悪役令息さん総受けルートに入る

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高等部になった2

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 新たな学園生活といっても、結局通う学校は変わらない。エスカレーター式だから、同級生の大半は知った顔だ。
 友達増えるかなってちょっと期待したが、今のところクロエくらいだ。もとから嫌われている人間が学年上がったからと好かれるかと言ったら、好かれないんだよな。

「おい、でかいんだから入り口でぼーっと突っ立ってんじゃねーよ」
「ん、ごめん」
 教室の出入り口、今しがた通ってきた場所を振り返ると、クロエがクラスメイトに突かれているところだった。
 赤髪のあいつは確か、地方貴族の息子とかなんとか。昔は爵位などが存在していたが、オルカンドは貴族制度を廃止して久しい。貴族なんて過去のものなのだ。
 とはいえ、土地やら会社などで過去の地位が反映されているため、家柄が良いものはよほどのことが無い限り、今でも国において強い力を持っている。アーヴィンもその内の一つだ。
 何が言いたいかというと、あの田舎者は偉そうにしているが、金のある一般人ということ。おそらく、彼の故郷では家の力が強いのだろう。
「とかげでも人間の言葉が理解できるんだ? 分からないのかと思っていたな」
 おいやめろ、そのテンプレートな一般雑魚クラスメイトムーブ。俺の専売特許のはずだ。お前がやるな。いやいや、俺はそういうキャラは卒業したのだった。
 とにかく、クロエの竜人という個性を揶揄する言葉はいただけない。ここはお前の故郷ではないので、偉そうな態度は控えるのが吉である。取り巻きの生徒たちが、一緒になってひそひそ話をしているのもよろしくないな。文句は堂々と言え。
 彼らの行動は気に食わないが、クロエもクロエで少しおかしい。ひたすら無言であほ共を見るのをやめろ。何か言うか、その場から立ち去れ。そういうとこだぞ。

 入学当初、クロエは世にも珍しい竜人ということで、かなり注目を浴びていた。
 エルフ、ドワーフ、獣人には慣れたものだが、引きこもりの竜人族が外に出てきたのも人々の興味を引く要因だったのだろう。
 入学式の後、初めて教室にやって来た際に、クロエは大勢の人間に囲まれていた。竜化ってどうなるのか、固有魔法ってなに、竜人の里ってどうやっていくの。
 クラスメイトからの質問に、なんとクロエは一切返事をしなかったのだ。俺も自分の席に座りながらその様子を見ていたが、変な汗が出た。
 無言無表情のクロエと、静まり返る教室。地獄か、嘆きの川にでも来たかのような冷えた空気。時が止まったような世界だったが、担任の登場でようやく解放された。
 それから、クロエはクラスメイトとほぼ会話をしなくなり、このようにちくちくされるようになってしまった。恐ろしいのは、相変わらず効いていなさそうなクロエの態度だ。
 ルームメイトの俺と会話してくれるのは、いったいどんな気まぐれなのだろう。
 何でクラスの人間と会話をしないのかと聞いたことがあるが、話す必要性がないからという理由だった。竜人の里は、人選を間違えたのではないだろうか。

