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ギルド 戦乙女たちの饗宴
ギルド 戦乙女たちの饗宴(3)
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アジムは<戦乙女の饗宴>のメンバーたちに案内されて、鋼鉄人形と戦うためにダンジョンに足を踏み入れた。外観は人が住まなくなって長い時が過ぎ、森の新色を受けて半ば埋もれた砦のようなもので、機械人形たちが古の主人の命令を受けて主人の宝を今も守り続けている場所だ。鋼鉄人形以外にも様々な機械人形たちが侵入者を排除するために内部を巡回し続けている。
そんな砦を機械人形たちを蹴散らしながら進み、鋼鉄人形が主人の宝を護って待ち構える地下室の入口にたどり着いた。
「ここを進むと入口が封鎖されて、
鋼鉄人形と強制戦闘になる。
それを撃破できれば宝が入手できるはずだ」
ヒルドにそう説明されながら、アジムは先ほど紅茶を淹れてくれた金髪の女性に鎧の上を指でなぞられていた。
ヴァルキリーである彼女たちは全員が武器を取って戦う戦士であると同時に、ルーン魔術の使い手でもある。ルーン魔術とは<力のある文字>を対象に刻み、対象を強化したり弱体化させたりすることができる魔術だ。アジムはその中でも最も魔法に長けた彼女に<守りの呪法>を施してもらっている。
武器を手にする手でありながら、それでもしなやかさを失わない指先がアジムの板金鎧の表面をなぞると、その軌跡が輝きを帯びて残る。女性は輝きで文字を書き込んでから、最後にそれに触れて魔力を込めた。輝きが赤い色を帯びて鎧の表面に定着する。
「はい、おしまいですよ」
「ありがとうございます、エイルさ……
あー、エイル」
わざわざ呼び捨てにし直したアジムの礼の言葉に、にこやかな笑みを返す彼女は<戦乙女の饗宴>の中で最も魔法に長けた女性だ。ギルドを出発する前にエイルと自己紹介してくれた彼女は柔らかくウェーブした長い金色の髪を背中に流し、蒼銀の鎧を身に着けていても隠し切れない豊かな胸をしていた。青いたれ目がちな目がいつも微笑んでいて、女性的な体つきと合わせて優し気な印象を受ける。落ち着いた雰囲気もあるのでヒルドと比べて少し年上に見えた。
武器は自分の身長と同じくらいの長さがある長槍を手にしている。砦の中で大勢で一斉にかかってきた木製人形と戦ったときには、仲間たちが構築した前線から一歩引いた位置から長槍の長さを生かして攻撃していた。
ただ、槍よりも魔法が得意な彼女なので、途中から<雷の矢>を撃ち込んで木製人形たちを燃やす戦術に切り替えて戦っていた。
「鋼鉄人形はものすごく硬いから、物理攻撃は通らない。
……アジムなら通せてしまいそうではあるが」
ヒルドが説明の途中でアジムの馬鹿でかい剣に目を向けて少し笑みを浮かべて見せたが、すぐに表情を真剣なものに改めて、
「攻撃は十分な集中時間をとった<魔力矢>と
機械系に大きなダメージを与えられるエイルの雷属性の魔法で
物理防御力を無視して攻撃しようと思ってる。
アジムに先頭で入ってもらって、
そのまま鋼鉄人形とぶつかってもらい、集中の時間を稼いでほしい」
アジムがその言葉に頷いて見せると、
「アジムが本当にきつくなったら、大きく後ろに下がってくれ。
少しの間……まあ、本当に少しの間だけだが、
私が鋼鉄人形を受け持とう。その間に治療してもらって復帰してくれ」
ヒルドの言葉に応じて、薄く桃色がかった銀髪の少女が進み出る。
挨拶をしようとして、アジムは躊躇った。
「……えーっと」
「妹のスクルドのほうです。普段は主に前衛と、回復魔法を担当しています。
今回は貴方がダメージを受けたらばんばん回復していくので、
遠慮なく怪我してくださいね!」
