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プロローグ2
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――というのが、俺の前世の記憶の一部である。現在から二年前の話。
出身国オルカンド、名前はユーリ・アーヴィン。前世を思い出したのは十五歳の時だ。
その日は、家庭教師との楽しくない時間を終え、幼馴染の課題を手伝う予定だった。
幼馴染のアルフレッドの家は、俺の住む王都中央区から少し離れた中層区南西に位置する場所にある。
アルの家へ行くには、電車かバスを利用していかなければならない。本来なら使用人に頼んで送り迎えをしてもらうのだが、あいにく俺は使用人とあまり良い関係を築けていなかった。
あいつらに頭を下げるくらいなら一人で行動したほうがマシだ。やつら、俺が愛人の子だからと適当な仕事ばかりする。送迎を頼んだところで、荒い運転をされるに違いない。彼らを信用できないから、バスを使って友人のところへ向かった。
アルがうちに来てくれてもいいのだが、身分の違うものを家に入れるのも恥ずかしい。あいつは下層区出身で、あまり良い出自とは言えない。
結果、バスが事故に合い、俺は怪我をして病院送り。そして過去の記憶を思い出すに至った。
鈴木悠太の子供の頃から最期の瞬間までが頭の中でぐるぐる巡る。自分がどこの誰か曖昧になり、名前すら忘れそうだった。
怪我の治療が済んだ後、病院のベッドでひたすら過去の記憶と、今の自分と向き合った。
俺は悠太ではなく、ユーリだ。オルカンド出身で、由緒正しい魔導士の家系で、日本の東京出身ではなくて彼女なんて居たことない。
アルが見舞いに来たがろくな会話をしなかった。自分の脳内を整理するのに必死で他人の言葉なんて頭に入る余地がない。
俺は鈴木悠太の記憶を持ったユーリ・アーヴィンだ。
魔導士の名家、アーヴィン家の次男で、父の愛人の息子。母にアーヴィンの家の前に置いて行かれて、父に引き取られることとなる。
その人生は、王立シルヴィア魔法学院二年で終わる予定だ。
何故知っているかって、悠太の記憶がそう言っている。
彼が妹に手伝わされたゲーム、スタジュエとかいう作品に俺が出ていた。メインキャラではなく、悪役としてだ。
主人公たちと戦うのは合計三回、最初はチュートリアル戦闘での相手、次は新しい戦闘要素の時にお試しとして戦って、最後はラスボス手前で倒される。最後、というか最期だ。
何故そんなことになったか、原因の解明をしなければならない。悠太の記憶は朧気で、しかもゲームのストーリーに関して興味が無かったのか、虫食い状態も良いところだ。
愛人の息子で、父とその正妻のお情けで家に置いて貰っている俺は、兄のヴィルに劣等感を覚えていた。兄は成績優秀で特進クラスという、魔法に秀でた人間しか入れないクラスに進み、生徒会にも入っている。
それから、共に魔法学園に入学したアルにも実力で抜かされてコンプレックスを拗らせていた。
見下していた友人がどんどん成長し、さらに自分を差し置いて特進クラスへ進むことができたせいで、プライドがずたずたになったに違いない。
そんなときに、魔法の基礎も知らない主人公が聖女とあがめられて出てきたものだから、気にらなかったんだろう。それでつっかかってチュートリアル、二度目の戦闘へ、といったところか。
我ながら完璧な分析だ。だいたいこんな流れで破滅していったに違いない。
でも、分からないな。なんで俺は三度目の戦闘で死んだのか。悠太の記憶では三回目の俺は異形の姿となっていた。悪魔の力を借りた、というところは覚えている。
ユーリは火属性魔法を使うのに、その戦闘だけ闇属性も使ってきた。
ということは、どこかで敵である教団と接触をしたということか? それとも他に俺が悪魔と契約するタイミングがあるのだろうか。
