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ローズガーデン姉妹
ローズガーデン姉妹(4)
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時間を少し遡る。
アジムの狙撃を狙うルナロッサは妹が老騎士を伴って宿に入っていくのを、宿の隣にある民家の屋根で愛用の背負い袋を下ろしながら見送った。
背負い袋から、得物を取り出す。ルナロッサの得物は鏃にたっぷりと毒を塗った弩だ。引き金を引くだけで矢を放つことができる。隠れて狙撃するにはうってつけの武器だ。
まだ昼食から間もない時間で、太陽は高い。影は長くなってはいなかったが、自分や弩の影が宿側の道に落ちないように気を付けながら、ルナロッサは屋根に身を隠し、毒に触れないよう分厚い手袋をはめて弩の毒矢を装填する。
毒は麻痺毒を塗り付けてある。血中に取り込ませれば大型の人型魔物である食人鬼でさえ動きが鈍る強力な麻痺毒だ。人間なら下手をすると呼吸すら麻痺して死に至る。別にアジムを生かしてとらえるつもりはない。これが手持ちの毒で一番強力な毒だからそれを使ったまでだ。
弩に矢の装填を終えたルナロッサは、予備の弩を手に取った。弩は再装填に時間がかかる。相手からは見つけられておらず、明るい場所で、ほぼ無風と、狙撃に適した条件はそろっているが、外したときのリスクを考えればすぐに放てる二の矢を準備しておくのは最低限の警戒だ。予備の弩にも毒矢を装填して、ルナロッサは屋根の上で腹ばいに寝そべって弩を構え、宿のドアに照準を合わせた。
そのままの体制で、獲物が現れるのを待つ。日光を遮るもののない屋根の上だ。じりじりと肌を焼かれる。念のためにと着込んできた革鎧の中で汗が伝う。帽子を用意してこなかったことに舌打ちするが、ソフィアがうまくアジムをつり出すことができればそう長い時間を待つことはないだろうと思いなおし、そのままの体制で緊張を維持することに努める。
ふと、宿の中が少し騒がしくなっていることに気づく。窓から見える人影が忙しなく動き回っているのが見えた。ルナロッサはさらに緊張を高めて、アジムが出てくればいつでも引き金が引けるように心構えをする。そして、ルナロッサの視線の先で、宿のドアが開かれた。
先頭で姿を見せたのはソフィアが雇おうとしていた傭兵たちの、若手の傭兵二人だった。だが、ルナロッサの知る傭兵たちとはずいぶん人相が変わっていた。どちらの男も鼻づらがひしゃげてしまっている。何をされたのかはルナロッサにはわからないが、想像もしたくないほどの衝撃が顔面を襲ったのは想像がついた。血が流れ続けているわけではないので回復薬か何かを使ったのだろうが、形を変えられてしまった鼻やへし折られた歯は<回復>の範疇を超えてしまっていたのだろう。元通りにするには高位の回復魔法である<再生>の魔法や薬を使う必要がある。どちらも高価なものになるので、それなりの貯えがなければしばらくはあの顔と付き合う羽目になるだろう。
意気消沈した若手二人の後からは、ベテランの傭兵が自警団の老騎士を背負って現れた。ベテランの傭兵には変化はなかったが、老騎士は完全に意識を失っている。ベテランの傭兵は若手二人に対して言葉をかけながら、自警団の詰め所に足を向けた。
そして、宿のドアをくぐったのはその4人で終わりだった。
失敗した。
ルナロッサがそう判断するに十分な情報だった。
屋根の上で身を起こし、4人の男たちを見送る。ソフィアをアジムの部屋に残してきたことを詰り、毒矢をぶちこんでやりたいところだったが、そんなことをしていればソフィアを助けに行くのが遅くなるだけだ。ルナロッサは歯噛みしつつ、アジムの部屋への突入方法に無理やり思考を切り替える。
宿の中から行くか、宿の外から窓を狙うか。