物騒なことを満面の笑みで言われ、アジムは少し引きつった笑みを返した。
<戦乙女の饗宴>の揃いの蒼銀の鎧と兜を身に着けた彼女は細剣を腰に佩いている。刺突攻撃しかできない剣で戦う彼女は機械人形たちにダメージを与えるのにかなり苦労していたが、攻撃を避けるのは悠々とやってのけていた。回避に優れる彼女は攻撃よりも前線の維持を主眼に立ち回っていたのがアジムには印象的だった。
右目が赤で左目が青の金銀妖瞳で、薄桃色の銀髪と相まってなんとも妖しい雰囲気をもっているが、中身は少女らしい明るいものだ。見た目の歳はリリィと同じか、少し上くらいだろうか。くるくると変わる表情が、笑みを誘う。
そして、その隣にスクルドと見分けのつかない容姿の少女が並び立った。違うのは瞳の色で、彼女は右目が青で左目が赤だ。鎧や兜はもちろんだが、剣まで同じで瞳の色が確認できないと、本当に見分けがつかない。
「うちの妹は攻撃魔法が使えないんで貴方に専属でつく。
ダメージを受けても我慢してくれれば
スクルドがちゃんと治してくれるから、がんばってね」
ほぼ同じ容姿だが気遣う表情が少し大人びて見える。本人の言葉通り彼女はスクルドの姉だ。ウルと自己紹介した彼女も、魔法火力側に入る。
「集中時間は3分の予定だから、
そこまで踏ん張ってくれればなんとかなるから」
ウルの言葉に、魔法火力を担当するエイルやほかの面々が頷く。
「まあ、あまり気負わずにやってくれ。
機械人形系の魔物は戦い方に癖があるから、
初見のアジムは戸惑うかもしれないし」
アジムが頷いて見せると、ヒルドが珍しくへらりと笑った。
「もう10回は負けて犯られているから、
追加で何回か犯られたところで今更感もあるしなぁ」
「……機械人形まで女の人を犯そうとするんですか?」
「いや、機械人形っていうか、魔法生物系は女を倒したら、
魔力を搾り取るための部屋に連れ込むんだ。
捕まった女はそこで媚薬と栄養剤の混合物を飲まされながら、
絶頂すると魔力を奪われる機械に拘束されて
死ぬまで絶頂かされ続けることになる」
ヒルドの説明を聞いたアジムは首をかげる。
「まあ、ほかの魔物に輪姦されるときと同じように、
一時間で壊れて死亡扱いになって
再出発できるようになるんだけどな」
「……今の話だと、別に男でも魔力を絞れそうですけど?」
「そこは……アレだ。大人の事情ってやつじゃないかな。
野太い男の喘ぎ声が聞こえるダンジョンなんて、
潜りたくないしなぁ」
ヒルドの言葉に苦笑しながら、アジムはポーションバックからSTR増加薬を手に取った。戦闘前の和の時間はそろそろ終わりだ。ここからは闘争の時間になる。暗い地下室に入るためにエイルから<夜目>の魔法をかけてもらい、STR増加薬を一息に呷る。腹の中から熱いものが体内を巡っていくのを感じながら、兜のバイザーを下ろし、背にしていた大剣を手に取ってアジムは仲間たちの顔に視線を向ける。
力強い視線が返ってくるのに頷き、アジムは地下室へと続く通路に向き直った。
「行くぞ!」
ヒルドの声に応じながら、アジムは先頭に立って階段を駆け出した。
〇
階段を降り切ると、そこは倉庫だったらしき部屋だった。埃っぽい空気が充満していて、朽ちた木箱の名残らしき木の破片が散乱している。収めていたものが風化してしまった倉庫はがらんとしていて、部屋としては広いが複数人で戦闘するには狭い。速度型の戦士たちでは避けるための空間が不足するだろう。部屋の一番奥には、さらに奥に続く通路のドアがある。
だが、その前にアジムが戦うべき鋼鉄人形の姿があった。体格はアジムとそう変わらない。板金鎧を身に着けたアジムとはほとんど同じ大きさだ。手に武器は持たず、機械じみた動きで侵入してきたアジムたちを迎撃しようと動き出している。