おい悠太。お前どうしてストーリーをしっかり覚えておかなかったんだ。出てこい佐藤と田中、お前ら天使の類だろう、出てきて説明しろ来れるだろ。ストーリーと一致するとは限らないとか言ってただろ、ドンピシャだぞ。責任取れ。
白いベッドの上で、俺は渋い顔をする。一人百面相をしている俺をアルが不思議そうに眺めていた。窓の外へ視線をやれば、すでに陽が傾いていた。
「アル、帰らないのか」
「ユーリが変だから、頭打ったんだっけ」
「ヒールでほぼ回復済みだ。明日には家に帰れる」
「そっか、でも、俺が勉強教えてくれって頼んだせいだから……」
なんだかんだと言い訳をして、アルはベッドの傍らから動こうとしない。
アルは下層区の出身の孤児だ。中層にある魔石加工店の主に拾われ、たまたま迷子になった俺と出会って、そこからちょこちょこ遊ぶようになった。
夕陽に照らされた金色の髪の毛を見ていると、心がざわつく。なんで俺がこいつにコンプレックスを抱いたのか、それは多分、今の関係がトリガーだと推測できる。
だって俺はアーヴィン家の血を継いでいる。父は国家魔導士として魔法省の長をしているのだ。才能があって当然、こんなどこの馬の骨とも分からないやつに負けるわけがない、そんな傲慢さが俺には存在しているのだろう。
勉強を教えていたのも、自分より下のものが居ると落ち着くからだ。そりゃ悪役にもなる。こんなプライドとコンプレックスの塊みたいな人間、悪い力にだって手を出すだろう。
ああ、だから俺はだめなのか、使用人たちにきつく当たるのも学校で浮いているのも、兄が嫌いなのも全部無意味なプライドと、自己評価の高さのせいだ。
凡人のくせに理想だけはエベレストより高い。いやまてエベレストってどこだ。
今の俺は、ユーリ・Y・アーヴィン。ユーリ・悠太・アーヴィンだ。
悠太とユーリの感情や記憶が混ざって、自分が誰だか分からない。ここは令和日本ではない。落ち着け悠太。エベレストは無い。
「あ、アル……。とりあえず、帰ってくれ。今本当に、だめだ」
「傷が痛むのか?」
「そう、ちょっと寝たい」
「そっか、分かった。また来るよ」
俺の顔色が悪いのを見て、アルは今度こそ帰ることにしたらしい。椅子から下りて、小さく手をふってから病室を出た。もう少しで面会時間も終わるし、引き時だと思ったのだろう。
一人になった病室で、再び思考の海に戻る。
整理しよう。
俺はユーリ。ここはオルカンド。魔道駆動車や、魔石機械のある世界だが、基本的に魔法で支配されている。オルカンドは、女神の作った世界樹によって豊かな生活ができている。世界樹が生命線。スタジュエの物語の起点である。
ユーリは悪役。悪役令息になるんだろうか、そうなのか悠太?
役割としては、主人公につっかかって戦闘の基礎を教えて最後は倒されて退場。いやまて、俺は子供を助けたご褒美で異世界転生したんだぞ、なんで前の人生より長生きできないんだおかしいだろ。出てこい佐藤と田中。
まぶたの裏の光を追って、この先どうするか考える。
そんなの当然、悪役を止めるだ。くだらないプライドを捨て、凡人を受け入れ、少しでも長生きするんだ。役割なんて知らない。
悠太の記憶にある破滅フラグ回避物語のようにはおそらくならない。だって俺は才能がない。だが、やらねばなるまい。
まぶたを開けて、俺は眉間に力を込める。
――国家公務員を目指そう。
俺の目標は魔法学院を卒業後、研究室に入り偉大な魔導士になることだった。父を超える力を得て、伝説と語り継がれる人間になりたかったが、方針を変えよう。
魔法使いを諦め、公務員として市民と向き合い、定時退社する。そんな生活を目指そう。
プライドエベレストの俺がそんなことできるのか、できる。何故なら俺は ユーリ・Y・アーヴィン。悠太と言う男は、随分志の低い男だった。
優しいが適当で口が悪い。そんな人間と、プライドが高いが真面目なユーリが混ざった結果、丁度良くなった。そう、人生ほどほどで良いと思える。命、大事。
