異世界のガラス都市 〜戦争をしたく無いから金の力で重武装国家を創る!!〜

シァンルル

文字の大きさ
27 / 27
第一章

第26話 停戦交渉2

しおりを挟む
祖国の兵20万が殺されるか捕虜になったと聞けば、その兵の親族や身近に徴兵の機会のある平民はもちろんのこと、情の薄い貴族ですら何か嫌に感じるものがある。
そして、その原因となった男は極悪非道の血が青い人間か、私の様な戦争狂であると多くの兵士や国民は考える訳だ。
そして、目の前に居る交渉を部下に任せて大人しく座って紅茶をすすっているこの男はその憎むべき狂人であるはずだ。
されど、この男はまるでその気配を感じさせない。

…たった一度見せただけの作戦に対して、欠点をすぐさま見抜き対応し、自分に有利な状態へ持っていく。
確かに、素晴らしい戦術目を持っているのは先ほどの会話で理解した。
狭い道で強固な防衛陣を作り冬まで粘ると言う戦略も捻りは無く単純明快だが、地の利を得ているためかなり効果的だ。
挙げ句の果てに部下にも恵まれている。
この交渉、こちらが席に座るまでは彼が発言をしていたがその後はこのアランと言う男に全て丸投げしている。
その交渉術は商人を思わせる程、こちらの痛いところを突いて来ている。
彼の存在を知らずに戦えば、去年の様な惨劇が起きることは容易に想像できる程の才を持っている。
そうだ、この男で間違いはないのだ。
レン・フジイ正にその人であるはずだ。
にも関わらず、なんだ、この男のこの紳士的な振る舞いは!
覇気の無さは!
人など殺したことの無いと言わんばかりの温室育ちのの様な細い体は!!
まるで軍人のそれとは思えない、むしろ常日頃社交界でくだらない権力闘争をしている軍務を放棄した貴族のそれに近い雰囲気をしている。
こんな奴があの芸術的とも言える戦争をしたと言って誰が信じるというのだ。
…なるほど、先ほど外の番をしている兵士が何やら歯切れが悪かったのはこのためか。

悶々と目の前の男への違和感を募らせていると、横からリッツの声が飛んできた。
「と言う訳で、リーヤ様、2週間の停戦で良いか?」
一瞬で先ほどまでの考えを吹き飛ばし、リッツの提案を検討する。
2週間か。
妨害なく事が運べば、どこからか土を掘り出して運ぶのに3日、埋め立てに同じく3日といったところだろう。
どれだけの妨害をしようとしていたのかは知らないが、こちらとしても許容できる範囲で向こうにもメリットがある。
「構わない。それで行こう」
そう口を開いた瞬間、レン子爵が待っていました、と言わんばかりに紙を取り出して停戦書を書き始めた。
なんともまぁ、準備の良い事だ。
「それではこちらにサインをお願いします」
手渡された文書の内容を要約すると今日をはじめとして2週間後まで『あらゆる戦闘行為を禁止する』と言うものだ。
目を通した紙を机に放り、小さく呟く。
「あらゆる戦闘行為か」
「『戦争行為』であれば、埋め立ても入りますからね。それでは停戦の意味がありません」
その言葉にも素早く反応して、ニッコリと柔和に微笑むこの男その言動に反して随分と策士に見える。
「リッツ、ペンを」
「はいよ」
副官からペンを受け取り、書面にサインをする。
向こうもサインをし、これにて一時停戦がなった瞬間だった。

まさにその瞬間、目の前の男が急に口を開いた。
「そう言えば、先の戦いで塹壕に居た兵士は今捕虜になっているとか」
…文面といい、このタイミングといい、この男わかってはいたが凄まじく有能だ。
もし彼がニタ王国に来ないで神聖同盟のどこかの大貴族の所領に転移されていれば、10年もたたずに派閥抗争は終わるだろう。
人材不足に悩む神聖同盟からすればニタ王国の拾いものはかなり羨ましく、同時に頭の痛いネタだなこれは。
この男の提案に抵抗する事自体が無意味に思え、苦手な交渉や駆け引きをするす気がすっかり萎えてしまった。
「貴殿は何をしてくれるんだ?」
「捕虜交換といきましょう。我々が返すのは去年の戦争で捕虜にした貴族10人を返します。ですので先の捕虜を返していただけますか?」
「それでは捕虜になっている貴族の半分以下だ。全員の解放を願いたいのだが」
「貴女はこの後も防衛線を突破するおつもりでしょう?それではこちらとしてはまた捕虜がでますので、その時のためのカードとしてとっておきたいですね」