 揶揄う発言をする男子せいととその取り巻きを、クロエはただぼんやり見つめている。怖い、何か言ってやらないと彼らも落としどころが分からないのではないだろう。強張った笑顔で会話を頑張っている様子に、俺まで苦しくなる。まあ、会話じゃなくて悪口なので同情はしないのだが。
 数秒悩んで、俺はクロエの元へと向かう。
「クロエ」
 クロエの肩を叩くと、ゆっくりとした動作でこちらを振り向いた。その顔は無だ。夜空のような美しい瞳が今は空洞のようだ。
 なにそれどういう感情? 動揺しつつも、クロエの手を引いてこっちにこいと促す。すると、男子生徒は無反応のクロエから俺へとターゲットを変えたのか、口の端を吊り上げてこちらを見た。
「アーヴィンか、お前のペットもう少し言葉を教えたほうが良いんじゃないか?」
「すまない。今人間の言葉だったか? 聞き取れなかった」
 嫌味には嫌味を、これは古来からある目には目を歯には歯をの応用である。
 クラスメイトをペット呼ばわりする奴と話す言葉を、俺は持ち合わせていない。もっとましな台詞を選べ。
 ここまで言うと喧嘩になるので、最大限気を使ってマイルドにしたというのに、目の前の男は顔を真っ赤にして唇を震わせた。
「お前、俺より魔力値低かったくせに偉そうだな? お父さんとお兄ちゃんがすごいから俺もすごいぞって? 自分は雑魚のくせに」
「魔力値……? そうなのか、きみの名前も知らないから能力も知らなかった。俺の家族を褒めてくれてありがとう、君の言う通り俺は彼らより能力の劣る人間だ。そんな俺に勝てるなんてすごいぞ、偉いぞ名も知らぬ人。そんな子供みたいな言葉、俺にはとても吐けない」
「クロ―ドだ! ふざけてるだろお前!」
「大真面目だが? きみの名前、明日にはまた忘れるから名乗らなくてよかったのに」
「ユーリ、だめ、とまれ」
 クロエが俺のブレザーをくいくい引っ張って僅かに眉間に皺を寄せている。珍しい表情だ。
 まあ、これ以上話しても意味は無い。クロードとやらのクロエを見下す態度が好かなかったので、少しやり返しただけだ。こういう人間は、認識されないことを嫌う。自己評価が高く、他者を下に見る傾向があるからな。経験者だから語る。
「おいまて、アーヴィン。今度魔導士初級実技テストがあるよな? お前、そこで俺より成績が悪かったらどうする?」
「どうもしないが? だって、きみのが魔力値高かったんだろ?」
 日本ではこういうのをレスバっていうんだよな。いや違うか、あれと同じく無駄な時間を過ごしてしまった気がする。今後は控えよう。
 まだ何か言いたげなクロードを無視して、俺はクロエと共に席に戻る。クラスメイトからの視線が刺さるが、こんなの慣れたもんだ。ヘイトを買うのは俺の特技である。

 魔導士初級、そういえばそろそろそんな季節だ。
 魔導士初級とは、魔法使いの第一歩だ。
 中等部までは練習用触媒で魔力をセーブしつつ、基礎魔法の練習をする。初級資格を取った後は、練習用じゃなく自分に合った触媒を選び、個人に合った能力を高めていく。
 風魔法が得意なら、風魔法、火なら火、それ以外にも魔法の種類はあるので何が伸びるかはその人次第だ。
 実技テストは、国家魔導士を招き行うもので、これに合格することでシルヴィアでの学園生活本格スタートとなる。落ちると、地獄の補習の後必ず習得させられる。どうしても無理な場合は退学だ。
 そのテストで特進行きも決まる。一年で特進クラスに行ける可能性は無いに等しい。
 大体触媒や自身の魔法に慣れた頃、二年春に行われる魔導士中級のテストから特進クラスに入れる人間が増える。まあ、俺の兄は一年で入ったらしいけどな。
 座学実技ともにハイレベル。初級なんて飛び越えて上級資格を取ることを、教師や先輩からお勧めされたそうな。憎たらしいことだ。
 アルとクロエはおそらくだが、一年で特進に行くのだろう。ゲーム内でも最初から二人は特進寮に居て、ルームメイトだったはずだ。
 となると、俺はまた友達のいない学園生活に戻るのか。
 数秒考えて、それもやむなしという結論に至る。勉強はどうにかなっても、実技部分は自信がない。

「ユーリ」
「なんだ。席に戻ったらどうだ」
「もどるよ、一応お礼、ありがと」
「お前が何もしないから口を出した。お前のためじゃない」
 あいつが余計なことを言うから言い返しただけだ。本当にクロエのためではないのだが、クロエは頬を緩める。微笑みというのだろうか、こいつ笑えたのか、驚いて開いた口が閉じない。
「じぶんのため?」
「あ、ああ。当然だろ」
「そっか、なら少し注意。ああいうのは反応しないのが一番」
「俺には無理だな」
「だろうね」
 お前に何がわかる。むっとしたが、クロエが珍しく笑っているので、余計なことは言わないでおいた。
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