悪役令息さん総受けルートに入る

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おまけ1 カイル

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「シーグレイブの海獣騎兵団というと、ポセイドン、でしたか」
「そう。そこの副団長が今度団長に昇格するってんで昇進パーティに呼ばれちゃってんの」
 今日のユーリ係はカイル先輩である。もう世界樹の危機は去ったのだから、一人で寝れると思ったらこれは継続らしい。
 クラウスのせいで壊れた家具は新調され、いつの間にやら床も張り替えられてカーペットも変わっていた。
 濃いダークブラウンの床板、シックな赤いカーペット、ベルベットのソファ。誰だ俺の部屋をこんなことにしたやつ。もっとシンプルかつ質素で良い。装飾過多な家具はどうにも落ち着かない。
 ポセイドンとは、シーグレイブの騎士団である。確か前世でもそんな名前聞いたような。海の神だったか? まあいいか。
 彼らは海竜を操り、海上戦を行う国立の騎兵団で、海賊退治や海での戦闘を主に担当している。
 シーグレイブ自体が海と隣接し、地上からの脅威だけではなく海からの脅威と戦わなくてはならないため、海の神と契約し海竜を借りてるのだとか。
「どうぞ行ってらっしゃい」
 ソファに腰を下ろし、カップに入ったホットミルクを口に運ぶ。
 急に隣国の騎兵団の話をするから何かと思えば、出張くらい好きに行けばいい。学生といえど王子様なんだから、外交も大事だろう。
「困ってるんだって、行きたくぇの! そこのお嬢さんからずっと求婚されててさ、断ってもしつこくて、行ったら絶対またなんか言われるんだ」
 他国の王子にしつこく求婚するとか、度胸あるお嬢さんだ。
 俺の隣で肩を落とすカイル先輩は、本当に困っているのか、遠くを見つめたまま魂が抜けたような顔をしている。
 俺にできることはない。いっそその方と結婚して、聖女と結ばれるかもという儚い夢を捨てたらどうだろう。まあ、俺が聖女代行になった時点で捨ててると思うけどな。
「そこで、オレは思いついたんだ。相手が決まってりゃ諦めもつくんじゃね? って」
「居るんですか? 相手」
 驚いた。確かにこの人に憧れを持つ人は見るが、本人は色恋沙汰とは無縁に思えた。鈍感系というか、好意に気が付けないで逃すタイプだ。
「ユーリ頼む、聖女の力持ってるってなれば納得してもらえると思うんだよ」
「嫌です」
「シーグレイブは、うちと違って同性婚は無くて異性婚が基本だ。つまり、同性同士は彼女の知らない世界なわけよ。未知の領域なんて入り込めない……ってなるだろ」
「逆に、私のがこんな男より相応しいですわ! ってなりません?」
「なるかもな、そこはもう、見せつけようぜ」
「何を」
「えっと、ほら、オレたちの愛」
「愛し合ってませんよね」
「友情を愛情に変換してくれ」
「え、先輩は俺の友人だったんですか?」
「えっ、ええ? 違う、んだ?」
 カイル先輩が驚愕に目を見開き、顔色もどんどん青くなる。やばい、ごめん。友人と先輩の関係は、友情とは別だと思っていた。友達居ないから分からなかった。
「すみません、先輩ですから、ほら」
「先輩にも友情は適用されるだろ!」
 なるほど、と俺が頷くと、カイル先輩は小さく息を吐く。
「てわけで」
「嫌です」
「王子命令だ」
 なんと卑怯な手を、これでも王子か。
 しばしの無言、お互い手に持った飲み物を飲んで一時休戦だ。
「そもそも、恋人のふりできるんですか?」
「へ? 当たり前だろ」
「俺の前世の男は、それなりに恋愛経験がありまして、だから俺は問題ないんです。でもカイル先輩はどうなんでしょうか、振られても何度も求婚する相手ですよ? 生半可な演技では駄目だろうなって思うんですよ」
 早口でまくし立てるように言うと、先輩はぎこちない動きでテーブルにカップを置く。
 悠太、お前の恋愛経験役に立ちそうだ。ありがとう。
「……、でもそれって、お前の経験じゃないだろ」
「彼の記憶は俺の記憶です」
「ユーリという人間は、恋人が居たことあるのか? 違うなら、その感覚はお前のものじゃない」
 なん、だと、つまり俺は素人童貞だとでも言いたいのか、いや、意味違うな。やめよう。
 確かにこの体は純潔を守っている。友人が居ないなら恋人も居ない。父さん母さん政略結婚させてくれ。
 言葉に詰まった俺に、カイル先輩は勝ち誇った顔をする。
「予習って大事ですよね」
「そうだな、でも予習は予習」
「怒りました」
「うん?」
 俺は空になったカップを持って、ソファから立ち上がる。
「兄さんに言いつけます」
「なんで? そこでヴィルに頼るのはおかしい! 兄離れしろ!」
「俺のことを恋愛経験ないくせにやたら知識だけある可哀想なやつって言ったこと後悔させてやりますよ。兄さんが」
「そこまで言ってねーよ! 最初に吹っ掛けてきたのはそっちだろ! 情けなくないのか!」
 プライドなんてどこかに置いてきた。使えるものはなんとやら。
 俺は宣言通り部屋を出てヴィルの元へ向かう。今なら大好きお兄ちゃんって言えそうだ。
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