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その後の話
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「はぁー……」
「ため息やめろー」
「おかしいでしょ、俺は聖女代行ですよ。なぜ倉庫係なんてやらせるんですか」
「一般生徒と同じ扱いってな、ほら探せ探せ」
窓を開け放った倉庫内は、最初に来た頃に比べかなり綺麗になった。荒れ果てていた室内は整理整頓され、掃除も行き届いている。
あれから俺とカイル先輩が、倉庫管理を担当することになってしまった。今は、夏期の特別講習に使うためのアイテムを探している最中だ。
聖女代行を賜って早ひと月、夏休みも目前といったところまできていた。世界樹を襲っていた魔獣はぱたりと来なくなったものの、世界樹の異変はまだ続いている。傷の修復は進んでいるが、内部の異変というものを探すのが、やはり骨が折れる。まだたどり着けていない。
世界樹の魔力を貰えたと思ったら、貰えたのは世界樹の力を使えるようになる権利だけだった。魔力は俺依存だ。そのせいで進みが遅い。世界樹のしずくを飲みつつ作業しているが、俺の体力も精神力も無限ではない。
おかしい、魔力を分けるのに異世界人のが都合が良いって言ったじゃないか、と苦情を訴えたが、神様は涼しい顔で世界樹の固有魔法えお分けたのだから魔力を与えた内に入るだろう、なんて言いやがった。
世界樹の元を後にしてから、怒涛の一日だった。
聖女教会とかいう聖女と世界樹を崇拝している所に行くと、怖い人たちに囲まれた。その怖いの種類だが、マフィアとかチンピラとかそういう類じゃない。宗教的な怖さだ。前者のがまだマシだった。ホラー映画に迷い込んだかのよう心持だ。
司祭長とサシでの話し合いだと聞いていたから、応接室には一人で入った。なのに、広い室内には、俺と司祭長とその付き人が四人も居たのだ。圧迫面接か?
緞帳のごとき重々しいカーテンのせいで、昼だというのに室内は暗く、光源はそこらに浮いたランタンだけ。今からデスゲームでも始まるかのような、そんな光景だ。
そんな中、ゆったりとした司祭服を着た老人と、仮面をつけた白い聖歌隊のような服装な人たちに囲まれて喉の奥がきゅっとなった。
聖女の神聖性、男性は初めてだという話、今後聖女として教会の象徴になってほしいこと。そして、世界樹から何を聞いたのかを問われた。
「聖女としては、無理があるのではないでしょうか、男性なので」
「聖者として、と言おうか? とにかく、きみはこの世界で神に等しい存在なのです。民の希望となる存在。世界樹を救った後は、人々を救う責務があります」
「俺は一時的に、力を、与えられた! だけ! なので」
言葉を区切って強調しつつ俺はあくまで聖女の代わり、本物ではないことを主張した。
本能的にこいつらの元で働くのを拒否している。たとえ今後の暮らしが安定するとしても、俺の求めるものじゃない。俺はやはり、田舎の公務員で良い。
世界樹から初代聖女の話を聞いたかという質問は、聞いていないと誤魔化した。
老人の窪んだ眼窩の奥にある瞳が、ぎらりと輝いたのを見た瞬間、言うべきではないと察した。
話した時間は長くないというのに、永遠とも錯覚するような息苦しい空間だった。
次に両親の元に行った。
久しぶりの我が家はなんら変わりなく、違いと言えば家の外に野次馬もとい記者たちがうろついていたことだろう。俺はヴィルと共に転送魔法で直接家の中に向かったので、奴らと相対することはなかった。
居間で家族四人揃うのはどのくりぶりだろう。そもそも両親ともに忙しく、揃って食事すらなかなか無いような状態だったから、こんな形で顔を合わせるのは少しばかり申し訳なくなる。
俺の前に座った母は、珍しく眉尻を下げ不安そうな表情をしていて、父さんはまあいつも通りだ。
