【R18】VRMMO 最強を目指す鍛錬記

市村 いっち

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復讐の騎士 リリィ・フランネル

復讐の騎士 リリィ・フランネル(7)

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 トレントは北イタリアにある街で、冒険家たちが必要とする銀行や施療院、強力な呪いの解呪を可能とする教会などがそろった使い勝手のいい街だ。ブオンコンシーリョ城を中心に周囲を城壁に囲まれた街は魔物を寄せ付けない防御力を有し、魔物大発生のイベントなどでは北イタリアの主要な防御都市のひとつとして数えられるが、白や明るい茶色が多い建物の色のせいか軍事都市のような重苦しさはあまりなく、どこか牧歌的な柔らかさを感じる町並みだ。街中央の広場には宗教画に彩られた大聖堂が威容を誇っている。近くで市場が開かれていて近くの田園地帯や森の食材が並び、街の住人たちが楽し気にそれらを吟味している。
 そんなトレントの街で果物などを買い食いしながらのんびりと進み、広場にある銀行までやってきた。せいぜいが郵便局の支所程度の大きさの建物で、完全にプレイヤーのみが利用する施設であるためか、人の出入りはまったくない。

「それでは、小切手の発行をお願いします。」
「はい、承りました。
 金貨4万5千枚が一枚、金貨2万5千枚が5枚ですね」

 受付でソフィアが銀行員に小切手の発行を依頼している。銀行は全世界共通であるため、すべての銀行で貯金して、すべての銀行で下ろすことができる。小切手の発行も同様だ。銀行の中も郵便局のようにカウンターで向こう側とこちら側が仕切られているが、仕切りのカウンターには強盗対策のために頑丈な鉄柵が取り付けられている。アジムでも壊すのに手こずりそうな太い鉄柵のそれは、魔法を打ち消す機能まで備えたものだ。その鉄柵の向こうから、小切手の乗ったトレーが差し出された。
 ソフィアはそれらの金額を確認してから銀行員に頷いて見せてから、パーティに振り返った。

「それでは、お渡ししますね。
 アジムさんが4万5千、ほかの皆さんが2万5千です」

 最初に小切手を渡されたアジムは、そこにかかれた金額をじっと見てみる。
 日本語で金45000と書かれた小切手であるが、やはり現実感がない。
 小切手というもの自体が珍しくて日に透かして見たりしていたら、小切手を配り終えたソフィアが戻ってきた。

「いいですね。小切手の取引は高額になりますから、
 渡された小切手に書かれた桁などをしっかり確認するのはすごくいいことです」

 単純に珍しくてしていただけだったので、褒められて逆に気まずい。

「それを貯金したいって言って銀行員に渡してしまえば、
 銀行に貯金することができますよ」

 ソフィアに言われるがまま銀行員に小切手を差し出して「貯金をお願いします」と口にすると、女性銀行員は小切手を受け取って「はい、承りました」と言って、それでおしまいだった。
 あまりに手軽だったために、首をかしげるアジムに、

「金貨が山積みされるわけではありませんからねぇ。
 目を閉じて確認してください」

 苦笑するソフィアに言われて目を閉じてみる。瞼の裏に表示されるステータス画面の、貯金額の欄が確かに増えていることを確認する。今回の報酬から見ると、今までの貯金額が誤差くらいにしかなっていないのがちょっと切なかったりもしたが。
 目を開けるとソフィアは外の荷馬車で宝石を護って待っていたルナロッサと合流するために立ち去っていて、代わりにリリィがアジムを待ってくれていた。

「今日はこの後は解散だから、
 私と一緒にプレイヤータウンでお金の使い方を憶えようか」

 アジムが笑みを浮かべて頷くと、

「それじゃあ、プレイヤータウンで使うお金を下ろそう。
 基本的にプレイヤータウンではお金は金貨だけしか使わないし、
 ほとんどは100枚単位でのやりとりになるんだ」

