悪役令息さん総受けルートに入る

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例のブツ

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 もはや懐かしい駅に着くと、俺たちは迷うことなく目的地へ歩きだす。
 無人駅も、人の少ない駅前広場も久しぶりだ。冬を越え、春も過ぎた時期だからだろうか、以前来たときより人影が増えたようだ。
 犬の散歩をしている人、休日だというのにスーツ姿の男や親子連れ。たったこれだけでも駅が賑わっているように見えた。

 この街は王城を中心に円形に広がった形状をしている。地形が少し特殊で、世界樹のある上層区中央部が山のように高くなり、下層に向かうにつれ低くなっている。単純に位置が高いから上層、低いから下層、という区分けだったがいつのまにやら貧富の差というものが出来ていた。
 下層は外からの魔獣の侵入が多く危険なため、その分土地が安くなる。その結果が治安の悪化だ。中層は中流の人々が住み、上層は金持ちの世界。
 以前はそれが普通だと俺も思っていたけど、悠太のせいで褒められた状況ではないと感じるようになってしまった。

 本日は晴天。夏も近い季節で、長袖を着ていると少し暑く半袖になると寒いという中途半端な気候だ。
 青い空を見上げていると、このまま魔法も何も関係のない世界へ行きたい気分になる。将来とか何も考えていない学生時代ほど、楽しいものはないだろう。
「ユーリ、あのさ。触媒を受け取った後、行きたいところがあるんだ」
 何でもない会話をし、アルの家まであと三ブロック先といった頃、アルがおそるおそるといった様子で俺に尋ねる。
「その言い方、俺も一緒にこいってことか」
「うん、駄目かな?」
「今日は時間もあるしかまわない」
「ありがとう」
 どこに行くのか聞く前に、アルの家に着く。何年も変わらぬ外観にもはや安心感すら覚えた。
 ドアをくぐって、アルが父を呼ぶ。店内のディスプレイは定期的に変わっているのか、棚の上には見たことのない魔石の結晶が並んでいる。
「おう、来たか。ひさしぶりだな」
「父さん久しぶり、例の物受け取りに来た」
「お久しぶりです」
 アルの言い方変だな、と思いつつ。ツッコミも面倒なのでスルーした。
 ダーキルさんは、手に持ってた作業用の手袋をカウンターに置き、その下から箱を二つ取り出した。一つは小さい縦長の小箱、もう一つは両手サイズの大きなものだ。
「こっちはアル、こっちは小僧だ」
「ありがとう! はい、ユーリ」
「ありがとうございます」
「お前ら俺がなんでもできると思ってねぇか? 無茶言いすぎだ」
「でも、俺が頼んだのは前に作ってたし」
「俺のはそんな難題ではなかったはず」
 渋い顔をしている店主に、なんだかんだ言いつつ二人で箱を開ける。
 アルの箱から出てきたのは、剣の形をした銀のペンダントで、剣の柄の部分に魔石がはめ込まれている。
 それをアルが手で握り魔力を込めるとぱっと光って、本物の剣へと姿を変えた。白金の剣身単語けんしんに黒い柄。騎士が持ちそうな武器だ。こいつそういえばゲームでもこういうの使ってたな。
「おー、格好良い! ありがとう父さん!」
「無事動いてなによりだ。そっちは」
 言われて、箱の中から触媒を取り出す。俺のは靴だ。
 白と黒のドレスシューズで、デザインは写真をいくつか一緒に渡してこういうイメージでと頼んだ。
 つま先と踵、アイレット、ヒール含む靴底部分は黒で他は白となっている。踵部分に魔石が埋め込まれており、俺が主に魔力を込める部分は足となる。
「ユーリ、それで魔法使えるのか?」
「本当にな、アンクレットの依頼はきたことがあるが靴は無かった。素材集めだって楽じゃねえんだぞ」
 言われて、加工された皮に指を這わせる。普通の皮靴とは違い、上手く言語化できないのだが艶が違う。蛇のうろこのような、しかしそれよりも滑らかなような。
 触媒に使う素材は、魔力に耐えられるよう特殊なものを使っている場合が多い。アルの剣もただの銀ではないだろうし、当然この靴も変わった素材だろう。
「素材、これは……。蛇、じゃなくて」
「ヒュドラの皮だな」
 ヤマタノオロチににたやつか。確かに貴重な素材だ。どうやって探したのやら。俺が金に糸目は着けないとかいったから、とんでもないものになった。父さん母さん、金遣いが荒くてすみません。
 心の中で届かぬ謝罪をして、靴を履く。靴紐を結んで少し歩くが、歩くのには特に問題は無い。こういうのは使っている内に馴染むものだ。
 そして、魔法が使えるか試すため足に魔力を集める。集中して数秒後、俺の目の前に小さな炎が現れる。以前のように即座に魔法を使うのには、少し練習がいりそうだ。
「どうだ」
「問題ありません。後は俺が慣れたら今まで通りに使えます」
「ふむ、ちっと聞くが、どうして靴に? 触媒ってのは肌に近い方が使いやすいだろう」
 それはそう。体の内から魔力を放出するならば、肌に近い方がやりやすい。靴の裏、というか踵の後ろは微妙に肌から遠い。アンクレットならば、足とはいえ肌には触れるだろう。
 それでもこれを選んだ理由は――
「魔法を使う動作が分かりにくいでしょう。他のタイプでもやろうと思えばできるのですが、魔石が光ると魔法を使用したと分かってしまう。しかし足元なら目立ちません」
「ユーリは暗殺でもする予定があるのか?」
「どうしてそうなる。ああ、あと単純に格好いいですよね。足から魔法打つの」
 本当は靴底に魔石のが良いが、魔石が傷つきそうだったからやめた。
 漫画やゲームなどのキャラで足技を使うキャラが居るだろう。あれが格好良かった。蹴り技プラス魔法ってロマンあると思う。ただし、やるにはフィジカルが必要だ。
 なんだかんだ言ったが、格好良いから、が一番の理由である。
「格好良いが理由で触媒を作ると後悔するぞ? まあ、せいぜい使いこなしてみろ」
「当然です。あ、お代の請求はアーヴィンにお願いします。領収書いただけますか?」
「領収書ぉ? 本当に面倒な奴だな……」

 こうして、俺たちは新触媒を手にすることができたのだが、許可が無ければ練習もお預けだ。面倒な制度だが、違法なものを使っていないかの確認は大事である。
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