「一般兵の捕虜がいるはずだ。貴族の全員返還なら応じる」
「こっちは全員の首跳ねても良いのよ?こいつは多分悪名なんて気にしないわ」
萎えた気分を奮い立たせてなんとか交渉をしてみたが、子爵の隣に座る女吸血鬼の一言で完全にだめだった。
こちらの捕虜と貴族ならば、価値は圧倒的に貴族の方が高い。
処分に困った貴族を押し付けるついでに捕虜の回収にでも来たのだろう。
「…わかった、応じよう。明日ここに捕虜たちを連れてくるで良いか?」
「ええ、構いませんよ。…さて、用件はこれで以上です。皆様、本日は誠にありがとうございました。失礼します」
ニタ王国御一行は、その一言を述べると同時に席から立ち去っていった。

✴︎

「納得いかないようだなぁ、リーヤ様」
あの男たちが去った後、ボーとした私を見てリッツが何かを察したのだろう、急に私に話しかけてきた。
「当然だ。明らかに踊らされている」
「確かに、今回の交渉に関してはいいようにやられた感じがあるなぁ。ものの見事に最初から最後まで主導権を握られた」
確かに、内容事態も終始やられっぱなしだっなのだが…
「恐らくだが今回の交渉の狙いは停戦じゃない」
「…は?」
今回の交渉で苦汁を飲まされたリッツがアホ面になって驚いている。
そんな彼にゆっくりと説明を始める。
「いいか、私の方に使者が来たのは防御陣地の崩壊が確定して直ぐだ。作戦のすべてを見せるか見せないか、そのようなタイミングでだ。こちらに時間が必要な事を見抜いたにしても早すぎる。それに加えて、使者は捕虜の話を否定はしていたが、同時に取れば交渉の材料になるともいっていた。恐らくはそちらの方が本命だ。どう処分しても角の立つ大国の貴族の処理、これが本来のあいつらの目的だ」
「なるほどね…。それで何でそんな納得いかない顔をしているんだ?敵の目的を理解したって言うのに」
疲れと苛立ちで表情が歪んでいるのが自分でもわかる。
「あの男に対してお前はなんの感想も抱かなかったのか?」
「いやぁ、まさか。20万人を殺した人間があんな紳士的な人間とは思わなかったぜ。おまけに取り巻きは有能な美女と美男子だ。侵略していることもあって、こっちが悪者みたいでなんとも居心地がわるいなぁ」
きれいに私の感想を代弁してくれた副官を見ながらどこか違和感を感じていた。
「リッツ」
「なんだ、リーヤ様」
「あの男は無能…と言うか、平凡な男に見えたか?」
「まさか。機会があれば是が非でも味方につけたいなぁ。あの男一人居れば、神聖同盟は本当の意味で一つの国になれるだろうぜ」
そうだ、その次元の男が下策失策はしていないが、強固な防衛陣地を築いて、捨て石を使うと言うなんとも平凡な戦運びをしているのだ。
…どうにも具合が悪い。
「リッツ」
「なんだよ、さっきから。ひょっとしてあの男に惚れたとかか?」
(どうしてあの男はこんな平凡な戦をしていると思う?)
それを言いかけ辞めた。
全軍を指揮するものが違和感だけで下の指揮官に不安を与えてはならない。
喉元まできた言葉を飲み込み、違う言葉を吐き出す。
「…本当に死にたい様だな、貴様」
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

魔力ゼロの俺だけが、呪いの装備を『代償なし』で使い放題 ~命を削る魔剣も、俺が持てば『ただのよく切れる剣』~

仙道
ファンタジー
現代日本で天才研究者だった相模登(さがみ のぼる)は、ある日突然、異世界へ転移した。  そこは『スキル』と『魔力』が全てを決める世界。   しかし登には、ステータス画面もなければ、魔力も、スキルも一切存在しなかった。   ただの一般人として迷宮に放り出された彼は、瀕死の女騎士と出会う。彼女の前には、使う者の命を瞬時に吸い尽くす『呪いの魔剣』が落ちていた。   武器はそれしかない。女騎士は絶望していたが、登は平然と魔剣を握りしめる。 「なぜ……生きていられるの?」  登には、剣が対価として要求する魔力は存在しない。故に、魔剣はデメリットなしの『ただのよく切れる剣』として機能した。   これは、世界で唯一「対価」を支払う必要がない登が、呪われた武具を次々と使いこなし、その副作用に苦しむ女騎士やエルフ、聖女を救い出し、無自覚に溺愛されていく物語。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

処理中です...