アジムは階段を駆け下りた勢いをそのまま剣に乗せて、動き出したばかりの鋼鉄人形に斬りかかった。
「うおおおぉぉぉぉぉ!!」
怒号とともにアジムの振るう大剣と鋼鉄人形の拳がぶつかる。金属音と火花が飛び散り、アジムの大剣が鋼鉄人形の拳を弾き飛ばした。
仲間たちからどよめく声が上がる。だが、返ってきた手ごたえを思えば、余裕はない。
「早く集中に入ってください!」
アジムの声に応じて仲間たちが集中に入った。アジムはそれを確認することもできずに、無造作に突き出される拳や足に全力の一撃をたたきつけてどうにか拮抗させる。相手は鋼鉄人形だ。当然、腕や足も鋼鉄製だ。すさまじく重く、硬い。走りこんだ勢いがなければ、アジムも体重を乗せた一撃でなければ互角に持ち込めない。
そして、相手が機械人形であるが故に、ひどく戦いにくい。生き物にはある息遣いがなく、痛みを感じて怯むこともない。それどころか防御すらしようともしない。戦いにおける駆け引きなどなく、自分の都合で一方的に攻撃しつづけてくる。
その攻撃である突きやパンチとは言えない拳を突き出すだけの動きも、拳をひいたり踏み込んで腰を捻ったりという予備動作がない、ただ突き出すだけの動きだ。アジムから見れば、まったくなっていない。だが、それだけに態勢を崩すこともなく、次から次へと攻撃を繰り出してくる。それなのに、それに対応するアジムは常に全力の一撃を求められるのだ。
じわりじわりと鋼鉄人形の攻撃に、アジムの剣が間に合わなくなりはじめる。
だからと言って、アジムに下がる選択はない。
傷を負うなら、頑強な肉体を持つ自分が傷を負うべきだ。
蹴りではない、足を振り回すだけの攻撃をどうにか大剣で叩き落したが、その後に続く拳に対応が間に合わない。歯を噛みしめ、左肩を突き出し、腕で受ける。ソフィアが見つけてくれた腕鎧の性能と自分の肉体を信じ、突き出される拳にぶつかりに行く。
「ぐ、がっ……!」
衝撃はすさまじく、身体が浮き上がった。半歩ほど後退させられて、どうにか踏ん張る。続けざまの拳は引き戻した大剣を身体ごとぶつけてどうにか対処したが、それ以上は止めきれない。兜の上から、鎧の上から殴られる。殴られ続ける。
「おい、アジム、代われ!
もうちょっとだから、私が代わる!」
衝撃の中でそんな声が聞こえてくる。だが、アジムが引くのに合わせて機械人形が前進するのを許してしまえば、ヒルドもそのまま勢いに押されて突破を許してしまうかもしれない。突破されて集中している面々がやられてしまえば勝ち目がなくなる。
仲間を守れ。敵の前に立ち続けろ。
自分にそう言い聞かせ、吠える。
「……ああぁぁぁぁぁぁ!!」
怯んで下がるな。前に出ろ。攻撃をつぶせ。
振り回す必要がある剣なんか、もう邪魔だ。
剣を投げ出して腕で拳を受ける。
骨まで軋むような衝撃はあるが、腰の入っていないやる気のないパンチだ。
血と興奮で赤く染まった視界で顔を睨むと、口も鼻もない間抜けな顔にある宝玉の目がこちらを見ている。
こんなもので倒されてたまるか。
そんな思いと一緒に、負けん気と本能がむき出しになったアジムは拳を振りかぶる。
「ぬがあああぁぁぁぁあああぁぁぁぁぁ!!」
アジムの拳と鋼鉄人形の拳がすれ違い、お互いの身体に突き刺さる。だが、ダメージになるのはアジムだけだ。後ろでいつでも交代できるよう構えているヒルドにはアジムが何をしだしたのか、意味が分からない。
「お、おい……?」
鉄の拳が板金鎧を殴る金属音と、肉の拳が鋼鉄の身体を打つ打撃音が響く。アジムの頭部からの出血が舞い上がり、お互いを赤く染めていく。スクルドが何度も回復魔法をアジムにかけているが、それでも回復が追いつかない。
見ていることしかできないヒルドが寒気を覚えるような殴り合いの時間を、エイルの声が終わらせてくれた。
「アジム、集中が終わりました!
