお会いしたがっている少女ですが、十日ほど経てばここ、王都に着くようです」
「ホント!?」
ウォーレンの言葉に、思わず大きな声を上げてしまい、悠香はハッとして恥ずかしそうに手で口を覆う。
その様子を気に留めた様子もなく、ウォーレンは続けた。
「はい。どうやら彼女はここから遠く離れた村の近くに呼び出されてしまったようでして……。巫女の力によってその居場所を探し出し、現在王国の騎士が迎えに行っているようです」
「巫女……?」
その単語に、神社にいる白と赤の装束を纏った女性の姿を想像し、首を傾げる。ウォーレンは小さく頷いて、巫女というのは予言を得意とする行為の魔術師のことだと答えた。
「魔術……」
「はい。どうやら貴女の世界には存在しないもののようですが、おそらく、貴女も使うことができるでしょう」
「アタシが……?」
そんな馬鹿な、と呆然とする悠香に対して、ウォーレンは至極真面目な表情をしている。その表情に圧倒されつつも、悠香は大人しく彼の話を聞くことにした。
「貴女からは強い魔力を感じます。それが元々なのか、こちらに渡る際にハイウェル様が授けたものなのかは分かりませんが……。その力を使いこなすことができれば、ご自身の身くらいは守れるようになるでしょう」
ウォーレンが合図を送るようにパチン、と指を鳴らせば、応接室の扉が開いた。そうして入ってきたのは、一人の青年と、悠香よりも少し幼く見える二人の少女。
その三人はウォーレンの背後に控えるように並び、その視線は真っすぐに悠香に向けられていた。
「彼女――優花さんが王都に来るまでの間に、貴女にはこの世界で生きる術を身に着けて頂きます。そのために、この三人を教師としてつけましょう。……貴女にその気があるのなら、ですが」
試すようなその視線と言葉。それに若干の不快感を覚えながらも、悠香は力強く頷いた。
「分かった。何だってしてやるわ」
それが、優花を守るための力になり得るのならば、と。
そう答えた悠香に、ウォーレンは初めて、満足そうな笑みを見せた。
異世界に行く前に、何かやり忘れたことはないか。そうハイウェルに問われ、一つだけ頼みごとをしたのを覚えている。それからまた光に包まれて、何かふかふかとした感触を感じていた。
ゆっくりと目を開けば、見慣れない天井が視界に入る。元居た世界ではあまり見かけないような装飾が施された天井に、やたらと豪華なシャンデリアが吊り下がっている。
本当に異世界に来たのかと、戸惑うことなくすんなり受け入れることができたのは、ハイウェルとの邂逅が既に現実的ではなかったからだろう。
「おや、目が覚めましたか」
ここはどこなのだろうかと部屋の中を見渡していると、部屋の扉が開いた。
入ってきたのは金色の長い髪を一つに束ね、ハイウェルと同じ紫色の目をした二十代ほどの青年。どこかハイウェルに似た雰囲気を持つその青年は、悠香に一礼してみせた。
「お初にお目にかかります。私はこの屋敷の主であり、貴女をこちらへと呼んだハイウェル様の代理人、ウォーレンと申します。ハイウェル様より、貴女を保護するようにと仰せつかっております。この屋敷はどうぞご自由にお使い下さい」
一気にまくし立てる青年――ウォーレンに呆気にとられながらも、彼が味方であるのだろうということだけは理解できた。
この屋敷に連れてきたのがハイウェルだというのなら、おそらく彼の言葉に嘘はないのだろう。とはいえ、完全に信用していいのかどうかも、悠香には分からなかった。
「代理人、ってどういうこと?」
彼が名乗る中で気になった言葉について聞いてみれば、彼は冷静に答える。
「ハイウェル様が直接この世界に干渉することができない、ということはお聞きになっていますね? 私の役目は、ハイウェル様の声を聴き、直接は干渉することのできないハイウェル様に代わり、その言葉をこの世界の人々に届けること。その役目は代々我が一族が賜っており、この国をはじめとして、他の国の君主もそのことは理解しています」
「じゃあ、アタシのこととか優花のことも知ってるってこと?」
