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第九話 巫女との対面
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「見えましたよ、あれが王都です」
優花がエドワードと共に村を出て十日。揺れる馬車の中から、エドワードが窓の向こうを指した。
その先に見えるのは、巨大な石造りの城壁に囲まれた街。城壁の向こうには、絵本や漫画などで出てくるような巨大な城が見えた。
「このまま城へ向かいましょう」
そう言って、エドワードが御者に指示を出す。馬車はそのまま城壁へと向かう。
城壁には門が付いており、そこには門番のような男性が両端に立っていた。彼らは鎧を身に着けていたが、ここに辿り着くまでの間に立ち寄った町で既にそういった人たちを見ていたため、優花の驚きは薄かった。
この十日間で、優花は徐々にこの世界に慣れてきていた。エドワードからこの世界の常識や習慣を聞き、実際にそれらを目にしているうちに、この世界のことを受け入れつつある自分に気付いたのだ。
元の世界に戻りたい気持ちは変わらないけれど、この世界に慣れていくにつれ、元の世界のことを忘れていってしまうような気がして、優花は複雑な気持ちを抱えていた。
門番に止められ、検問を受けるかと思いきや、彼らはエドワードの顔を見ると「お疲れ様です!」と揃って敬礼をし、すぐさま門を開いた。
「顔パス……」と思わず呟けば、エドワードは「そんなところです」と笑う。
そのまま馬車は城壁の中へと入っていく。直ぐに広がるのはいわゆる城下町というもので、おそらく住居なのであろう建物や、商店らしい建物が並んでいた。
道行く人々の視線が馬車に向かっているのを感じ、優花はその視線から隠れるように馬車の中で身を縮こまらせた。対してエドワードはといえば、馬車の向こうに見える人々に微笑みかけている。
ここまでの十日間、優花はエドワードと行動を共にしていたが、彼についてはまだまだ分からないことが多かった。ただ、かなり地位のある人物なのであろうということは、流石に理解していた。
「城についたら、まず巫女様の元へ向かいましょう」
「分かりました」
優花を気遣ってなのか、そう告げたエドワードに、優花はただ頷く。ふと見渡した城下町の風景は、これまでに通ってきた町と同様、やはり元の世界とは異なっていた。
「ただいま戻りました」
城に着くと、御者は馬車と共に下がり、エドワードは優花を連れて城の中へと入った。行き交う人々の視線から隠れるように目を伏せる優花を気遣ってか、エドワードは彼女の手を引いて足早に目的の場所へと向かう。
そうして辿り着いたのは、豪華な装飾が施された扉のある部屋。
エドワードがノックをすれば「どうぞ」という澄んだ声が聞こえ、扉を開いた先には、銀色の長い髪に紫色の目をした、とても美しい女性が微笑みを浮かべながら佇んでいた。
「貴方が……」
女性は優花を見ると、僅かに目を見開き、すぐに先程までの笑顔を浮かべる。そうして優花に向き直り、頭を下げた。
「私はターシャと申します。この国で巫女と呼ばれているものです」
「花咲優花、です……」
女性――ターシャに名乗られ、名乗りを返す。彼女は顔を上げると「ユウカさん、素敵なお名前ですね」と微笑む。かと思えば、真剣な眼差しを向け、口を開いた。
「エドワードから少しばかり話は聞いているかと思いますが、改めて、貴女がこちらの世界に来た理由をお話いたします」
「……お願いします」
彼女の言葉に、優花は頷いて返した。
彼女は優花とエドワードに、室内にあるソファに腰掛けるよう促したが、エドワードは「仮にも騎士ですので」と断り、優花の隣に控えるように立つ。
優花がソファに腰掛けてからターシャも向かい合うように椅子に腰かけ、そうして、話し始めた。
「まず、貴女をこちらの世界に喚んだのは、王国軍に所属する魔術師たちです。彼らはある目的のため、貴女をこちらの世界に召喚しました」
こちらに来たばかりの頃であれば、魔術師という存在が出た時点で胡散臭いと思っていたかもしれないが、王都に来るまでの途中の町で優花はその存在を目にしていた。
本当に自分が居た世界ではないのだと強く実感したのもその時だったな、と優花は思いを馳せていた。
「魔術師たちが貴女を召喚したのは、魔王の復活を阻止するためです」
「魔王……?」
そのあまりにも現実離れした単語に、優花は首を傾げる。魔術師という存在を受け入れてしまっている時点で現実離れも何もないが、魔王となれば話は別だ。そんな存在が実在するのか、と内心驚く優花をよそに、ターシャはこくりと頷いた。
「魔王はかつて、この世界を制し、滅ぼそうとした存在です。かつて勇者によって倒され封印されましたが、それが復活しようとしているのです」
「その復活を阻止するために、どうして私が……?」
なぜ自分でなければならなかったのか。そう問う優花に、ターシャはじっと彼女を見ながら答えた。
「貴女はかなり強い魔力を持っています。恐らく、私以上に。貴女なら魔王の復活を阻止することができる。きっと、そう神が判断されたのでしょう」