よくある一階が酒場、上の階は宿の兼業宿屋だ。ソフィアが置いていかれたアジムの部屋は、おそらく二階にあるだろう。一軒家の宿なので、外から鍵縄を使って宿の屋根から降下すれば窓にはたどり着けそうだ。不意をつくなら窓から突入するのがアジムの不意を突きやすいだろう。だが、どの部屋のどの窓から突入するのがいいかわからない。早めに当たりの窓にたどり着ければいいが、何度も壁を上り下りして窓を確認することになれば、時間がかかりすぎる。その間にソフィアがどんな目にあわされるか。
ルナロッサは弩を背負い袋に放り込み、それを肩にかけて屋根から身を躍らせた。全身を柔らかく使い、苦もなく着地したルナロッサは宿に向かって走り、宿のドアに身を寄せてそっと中の様子をうかがう。
昼時を過ぎた酒場に客はいなかった。酒場の奥のほうでは宿の店主らしき壮年の男がドアに背を向けて、厨房でなにやら作業をしている。夜に向けての料理の仕込みだろうか。
宿泊客でないルナロッサが宿の階に上がろうとすると店主に声をかけられるだろう。適当に誤魔化すこともできるだろうが、無駄な時間はできるだけ省きたい。ルナロッサは音もなくドアを開けると、物音をさせず二階に続く階段まで一気に駆け抜けた。厨房の店主はルナロッサが入ってきた気配に気づいた様子もなく、鼻歌交じりで作業を続けている。
ルナロッサは足を緩めずそのまま駆け上がり、二階に達して足を止めた。二階は階段前から廊下が伸びていて、左右に扉が四つずつ。合計八部屋に仕切られている。分厚い木の壁と、同じ厚さの扉で廊下とは区切られ、物音が漏れないようにされていたが、盗賊として鍛えられたルナロッサの耳は微かな争いの気配を聞き取っていた。
聞き取った音からあたりをつけ、部屋と廊下の間の壁に耳をつけて聞き耳をたてる。聞こえてきたのは男の低い嘲るような笑い声と、助けを求める聞き慣れた声。
「たっ…たひゅ、けてっ……
おねぇちゃん……おっ、ねぇっ、ちゃ…っ!」
血が逆流するかと思った。
目も眩むような怒りに後先を考えず暴れだしそうになる体を意思の力でどうにか押さえつける。食いしばった歯がぎりぎりと音をたてるが、それは我慢できそうもない。
背負い袋を下ろし、取り出した弩を片手に部屋のドアノブに手をかけ力を入れてみるが、鍵がかけられていた。ドアノブや蝶番に目を向ける。分厚い扉に合わせるように頑丈そうなそれは非力なルナロッサでは簡単に壊せそうにない。
怒りで震える手で背負い袋から七つ道具を取り出して解錠を始める。
聞きたくもないのに、耳が勝手にかすかに漏れ聞こえる妹の悲鳴を拾い上げてしまう。そのたびに手元が狂って簡単なはずの鍵の解錠に手こずり、それが焦りと怒りをさらに加速させる。錠前を弄る手つきが荒っぽくなり、室内に金属音が聞こえているかもしれないが、ルナロッサにそれに配慮できるだけの余裕はもうない。
「うおおおぉっ!」
「はっ、あぁあぁ!」
無駄に時間をかけて、ようやく解錠に成功したルナロッサの耳に、男の咆哮とひときわ甲高い妹の悲鳴とが飛び込んできた。
思わず、解錠したばかりの扉を蹴り開ける。
部屋に駆け込んだルナロッサの目に、何よりも先に妹の姿が飛び込んできた。暴力と獣欲で踏みにじられた、妹の姿が。
「テメエェェェェ!!」
絶叫とともに陵辱者に弩を向ける。
弩を目にしたアジムが身体を捻り、急所を隠そうと動く。だが、ルナロッサはお構い無しに矢を放った。顔面にぶちこんでやるつもりで頭を狙ったが、矢は頭を庇った腕に突き立った。
「がっ!?」
アジムが受けた矢の衝撃と痛みでベッドの向こうに転げ落ちる。毒を塗った鏃が、しっかりと肉に突き刺さった。塗りつけてあった麻痺毒は血中に取り込まれただろう。
「ソフィア!」
アジムはもう動けないだろうと判断して、ルナロッサはベッドで背を丸めて泣いている妹に駆け寄った。
「お、ねえちゃん……?」
ルナロッサが声をかけると、ソフィアが顔を上げる。
そして、ベッドの脇にやって来た声の主を認識すると、くしゃりと顔を歪めた。
「おねえちゃん、おねえちゃん、おねえちゃん!!」
ソフィアがルナロッサの胸にすがり付く。
ルナロッサはソフィアを抱きしめてその背を撫でてやった。
「ゴメンな……!
