悪役令息さん総受けルートに入る

文字の大きさ
10 / 66

試験まえ

 シルヴィアには運動場のほかに地下訓練所というものがある。
 戦闘訓練、魔法練習なんでも良し。使うには申請が必要で、時間も決まっている。
 アルたちに言われて訓練場の予約を取ったものの、何故俺が申請書書いて先生の元へ行かねばならないのか疑問である。言い出したのお前らだぞ。
 本当はアルが行こうとしていたのだが、練習場で練習をすると聞きつけたクラスメイトに囲まれ、その対処に追われ叶わなかったらしい。魔法を教えてくれ、一緒に練習したい、そういう人間を無下にできなかったという。
 遠くで見ていたが、女子に囲まれおろおろしている姿は、腹立たしいが滑稽だった。
 やはり顔も良くて優しくて強いやつがモテるのだ。爆ぜろ。クロエも美しい部類なのに人が寄らないのは、まあ、仕方ない。クロエだからな。

 訓練場はいくつかのブースに分かれていて、それぞれ結界で仕切られている。使った魔法が無関係の人間に飛ばないようになっているため、ある程度強い魔法を使っても問題がない。しかし、命に関わる戦闘は強制終了させられる。
 俺たちの場所は、入り口にほど近い壁側だ。
 訓練場は基本的に広い真っ白な空間だが、利用者に渡されるタブレットデバイスを弄ることによって地形が変わる。俺たちは遺跡のような風景の空間に設定してある。
 水を含んだ地面、倒れた脊柱、生い茂る草木。見てるだけで体が痒くなりそうだ。