「まさか貴方が聖女、の代わりをやるなんて、連絡を受けた時はびっくりして倒れちゃった」
「いや、ユーリは何かやってくれると信じていたよ。ははは」
「何も面白くありません」
「ごめん」
軽口を言う場面ではない、心に刻め馬鹿親父。
隣にヴィル、正面のソファに父と母。よくあるポジションだが、今日は居心地が悪い。まあ今までも居心地が良かったことは無いのだけども。
そこから一通り近状報告、俺が特進に入ったこともすでに知っていたから、アルと新しくできた友人のクロエの話をしたら、母さんが泣いた。その姿に俺も泣きそうになった。何故かって? 友達できて親に泣かれる気持ちを考えてみろ。辛すぎる。
「私、ユーリをうちで引き取って良かったのかなってずっと考えてたの」
あらかた話したあと、母が急にとんでもないことを言い出す。
どう反応すればいいか困っていたが、母は気にする様子もなく後を続ける。
「このお馬鹿さんがちょっと有名だから、あなたまで記者に追い掛け回されたでしょう? それに私たちも忙しくて、引き取ったは良いけどお世話は周りに任せきり」
「は、はぁ」
「うちじゃなくて、どこか静かな町で穏やかに暮らしていた方が良いのかなって。でも、今こうやって頑張って特進にも入って、お友達もできて楽しそうにしてるでしょう? 安心しちゃった」
楽しそう? どこをどう見たらそうなるんだ。俺は特進には入りたくなかったし、聖女代行もやりたくなかった。静かに生きようとしたのに、すべて裏目だ。
「あなたのことを好き勝手言う人たちは気にしちゃだめだからね! ヴィルも一緒だし、力を合わせて使命を全うできるよう、頑張りなさいね」
使命なんてくそくらえだし、ヴィルが一緒というのが不安要素なのだが、俺はにっこり笑ってありがとうございます頑張りますとだけ口にした。
昔からこうだ。両親のことは嫌いではないし、感謝しているが家では基本的に素直ないい子で居た。その反動か、外では酷かった。今はバランスが良いんじゃないだろうか。
そんな感じで実家は終わり。
泊って行けばと言われたが、学校に戻れとカイル先輩にも言われていたのでその日は寮に帰った。
「ため息やめろー」
「おかしいでしょ、俺は聖女代行ですよ。なぜ倉庫係なんてやらせるんですか」
「一般生徒と同じ扱いってな、ほら探せ探せ」
窓を開け放った倉庫内は、最初に来た頃に比べかなり綺麗になった。荒れ果てていた室内は整理整頓され、掃除も行き届いている。
あれから俺とカイル先輩が、倉庫管理を担当することになってしまった。今は、夏期の特別講習に使うためのアイテムを探している最中だ。
聖女代行を賜って早ひと月、夏休みも目前といったところまできていた。世界樹を襲っていた魔獣はぱたりと来なくなったものの、世界樹の異変はまだ続いている。傷の修復は進んでいるが、内部の異変というものを探すのが、やはり骨が折れる。まだたどり着けていない。
世界樹の魔力を貰えたと思ったら、貰えたのは世界樹の力を使えるようになる権利だけだった。魔力は俺依存だ。そのせいで進みが遅い。世界樹のしずくを飲みつつ作業しているが、俺の体力も精神力も無限ではない。
おかしい、魔力を分けるのに異世界人のが都合が良いって言ったじゃないか、と苦情を訴えたが、神様は涼しい顔で世界樹の固有魔法えお分けたのだから魔力を与えた内に入るだろう、なんて言いやがった。
世界樹の元を後にしてから、怒涛の一日だった。
聖女教会とかいう聖女と世界樹を崇拝している所に行くと、怖い人たちに囲まれた。その怖いの種類だが、マフィアとかチンピラとかそういう類じゃない。宗教的な怖さだ。前者のがまだマシだった。ホラー映画に迷い込んだかのよう心持だ。
司祭長とサシでの話し合いだと聞いていたから、応接室には一人で入った。なのに、広い室内には、俺と司祭長とその付き人が四人も居たのだ。圧迫面接か?