俺はモブだ。良くてアドバイスNPC。魔法学院卒業も何とか避けれないか、方法を探ろう。そして、ユーリ・アーヴィンという男の人生を完成させるのだ。
出身国オルカンド、名前はユーリ・アーヴィン。前世を思い出したのは十五歳の時だ。
その日は、家庭教師との楽しくない時間を終え、幼馴染の課題を手伝う予定だった。
幼馴染のアルフレッドの家は、俺の住む王都中央区から少し離れた中層区南西に位置する場所にある。
アルの家へ行くには、電車かバスを利用していかなければならない。本来なら使用人に頼んで送り迎えをしてもらうのだが、あいにく俺は使用人とあまり良い関係を築けていなかった。
あいつらに頭を下げるくらいなら一人で行動したほうがマシだ。やつら、俺が愛人の子だからと適当な仕事ばかりする。送迎を頼んだところで、荒い運転をされるに違いない。彼らを信用できないから、バスを使って友人のところへ向かった。
アルがうちに来てくれてもいいのだが、身分の違うものを家に入れるのも恥ずかしい。あいつは下層区出身で、あまり良い出自とは言えない。
結果、バスが事故に合い、俺は怪我をして病院送り。そして過去の記憶を思い出すに至った。
鈴木悠太の子供の頃から最期の瞬間までが頭の中でぐるぐる巡る。自分がどこの誰か曖昧になり、名前すら忘れそうだった。
怪我の治療が済んだ後、病院のベッドでひたすら過去の記憶と、今の自分と向き合った。
俺は悠太ではなく、ユーリだ。オルカンド出身で、由緒正しい魔導士の家系で、日本の東京出身ではなくて彼女なんて居たことない。
アルが見舞いに来たがろくな会話をしなかった。自分の脳内を整理するのに必死で他人の言葉なんて頭に入る余地がない。
俺は鈴木悠太の記憶を持ったユーリ・アーヴィンだ。
魔導士の名家、アーヴィン家の次男で、父の愛人の息子。母にアーヴィンの家の前に置いて行かれて、父に引き取られることとなる。
その人生は、王立シルヴィア魔法学院二年で終わる予定だ。
何故知っているかって、悠太の記憶がそう言っている。
彼が妹に手伝わされたゲーム、スタジュエとかいう作品に俺が出ていた。メインキャラではなく、悪役としてだ。
主人公たちと戦うのは合計三回、最初はチュートリアル戦闘での相手、次は新しい戦闘要素の時にお試しとして戦って、最後はラスボス手前で倒される。最後、というか最期だ。
何故そんなことになったか、原因の解明をしなければならない。悠太の記憶は朧気で、しかもゲームのストーリーに関して興味が無かったのか、虫食い状態も良いところだ。
愛人の息子で、父とその正妻のお情けで家に置いて貰っている俺は、兄のヴィルに劣等感を覚えていた。兄は成績優秀で特進クラスという、魔法に秀でた人間しか入れないクラスに進み、生徒会にも入っている。
それから、共に魔法学園に入学したアルにも実力で抜かされてコンプレックスを拗らせていた。
見下していた友人がどんどん成長し、さらに自分を差し置いて特進クラスへ進むことができたせいで、プライドがずたずたになったに違いない。
そんなときに、魔法の基礎も知らない主人公が聖女とあがめられて出てきたものだから、気にらなかったんだろう。それでつっかかってチュートリアル、二度目の戦闘へ、といったところか。
我ながら完璧な分析だ。だいたいこんな流れで破滅していったに違いない。
でも、分からないな。なんで俺は三度目の戦闘で死んだのか。悠太の記憶では三回目の俺は異形の姿となっていた。悪魔の力を借りた、というところは覚えている。
ユーリは火属性魔法を使うのに、その戦闘だけ闇属性も使ってきた。
ということは、どこかで敵である教団と接触をしたということか? それとも他に俺が悪魔と契約するタイミングがあるのだろうか。
おい悠太。お前どうしてストーリーをしっかり覚えておかなかったんだ。出てこい佐藤と田中、お前ら天使の類だろう、出てきて説明しろ来れるだろ。ストーリーと一致するとは限らないとか言ってただろ、ドンピシャだぞ。責任取れ。