アタシがリリィの復讐をしようなんて言わなけりゃ……」
すがり付いて涙を流すソフィアに必死に謝る。もっと早く助けに来れて居れば。そもそも言葉通り、リリィの復讐なんて考えなければ。後悔はつきない。
「へえ、そうか。
俺を的にかけたのは、おまえかよ」
妹以外の声が応じたことに驚いてルナロッサが顔を上げると、痛みと怒りで顔を歪めたアジムがベッドの向こう側に立ち上がっていた。
「なんで……」
唖然となったルナロッサの口から呟きが漏れる。
ルナロッサが放った毒矢は、今も左の二の腕に確かに突き刺さったままだ。毒は間違いなく、アジムの血中に取り込まれているはず。それなのに、どうして動くことができるのか。
唖然としているルナロッサに、矢が刺さっていないほうのアジムの腕が伸びてくる。
ルナロッサは伸びてきたアジムの腕の影が顔にかかってようやく気をとりなおした。咄嗟に距離を取ろうと身体を引こうとする。だが、ソフィアが胸にすがり付いたままだったために、ろくに距離を稼ぐことができず、胸ぐらを掴まれてしまった。
「テメエ、離せ!」
悪態をつきながら、腰の短剣を引き抜こうとするが、アジムが胸ぐらを掴んだ腕に力をいれる方が早かった。そのまま重さなどないかのように振りかぶられ、背中から床に叩きつけられた。
「ごっ……ふっ……!」
叩きつけられた衝撃に肺のなかの空気をすへて吐き出さされ、動くこともできない。痛みで揺らぐ視界の中で、踏みつけるような蹴りをだそうと足を振り上げるアジムに備えることができない。
新しい衝撃が、次々に叩きつけられる。
視界が真っ暗になっていくなかで、涙を流しながらアジムに掴みかかっていく妹に逃げてくれと願いながら、ルナロッサは意識を失った。
アジムの狙撃を狙うルナロッサは妹が老騎士を伴って宿に入っていくのを、宿の隣にある民家の屋根で愛用の背負い袋を下ろしながら見送った。
背負い袋から、得物を取り出す。ルナロッサの得物は鏃にたっぷりと毒を塗った弩だ。引き金を引くだけで矢を放つことができる。隠れて狙撃するにはうってつけの武器だ。
まだ昼食から間もない時間で、太陽は高い。影は長くなってはいなかったが、自分や弩の影が宿側の道に落ちないように気を付けながら、ルナロッサは屋根に身を隠し、毒に触れないよう分厚い手袋をはめて弩の毒矢を装填する。
毒は麻痺毒を塗り付けてある。血中に取り込ませれば大型の人型魔物である食人鬼でさえ動きが鈍る強力な麻痺毒だ。人間なら下手をすると呼吸すら麻痺して死に至る。別にアジムを生かしてとらえるつもりはない。これが手持ちの毒で一番強力な毒だからそれを使ったまでだ。
弩に矢の装填を終えたルナロッサは、予備の弩を手に取った。弩は再装填に時間がかかる。相手からは見つけられておらず、明るい場所で、ほぼ無風と、狙撃に適した条件はそろっているが、外したときのリスクを考えればすぐに放てる二の矢を準備しておくのは最低限の警戒だ。予備の弩にも毒矢を装填して、ルナロッサは屋根の上で腹ばいに寝そべって弩を構え、宿のドアに照準を合わせた。
そのままの体制で、獲物が現れるのを待つ。日光を遮るもののない屋根の上だ。じりじりと肌を焼かれる。念のためにと着込んできた革鎧の中で汗が伝う。帽子を用意してこなかったことに舌打ちするが、ソフィアがうまくアジムをつり出すことができればそう長い時間を待つことはないだろうと思いなおし、そのままの体制で緊張を維持することに努める。
ふと、宿の中が少し騒がしくなっていることに気づく。窓から見える人影が忙しなく動き回っているのが見えた。ルナロッサはさらに緊張を高めて、アジムが出てくればいつでも引き金が引けるように心構えをする。そして、ルナロッサの視線の先で、宿のドアが開かれた。