緞帳のごとき重々しいカーテンのせいで、昼だというのに室内は暗く、光源はそこらに浮いたランタンだけ。今からデスゲームでも始まるかのような、そんな光景だ。
そんな中、ゆったりとした司祭服を着た老人と、仮面をつけた白い聖歌隊のような服装な人たちに囲まれて喉の奥がきゅっとなった。
聖女の神聖性、男性は初めてだという話、今後聖女として教会の象徴になってほしいこと。そして、世界樹から何を聞いたのかを問われた。
「聖女としては、無理があるのではないでしょうか、男性なので」
「聖者として、と言おうか? とにかく、きみはこの世界で神に等しい存在なのです。民の希望となる存在。世界樹を救った後は、人々を救う責務があります」
「俺は一時的に、力を、与えられた! だけ! なので」
言葉を区切って強調しつつ俺はあくまで聖女の代わり、本物ではないことを主張した。
本能的にこいつらの元で働くのを拒否している。たとえ今後の暮らしが安定するとしても、俺の求めるものじゃない。俺はやはり、田舎の公務員で良い。
世界樹から初代聖女の話を聞いたかという質問は、聞いていないと誤魔化した。
老人の窪んだ眼窩の奥にある瞳が、ぎらりと輝いたのを見た瞬間、言うべきではないと察した。
話した時間は長くないというのに、永遠とも錯覚するような息苦しい空間だった。
次に両親の元に行った。
久しぶりの我が家はなんら変わりなく、違いと言えば家の外に野次馬もとい記者たちがうろついていたことだろう。俺はヴィルと共に転送魔法で直接家の中に向かったので、奴らと相対することはなかった。
居間で家族四人揃うのはどのくりぶりだろう。そもそも両親ともに忙しく、揃って食事すらなかなか無いような状態だったから、こんな形で顔を合わせるのは少しばかり申し訳なくなる。
俺の前に座った母は、珍しく眉尻を下げ不安そうな表情をしていて、父さんはまあいつも通りだ。
「まさか貴方が聖女、の代わりをやるなんて、連絡を受けた時はびっくりして倒れちゃった」
「いや、ユーリは何かやってくれると信じていたよ。ははは」
「何も面白くありません」
「ごめん」
軽口を言う場面ではない、心に刻め馬鹿親父。
隣にヴィル、正面のソファに父と母。よくあるポジションだが、今日は居心地が悪い。まあ今までも居心地が良かったことは無いのだけども。
そこから一通り近状報告、俺が特進に入ったこともすでに知っていたから、アルと新しくできた友人のクロエの話をしたら、母さんが泣いた。その姿に俺も泣きそうになった。何故かって? 友達できて親に泣かれる気持ちを考えてみろ。辛すぎる。
「私、ユーリをうちで引き取って良かったのかなってずっと考えてたの」
あらかた話したあと、母が急にとんでもないことを言い出す。
どう反応すればいいか困っていたが、母は気にする様子もなく後を続ける。
「このお馬鹿さんがちょっと有名だから、あなたまで記者に追い掛け回されたでしょう? それに私たちも忙しくて、引き取ったは良いけどお世話は周りに任せきり」
「は、はぁ」
「うちじゃなくて、どこか静かな町で穏やかに暮らしていた方が良いのかなって。でも、今こうやって頑張って特進にも入って、お友達もできて楽しそうにしてるでしょう? 安心しちゃった」
楽しそう? どこをどう見たらそうなるんだ。俺は特進には入りたくなかったし、聖女代行もやりたくなかった。静かに生きようとしたのに、すべて裏目だ。
「あなたのことを好き勝手言う人たちは気にしちゃだめだからね! ヴィルも一緒だし、力を合わせて使命を全うできるよう、頑張りなさいね」
使命なんてくそくらえだし、ヴィルが一緒というのが不安要素なのだが、俺はにっこり笑ってありがとうございます頑張りますとだけ口にした。
昔からこうだ。両親のことは嫌いではないし、感謝しているが家では基本的に素直ないい子で居た。その反動か、外では酷かった。今はバランスが良いんじゃないだろうか。
そんな感じで実家は終わり。
泊って行けばと言われたが、学校に戻れとカイル先輩にも言われていたのでその日は寮に帰った。
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