下がって!」
エイルの声が耳に入っても頭に血が上りすぎて意味が理解できなかったアジムだったが、意味を吟味しようとわずかに動きが鈍る。その拍子に鋼鉄人形の拳を胸にぶち込まれて、たまらず後ろに吹っ飛ばされた。
それが逆に、魔法使いたちに射線を通すことになった。
「<魔力矢>っ!」
「<魔力矢>!」
「<魔力矢>ォ!」
三本の魔力の矢がほとばしる。
それがすべてアジムが殴りつけても何の損傷も与えられなかった頭部に突き刺さり、ちぎれ飛びそうなほどの衝撃を与えた。ばちばちと内側から火花を飛ばし始めたところに、最後の一撃が突き刺さる。
「<雷光>!」
掲げたエイルの手から、轟音とともに<魔力矢>とは比較にならないほど強力な稲妻が奔る。瞳を焼いて奔った雷光が鋼鉄人形の頭を飲み込んで、さらに倉庫だった地下室の石壁を焼いた。石壁を溶かすほどの熱量を持った雷に内部の魔法機械をことごとく破壊されつくし、鋼鉄人形は頭から小さな爆発という断末魔の叫びをあげると、主から与えられた長い役目を終えて膝をついた。
そんな砦を機械人形たちを蹴散らしながら進み、鋼鉄人形が主人の宝を護って待ち構える地下室の入口にたどり着いた。
「ここを進むと入口が封鎖されて、
鋼鉄人形と強制戦闘になる。
それを撃破できれば宝が入手できるはずだ」
ヒルドにそう説明されながら、アジムは先ほど紅茶を淹れてくれた金髪の女性に鎧の上を指でなぞられていた。
ヴァルキリーである彼女たちは全員が武器を取って戦う戦士であると同時に、ルーン魔術の使い手でもある。ルーン魔術とは<力のある文字>を対象に刻み、対象を強化したり弱体化させたりすることができる魔術だ。アジムはその中でも最も魔法に長けた彼女に<守りの呪法>を施してもらっている。
武器を手にする手でありながら、それでもしなやかさを失わない指先がアジムの板金鎧の表面をなぞると、その軌跡が輝きを帯びて残る。女性は輝きで文字を書き込んでから、最後にそれに触れて魔力を込めた。輝きが赤い色を帯びて鎧の表面に定着する。
「はい、おしまいですよ」
「ありがとうございます、エイルさ……
あー、エイル」
わざわざ呼び捨てにし直したアジムの礼の言葉に、にこやかな笑みを返す彼女は<戦乙女の饗宴>の中で最も魔法に長けた女性だ。ギルドを出発する前にエイルと自己紹介してくれた彼女は柔らかくウェーブした長い金色の髪を背中に流し、蒼銀の鎧を身に着けていても隠し切れない豊かな胸をしていた。青いたれ目がちな目がいつも微笑んでいて、女性的な体つきと合わせて優し気な印象を受ける。落ち着いた雰囲気もあるのでヒルドと比べて少し年上に見えた。
武器は自分の身長と同じくらいの長さがある長槍を手にしている。砦の中で大勢で一斉にかかってきた木製人形と戦ったときには、仲間たちが構築した前線から一歩引いた位置から長槍の長さを生かして攻撃していた。
ただ、槍よりも魔法が得意な彼女なので、途中から<雷の矢>を撃ち込んで木製人形たちを燃やす戦術に切り替えて戦っていた。
「鋼鉄人形はものすごく硬いから、物理攻撃は通らない。
……アジムなら通せてしまいそうではあるが」
ヒルドが説明の途中でアジムの馬鹿でかい剣に目を向けて少し笑みを浮かべて見せたが、すぐに表情を真剣なものに改めて、
「攻撃は十分な集中時間をとった<魔力矢>と
機械系に大きなダメージを与えられるエイルの雷属性の魔法で
物理防御力を無視して攻撃しようと思ってる。
アジムに先頭で入ってもらって、
そのまま鋼鉄人形とぶつかってもらい、集中の時間を稼いでほしい」
アジムがその言葉に頷いて見せると、
「アジムが本当にきつくなったら、大きく後ろに下がってくれ。
少しの間……まあ、本当に少しの間だけだが、
私が鋼鉄人形を受け持とう。その間に治療してもらって復帰してくれ」
ヒルドの言葉に応じて、薄く桃色がかった銀髪の少女が進み出る。
挨拶をしようとして、アジムは躊躇った。
「……えーっと」
「妹のスクルドのほうです。普段は主に前衛と、回復魔法を担当しています。
今回は貴方がダメージを受けたらばんばん回復していくので、
遠慮なく怪我してくださいね!」
物騒なことを満面の笑みで言われ、アジムは少し引きつった笑みを返した。
