悪役令息さん総受けルートに入る

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お出かけ

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 無事初級魔導士試験を突破し、練習用の触媒から自分にあった触媒を持つことが許された。これで今まで力が制限されていた者も、自由に自分の魔力を使い上級の魔法に挑戦することができる。
 まあ、すぐに取得できるものでもないので要修行ではあるがやれることは増えるだろう。
 触媒に関しては、教師と相談しグループで買いに行くのもよし、家族から譲り受けるのもよしといった自由さなので、俺はアルと一緒にダーキルさんに頼むことにした。
 金に糸目はつけないので、こんな感じで頼むという依頼書をアルに渡して、後は完成を待つのみだ。
 触媒が手元に来たら、学校側に触媒許可申請をする。無事登録され次第、自由に使うことが許される。
 ちなみにクロエは耳につけていたものが触媒だった。最初からつけてるのは良いのか、と疑問だったが、本人は一度も使ってないから良いだろと開き直っていた。


 アルに頼んで依頼をしたのが二週間前、そして今日は触媒を取りに行く日だ。思いのほか早く完成したのに驚いたが、アルは父さんなら当然だとどや顔をしていた。
「クロエ、昨日から居ないんだっけ」
「ああ、外泊許可を取って博士の元に行くと聞いた」
「残念。一緒に出掛けてみたいな。街の案内とかしたかった」
「あいつそういうの興味あるのか? 休みは寝てたいと言っていたが」
「無いかな? でも、ほら、せっかく三人で特進行けたんだからもっと仲良くなりたいよな」
 三人で特進の言葉に、俺は思い切り顔を顰める。
 本当にまったくもって意味不明だ。家名に対する忖度としか思えない。俺が特進クラスに入れる要素がどこにある。今でも納得がいっていない。

 俺が特進クラスに巻き込まれたのは、ダーキルさんに触媒を頼む数日前のことだ。

 他の生徒より合格発表が遅れた俺は、職員室にて一人で合否を聞く予定だった。だが、リザ先生に連れて行かれたのは、またしても生徒指導室だった。
 俺はなんのずるもしてないぞ。なんで、どうして、と内心震えていたのだが、後からアルとクロエが来たことで今度は別の疑問が浮かぶ。

「凄いわ、今年は特進入りが三人も。おめでとうがんばりましたねぇ」
 リザ先生が手を合わせてほほ笑む。可憐な笑顔だ。男子生徒にも女生徒にも人気がある理由がよく分かる。しかし主語が抜けている。何の話だ。三人? あと一人はどこだ。
 ぽかんとしていると、アルが「特進の話」と耳打ちをした。分かっているそんなこと、三人? いやいやそんな馬鹿な。信じられなくて、俺は思わず椅子から立ち上がる。
「はあ? ありえません」
「あら、なにが?」
「俺が特進なんておかしい、もう一度審議し直してください」
「おかしいのはユーリ、普通喜ぶ」
「そうだよ。ユーリ、とりあえず座ろう」
 腕を引かれ、大人しく腰を下ろす。
 お前ら、何で俺がおかしいみたいな反応してるんだ。
 俺は魔力も少なく火の魔法ばっかり練習しているし、普通科の内容ばかり勉強をしている。そりゃテストはある程度高得点を取れるようにした。だが、実技は手を抜いた。
 ゴーレムを倒したのも、火球に爆破を合わせた炎属性でも初級レベル。下手したら初等部でもできるものである。
「採点が不満、ですか……。そのタイプの抗議は初めてて驚きました」
「普通は、自分の評価が高いことに文句言いませんよね」
 苦笑いするアルの脇腹を肘で小突く。痛い、という悲鳴は無視だ。
「ペーパーテストには自信があります。ただ実技は大したことがないでしょう」
「あらぁ、胸張って言う事じゃないわ。そうね、魔力量は普通、貴方の両隣の二人に比べたら少ないかな」
「ですよね」
「でも、コントロールは完璧でした。貴方よりも強い二人でも、魔力の出力はブレがあります。まだ大きな力を抑えられていない状態でしょうね」
「俺は魔力が少ないので、コントロールができたともいえますよね?」
「あーいえばこーいう」
 クロエが脱力して、机に半身を倒す。その目はあきらかにレスバを止めろと言っていた。だが俺は止まれない。納得いかない。
 俺は雑魚悪役令息だ。
 やめろ、特進なんかに行ったらこの二人と同等かも、なんて夢見てしまうだろ。そして調子に乗った結果、高すぎる理想に届かず、闇落ちからの成敗エンドだ。
 嬉しいと怖いが交互に襲ってきて、俺の正気を奪おうとする。
「お兄さんから、地下での戦闘の映像を見せてもらったんです。周囲を照らすための必要最小限の炎、壁を壊すための爆破威力調節。素晴らしかったですよ。あとは、ゴーレム戦ですね。これが一番の理由です」
「あ、あんなの誰でもできます。特に俺はその魔法ばかり練習してましたし」
「出来ないから言ってるの。狙いの正確さ、必要な威力の調整。ああ、虫を落とす時も器用に小さな炎を出していましたね。貴方が特進クラスの理由は、魔力ではなくその器用さと単純に成績の良さです」
 お勉強頑張って偉い。リザ先生が穏やかな声で褒める。