「その通りです。ですから、ハイウェル様に代わり、貴女がたの安全を保証し、貴女がたの力となりましょう」
表情を変えることなく、淡々と話すウォーレンに、悠香は分かった、と頷く。こちらの世界のことを知らない悠香にとって、協力者がいるというのは悪い話ではない。
信用しきっていいものかどうかはさておいて、一先ずこちらの世界で生きていく術を手に入れるためには、彼の世話になるほかないのだろう。
「さて、ではまずは着替えて頂きましょうか。その服では何かと目立ちますから」
言われて、悠香は自分の服を見る。悠香にとっては日常的に着ている特に変わりない普段着ではあるが、目の前にいるウォーレンの服と比べれば、彼の言葉も理解できた。
彼が着ているのは、悠香の元居た世界で言うなら中世の欧州を思わせるもの。そんな衣服を纏う人々の中に悠香が今の服の状態で紛れれば、確かに目立つだろう。浮くというべきかもしれない。
そんなことを考えていると、ウォーレンの背後の扉が再度開く。そこから入ってきたのは、メイド服らしきものを纏った数名の女性。
「頼みましたよ」と言って入れ替わる様に部屋を出ていくウォーレンに、女性たちは畏まるように頭を下げる。そうしてウォーレンが出て行った扉が閉まると、彼女たちはいっせいに悠香の方へと近付いてきた。
「え、ちょ、自分で着替えるから……!」
半ば叫ぶように言う悠香のことなどお構いなしで、女性たちは和気藹々と悠香の着替えを開始した。
「おや、よくお似合いですね」
少しして、どうやらメイドである女性たちによって着替えを終えた悠香は、疲労を露わにした表情をしながら部屋を出て、ウォーレンの待つ応接室を訪れていた。
こちらの世界の服に着替えた悠香を、相変わらず表情を変えずに誉めながら、彼は手にしていた本を閉じた。
「貴女がお会いしたがっている少女ですが、十日ほど経てばここ、王都に着くようです」
「ホント!?」
ウォーレンの言葉に、思わず大きな声を上げてしまい、悠香はハッとして恥ずかしそうに手で口を覆う。
その様子を気に留めた様子もなく、ウォーレンは続けた。
「はい。どうやら彼女はここから遠く離れた村の近くに呼び出されてしまったようでして……。巫女の力によってその居場所を探し出し、現在王国の騎士が迎えに行っているようです」
「巫女……?」
その単語に、神社にいる白と赤の装束を纏った女性の姿を想像し、首を傾げる。ウォーレンは小さく頷いて、巫女というのは予言を得意とする行為の魔術師のことだと答えた。
「魔術……」
「はい。どうやら貴女の世界には存在しないもののようですが、おそらく、貴女も使うことができるでしょう」
「アタシが……?」
そんな馬鹿な、と呆然とする悠香に対して、ウォーレンは至極真面目な表情をしている。その表情に圧倒されつつも、悠香は大人しく彼の話を聞くことにした。
「貴女からは強い魔力を感じます。それが元々なのか、こちらに渡る際にハイウェル様が授けたものなのかは分かりませんが……。その力を使いこなすことができれば、ご自身の身くらいは守れるようになるでしょう」
ウォーレンが合図を送るようにパチン、と指を鳴らせば、応接室の扉が開いた。そうして入ってきたのは、一人の青年と、悠香よりも少し幼く見える二人の少女。
その三人はウォーレンの背後に控えるように並び、その視線は真っすぐに悠香に向けられていた。
「彼女――優花さんが王都に来るまでの間に、貴女にはこの世界で生きる術を身に着けて頂きます。そのために、この三人を教師としてつけましょう。……貴女にその気があるのなら、ですが」
試すようなその視線と言葉。それに若干の不快感を覚えながらも、悠香は力強く頷いた。
「分かった。何だってしてやるわ」
それが、優花を守るための力になり得るのならば、と。
そう答えた悠香に、ウォーレンは初めて、満足そうな笑みを見せた。
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