「でも、そんな、魔力なんて……」
元の世界では平凡な生活を送っていた優花は、自分にそんなものがあるなどとは到底思えなかった。元の世界でも超能力や霊能力と呼ばれるものが存在してはいたが、それらは胡散臭いもののように思えたし、優花はそういったものが使えるなどと思ったこともない。
そう困惑しているのを察したのか、エドワードが隣から声を発した。
「魔力というのは、少なくともこちらの世界では、潜在的に誰しもに備わっているものだとされています。とはいえ、訓練をしなければ上手に扱うことは出来ず、極稀に一切の魔力を持たずに生まれてくる者もいます。貴女の元の世界ではどうだったか分かりませんが、貴女が潜在的に持っている魔力がかなり優れたものであることは、私から見ても間違いありません」
きちんと訓練すればこの国一の魔術師になることもできるだろう、とエドワードは告げる。同意するようにターシャも頷いていたが、それでも、優花には自分がそんなものを持っていると信じることがどうしても出来なかった。
「私達の言葉ではあまり信じることも出来ないでしょう。だからというわけではありませんが、ユウカさん、これから貴女をある方のところに連れて行きます」
優花の心情を察してかそんなことを告げるターシャに、優花は首を傾げる。エドワードもそんな話は初耳だったのか、困惑したような表情を浮かべている。
「誰なんですか……?」
「それはお会いするまでのお楽しみです」
首を傾げる優花に、ターシャはまるで子どものように無邪気な笑みを浮かべ、口元に人差し指を当てる。
「では参りましょう」
立ち上がるターシャにならい優花も席を立つ。ターシャはすたすたと扉へと向かうと、そのまま部屋を出る。優花に続いてエドワードも部屋を出、ターシャの案内で城の中を歩いていく。
その道中。
前方から、両脇にエドワードと同じような衣服をまとった青年を連れた、優花と同い年くらいに見える少年が、こちらの方に向かって歩いてきていた。
ターシャとエドワードは少年に気付くと、その場に立ち止まり頭を下げる。優花も思わずそれを真似て頭を下げた。少年は三人を一瞥し、「ご苦労」と短く声を掛けると、従えた青年たちとともに立ち止まることなく進んでいく。
その声に、聞き覚えがあるような気がして、優花は擦れ違いざまに少年をちらりと見上げた。
黒い短い髪に紫色の目をしたその少年は、目の色こそ違うものの、優花の記憶の中にいる、とある人物と瓜二つの姿をしている。
その姿に驚き立ち止まっていると、エドワードに「どうかしましたか?」と声を掛けられ、なんでもないと首を横に振る。
不思議そうに首を傾げるエドワードとターシャに「行きましょう」と微笑みながら、優花の心臓はその鼓動を早めていた。
優花がエドワードと共に村を出て十日。揺れる馬車の中から、エドワードが窓の向こうを指した。
その先に見えるのは、巨大な石造りの城壁に囲まれた街。城壁の向こうには、絵本や漫画などで出てくるような巨大な城が見えた。
「このまま城へ向かいましょう」
そう言って、エドワードが御者に指示を出す。馬車はそのまま城壁へと向かう。
城壁には門が付いており、そこには門番のような男性が両端に立っていた。彼らは鎧を身に着けていたが、ここに辿り着くまでの間に立ち寄った町で既にそういった人たちを見ていたため、優花の驚きは薄かった。
この十日間で、優花は徐々にこの世界に慣れてきていた。エドワードからこの世界の常識や習慣を聞き、実際にそれらを目にしているうちに、この世界のことを受け入れつつある自分に気付いたのだ。
元の世界に戻りたい気持ちは変わらないけれど、この世界に慣れていくにつれ、元の世界のことを忘れていってしまうような気がして、優花は複雑な気持ちを抱えていた。
門番に止められ、検問を受けるかと思いきや、彼らはエドワードの顔を見ると「お疲れ様です!」と揃って敬礼をし、すぐさま門を開いた。
「顔パス……」と思わず呟けば、エドワードは「そんなところです」と笑う。
そのまま馬車は城壁の中へと入っていく。直ぐに広がるのはいわゆる城下町というもので、おそらく住居なのであろう建物や、商店らしい建物が並んでいた。
道行く人々の視線が馬車に向かっているのを感じ、優花はその視線から隠れるように馬車の中で身を縮こまらせた。対してエドワードはといえば、馬車の向こうに見える人々に微笑みかけている。
ここまでの十日間、優花はエドワードと行動を共にしていたが、彼についてはまだまだ分からないことが多かった。ただ、かなり地位のある人物なのであろうということは、流石に理解していた。
「城についたら、まず巫女様の元へ向かいましょう」
「分かりました」
優花を気遣ってなのか、そう告げたエドワードに、優花はただ頷く。ふと見渡した城下町の風景は、これまでに通ってきた町と同様、やはり元の世界とは異なっていた。
「ただいま戻りました」
城に着くと、御者は馬車と共に下がり、エドワードは優花を連れて城の中へと入った。行き交う人々の視線から隠れるように目を伏せる優花を気遣ってか、エドワードは彼女の手を引いて足早に目的の場所へと向かう。
そうして辿り着いたのは、豪華な装飾が施された扉のある部屋。
