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復讐の騎士 リリィ・フランネル
復讐の騎士 リリィ・フランネル(4)
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「いやぁ、すごいねぇ、アジムくん!」
邪妖精族長だけは逃がすと後で逃げ散った邪妖精たちをまとめて再度襲ってくるかもしれないと思ったので、何とか追いついて斬り飛ばしたアジムが兜を外しながら仲間たちのところに戻ると、リリィが興奮したように声をかけてきた。
「一太刀で二匹ずつやっつけていくのなんて、
初めて見たよ! すごいなぁ!
やっぱりSTR(筋力)が高いと爽快感があるね!」
嬉しそうに鼻息荒くまくしたてる。アジムは邪妖精を斬りまくったせいで返り血だらけなのだが、お構いなしだ。リリィの憧憬の言葉と視線に照れたアジムが思わず頭を掻くと、手にもべったりとついていた返り血が後頭部についてしまった。
閉口するアジムに苦笑しながらやってきたクラウスが「ちょっと目を閉じてくれるかい」と声をかけてきたので従うと、クラウスは返り血に対して<液体浄化>の魔法をかけてくれた。生臭い匂いの血液が浄化されて水に代わる。
全身から漂っていた血の匂いが消えて、アジムは息をついた。
「ありがとう」
アジムの礼にクラウスは笑みを浮かべてひらひらと手を振って応えた。
「それにしても……すごい声だったね。
何かそれっぽいスキル入れてたっけ?」
「いや、特には」
「ええ? それじゃあれは純粋にアジムの声と気迫?
なおさらすごいなぁ」
そんな会話をしながら、アジムは邪妖精たちがいた洞窟のなかの広場を見渡す。まだ火が残っているたき火と、何の肉なのかわからない肉が刺さった串が地面にさしてあって火であぶられている。どこかから奪ってきたらしい酒の瓶も転がっていた。邪妖精族長が座っていたらしい玉座っぽいものが一番奥に設えてあるが、無駄にけばけばしくて下衆い。族長以外は地面に藁を敷いて座っていたようだが、湿って色が変わっているうえに獣じみた匂いが漂っていて臭い。
なんで移動しないのだろうとアジムが不思議に思い出したところで、いつの間にか姿を消していたルナロッサがたき火の火が届かない暗闇から戻ってきた。
「特に集まってきている魔物もいなさそうだな」
「了解。それじゃ、進もうか」
戦いの喧騒や血の匂いにつられた魔物がいないか、ルナロッサが確認してくれていたらしい。親指で進む方向をくいくいと示すルナロッサにアジムが称賛の目を向けていると、それに気づいたルナロッサがにっと笑い返してから、再び暗闇に姿を溶け込ませた。
「ええっと……。
次は豚面鬼の集団が相手だね。
これも族長に率いられてる。
邪妖精のように祈祷師はいないけど、弓使いはいるんだ。
ボクやメルフィナさんが狙われないようにしてもらう必要はあるね」
ルナロッサが消えた暗闇に向かって足を進めながらクラウスは説明しつつも、おそらくこの注意はあまり意味がないだろうなと感じていた。
そしてそれは斥候に出ていたルナロッサが豚面鬼を見つけて帰ってきて、豚面鬼たちとの戦闘が始まるとその予想が正しかったこと実感する。アジムの咆哮は豚面鬼たちさえも竦みあがらせ、その手の大剣は豚面鬼たちを容赦なく切り捨てていく。
アジムの大剣の前では邪妖精と豚面鬼の違いなどほとんどなく、一太刀で二匹まとめて千切れ飛んでいたのが一匹ずつ切り倒されるようになった程度で、アジムにとってはどちらも戦うべき敵ではなく狩る獲物にすぎない。10匹ほどいた豚面鬼はあっという間に駆逐されつくし、クラウスはまたアジムに<液体浄化>をかけてやった。
