悪役令息さん総受けルートに入る

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二年生へん

炎の精霊さん

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「行くだけ行ってみるか」
「……分かった。警戒はしていこう」
 上空を飛ぶ撮影係を確認し、降りられる個所を探す。谷底に作られたような祭壇は、階段も何もない。かつてはあったのだろうが、今は石の山と化しているのだろう。そこら辺に転がる焦げた残骸たちが、自分ら、実は立派な建物だったんですよと語っている。
 下に降りるにあたってクロエはともかく、アルは俺が連れて行けばいいか。そう思ってアルに手を差し出す。
「ほら、下りるぞ。クロエは自分でいけるな?」
「だいじょーぶ」
 アルがそっと俺の手を取って、きゅ、と口を引き結ぶ。アルがつけている手袋の感触が手のひらに伝わった。
 俺も森だと聞いていたから、今日は手袋装備だ。布製なので、心もとないがないよりまし。
「いきなり攻撃して来たら防いでくれ」
「分かった」
 触媒である靴に魔力を込め、ひょいと飛ぶ。重力操れるって便利だ。使うたびに思う。
 ゆっくりと降下していく内に、下層の炎による熱が肌に伝わる。ローブに守られている部分だけは、暑さも寒さも無く、快適だ。
 折れた石柱に張り付いていたトカゲには、目が無い。それでもこちらに気が付き、見ているだろうことが顔の動きで分かった。
 石畳の上に足をつけると、とかげは緩慢な動きでこちらにやってきた。
 この形、何かに似ているな。日本で見たような。悠太の記憶の中にあるはずなのだが、今はそれどころではない。それに、俺は爬虫類も好きではない。虫、爬虫類、魚介類は見た目が駄目。生理的に無理。
 四肢を持ちしっぽを引きずりながら動くものだから、質量があるように錯覚したが、全身が揺らめく炎の塊で出来ているのが、近づくほどに視認できる。大体二メートルくらいか、不思議とそこまで大きく感じないな。
 おそらく炎はみせかけ、本体はちらりと覗いている体の中心部にある赤い球体だろうと推察する。
 しゅるる、と喉を鳴らすような音だけが聞こえた。
 えーと、魔法生物と話す時は声ではなく息を吐くように魔力を放出して、言葉として伝える。彼らの声を聞くには、耳に魔力を集中させる……教科書で呼んだ通りなのだが、頭が理解を拒む方法だ。
 だがやらねば、普段は靴の触媒に魔力を送るが今は顔に集中させる。
『人間と、変なにおいがするな』
『急に住処に来てしまい申し訳ありません、俺の声は届きますか? 俺たちの前に、貴方に話をしに来た者たちが居たと思うのですが、ご存じでしょうか』
『居ない。居たとしても、ここに来たら皆こうなる。無事では帰っていないだろうな』
 とかげの体が光り、周囲の炎の勢いが強まった。なるほど、侵入者は燃やしたわけだ。そして、運営は話にきていないことが判明した。これはもうバグか陰謀だ。
 とかげの言う通り、来たけど燃やしたというなら、運営側で問題になっているはず。猶更この場所は、生徒を送るにふさわしくないものと設定されるはずだ。
 二人にとっとと脱出してもらって、俺も上空にでも逃げるか。俺は多少燃えてもすぐ治るし、何とかできる自信はある。でも、二人はそれを許さないだろうな。人生ままならない。
「ユーリ、なんて言ってる?」
「クロエ、魔法生物の言語を聞く方法を思い出せ。習ったよな」
「実は俺も魔力調整失敗して、壊れたラジオみたいになってしまって分からない」
 お前ら嘘だろ。さっきから無言だとは思っていたが、最初から俺に交渉役をやらせるつもりだったのか? 目の前の炎の化け物より、後ろの馬鹿者どものが怖い。
 気を取り直して再び会話に戻る。
 もし、素材になりそうなものや、守っているものがあるならそれを貰えたら試験合格にしろ! と駄々をこねても許される気がするので、とりあえず聞いてみたい。
 幸い、思ったよりも穏やかで話が出来そうな相手だ。ワンチャンに賭けたい。去年みたいに、二回も試験は受けたくない。
『なるほど、ちなみにだが、貴方はなにか宝物など持っていたりしませんか?』
『宝ぁ? あると言えばあるが、欲しければやることがあるだろう』
『例えば?』
 嫌な予感がしつつも、お腹が空いたとかでありますようにと祈って問い返す。