「水が良いとされてる理由は、そう設定されているからだ。初級は弱点の設定を行い、あらかじめ一つの属性だけでも倒せるようになっている。なにせ初級だからな」
「水属性が苦手な人には最悪じゃない?」
「そういう人のための救済措置として、ゴーレムの強度は弱くなっている」
 ふよふよと中を漂うタブレットを操作し、訓練相手に練習用ゴーレムを選ぶ。
 人間型の土くれが俺たちの正面に現れ、どろどろの体を震わせた。本番のものとは違うが、おそらくこれに似たものが出てくる。
 こういうのは、父情報だ。国家魔導士の資格は魔法省の管轄で、受験時期や内容もそこで決める。
 ゆらゆら佇むゴーレムに、触媒である杖を向ける。黒塗りの木製杖は、指揮棒ほどの大きさで、某魔法使い映画に近い見た目だ。
 魔力を指先に集中し、杖を振る。ぽんぽんと俺の前に火の玉が現れた。
「火球?」
「ちがう爆弾のようなものだ」
 いくつかの火球をゴーレムの周りに浮かせ、もう一度杖を振る。すると、連続した爆発音と共に目の前に炎が広がった。
 爆風が土を巻き上げ煙と化す。土煙が消えた後には、ばらばらになったゴーレムが残されていた。
「おそらくこのようにもろく設定されているはずだ。水のが早く済むのだろうが、破壊できる魔法を使えるならこれでも良いだろう。固さによっては時間がかかるがな」
「水の場合は、えーと」
 アルがタブレットに触れ、ゴーレムが元の姿に戻った。これ格ゲーのトレモみたいだな。
 今度はアルが杖を振る。すると音も無く水のレーザーが現れ、ゴーレムを真っ二つにした。それ、別の魔法で良いだろ。風でも光でもレーザー出せば敵は死ぬ。
「こうだな」
「アル、水も得意なんだすごーい」
「そうじゃないな……。試験用ゴーレムには、水を多くかけるとどろどろになって体が崩れるという特性があってだな」
「ああ、そういう。うーん。慣れない水より光魔法で切り伏せた方が楽な気がしてきた」
「慣れる云々の問題か?」
「おれは風で行くかな。水苦手、火も苦手」
 言いながら、クロエは杖の先から炎を出す。ライターの火みたいな小ささだ。竜のくせに火が苦手とかあるんだ。
「クロエ、火は吐けないのか?」
「ユーリは竜がみんな火、吐くと思ってる?」
「ロマンというか、格好良いだろ火を吐けた方が」
「俺は風と闇とか植物を操るのが得意。竜っぽくない?」
「俺は良いと思う。闇竜ってすごく良い響きだ」
 アルはときどき中二病をちら見せてくるのをやめてくれ。
 まあ、人間にも不得意属性があるし竜にだってある。火竜に少し憧れがあったが、ここは首を横に振っておこう。
 おそらく二人は、苦手属性だと言っても人並み以上には使えるに違いない。炎が得意なだけの俺とは違う。
「ユーリは火で行くんだっけ? 試験の時はもっと固いのでてきそうだし、火力を上げた方が良いんじゃないか?」
「低燃費で何とかなるようにする」
「そういえば、魔獣とか魔法使い同士で戦うと魔力上がるんだよね。そういう修行、おれの故郷にあった。里の周りにいる魔獣とひたすら戦うやつ」
 獅子は我が子を千尋の谷に落とすというやつか、厳しい世界だ。
 おそらくレベル上げというものだろう。RPGによくあるやつだ。戦って経験値を稼いで能力を上げる。経験は何よりの糧なのだろう。スタジュエでもレベル上げをひたすらしていたな。最後はレベル1縛りをした記憶がある。悠太はマゾなのか?
「じゃあ、外出許可取って街の外行くか」
「馬鹿か、俺たちはまだ初級魔導士ですらないんだぞ。資格を持たないものは学園以外での魔法の行使は禁止だ」
「なら、おれたちで練習試合しよっか、ユーリ」
「ん?」
 クロエが端末を操作すると、青臭い世界から無味無臭の白いトレモステージに変わる。すごく嫌な予感がする。
 俺の真向かいに立ったクロエは、運動服の上着を脱ぎ捨てる。この世界でも運動着はジャージと同じ形をしていて、違いは魔法に対する防御が高いところくらいか。一年は青、二年は緑、三年は赤と分けられている。
「一番練習したほうがいいの、ユーリだから。手伝う」
「い、いらない。俺はべつにそんな」
「良かったなユーリ! 次は俺が相手になるよ。頑張ってゴーレムをウェルダンにしよう」
「あいつらに焼き加減があるのか?」
 クロエが下でゆるく結んでいた髪の毛を、上で結び直す。いわゆるポニーテールだ。やる気を出してやがる。最悪だ。
 俺はやっぱりこいつらにぼこされる運命なんだ。前世の記憶を思い出すなら、悠太がメイン人格だったら良かったのに、そしたら肉体ダメージも精神ダメージも、悠太に押し付けられたのだろう。物語の悪役に転生する時って大体そうだろ! なんで俺は俺なんだ。
 しぶしぶ杖を持ち、クロエの前に立つ。俺は今日死ぬのかも。訓練所だと一定の魔力検知すると止められるので、多分生き残ってしまうのだろう。
 死にたくないけど生きたくない。人間の精神とはなんと複雑なことか。
「手加減するから、怪我はしないようにする。ユーリは全力で良いよ」
「きみは本当に俺を侮っているな!」
「だって弱いの分かるし……。魔力強い人って傍に居るとぶわーってなるけど、ユーリはないから」
「クロエ、そういうのは分かっても言わない方が良い。ユーリも傷つく」
「庇うと余計に傷つくんだ。覚えておくといい」
「ごめん」
 謝られるとなおの事胸に来る。アルも思ってたんだ。俺の能力が低いって、だから守るって言ったんだ。泣きそう。俺だって俺つえーしたい。
 目元に浮かぶ涙を無視して、俺は杖を振る。目の前に現れた俺の身長と同じくらいの炎の壁を、杖の先を揺らして動かす。
 くるくる回して蛇のような形にすると、ぼんやりしているクロエに向かって突進を命じる。
「うーん。もっと力強く」
 そう言ってクロエの杖が光る。途端強風が吹き荒れ、俺の炎の蛇を吹き飛ばした。
 火と風は相性がいい。魔法合体で使うと、風のサポートで火力が上がり攻撃力が上がる。というのはゲームの話。現実はこうして吹き飛ばされる。酸素を供給してもらえたら、俺の火力も上がるんだけど、なんて言えるわけもなく。
「つぎー」
「これ、意味ないだろ。効率の良い訓練法は他にあってだな。魔石を使うものなんだが」
「やらないと分からないだろ。頑張れ」
「アル嫌い」
「えっ」
 人が話しているのに被せるな。不機嫌を隠さないで杖を構える。背後で小さく、ごめん、と聞こえたがもう知らん。
感想 10

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢と同じ名前だけど、僕は男です。

みあき
BL
名前はティータイムがテーマ。主人公と婚約者の王子がいちゃいちゃする話。 男女共に子どもを産める世界です。容姿についての描写は敢えてしていません。 メインカプが男性同士のためBLジャンルに設定していますが、周辺は異性のカプも多いです。 奇数話が主人公視点、偶数話が婚約者の王子視点です。 pixivでは既に最終回まで投稿しています。