戦闘が終わって周辺を索敵していたルナロッサが豚面鬼たちの塒で宝箱を見つけた。さっそく宝箱の解錠に取り掛かるのを、アジムが物珍しそうに眺めている。あまりスキルポイントを振ってはいないものの<鑑定>スキルを持っているメルフィナも、その横で宝箱が開くのをうきうきと待っている。
クラウスは困っていた。
アジムが豚面鬼相手にここまで一方的な戦闘をやってのけるとは思っていなかったのだ。豚面鬼を相手に集団戦での動きを見せてもらうつもりをしていたのだが、実際に戦ってみればこれである。集団戦もなにもあったものではない。
単純に敵が強くなればアジムの突進も止まるのだろうが、次に亜人系魔物で出てくるのは食人鬼だ。豚面鬼と比較して桁違いに強く、一気に危険度が跳ね上がる。クラウスが困っているのはそこだ。
食人鬼は巨体と怪力で相手を圧倒する魔物だ。アジムをさらに頭一つ大きくしてから知恵と剣技と格闘技を抜いたらだいたい食人鬼になる。前衛だの後衛だのを考えられない知恵のなさが逆に厄介で、そういう腕力に優れた魔物が棍棒を片手に一斉に襲い掛かってくるのだ。パーティの前衛メンバーで食人鬼たちを受け止めきれなければクラウス自身やメルフィナが直接攻撃に晒される。そうなれば魔法を使うための<集中>が取れなくなって押し切られてしまう。
「ねぇ、クラウス。どうする?
次はOLさんだよね?」
「なんですか、OLさんって」
「Ogre Lordの略称っていうか、通称だね。
中堅冒険家の壁で、対応方法を知っていないと危ない相手なんだよ」
危険度を理解しているリリィがアジムを伴ってやってきた。
そうだった、食人鬼族長もいるんだった、とクラウスは顔をしかめる。一般的な食人鬼と比較して身体が大きく、止めるのがさらに難しい相手だ。
「私やリリィさんではOLさんを止められないから、ここまでにしますか?」
ミランダも声をかけてくる。
アジムがギルドに所属してからの初陣なのだ。全滅はしたくない。
「……戦ってみたいなぁ」
判断の天秤が撤退に傾いていたクラウスの耳に、アジムの呟きが飛び込んで来た。
「かなり痛い思いをすると思うよ?」
「俺の戦い方だと、ある程度以上の敵だと、
どうあがいても殴り殴られになるんで、
それに慣れておく必要もありますし」
「戦闘スキルはアジムくんより低いだろうけど、
STR(筋力)はもしかすると負けてるかもしれないよ?」
「いいですね。
プレイヤー相手だとたいてい早くて軽い人を相手することが多いですし、
自分と同じタイプとも戦ってみたいですね」
同じようにアジムの呟きを耳にしたリリィが驚いたように声をかけると、アジムはそう応じている。戦ってみたいというアジムは笑みを浮かべているが、その笑みは獰猛とはいえない穏やかなものだ。それが逆に、凄みを感じさせる。
クラウスは前進に天秤を傾けた。
「君にOLさんを受け持ってもらうことになるけど、
前進するかい?」
クラウスは最後にアジムにそう念を入れて声をかけ、嬉しそうに頷くのを確認して視線をルナロッサに転じた。すでに宝箱を開けて中からめぼしい宝石を回収し終えていたルナロッサはクラウスの視線に頷く。
「オッケーだ。
準備するからちょっと待ってくれよ。
アジム、アタシの分の荷物から麻痺毒を出してくれ」
ルナロッサはそう言って、アジムがまとめて背負っていた荷物から瓶を受け取り、自分のクロスボウの鏃や、腰の短剣に塗り付けていく。それが済むと、ルナロッサはクラウスに受かって頷いて見せた。クラウスがそれを受けて前衛を担当する三人に視線を向けると、三人もそれぞれに頷きを返してくる。
「それじゃあ、進もうか。
みんな、気を付けてね」
ルナロッサが先行して敵を探る。それを追って足を進める。邪妖精などとは危険度が圧倒的に違う。誰もが無口になり、洞窟に入ったばかりの時とは違って静かな行軍になった。
「そういえば」
クラウスが場つなぎに何か話題を振ろうかと思っていると、アジムの低い声が張り詰めた空気に落ち着いて響く。