 俺は、実はすごいのか? 魔法を褒められたのが初めてで、反応の仕方が分からない。
 まずい、否定しか浮かばない。もしくは、まあ当然だな崇めよ愚民ども! みたいな台詞しかない。俺の語彙レパートリーどうなってるんだ。
「納得いかないなら、そこの二人と勝負してみなさい。ごく少量の魔力を一定に保ったまま、長時間放出できるか」
「出来るに決まってます。だろう?」
「出来て数秒かも。俺はどうしても出力高めになっちゃうんだよな……」
「おれもそういうの苦手。やりたくない」
 そんな馬鹿な、端からやる気のないクロエと違って、アルはいけるはずだ。意図的にできないとか言ってるに違いない。
 またしても席を立ちかけたが、とりあえず落ち着いてもう一度座る。
 ゲームと違う。いや、現実だから、あれは二次元で物語の世界。だからこれくらいの展開の差、気にしてはいけない。
 今までゲームの展開を気にしてきたせいで、ストーリーから大きく外れる展開があると不安になってしまう。本来喜ぶべきことなのに、俺はどこまで俺という人間で良いのかが分からないのだ。

「お、俺は、将来地方公務員となり役所で市民に税金泥棒と罵られつつも、定時退社をし残りの時間を趣味に費やし夜は零時前に寝る生活を目指していて」
「なんで魔法科に来ちゃったのか分からない将来の夢ですね。魔法学科の教師なら一応公務員ですよ。定時退社は諦めてもらうことになりますけど」
 この世界でも教師という職は辛いものなのか、聞きたくなかった。
 しばらくの沈黙。三人からの視線が痛い。たっぷり五秒ほど無言の時を過ごし、リザ先生が再び口を開いた。
「一応辞退もできます。でも、特進は降格制度があるの。能力のない人は普通クラスに戻ります。貴方が自分は駄目だというのが事実なら、降格するでしょうね」
「つまり?」
「一度チャレンジしてみたら? そして、私たちの間違いを証明してみなさい」
「…………分かりました。必ず後悔させてみせますよ」
「なんだろう、格好良いこと言ってるようで全然良くないこの感じ」
「かっこよくはないでしょ、アルはおかしい」
「お、おかしい?」
 外野がうるさい。お前らは未来永劫特進から落ちることはないだろうよ。俺は余裕だ。こいつらの期待を裏切ってみせよう。
 さすがに自分でも言ってることやばいなって思う。後に引けなくて余計なことを言っている自覚がある。でもこうしてハードルを地に埋めないと、膨れ上がるだろう自尊心にのまれそうだ。
 俺は何をこんなに怖がっているのだろう。死ぬ運命より、駄目な自分に戻ることが何よりも恐ろしい。最初はこんなはずではなかったのに。
「もう良い? それじゃ、三人の課題を言います。グロリアもヘストリも優秀ですが、それだけでは降格もありえますからね。苦手な部分は克服していきましょう」
 書類を手にしたリザ先生が、俺たちへの課題を言う。それをできるだけ早く克服しろという話だった。俺は魔法のレパートリーの無さ、魔力量強化を言い渡された。


 という感じで、俺は特進クラスを受け入れ、明日寮の引っ越しがある。一年は個人寮ではなく、二人づつだ。まだ部屋分けは行っていない。
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