<戦乙女の饗宴>の揃いの蒼銀の鎧と兜を身に着けた彼女は細剣を腰に佩いている。刺突攻撃しかできない剣で戦う彼女は機械人形たちにダメージを与えるのにかなり苦労していたが、攻撃を避けるのは悠々とやってのけていた。回避に優れる彼女は攻撃よりも前線の維持を主眼に立ち回っていたのがアジムには印象的だった。
右目が赤で左目が青の金銀妖瞳で、薄桃色の銀髪と相まってなんとも妖しい雰囲気をもっているが、中身は少女らしい明るいものだ。見た目の歳はリリィと同じか、少し上くらいだろうか。くるくると変わる表情が、笑みを誘う。
そして、その隣にスクルドと見分けのつかない容姿の少女が並び立った。違うのは瞳の色で、彼女は右目が青で左目が赤だ。鎧や兜はもちろんだが、剣まで同じで瞳の色が確認できないと、本当に見分けがつかない。
「うちの妹は攻撃魔法が使えないんで貴方に専属でつく。
ダメージを受けても我慢してくれれば
スクルドがちゃんと治してくれるから、がんばってね」
ほぼ同じ容姿だが気遣う表情が少し大人びて見える。本人の言葉通り彼女はスクルドの姉だ。ウルと自己紹介した彼女も、魔法火力側に入る。
「集中時間は3分の予定だから、
そこまで踏ん張ってくれればなんとかなるから」
ウルの言葉に、魔法火力を担当するエイルやほかの面々が頷く。
「まあ、あまり気負わずにやってくれ。
機械人形系の魔物は戦い方に癖があるから、
初見のアジムは戸惑うかもしれないし」
アジムが頷いて見せると、ヒルドが珍しくへらりと笑った。
「もう10回は負けて犯られているから、
追加で何回か犯られたところで今更感もあるしなぁ」
「……機械人形まで女の人を犯そうとするんですか?」
「いや、機械人形っていうか、魔法生物系は女を倒したら、
魔力を搾り取るための部屋に連れ込むんだ。
捕まった女はそこで媚薬と栄養剤の混合物を飲まされながら、
絶頂すると魔力を奪われる機械に拘束されて
死ぬまで絶頂かされ続けることになる」
ヒルドの説明を聞いたアジムは首をかげる。
「まあ、ほかの魔物に輪姦されるときと同じように、
一時間で壊れて死亡扱いになって
再出発できるようになるんだけどな」
「……今の話だと、別に男でも魔力を絞れそうですけど?」
「そこは……アレだ。大人の事情ってやつじゃないかな。
野太い男の喘ぎ声が聞こえるダンジョンなんて、
潜りたくないしなぁ」
ヒルドの言葉に苦笑しながら、アジムはポーションバックからSTR増加薬を手に取った。戦闘前の和の時間はそろそろ終わりだ。ここからは闘争の時間になる。暗い地下室に入るためにエイルから<夜目>の魔法をかけてもらい、STR増加薬を一息に呷る。腹の中から熱いものが体内を巡っていくのを感じながら、兜のバイザーを下ろし、背にしていた大剣を手に取ってアジムは仲間たちの顔に視線を向ける。
力強い視線が返ってくるのに頷き、アジムは地下室へと続く通路に向き直った。
「行くぞ!」
ヒルドの声に応じながら、アジムは先頭に立って階段を駆け出した。
〇
階段を降り切ると、そこは倉庫だったらしき部屋だった。埃っぽい空気が充満していて、朽ちた木箱の名残らしき木の破片が散乱している。収めていたものが風化してしまった倉庫はがらんとしていて、部屋としては広いが複数人で戦闘するには狭い。速度型の戦士たちでは避けるための空間が不足するだろう。部屋の一番奥には、さらに奥に続く通路のドアがある。
だが、その前にアジムが戦うべき鋼鉄人形の姿があった。体格はアジムとそう変わらない。板金鎧を身に着けたアジムとはほとんど同じ大きさだ。手に武器は持たず、機械じみた動きで侵入してきたアジムたちを迎撃しようと動き出している。
アジムは階段を駆け下りた勢いをそのまま剣に乗せて、動き出したばかりの鋼鉄人形に斬りかかった。
「うおおおぉぉぉぉぉ!!」
怒号とともにアジムの振るう大剣と鋼鉄人形の拳がぶつかる。金属音と火花が飛び散り、アジムの大剣が鋼鉄人形の拳を弾き飛ばした。
仲間たちからどよめく声が上がる。だが、返ってきた手ごたえを思えば、余裕はない。
「早く集中に入ってください!」
アジムの声に応じて仲間たちが集中に入った。アジムはそれを確認することもできずに、無造作に突き出される拳や足に全力の一撃をたたきつけてどうにか拮抗させる。相手は鋼鉄人形だ。当然、腕や足も鋼鉄製だ。すさまじく重く、硬い。走りこんだ勢いがなければ、アジムも体重を乗せた一撃でなければ互角に持ち込めない。