「普段は……その、OLさんとはどうやって戦っているんですか?」
「ああ、普段はシズカさんが対応してくれているんだよ」
シズカがいれば、シズカ一人が食人鬼の中に突っ込んでいって食人鬼たちの攻撃を引きつけながら手足の腱を斬って行動を封じてくれる。後は身動きできなくなった食人鬼たちを処理するだけだ。圧倒的な速さと正確さを持つシズカに、食人鬼たちはまったく対応できない。
クラウスの説明を聞いたアジムは首をすくめてため息をついた。
「俺と同じような対応されてるのを聞くと、
なんだか仲間意識が芽生えますね」
アジムの言葉にクラウスだけでなくパーティ全員の口元に笑みが浮かんだ。
「まあ、アジムさんの腕力、体力、精力は食人鬼っぽいですしね」
「ぶっちゃけ、アジムくんのほうが精力は凄くない?」
「あー、食人鬼は意外と淡泊ですもんねぇ。
一発出したらまんぞくー、みたいな」
メルフィナとリリィの言葉に、ミランダが期待するような視線を向けてくるのを必死で無視して、
「魔物に負けると、犯されるんですか?」
「ん? ああ、そうか、説明してなかったね。
そうだよ。
女性キャラクターは犯されて、男性キャラクターは殺されて喰われるんだ」
男性キャラクターは魔物から致死ダメージを受けると普通に死ぬが、女性キャラクターは基本的に魔物に致死ダメージを与えられても即死しない。その代わり、抵抗力を失って巣穴などに連れ込まれ、犯される。数が多ければ当然、輪姦だ。亜人種魔物だけでなく、獣系魔物、虫系魔物や、ゴーレムのような機械系魔物でも性的に襲ってくる。
犯されて孕まされる前に救出できれば、回復魔法や薬、治療スキルで癒すことができる。孕まされ判定が出てしまうと心が壊れた苗床にされたという扱いになって、回復不能の死亡扱いにされてしまう。その孕まされ判定が出るまでだいたい1時間くらいの猶予があるので、男性キャラクターが遺体を食い荒らされるより猶予時間が長い。それに加えて蘇生より回復魔法のほうが消費魔力も少ないので、救出されるまで延々と犯されるプレイヤーの精神的なダメージに目をつぶれば女性キャラクターのほうが戦線復帰までの消耗は少ない。
このために、本気で冒険を志すプレイヤーには男性プレイヤーでも女性キャラクターを使う人が少なくない。ついでに、男とは違う女の悦びに目覚めてしまうプレイヤーも少なくない。一時的、永続的に生やす薬もあるので、冒険をメインにしているギルドは薔薇なんだか百合なんだかわからないことになっていることも多い。
「そうすると、負けてしまうとリリィさんたちが輪姦されるんですか」
「そうなるね」
「それは嫌だなぁ」
「それなら、アジムが殿になるね。
女性のほうが装備ごと拉致られるから全損失の可能性も減るんだけど、
それでも殿で残るかい?」
当然だ、と言わんばかりにアジムが深く頷く。
クラウスは口元に笑みを浮かべた。
「じゃあ、ボクも付き合おう」
「助けてもらったら私たちのほうが復帰が早いし、
襲われるのも平気だから別にいいんだよ?」
そんな風にリリィがアジムに声をかけると、アジムは自分を見上げるリリィにしばらく視線を注いだ後、少し拗ねた風に言葉を返した。
「俺が嫌なんですよ」
リリィが口調に含まれた感情が理解できずに何度か瞬きをする。会話を聞いていたほかのメンバーは、忙しなく視線を交し合った。
そこに、斥候に出ていたルナロッサが返ってきた。
「いたぜ。食人鬼が5匹と族長が1匹だ。
……え、何この空気」
邪妖精族長だけは逃がすと後で逃げ散った邪妖精たちをまとめて再度襲ってくるかもしれないと思ったので、何とか追いついて斬り飛ばしたアジムが兜を外しながら仲間たちのところに戻ると、リリィが興奮したように声をかけてきた。
「一太刀で二匹ずつやっつけていくのなんて、
初めて見たよ! すごいなぁ!