エドワードがノックをすれば「どうぞ」という澄んだ声が聞こえ、扉を開いた先には、銀色の長い髪に紫色の目をした、とても美しい女性が微笑みを浮かべながら佇んでいた。
「貴方が……」
女性は優花を見ると、僅かに目を見開き、すぐに先程までの笑顔を浮かべる。そうして優花に向き直り、頭を下げた。
「私はターシャと申します。この国で巫女と呼ばれているものです」
「花咲優花、です……」
女性――ターシャに名乗られ、名乗りを返す。彼女は顔を上げると「ユウカさん、素敵なお名前ですね」と微笑む。かと思えば、真剣な眼差しを向け、口を開いた。
「エドワードから少しばかり話は聞いているかと思いますが、改めて、貴女がこちらの世界に来た理由をお話いたします」
「……お願いします」
彼女の言葉に、優花は頷いて返した。
彼女は優花とエドワードに、室内にあるソファに腰掛けるよう促したが、エドワードは「仮にも騎士ですので」と断り、優花の隣に控えるように立つ。
優花がソファに腰掛けてからターシャも向かい合うように椅子に腰かけ、そうして、話し始めた。
「まず、貴女をこちらの世界に喚んだのは、王国軍に所属する魔術師たちです。彼らはある目的のため、貴女をこちらの世界に召喚しました」
こちらに来たばかりの頃であれば、魔術師という存在が出た時点で胡散臭いと思っていたかもしれないが、王都に来るまでの途中の町で優花はその存在を目にしていた。
本当に自分が居た世界ではないのだと強く実感したのもその時だったな、と優花は思いを馳せていた。
「魔術師たちが貴女を召喚したのは、魔王の復活を阻止するためです」
「魔王……?」
そのあまりにも現実離れした単語に、優花は首を傾げる。魔術師という存在を受け入れてしまっている時点で現実離れも何もないが、魔王となれば話は別だ。そんな存在が実在するのか、と内心驚く優花をよそに、ターシャはこくりと頷いた。
「魔王はかつて、この世界を制し、滅ぼそうとした存在です。かつて勇者によって倒され封印されましたが、それが復活しようとしているのです」
「その復活を阻止するために、どうして私が……?」
なぜ自分でなければならなかったのか。そう問う優花に、ターシャはじっと彼女を見ながら答えた。
「貴女はかなり強い魔力を持っています。恐らく、私以上に。貴女なら魔王の復活を阻止することができる。きっと、そう神が判断されたのでしょう」
「でも、そんな、魔力なんて……」
元の世界では平凡な生活を送っていた優花は、自分にそんなものがあるなどとは到底思えなかった。元の世界でも超能力や霊能力と呼ばれるものが存在してはいたが、それらは胡散臭いもののように思えたし、優花はそういったものが使えるなどと思ったこともない。
そう困惑しているのを察したのか、エドワードが隣から声を発した。
「魔力というのは、少なくともこちらの世界では、潜在的に誰しもに備わっているものだとされています。とはいえ、訓練をしなければ上手に扱うことは出来ず、極稀に一切の魔力を持たずに生まれてくる者もいます。貴女の元の世界ではどうだったか分かりませんが、貴女が潜在的に持っている魔力がかなり優れたものであることは、私から見ても間違いありません」
きちんと訓練すればこの国一の魔術師になることもできるだろう、とエドワードは告げる。同意するようにターシャも頷いていたが、それでも、優花には自分がそんなものを持っていると信じることがどうしても出来なかった。
「私達の言葉ではあまり信じることも出来ないでしょう。だからというわけではありませんが、ユウカさん、これから貴女をある方のところに連れて行きます」
優花の心情を察してかそんなことを告げるターシャに、優花は首を傾げる。エドワードもそんな話は初耳だったのか、困惑したような表情を浮かべている。
「誰なんですか……?」
「それはお会いするまでのお楽しみです」
首を傾げる優花に、ターシャはまるで子どものように無邪気な笑みを浮かべ、口元に人差し指を当てる。
「では参りましょう」
立ち上がるターシャにならい優花も席を立つ。ターシャはすたすたと扉へと向かうと、そのまま部屋を出る。優花に続いてエドワードも部屋を出、ターシャの案内で城の中を歩いていく。
その道中。
前方から、両脇にエドワードと同じような衣服をまとった青年を連れた、優花と同い年くらいに見える少年が、こちらの方に向かって歩いてきていた。
ターシャとエドワードは少年に気付くと、その場に立ち止まり頭を下げる。優花も思わずそれを真似て頭を下げた。少年は三人を一瞥し、「ご苦労」と短く声を掛けると、従えた青年たちとともに立ち止まることなく進んでいく。
その声に、聞き覚えがあるような気がして、優花は擦れ違いざまに少年をちらりと見上げた。
黒い短い髪に紫色の目をしたその少年は、目の色こそ違うものの、優花の記憶の中にいる、とある人物と瓜二つの姿をしている。
その姿に驚き立ち止まっていると、エドワードに「どうかしましたか?」と声を掛けられ、なんでもないと首を横に振る。
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