先頭で姿を見せたのはソフィアが雇おうとしていた傭兵たちの、若手の傭兵二人だった。だが、ルナロッサの知る傭兵たちとはずいぶん人相が変わっていた。どちらの男も鼻づらがひしゃげてしまっている。何をされたのかはルナロッサにはわからないが、想像もしたくないほどの衝撃が顔面を襲ったのは想像がついた。血が流れ続けているわけではないので回復薬か何かを使ったのだろうが、形を変えられてしまった鼻やへし折られた歯は<回復>の範疇を超えてしまっていたのだろう。元通りにするには高位の回復魔法である<再生>の魔法や薬を使う必要がある。どちらも高価なものになるので、それなりの貯えがなければしばらくはあの顔と付き合う羽目になるだろう。
意気消沈した若手二人の後からは、ベテランの傭兵が自警団の老騎士を背負って現れた。ベテランの傭兵には変化はなかったが、老騎士は完全に意識を失っている。ベテランの傭兵は若手二人に対して言葉をかけながら、自警団の詰め所に足を向けた。
そして、宿のドアをくぐったのはその4人で終わりだった。
失敗した。
ルナロッサがそう判断するに十分な情報だった。
屋根の上で身を起こし、4人の男たちを見送る。ソフィアをアジムの部屋に残してきたことを詰り、毒矢をぶちこんでやりたいところだったが、そんなことをしていればソフィアを助けに行くのが遅くなるだけだ。ルナロッサは歯噛みしつつ、アジムの部屋への突入方法に無理やり思考を切り替える。
宿の中から行くか、宿の外から窓を狙うか。
よくある一階が酒場、上の階は宿の兼業宿屋だ。ソフィアが置いていかれたアジムの部屋は、おそらく二階にあるだろう。一軒家の宿なので、外から鍵縄を使って宿の屋根から降下すれば窓にはたどり着けそうだ。不意をつくなら窓から突入するのがアジムの不意を突きやすいだろう。だが、どの部屋のどの窓から突入するのがいいかわからない。早めに当たりの窓にたどり着ければいいが、何度も壁を上り下りして窓を確認することになれば、時間がかかりすぎる。その間にソフィアがどんな目にあわされるか。
ルナロッサは弩を背負い袋に放り込み、それを肩にかけて屋根から身を躍らせた。全身を柔らかく使い、苦もなく着地したルナロッサは宿に向かって走り、宿のドアに身を寄せてそっと中の様子をうかがう。
昼時を過ぎた酒場に客はいなかった。酒場の奥のほうでは宿の店主らしき壮年の男がドアに背を向けて、厨房でなにやら作業をしている。夜に向けての料理の仕込みだろうか。
宿泊客でないルナロッサが宿の階に上がろうとすると店主に声をかけられるだろう。適当に誤魔化すこともできるだろうが、無駄な時間はできるだけ省きたい。ルナロッサは音もなくドアを開けると、物音をさせず二階に続く階段まで一気に駆け抜けた。厨房の店主はルナロッサが入ってきた気配に気づいた様子もなく、鼻歌交じりで作業を続けている。
ルナロッサは足を緩めずそのまま駆け上がり、二階に達して足を止めた。二階は階段前から廊下が伸びていて、左右に扉が四つずつ。合計八部屋に仕切られている。分厚い木の壁と、同じ厚さの扉で廊下とは区切られ、物音が漏れないようにされていたが、盗賊として鍛えられたルナロッサの耳は微かな争いの気配を聞き取っていた。
聞き取った音からあたりをつけ、部屋と廊下の間の壁に耳をつけて聞き耳をたてる。聞こえてきたのは男の低い嘲るような笑い声と、助けを求める聞き慣れた声。
「たっ…たひゅ、けてっ……
おねぇちゃん……おっ、ねぇっ、ちゃ…っ!」
血が逆流するかと思った。
目も眩むような怒りに後先を考えず暴れだしそうになる体を意思の力でどうにか押さえつける。食いしばった歯がぎりぎりと音をたてるが、それは我慢できそうもない。