やっぱりSTR(筋力)が高いと爽快感があるね!」
嬉しそうに鼻息荒くまくしたてる。アジムは邪妖精を斬りまくったせいで返り血だらけなのだが、お構いなしだ。リリィの憧憬の言葉と視線に照れたアジムが思わず頭を掻くと、手にもべったりとついていた返り血が後頭部についてしまった。
閉口するアジムに苦笑しながらやってきたクラウスが「ちょっと目を閉じてくれるかい」と声をかけてきたので従うと、クラウスは返り血に対して<液体浄化>の魔法をかけてくれた。生臭い匂いの血液が浄化されて水に代わる。
全身から漂っていた血の匂いが消えて、アジムは息をついた。
「ありがとう」
アジムの礼にクラウスは笑みを浮かべてひらひらと手を振って応えた。
「それにしても……すごい声だったね。
何かそれっぽいスキル入れてたっけ?」
「いや、特には」
「ええ? それじゃあれは純粋にアジムの声と気迫?
なおさらすごいなぁ」
そんな会話をしながら、アジムは邪妖精たちがいた洞窟のなかの広場を見渡す。まだ火が残っているたき火と、何の肉なのかわからない肉が刺さった串が地面にさしてあって火であぶられている。どこかから奪ってきたらしい酒の瓶も転がっていた。邪妖精族長が座っていたらしい玉座っぽいものが一番奥に設えてあるが、無駄にけばけばしくて下衆い。族長以外は地面に藁を敷いて座っていたようだが、湿って色が変わっているうえに獣じみた匂いが漂っていて臭い。
なんで移動しないのだろうとアジムが不思議に思い出したところで、いつの間にか姿を消していたルナロッサがたき火の火が届かない暗闇から戻ってきた。
「特に集まってきている魔物もいなさそうだな」
「了解。それじゃ、進もうか」
戦いの喧騒や血の匂いにつられた魔物がいないか、ルナロッサが確認してくれていたらしい。親指で進む方向をくいくいと示すルナロッサにアジムが称賛の目を向けていると、それに気づいたルナロッサがにっと笑い返してから、再び暗闇に姿を溶け込ませた。
「ええっと……。
次は豚面鬼の集団が相手だね。
これも族長に率いられてる。
邪妖精のように祈祷師はいないけど、弓使いはいるんだ。
ボクやメルフィナさんが狙われないようにしてもらう必要はあるね」
ルナロッサが消えた暗闇に向かって足を進めながらクラウスは説明しつつも、おそらくこの注意はあまり意味がないだろうなと感じていた。
そしてそれは斥候に出ていたルナロッサが豚面鬼を見つけて帰ってきて、豚面鬼たちとの戦闘が始まるとその予想が正しかったこと実感する。アジムの咆哮は豚面鬼たちさえも竦みあがらせ、その手の大剣は豚面鬼たちを容赦なく切り捨てていく。
アジムの大剣の前では邪妖精と豚面鬼の違いなどほとんどなく、一太刀で二匹まとめて千切れ飛んでいたのが一匹ずつ切り倒されるようになった程度で、アジムにとってはどちらも戦うべき敵ではなく狩る獲物にすぎない。10匹ほどいた豚面鬼はあっという間に駆逐されつくし、クラウスはまたアジムに<液体浄化>をかけてやった。
戦闘が終わって周辺を索敵していたルナロッサが豚面鬼たちの塒で宝箱を見つけた。さっそく宝箱の解錠に取り掛かるのを、アジムが物珍しそうに眺めている。あまりスキルポイントを振ってはいないものの<鑑定>スキルを持っているメルフィナも、その横で宝箱が開くのをうきうきと待っている。
クラウスは困っていた。
アジムが豚面鬼相手にここまで一方的な戦闘をやってのけるとは思っていなかったのだ。豚面鬼を相手に集団戦での動きを見せてもらうつもりをしていたのだが、実際に戦ってみればこれである。集団戦もなにもあったものではない。
