37 / 140
復讐の騎士 リリィ・フランネル
復讐の騎士 リリィ・フランネル(2)
しおりを挟む
「それじゃあ、戦いやすい亜人系魔物が出る洞窟に行こうか」
そんなクラウスの言葉と共に開かれた<帰還の門>に、商会に残るソフィアに見送られて足を踏み入れる。真っ白な光に包まれて足元が浮き上がるような感触を感じながら足を進め、光で奪われていた視界が回復すると、そこはすでに森の中だった。切り立った岩壁に、巨大な剣で斬りつけたように口を開けている洞窟があり、その横に先に到着していたらしいメルフィナと、歓迎会でも見かけた泣き黒子が印象的な金髪の女性が待っていた。
「ミランダです。
よろしくお願いしますね」
「アジムです。こちらこそよろしくお願いします」
挨拶もそこそこに接点が薄かった女性と改めて自己紹介し合う。灰色がかった金髪をかっちりとシニヨンにまとめている。そこからほつれた前髪が緩くウェーブしながら柔らかな青い瞳と泣き黒子にかかっていた。赤い唇には紅がひかれていて健康的に白い肌のなかで色を放っている。年のころは20台半ばから後半だろうか。隣に並んだメルフィナと比べても少し上に見えた。アジム自身以外で身に着けている人を初めて見た金属鎧を身に着けている。と言っても、アジムが装備している重量と防御力のある板金鎧ではなく、鉄片をつなぎ合わせた鱗鎧だ。それでもリリィやシズカのような皮鎧と比べると防御力は段違いだろう。手には円形の盾を持っていて、腰には金属製の鈍器を下げている。盾は上半身を覆うに十分な大きさだが、腕にベルトで固定するようなものではなく手持ちの盾だ。鈍器は持ち手が小さな片手用のものだが先端が丸い鉄球になっていて、そこから大量の棘が突き出ている。殴ると鎧を粉砕しながら肉を抉る凶悪な得物だ。剣で斬られるより治りの遅い傷になるだろう。
「アジムさん、これをお渡ししておきます」
アジムがミランダの装備を観察していると、メルフィナに声をかけられた。差し出されたのは紫がかった宝石の嵌った指輪と、薔薇のレリーフがあしらわれた指輪だった。
「これは?」
「私の塔とローズガーデン商会に向かって<帰還>を使える魔道具です。
指輪を握って集中時間1分を取ってもらって<帰還>と口に出せば使えますよ」
「俺は魔法系スキルを何も持っていませんけど……」
「<帰還>の魔道具を使うだけならスキルはいりませんよ。
ただ<帰還>の魔法をチャージする必要があるので、
5回くらい使ったら私に言ってチャージしてくださいね。
今は最大の10回分がチャージされていますよ」
受け取りながら質問すると、メルフィナがそう説明してくれた。
「これ、残っているチャージ回数はわからないんですか?」
「『鑑定』のスキルが入っていればわかるんですけどね。
微妙な不便さはスキルなしで使うから仕方ないですよ」
「なるほど」
アジムは受け取った指輪を自分の右手の指に嵌め……ようとして、指が太すぎて嵌らない。
メルフィナが目を丸くして苦笑する。
「私の手持ちの指輪で一番大きいのを使ったんですけど……
ダメみたいですね」
アジムは頭を掻いた。メルフィナが髪をまとめるのに使う飾り紐を取り出して指輪に通し、端を結んで大きな輪を作ってくれる。ちょいちょい、と手招かれて頭を下げると、それを首にかけてくれた。
「パーティで固まって動く予定ですけど、はぐれてしまったときに使ってくださいね」
「ありがとうございます。
これ、ありがたいですけど、高いものだったりしませんか?」
「<帰還>の魔道具自体は安いものなので、
人をたくさん呼び込みたいプレイヤーのお店とかだと
無料で配ったりしていますよ」
「そうなんですか? じゃあ、いただいておきます。
ありがとうございます」
笑みを浮かべて頭を下げるアジムに、いえいえ、とメルフィナも微笑んだ。
実際のところは<帰還>の魔道具は安く作れるが、メルフィナの塔やローズガーデン商会とわかるようにした指輪のほうが「ちょっとする」価格だったりする。それでもメルフィナからすれば死んで失くしてしまっても「あちゃー」程度で済む価格なので、あえてアジムに伝えるつもりはない。
「アジム、メルフィナさんから<帰還>もらった?