背負い袋を下ろし、取り出した弩を片手に部屋のドアノブに手をかけ力を入れてみるが、鍵がかけられていた。ドアノブや蝶番に目を向ける。分厚い扉に合わせるように頑丈そうなそれは非力なルナロッサでは簡単に壊せそうにない。
怒りで震える手で背負い袋から七つ道具を取り出して解錠を始める。
聞きたくもないのに、耳が勝手にかすかに漏れ聞こえる妹の悲鳴を拾い上げてしまう。そのたびに手元が狂って簡単なはずの鍵の解錠に手こずり、それが焦りと怒りをさらに加速させる。錠前を弄る手つきが荒っぽくなり、室内に金属音が聞こえているかもしれないが、ルナロッサにそれに配慮できるだけの余裕はもうない。
「うおおおぉっ!」
「はっ、あぁあぁ!」
無駄に時間をかけて、ようやく解錠に成功したルナロッサの耳に、男の咆哮とひときわ甲高い妹の悲鳴とが飛び込んできた。
思わず、解錠したばかりの扉を蹴り開ける。
部屋に駆け込んだルナロッサの目に、何よりも先に妹の姿が飛び込んできた。暴力と獣欲で踏みにじられた、妹の姿が。
「テメエェェェェ!!」
絶叫とともに陵辱者に弩を向ける。
弩を目にしたアジムが身体を捻り、急所を隠そうと動く。だが、ルナロッサはお構い無しに矢を放った。顔面にぶちこんでやるつもりで頭を狙ったが、矢は頭を庇った腕に突き立った。
「がっ!?」
アジムが受けた矢の衝撃と痛みでベッドの向こうに転げ落ちる。毒を塗った鏃が、しっかりと肉に突き刺さった。塗りつけてあった麻痺毒は血中に取り込まれただろう。
「ソフィア!」
アジムはもう動けないだろうと判断して、ルナロッサはベッドで背を丸めて泣いている妹に駆け寄った。
「お、ねえちゃん……?」
ルナロッサが声をかけると、ソフィアが顔を上げる。
そして、ベッドの脇にやって来た声の主を認識すると、くしゃりと顔を歪めた。
「おねえちゃん、おねえちゃん、おねえちゃん!!」
ソフィアがルナロッサの胸にすがり付く。
ルナロッサはソフィアを抱きしめてその背を撫でてやった。
「ゴメンな……!
アタシがリリィの復讐をしようなんて言わなけりゃ……」
すがり付いて涙を流すソフィアに必死に謝る。もっと早く助けに来れて居れば。そもそも言葉通り、リリィの復讐なんて考えなければ。後悔はつきない。
「へえ、そうか。
俺を的にかけたのは、おまえかよ」
妹以外の声が応じたことに驚いてルナロッサが顔を上げると、痛みと怒りで顔を歪めたアジムがベッドの向こう側に立ち上がっていた。
「なんで……」
唖然となったルナロッサの口から呟きが漏れる。
ルナロッサが放った毒矢は、今も左の二の腕に確かに突き刺さったままだ。毒は間違いなく、アジムの血中に取り込まれているはず。それなのに、どうして動くことができるのか。
唖然としているルナロッサに、矢が刺さっていないほうのアジムの腕が伸びてくる。
ルナロッサは伸びてきたアジムの腕の影が顔にかかってようやく気をとりなおした。咄嗟に距離を取ろうと身体を引こうとする。だが、ソフィアが胸にすがり付いたままだったために、ろくに距離を稼ぐことができず、胸ぐらを掴まれてしまった。
「テメエ、離せ!」
悪態をつきながら、腰の短剣を引き抜こうとするが、アジムが胸ぐらを掴んだ腕に力をいれる方が早かった。そのまま重さなどないかのように振りかぶられ、背中から床に叩きつけられた。
「ごっ……ふっ……!」
叩きつけられた衝撃に肺のなかの空気をすへて吐き出さされ、動くこともできない。痛みで揺らぐ視界の中で、踏みつけるような蹴りをだそうと足を振り上げるアジムに備えることができない。
新しい衝撃が、次々に叩きつけられる。
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