単純に敵が強くなればアジムの突進も止まるのだろうが、次に亜人系魔物で出てくるのは食人鬼だ。豚面鬼と比較して桁違いに強く、一気に危険度が跳ね上がる。クラウスが困っているのはそこだ。
食人鬼は巨体と怪力で相手を圧倒する魔物だ。アジムをさらに頭一つ大きくしてから知恵と剣技と格闘技を抜いたらだいたい食人鬼になる。前衛だの後衛だのを考えられない知恵のなさが逆に厄介で、そういう腕力に優れた魔物が棍棒を片手に一斉に襲い掛かってくるのだ。パーティの前衛メンバーで食人鬼たちを受け止めきれなければクラウス自身やメルフィナが直接攻撃に晒される。そうなれば魔法を使うための<集中>が取れなくなって押し切られてしまう。
「ねぇ、クラウス。どうする?
次はOLさんだよね?」
「なんですか、OLさんって」
「Ogre Lordの略称っていうか、通称だね。
中堅冒険家の壁で、対応方法を知っていないと危ない相手なんだよ」
危険度を理解しているリリィがアジムを伴ってやってきた。
そうだった、食人鬼族長もいるんだった、とクラウスは顔をしかめる。一般的な食人鬼と比較して身体が大きく、止めるのがさらに難しい相手だ。
「私やリリィさんではOLさんを止められないから、ここまでにしますか?」
ミランダも声をかけてくる。
アジムがギルドに所属してからの初陣なのだ。全滅はしたくない。
「……戦ってみたいなぁ」
判断の天秤が撤退に傾いていたクラウスの耳に、アジムの呟きが飛び込んで来た。
「かなり痛い思いをすると思うよ?」
「俺の戦い方だと、ある程度以上の敵だと、
どうあがいても殴り殴られになるんで、
それに慣れておく必要もありますし」
「戦闘スキルはアジムくんより低いだろうけど、
STR(筋力)はもしかすると負けてるかもしれないよ?」
「いいですね。
プレイヤー相手だとたいてい早くて軽い人を相手することが多いですし、
自分と同じタイプとも戦ってみたいですね」
同じようにアジムの呟きを耳にしたリリィが驚いたように声をかけると、アジムはそう応じている。戦ってみたいというアジムは笑みを浮かべているが、その笑みは獰猛とはいえない穏やかなものだ。それが逆に、凄みを感じさせる。
クラウスは前進に天秤を傾けた。
「君にOLさんを受け持ってもらうことになるけど、
前進するかい?」
クラウスは最後にアジムにそう念を入れて声をかけ、嬉しそうに頷くのを確認して視線をルナロッサに転じた。すでに宝箱を開けて中からめぼしい宝石を回収し終えていたルナロッサはクラウスの視線に頷く。
「オッケーだ。
準備するからちょっと待ってくれよ。
アジム、アタシの分の荷物から麻痺毒を出してくれ」
ルナロッサはそう言って、アジムがまとめて背負っていた荷物から瓶を受け取り、自分のクロスボウの鏃や、腰の短剣に塗り付けていく。それが済むと、ルナロッサはクラウスに受かって頷いて見せた。クラウスがそれを受けて前衛を担当する三人に視線を向けると、三人もそれぞれに頷きを返してくる。
「それじゃあ、進もうか。
みんな、気を付けてね」
ルナロッサが先行して敵を探る。それを追って足を進める。邪妖精などとは危険度が圧倒的に違う。誰もが無口になり、洞窟に入ったばかりの時とは違って静かな行軍になった。
「そういえば」
クラウスが場つなぎに何か話題を振ろうかと思っていると、アジムの低い声が張り詰めた空気に落ち着いて響く。
「普段は……その、OLさんとはどうやって戦っているんですか?」