白いベッドの上で、俺は渋い顔をする。一人百面相をしている俺をアルが不思議そうに眺めていた。窓の外へ視線をやれば、すでに陽が傾いていた。
「アル、帰らないのか」
「ユーリが変だから、頭打ったんだっけ」
「ヒールでほぼ回復済みだ。明日には家に帰れる」
「そっか、でも、俺が勉強教えてくれって頼んだせいだから……」
なんだかんだと言い訳をして、アルはベッドの傍らから動こうとしない。
アルは下層区の出身の孤児だ。中層にある魔石加工店の主に拾われ、たまたま迷子になった俺と出会って、そこからちょこちょこ遊ぶようになった。
夕陽に照らされた金色の髪の毛を見ていると、心がざわつく。なんで俺がこいつにコンプレックスを抱いたのか、それは多分、今の関係がトリガーだと推測できる。
だって俺はアーヴィン家の血を継いでいる。父は国家魔導士として魔法省の長をしているのだ。才能があって当然、こんなどこの馬の骨とも分からないやつに負けるわけがない、そんな傲慢さが俺には存在しているのだろう。
勉強を教えていたのも、自分より下のものが居ると落ち着くからだ。そりゃ悪役にもなる。こんなプライドとコンプレックスの塊みたいな人間、悪い力にだって手を出すだろう。
ああ、だから俺はだめなのか、使用人たちにきつく当たるのも学校で浮いているのも、兄が嫌いなのも全部無意味なプライドと、自己評価の高さのせいだ。
凡人のくせに理想だけはエベレストより高い。いやまてエベレストってどこだ。
今の俺は、ユーリ・Y・アーヴィン。ユーリ・悠太・アーヴィンだ。
悠太とユーリの感情や記憶が混ざって、自分が誰だか分からない。ここは令和日本ではない。落ち着け悠太。エベレストは無い。
「あ、アル……。とりあえず、帰ってくれ。今本当に、だめだ」
「傷が痛むのか?」
「そう、ちょっと寝たい」
「そっか、分かった。また来るよ」
俺の顔色が悪いのを見て、アルは今度こそ帰ることにしたらしい。椅子から下りて、小さく手をふってから病室を出た。もう少しで面会時間も終わるし、引き時だと思ったのだろう。
一人になった病室で、再び思考の海に戻る。
整理しよう。
俺はユーリ。ここはオルカンド。魔道駆動車や、魔石機械のある世界だが、基本的に魔法で支配されている。オルカンドは、女神の作った世界樹によって豊かな生活ができている。世界樹が生命線。スタジュエの物語の起点である。
ユーリは悪役。悪役令息になるんだろうか、そうなのか悠太?
役割としては、主人公につっかかって戦闘の基礎を教えて最後は倒されて退場。いやまて、俺は子供を助けたご褒美で異世界転生したんだぞ、なんで前の人生より長生きできないんだおかしいだろ。出てこい佐藤と田中。
まぶたの裏の光を追って、この先どうするか考える。
そんなの当然、悪役を止めるだ。くだらないプライドを捨て、凡人を受け入れ、少しでも長生きするんだ。役割なんて知らない。
悠太の記憶にある破滅フラグ回避物語のようにはおそらくならない。だって俺は才能がない。だが、やらねばなるまい。
まぶたを開けて、俺は眉間に力を込める。
――国家公務員を目指そう。
俺の目標は魔法学院を卒業後、研究室に入り偉大な魔導士になることだった。父を超える力を得て、伝説と語り継がれる人間になりたかったが、方針を変えよう。
魔法使いを諦め、公務員として市民と向き合い、定時退社する。そんな生活を目指そう。
プライドエベレストの俺がそんなことできるのか、できる。何故なら俺は ユーリ・Y・アーヴィン。悠太と言う男は、随分志の低い男だった。
優しいが適当で口が悪い。そんな人間と、プライドが高いが真面目なユーリが混ざった結果、丁度良くなった。そう、人生ほどほどで良いと思える。命、大事。
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