そう、それじゃあ、入る準備しようか」
アジムが頷いて見せると、クラウスは集中のために目を閉じた。同じようにミランダが集中のために目を閉じていて、リリィがアジムに近づいてきた。
「アジムくん、松明を出してくれる?」
アジムが事前に渡されていた松明を荷物から取り出すと、礼を言って受け取ったリリィは魔法でそれに火を灯した。赤々とした火が松明の先で燃え上がる。さらに、クラウスが<夜目>の魔法を各自にかけ、ミランダが自分の盾に<持続光>をかけた。
「色んな光を用意するんですね?」
「魔法の光や<夜目>の魔法は<解呪>でまとめて消されるかもしれないし、
松明と魔法の光は<闇>の魔法で闇をかぶせられて遮られるかもしれない。
松明の火に水をかけられても魔法系の明かりは消えない。
一応、リスク分散になるんだよ」
リリィにそう説明されて、アジムは感心して唸る。
ギルドメンバーに戦ってもらって戦闘経験は少しずつ増えてきているが、パーティを組んでの冒険は初めてのアジムにはすべてが新鮮だ。
「それじゃあ、入ろうか。
ここは戦闘ダンジョンだから、罠の心配とかはないんだ。
斬って斬って斬りまくってくれればいいよ」
クラウスがそんな風にアジムに声をかける。
「とりあえず、対魔物のアジムの戦い方を見たいから、
普段通りに戦ってくれる?
層が浅いうちは邪妖精しか出ないし、
嫁も来てるからよほどのことがないと負けないし」
アジムはクラウスの言葉に頷きかけて、聞き捨てならない言葉が含まれていたことに首を傾げた。
「……嫁?」
「あれ、自己紹介のときに言ってなかった?
おーい」
と、クラウスは装備を確認していた女性陣に声をかけて、自分は手まで覆っていたローブの裾をまくり上げる。
「ボクの嫁。
ミランダ・シェーネベルクだね」
「そういえば姓を名乗っていませんでしたね。
クラウスの嫁の、ミランダ・シェーネベルクです」
精通しているかさえ怪しく思えるクラウスと、女ざかりの大人の魅力に満ちたミランダは笑みを浮かべて、揃って左手の薬指に光る指輪をアジムに向かって示した。
そんなクラウスの言葉と共に開かれた<帰還の門>に、商会に残るソフィアに見送られて足を踏み入れる。真っ白な光に包まれて足元が浮き上がるような感触を感じながら足を進め、光で奪われていた視界が回復すると、そこはすでに森の中だった。切り立った岩壁に、巨大な剣で斬りつけたように口を開けている洞窟があり、その横に先に到着していたらしいメルフィナと、歓迎会でも見かけた泣き黒子が印象的な金髪の女性が待っていた。
「ミランダです。
よろしくお願いしますね」
「アジムです。こちらこそよろしくお願いします」
挨拶もそこそこに接点が薄かった女性と改めて自己紹介し合う。灰色がかった金髪をかっちりとシニヨンにまとめている。そこからほつれた前髪が緩くウェーブしながら柔らかな青い瞳と泣き黒子にかかっていた。赤い唇には紅がひかれていて健康的に白い肌のなかで色を放っている。年のころは20台半ばから後半だろうか。隣に並んだメルフィナと比べても少し上に見えた。アジム自身以外で身に着けている人を初めて見た金属鎧を身に着けている。と言っても、アジムが装備している重量と防御力のある板金鎧ではなく、鉄片をつなぎ合わせた鱗鎧だ。それでもリリィやシズカのような皮鎧と比べると防御力は段違いだろう。手には円形の盾を持っていて、腰には金属製の鈍器を下げている。盾は上半身を覆うに十分な大きさだが、腕にベルトで固定するようなものではなく手持ちの盾だ。鈍器は持ち手が小さな片手用のものだが先端が丸い鉄球になっていて、そこから大量の棘が突き出ている。殴ると鎧を粉砕しながら肉を抉る凶悪な得物だ。剣で斬られるより治りの遅い傷になるだろう。
「アジムさん、これをお渡ししておきます」
アジムがミランダの装備を観察していると、メルフィナに声をかけられた。差し出されたのは紫がかった宝石の嵌った指輪と、薔薇のレリーフがあしらわれた指輪だった。
「これは?」
「私の塔とローズガーデン商会に向かって<帰還>を使える魔道具です。
指輪を握って集中時間1分を取ってもらって<帰還>と口に出せば使えますよ」
「俺は魔法系スキルを何も持っていませんけど……」
「<帰還>の魔道具を使うだけならスキルはいりませんよ。
ただ<帰還>の魔法をチャージする必要があるので、
5回くらい使ったら私に言ってチャージしてくださいね。
今は最大の10回分がチャージされていますよ」
受け取りながら質問すると、メルフィナがそう説明してくれた。
「これ、残っているチャージ回数はわからないんですか?」
「『鑑定』のスキルが入っていればわかるんですけどね。
微妙な不便さはスキルなしで使うから仕方ないですよ」
「なるほど」
アジムは受け取った指輪を自分の右手の指に嵌め……ようとして、指が太すぎて嵌らない。