「ああ、普段はシズカさんが対応してくれているんだよ」
シズカがいれば、シズカ一人が食人鬼の中に突っ込んでいって食人鬼たちの攻撃を引きつけながら手足の腱を斬って行動を封じてくれる。後は身動きできなくなった食人鬼たちを処理するだけだ。圧倒的な速さと正確さを持つシズカに、食人鬼たちはまったく対応できない。
クラウスの説明を聞いたアジムは首をすくめてため息をついた。
「俺と同じような対応されてるのを聞くと、
なんだか仲間意識が芽生えますね」
アジムの言葉にクラウスだけでなくパーティ全員の口元に笑みが浮かんだ。
「まあ、アジムさんの腕力、体力、精力は食人鬼っぽいですしね」
「ぶっちゃけ、アジムくんのほうが精力は凄くない?」
「あー、食人鬼は意外と淡泊ですもんねぇ。
一発出したらまんぞくー、みたいな」
メルフィナとリリィの言葉に、ミランダが期待するような視線を向けてくるのを必死で無視して、
「魔物に負けると、犯されるんですか?」
「ん? ああ、そうか、説明してなかったね。
そうだよ。
女性キャラクターは犯されて、男性キャラクターは殺されて喰われるんだ」
男性キャラクターは魔物から致死ダメージを受けると普通に死ぬが、女性キャラクターは基本的に魔物に致死ダメージを与えられても即死しない。その代わり、抵抗力を失って巣穴などに連れ込まれ、犯される。数が多ければ当然、輪姦だ。亜人種魔物だけでなく、獣系魔物、虫系魔物や、ゴーレムのような機械系魔物でも性的に襲ってくる。
犯されて孕まされる前に救出できれば、回復魔法や薬、治療スキルで癒すことができる。孕まされ判定が出てしまうと心が壊れた苗床にされたという扱いになって、回復不能の死亡扱いにされてしまう。その孕まされ判定が出るまでだいたい1時間くらいの猶予があるので、男性キャラクターが遺体を食い荒らされるより猶予時間が長い。それに加えて蘇生より回復魔法のほうが消費魔力も少ないので、救出されるまで延々と犯されるプレイヤーの精神的なダメージに目をつぶれば女性キャラクターのほうが戦線復帰までの消耗は少ない。
このために、本気で冒険を志すプレイヤーには男性プレイヤーでも女性キャラクターを使う人が少なくない。ついでに、男とは違う女の悦びに目覚めてしまうプレイヤーも少なくない。一時的、永続的に生やす薬もあるので、冒険をメインにしているギルドは薔薇なんだか百合なんだかわからないことになっていることも多い。
「そうすると、負けてしまうとリリィさんたちが輪姦されるんですか」
「そうなるね」
「それは嫌だなぁ」
「それなら、アジムが殿になるね。
女性のほうが装備ごと拉致られるから全損失の可能性も減るんだけど、
それでも殿で残るかい?」
当然だ、と言わんばかりにアジムが深く頷く。
クラウスは口元に笑みを浮かべた。
「じゃあ、ボクも付き合おう」
「助けてもらったら私たちのほうが復帰が早いし、
襲われるのも平気だから別にいいんだよ?」
そんな風にリリィがアジムに声をかけると、アジムは自分を見上げるリリィにしばらく視線を注いだ後、少し拗ねた風に言葉を返した。
「俺が嫌なんですよ」
リリィが口調に含まれた感情が理解できずに何度か瞬きをする。会話を聞いていたほかのメンバーは、忙しなく視線を交し合った。
そこに、斥候に出ていたルナロッサが返ってきた。
「いたぜ。食人鬼が5匹と族長が1匹だ。
……え、何この空気」
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