 アジムはリリィの説明を聞いて納得した。

「ああ、だから小切手が必要になるんですね」
「そうなんだよ。金貨10000枚とか持ち歩けないでしょ?」

 リリィはそう言って、懐から市場を通りかかったときに買っておいた財布を取り出した。光沢のない茶色の革でできた二つ折りの財布で、飾りのない武骨なデザインだ。リリィの手にはごつごつとして見えるが、アジムの大きな手にはよく馴染むだろう。試しに財布を開いてみたときも皮が突っ張らず、使い勝手も良さそうなのでこれに決めた。

「はい、アジムくん。
 これプレゼント」
「えっ」
「今までは金貨や銀貨を入れる袋をお財布にしてただろうけど、
 プレイヤータウンだと紙幣替わりの小切手しか使わないから、
 こっちのほうがいいんだよ」

 アジムはリリィから財布を手渡されて、ちょっとぽかんとしてから、

「いいんですか?」
「うん、良かったら使ってほしいな」
「ありがとうございます!
 大事にします」

 嬉しそうにするアジムに、リリィも笑みを浮かべた。

「それじゃ、お金を下ろそうか。
 プレイヤータウンだと金貨1枚が現実リアルでの1円くらいで考えておけばいいと思う。
 まあ、本当は物価はもっと安いけどね」

 アジムは頷いてから、

「それじゃあ、とりあえず金貨5000枚の小切手を持っておけばいいですか?」
「それだと支払ってお釣りをもらうときがややこしいでしょ?
 だから、100枚の小切手を20枚と、
 1000枚の小切手を3枚にしておくのをオススメするよ」
「ああ、なるほど」

 金貨100枚の小切手が、そのまま100円札として利用できるのだろうとアジムは納得した。リリィに言われた通りの割合で銀行員に小切手を作ってもらい、もらったばかりの財布に小切手を入れようと開けてみると、仕切りで3つに分かれていた。
 アジムは少し考えてから、

「5000円の小切手……あー、五千円札も作っておいたほうがいいですかね?」
「んー。そうだねぇ。
 アジムくんは今日初めてプレイヤータウンに行くんだよね?
 たくさんお買い物したくなるかもしれないし、
 五千円札も作っておいてもいいかも」

 アジムはリリィの言葉に頷いて金貨5000枚の小切手を発行してもらって財布に納めた。
 二つ折りの財布の表面を軽く撫でる。いい皮を使っているのか手触りはなめらかで心地良い。たったこれだけの重量で、金貨が1万枚も入っているとは思えないが、今まで手にしたことのない金額のお金を持ち歩くと思うと、ちょっと落ち着かない。

「あ、お財布と小切手は装備品扱いになるから
 <帰還リコール>系の魔法で一緒に飛べるから心配しないでね」

 アジムが頷きながら財布を大事そうに懐に入れるのを見て、リリィは笑みを浮かべた。

「それじゃ、チューリッヒに行こっか!」

 笑顔のリリィに手を引かれ、アジムは銀行を出ると乗合馬車の駅にやってきた。
 トレントはそう大きな都市ではないが、それでも複数の街に向かって馬車が発着するそこは、街はずれにあってもすさまじい人通りだ。行きかう人を当て込んだ食べ物や飲み物に加えて土産物まで売る露店まで出ている。そんな雑踏をどうにか乗り越えて、アジムはリリィと一緒に乗合馬車の切符売り場までやってきた。

「さすがに馬車ワープは使ったことあるよね?」

 リリィに言われてアジムは頷く。
 馬車ワープとは乗合馬車を使にして、移動時間をすっ飛ばして都市間の移動を素早く行えるシステムだ。ある程度以上の人の行き来がなければ乗合馬車は開通しないので、それなりに大きな都市間の移動にしか使えない。船も同じルールでワープ利用が可能だ。
 馬車ワープも<帰還>系と同じように荷物や交易品を運ぶことはできないが、行った先の都市で銀行に入り、お金を下ろせば交易品の仕入れはできる。仕入れた交易品は何とかして自分で運ぶしかないが、プレイヤー商人がNPC商人に対して大きな優位性を誇る理由の一つでもある。

「それじゃ、まずはミラノに飛ぼうか。
 そこからならチューリッヒに飛べるよ」
「わかりました」
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