そして、相手が機械人形であるが故に、ひどく戦いにくい。生き物にはある息遣いがなく、痛みを感じて怯むこともない。それどころか防御すらしようともしない。戦いにおける駆け引きなどなく、自分の都合で一方的に攻撃しつづけてくる。
その攻撃である突きやパンチとは言えない拳を突き出すだけの動きも、拳をひいたり踏み込んで腰を捻ったりという予備動作がない、ただ突き出すだけの動きだ。アジムから見れば、まったくなっていない。だが、それだけに態勢を崩すこともなく、次から次へと攻撃を繰り出してくる。それなのに、それに対応するアジムは常に全力の一撃を求められるのだ。
じわりじわりと鋼鉄人形の攻撃に、アジムの剣が間に合わなくなりはじめる。
だからと言って、アジムに下がる選択はない。
傷を負うなら、頑強な肉体を持つ自分が傷を負うべきだ。
蹴りではない、足を振り回すだけの攻撃をどうにか大剣で叩き落したが、その後に続く拳に対応が間に合わない。歯を噛みしめ、左肩を突き出し、腕で受ける。ソフィアが見つけてくれた腕鎧の性能と自分の肉体を信じ、突き出される拳にぶつかりに行く。
「ぐ、がっ……!」
衝撃はすさまじく、身体が浮き上がった。半歩ほど後退させられて、どうにか踏ん張る。続けざまの拳は引き戻した大剣を身体ごとぶつけてどうにか対処したが、それ以上は止めきれない。兜の上から、鎧の上から殴られる。殴られ続ける。
「おい、アジム、代われ!
もうちょっとだから、私が代わる!」
衝撃の中でそんな声が聞こえてくる。だが、アジムが引くのに合わせて機械人形が前進するのを許してしまえば、ヒルドもそのまま勢いに押されて突破を許してしまうかもしれない。突破されて集中している面々がやられてしまえば勝ち目がなくなる。
仲間を守れ。敵の前に立ち続けろ。
自分にそう言い聞かせ、吠える。
「……ああぁぁぁぁぁぁ!!」
怯んで下がるな。前に出ろ。攻撃をつぶせ。
振り回す必要がある剣なんか、もう邪魔だ。
剣を投げ出して腕で拳を受ける。
骨まで軋むような衝撃はあるが、腰の入っていないやる気のないパンチだ。
血と興奮で赤く染まった視界で顔を睨むと、口も鼻もない間抜けな顔にある宝玉の目がこちらを見ている。
こんなもので倒されてたまるか。
そんな思いと一緒に、負けん気と本能がむき出しになったアジムは拳を振りかぶる。
「ぬがあああぁぁぁぁあああぁぁぁぁぁ!!」
アジムの拳と鋼鉄人形の拳がすれ違い、お互いの身体に突き刺さる。だが、ダメージになるのはアジムだけだ。後ろでいつでも交代できるよう構えているヒルドにはアジムが何をしだしたのか、意味が分からない。
「お、おい……?」
鉄の拳が板金鎧を殴る金属音と、肉の拳が鋼鉄の身体を打つ打撃音が響く。アジムの頭部からの出血が舞い上がり、お互いを赤く染めていく。スクルドが何度も回復魔法をアジムにかけているが、それでも回復が追いつかない。
見ていることしかできないヒルドが寒気を覚えるような殴り合いの時間を、エイルの声が終わらせてくれた。
「アジム、集中が終わりました!
下がって!」
エイルの声が耳に入っても頭に血が上りすぎて意味が理解できなかったアジムだったが、意味を吟味しようとわずかに動きが鈍る。その拍子に鋼鉄人形の拳を胸にぶち込まれて、たまらず後ろに吹っ飛ばされた。
それが逆に、魔法使いたちに射線を通すことになった。
「<魔力矢>っ!」
「<魔力矢>!」
「<魔力矢>ォ!」
三本の魔力の矢がほとばしる。
それがすべてアジムが殴りつけても何の損傷も与えられなかった頭部に突き刺さり、ちぎれ飛びそうなほどの衝撃を与えた。ばちばちと内側から火花を飛ばし始めたところに、最後の一撃が突き刺さる。
「<雷光>!」
掲げたエイルの手から、轟音とともに<魔力矢>とは比較にならないほど強力な稲妻が奔る。瞳を焼いて奔った雷光が鋼鉄人形の頭を飲み込んで、さらに倉庫だった地下室の石壁を焼いた。石壁を溶かすほどの熱量を持った雷に内部の魔法機械をことごとく破壊されつくし、鋼鉄人形は頭から小さな爆発という断末魔の叫びをあげると、主から与えられた長い役目を終えて膝をついた。
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