 だが、その祈りも虚しく、サラマンダーさんの体は激しく燃え上がり火が爆ぜる。やる気だ。試験運営が話しを通していない相手なので、手加減はしてくれないのだろう。
「お前らは脱出していい。俺はすぐ逃げる。運営は話に来ていない。地図のバグか何かだ」
「そ、そんな。穏やかに話をしてる感じだったのに!?」
「勝てば宝をくれるタイプのモンスターだ!」
「え? じゃ、やろうよ」
 サラマンダーが上体を起こすと、炎が滴り地面が焼ける。体の火が強まったからか、大きさが倍になったように思えた。
 空気が震え、熱風に視界が歪む、大きく振り上げられたとかげの腕がゆっくりと振り下ろされた。
 アルの手を掴んで炎の散っていない足場を駆けて上方向に逃げる。クロエは風魔法で逃げるのが面倒だったのか、ローブから竜の羽が姿を覗かせていた。学園側に禁止されている力だが、緊急事態だし良いだろう。
「勝てない? あれ」
「いけなくはない」
 炎で守られている中心を狙えば良い。ただ、あの炎の鎧をぶち破れるかが問題だ。
『降りてこい、ここのところ暇だったんだ。ここら辺は人も来なければ魔獣も居ない。気が付いたらこんなだったからな』
『あなたが燃やしたのでは?』
『気が付いたら燃えていた』
 存在するだけでお友達ができない悲しきモンスターか、お前。
 大きく開いた口から、溶岩に似た玉が飛んでくる。体を反転させ避けるが、近くをあれが通っただけで喉が焼けるようだった。
 俺はようやく空中移動ができるようになったばかりなので、アルを抱えたままは少しきつい。落とそう。
 炎が相手なら、最近覚えたが使い道の無かった炎魔法を使ってみたい。上手くいけばいなし操ることもできるだろう。俺が弱体化させ、攻撃はアルたちの火力で何とかしてもらおう。
「アル、落とすぞ」
「へ?」
「クロエはあいつがひるんだら、全力で風を起こせ」
「アルはクロエが魔法を使ったら、やつに向かって全力でぶっぱなせ」
「えっ落とす!?」
「良いけど、ユーリは?」
「デバフ係」
 元より、スタジュエのユーリはデバフを使ってくる敵だった。動きを止めるのは得意だ。
 宣言通りアルを落として、俺もサラマンダーの近くにおりる。瞬間、尾が鞭のようにしなり、俺の目の前に迫っていた。
「ユーリ!」
 アルに返事をする前に、炎魔法を発動する。
 足の周りに火が集まり、左足を軸に空を裂くようにサラマンダーの炎の尾を狙って、回し蹴りを放つ。これは攻撃ではない。貧弱な人間が自然の力に勝てるわけがないのだ。
 俺の炎と尾が接触すると、赤い閃光が走る。そして、サラマンダーの炎が収束するように俺の炎に吸収され、けりを振り切った後、炎はあらぬ方向へ飛んで行って盛大に爆発した。
 クロエの近くを通って空中で四散した火の玉は、俺の魔力とサラマンダーの魔力と合わさって火力が増していた。これをうまく相手に返せていたら良かったのだが、まだそこら辺のコントロールができてない。要練習だ。
「気をつけろー」
「避けたなら良いだろ」
 吸収からの反射をする魔法なのだが、サラマンダーの炎は俺の魔力で作る炎よりも遥かに火力が高く熱い。
 足を見ると、履いてきたズボンとその下の肌が焦げていた。触媒も焦げた。また修理に出そう。
 サラマンダーが吠えると、周囲の炎が渦を巻いて襲い掛かる。花のようにそこかしこで揺れていた炎たちは、やはりこいつの支配下のようだ。やっぱここら辺の生き物お前が燃やしたんだろ。

 上空のクロエは機会をうかがっているのか、攻撃の当たる位置にはいない。アルは離れた位置で上手いこと逃げ回っているから、まあ、なんとかなるだろう。あいつバリアはれるタイプのキャラだし。
 問題は俺なのだが、近ければ近いだけ溶けそうな熱にさらされ、動きが鈍る。傷は治るとはいえ、暑いのは苦手だな。汗かくし。
 この高温を何度もくらい、吸収、反射を繰り返したら骨まで灰になってしまうことだろう。そしたらさすがに修復ができなそうだ。
 地面を蹴って、炎の渦の間を縫うように避ける。反重力で敵の攻撃を前方に押し出して防ぎつつ、やつの動きを止めるタイミングをはかった。
『ちょこまかとにげてばかりでは、プレゼントは渡せないな』
 そう言うと、サラマンダーの体が変化し、狼へと変わる。形態変化も有りかこいつ。
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