王道学園のモブ

四季織
BL
王道学園に転生した俺が出会ったのは、寡黙書記の先輩だった。 私立白鳳学園。山の上のこの学園は、政財界、文化界を担う子息達が通う超名門校で、特に、有名なのは生徒会だった。 そう、俺、小坂威(おさかたける)は王道学園BLゲームの世界に転生してしまったんだ。もちろんゲームに登場しない、名前も見た目も平凡なモブとして。

メインキャラ達の様子がおかしい件について

白鳩 唯斗
BL
 前世で遊んでいた乙女ゲームの世界に転生した。  サポートキャラとして、攻略対象キャラたちと過ごしていたフィンレーだが・・・・・・。  どうも攻略対象キャラ達の様子がおかしい。  ヒロインが登場しても、興味を示されないのだ。  世界を救うためにも、僕としては皆さん仲良くされて欲しいのですが・・・。  どうして僕の周りにメインキャラ達が集まるんですかっ!!  主人公が老若男女問わず好かれる話です。  登場キャラは全員闇を抱えています。  精神的に重めの描写、残酷な描写などがあります。  BL作品ですが、舞台が乙女ゲームなので、女性キャラも登場します。  恋愛というよりも、執着や依存といった重めの感情を主人公が向けられる作品となっております。

悪役令息の兄って需要ありますか?

焦げたせんべい
BL
今をときめく悪役による逆転劇、ザマァやらエトセトラ。 その悪役に歳の離れた兄がいても、気が強くなければ豆電球すら光らない。 これは物語の終盤にチラッと出てくる、折衷案を出す兄の話である。

虐げられた前王の子に転生しましたが、マイペースに規格外でいきます!

竜鳴躍
ファンタジー
気が付いたら転生していました。 でも王族なのに、離宮に閉じ込められたまま。学校も行けず、家庭教師もつけてもらえず、世話もされず。社交にも出られず。 何故なら、今の王様は急逝した先代の陛下……僕の父の弟だから。 王様夫婦には王子様がいて、その子が次期王太子として学校も行って、社交もしている。 僕は邪魔なんだよね。分かってる。 先代の王の子を大切に育てたけど、体が弱い出来損ないだからそのまま自分の子が跡を継ぎますってしたいんだよね。 そんなに頑張らなくても僕、王位なんていらないのに~。 だって、いつも誰かに見られていて、自分の好きなことできないんでしょ。 僕は僕の好きなことをやって生きていきたい。 従兄弟の王太子襲名の式典の日に、殺されちゃうことになったから、国を出ることにした僕。 だけど、みんな知らなかったんだ。 僕がいなくなったら困るってこと…。 帰ってきてくれって言われても、今更無理です。 2026.03.30 内容紹介一部修正

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼不定期連載となりました。 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。

事なかれ主義の回廊

由紀菜
BL
大学生の藤咲啓嗣は通学中に事故に遭い、知らない世界で転生する。大貴族の次男ランバート=アルフレイドとして初等部入学前から人生をやり直し、学園で出会う無愛想で大人顔負けの魔法の実力者であるヨアゼルン=フィアラルドと親友になるが、彼に隠された力に翻弄され次々と襲ってくる災難に巻き込まれる。終いには、国家の存続を揺るがす大事件にまで発展することに・・・

噂の冷血公爵様は感情が全て顔に出るタイプでした。

春色悠
BL
多くの実力者を輩出したと云われる名門校【カナド学園】。  新入生としてその門を潜ったダンツ辺境伯家次男、ユーリスは転生者だった。  ___まあ、残っている記憶など塵にも等しい程だったが。  ユーリスは兄と姉がいる為後継者として期待されていなかったが、二度目の人生の本人は冒険者にでもなろうかと気軽に考えていた。  しかし、ユーリスの運命は『冷血公爵』と名高いデンベル・フランネルとの出会いで全く思ってもいなかった方へと進みだす。  常に冷静沈着、実の父すら自身が公爵になる為に追い出したという冷酷非道、常に無表情で何を考えているのやらわからないデンベル___ 「いやいやいやいや、全部顔に出てるんですけど…!!?」  ユーリスは思い出す。この世界は表情から全く感情を読み取ってくれないことを。いくら苦々しい表情をしていても誰も気づかなかったことを。  寡黙なだけで表情に全て感情の出ているデンベルは怖がられる度にこちらが悲しくなるほど落ち込み、ユーリスはついつい話しかけに行くことになる。  髪の毛の美しさで美醜が決まるというちょっと不思議な美醜観が加わる感情表現の複雑な世界で少し勘違いされながらの二人の行く末は!?