メルフィナが目を丸くして苦笑する。
「私の手持ちの指輪で一番大きいのを使ったんですけど……
ダメみたいですね」
アジムは頭を掻いた。メルフィナが髪をまとめるのに使う飾り紐を取り出して指輪に通し、端を結んで大きな輪を作ってくれる。ちょいちょい、と手招かれて頭を下げると、それを首にかけてくれた。
「パーティで固まって動く予定ですけど、はぐれてしまったときに使ってくださいね」
「ありがとうございます。
これ、ありがたいですけど、高いものだったりしませんか?」
「<帰還>の魔道具自体は安いものなので、
人をたくさん呼び込みたいプレイヤーのお店とかだと
無料で配ったりしていますよ」
「そうなんですか? じゃあ、いただいておきます。
ありがとうございます」
笑みを浮かべて頭を下げるアジムに、いえいえ、とメルフィナも微笑んだ。
実際のところは<帰還>の魔道具は安く作れるが、メルフィナの塔やローズガーデン商会とわかるようにした指輪のほうが「ちょっとする」価格だったりする。それでもメルフィナからすれば死んで失くしてしまっても「あちゃー」程度で済む価格なので、あえてアジムに伝えるつもりはない。
「アジム、メルフィナさんから<帰還>もらった?
そう、それじゃあ、入る準備しようか」
アジムが頷いて見せると、クラウスは集中のために目を閉じた。同じようにミランダが集中のために目を閉じていて、リリィがアジムに近づいてきた。
「アジムくん、松明を出してくれる?」
アジムが事前に渡されていた松明を荷物から取り出すと、礼を言って受け取ったリリィは魔法でそれに火を灯した。赤々とした火が松明の先で燃え上がる。さらに、クラウスが<夜目>の魔法を各自にかけ、ミランダが自分の盾に<持続光>をかけた。
「色んな光を用意するんですね?」
「魔法の光や<夜目>の魔法は<解呪>でまとめて消されるかもしれないし、
松明と魔法の光は<闇>の魔法で闇をかぶせられて遮られるかもしれない。
松明の火に水をかけられても魔法系の明かりは消えない。
一応、リスク分散になるんだよ」
リリィにそう説明されて、アジムは感心して唸る。
ギルドメンバーに戦ってもらって戦闘経験は少しずつ増えてきているが、パーティを組んでの冒険は初めてのアジムにはすべてが新鮮だ。
「それじゃあ、入ろうか。
ここは戦闘ダンジョンだから、罠の心配とかはないんだ。
斬って斬って斬りまくってくれればいいよ」
クラウスがそんな風にアジムに声をかける。
「とりあえず、対魔物のアジムの戦い方を見たいから、
普段通りに戦ってくれる?
層が浅いうちは邪妖精しか出ないし、
嫁も来てるからよほどのことがないと負けないし」
アジムはクラウスの言葉に頷きかけて、聞き捨てならない言葉が含まれていたことに首を傾げた。
「……嫁?」
「あれ、自己紹介のときに言ってなかった?
おーい」
と、クラウスは装備を確認していた女性陣に声をかけて、自分は手まで覆っていたローブの裾をまくり上げる。
「ボクの嫁。
ミランダ・シェーネベルクだね」
「そういえば姓を名乗っていませんでしたね。
クラウスの嫁の、ミランダ・シェーネベルクです」
精通しているかさえ怪しく思えるクラウスと、女ざかりの大人の魅力に満ちたミランダは笑みを浮かべて、揃って左手の薬指に光る指輪をアジムに向かって示した。
1
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜
平明神
ファンタジー
ユーゴ・タカトー。
それは、女神の「推し」になった男。
見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。
彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。
彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。
その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!
女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!
さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?
英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───
なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。
※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる